見出し画像

『あつ森』とたけけはなぜ「人気ミュージシャン」になったの?

『あつまれ どうぶつの森』には、島民たちの生活を支える数多くのキャラクターが登場します。
本作初登場のキャラクターも存在していますが、多くはこれまでの『どうぶつの森』シリーズにも登場してきたキャラクターです。

『どうぶつの森』シリーズ作品
・『どうぶつの森』(以下、「初代」)
・『どうぶつの森 +』(以下、「+」)
・『どうぶつの森 e+』(以下、「e+」)
・『おいでよ どうぶつの森』(以下、「おい森」)
・『街へいこうよ どうぶつの森』(以下、「街森」)
・『とびだせ どうぶつの森』(以下、「とび森」)
・『あつまれ どうぶつの森』(以下、「あつ森」)

あつ森では、プレイヤーの体験が変わったことで、キャラクターの性格や立場にも一定の変化が見られます。
今回は、特に大きな変化をしたといえる「とたけけ」について見ていきます。


とたけけについて

とたけけは、シリーズを通して立ち位置が変わってきたキャラクターだと言えます。
以下、それぞれの作品でのとたけけです。

・初代・+・e+のとたけけ:ストリートミュージシャン
・おい森・街森のとたけけ:喫茶店でライブを行うミュージシャン
・とび森のとたけけ:ライブハウスでライブを行うミュージシャン兼DJ
・あつ森でのとたけけ:広場でライブを行う人気ミュージシャン

少しずつ「とたけけがミュージシャンとして有名になっていく」ような印象を受けます。
しかし、よく見ていくと、あつ森では明確にゲーム内での役割が変わっています。

今回、舞台が無人島になったということで、「ミュージシャンが訪れる」という状況についてもある程度の説明が必要になりました。
あつ森でのとたけけの変化を見ていくと、こうした「ミュージシャンが訪れる」という状況への説明に加え、プレイヤーのゲーム体験も阻害しない形で変更されていることが分かりました。

今回はそれを確認していきます。

今作のとたけけ

あつ森でのとたけけは、「人気ミュージシャン」として登場します。
島での生活に慣れたころに、プレイヤーはたぬきちから、「人気ミュージシャンであるとたけけを島に呼んでライブを開きたい」という相談を持ちかけられます。
このたぬきちの依頼を受け、プレイヤーは「島の評判」ランクを上げるために行動していくことになります。

その後、島の評判を聞きつけたとたけけがライブへの出演を了承してくれ、島に招致することになります。

画像1

このライブ開催後、とたけけは毎週土曜日に島を訪れ、案内所の前でライブを開いてくれるようになります。
ライブでは、1日に1度だけ、「ミュージック」と呼ばれるアイテムをプレゼントしてくれます。

画像2

「ミュージック」は、音楽を聴くことのできる家具(ラジカセやコンポなど)に登録することで、いつでも好きなところで流すことができるほか、インテリアとして壁に飾ることもできます。

画像3


そもそもとたけけとは?

さて、このとたけけは何者かというと「ミュージシャン」なのですが、ゲームシステムで表現すると、以下の役割をもっています。

・ライブをしてくれる(イベントを発生させる)人物
・ミュージックをくれる(アイテムを付与する)人物

「ライブをしてくれる」、ライブ後に「ミュージックをくれる」という点は、『どうぶつの森』シリーズすべての作品で共通しています。

今回は、「イベント」「アイテム」の面から、とたけけを見ていきましょう。
そして、あつ森においてとたけけが「人気ミュージシャン」となった意味を考えてみたいと思います。


過去作のとたけけとあつ森のとたけけの比較

過去作のとたけけとあつ森のとたけけには、大きく変わった点があります。

とたけけの登場
 ・街森まで:毎週土曜日に出現
 ・とび森:ライブハウスオープン後、毎週土曜日に出現
      (平日夜はDJとして活動)
 ・あつ森:「島の評判」ランク★3達成後、毎週土曜日に出現
ミュージックの入手方法
 ・街森まで:ライブ時のみ入手可能
 ・とび森:序盤はライブ時のみ入手可能、
      ホームセンターたぬきオープン後は毎日入手可能
 ・あつ森:序盤から毎日入手可能、かつライブ時にも入手可能

こうして見ると、あつ森ではライブの開催条件が難しくなった代わりに、ミュージックの入手難易度が大きく下がっていることが確認できます。


ゲーム中での位置づけの変化

あつ森でのとたけけによる「ライブ」は、プレイヤーが介入する、一つの達成目標として設定されているイベントです。

過去作では、プレイヤーが介入できないイベント、訪問者の一人としてとたけけがいました。
これは街森までは特にそうで、プレイヤーの意思にかかわらず、とたけけはプレイヤーの住む村を訪れます。

とび森では「ライブハウス建設の署名」という形で、とたけけの登場に間接的にプレイヤーが介入しました。

画像4

↑公共事業でオープンする、「CLUB444」でのとたけけのようす(とび森公式HPより)。

ただし、ここでは明確にとたけけを呼ぶことが目標となっていたわけではありません。
プレイヤーはししょーという人物から提案される「ライブハウスの建設」を手伝うだけで、明確に「とたけけを呼ぶ」という目標があるわけではありませんでした。
想像ですが、ライブハウス建設時にはとたけけを呼ぶことが決まっていたわけではなくて、ライブハウス開設後に、とたけけがDJとして就任したのではないかと考えています。
これを踏まえると、とたけけはやはり「勝手に来た人」なので、プレイヤーの介入度合いは低いです。

このようにとたけけはあつ森において、「気ままに村を訪れる存在」から、「発展した島を象徴する存在」へと変化を遂げています。
「あつ森」でとたけけの存在が大きく変わったことを踏まえて、「ミュージック」「イベント」について果たすとたけけの役割の変化を見ていきます。


あつ森の変更について考える

あつ森でのとたけけの大きな変更は、なぜなのでしょうか。
とたけけが無人島において、「ミュージック」「イベント」に対して役割を果たすにはどうすればよいか、考えてみます。

まず、「無人島にミュージシャンが来る」というシチュエーションを考えてみましょう。
考えられるのは以下の3つだと思います。

①駆け出しのミュージシャンがふらふら現れる(初代~e+パターン)
②特定の施設の登場により現れるようになる(おい森~とび森パターン)
③プレイヤーが島に呼ぶ(あつ森パターン)

それぞれについて検討してみます。

①のパターンは、いくら駆け出しのミュージシャンであってもすぐに無人島に来るのは現実的ではありませんね。
これから売れたいミュージシャンならなおさら、ある程度発展して、顧客となりそうな人々が住んでいる島にしか行かないでしょう。

となると「無人島生活を始めて最初の土曜日から」ふらふら現れる、というのは考えづらく、おそらく「ある程度発展した島に来るようになる」のパターンになるはずです。これではとたけけが島に来るタイミングがプレイヤーからは認識しづらくなります。
さらに、駆け出しとなれば、序盤からミュージックが手に入る状況に説明がつかないので、たぬきショッピングにミュージックが並ぶこともなかったでしょう。
となると当然、「序盤はミュージックが手に入らない」かつ「いつになったらとたけけが現れるのかわかりにくい」ということになり、ゲーム的には不都合です。
島をどんどん発展させていくプレイヤーならすぐにミュージックを手に入れられるかもしれませんが、気ままに島を発展させていくプレイヤーに対しては、「イベント」の面でも「アイテム」の面でも、とたけけは役割を果たすことができない状況が続いてしまいます

ということで、とたけけが役割を果たすなら、②③のいずれかのほうがやりやすいと思います。


②のパターンは、今回採用の可能性はあったのではないかと思います。

正直、無人島にライブハウスというのはあまりなじみがよくないので、とび森の方針を引き継ぐのは難しかったと思います。
やるならば博物館の喫茶店などでのライブで、おい森~街森のように博物館内にカフェをつくれば、またそこに登場しても違和感はありません。
この場合、フータが博物館を建設したタイミングで、「知り合いのマスターを呼んで喫茶店を併設したよ」というような流れになるかと思います。

画像5

↑博物館内のカフェでの、とたけけのようす(街森公式HPより)。

ただし、『どうぶつの森』シリーズというのは、基本的に一度施設の役割が変わったら、また過去作の要素に戻す、ということをあまりやってこなかったシリーズという印象があります。
そのため、とび森で一度ライブハウスに登場させたとたけけ、あるいは博物館から分離した喫茶店を建てたマスターを、再度博物館に組み込むよりは、新しい要素を考えたかったのではないかと思います。

画像6

↑とび森では単体の公共事業となった喫茶店のようす(とび森公式HPより)。

となると考えられるのは、
②でカフェでもライブハウスでもない施設にとたけけを呼ぶか、
③のプレイヤーが島にとたけけを呼ぶか、になります。

ただしあくまで無人島なわけで、そこに施設が乱立するのは避けたかったのではないか・・・とも思います。

そこで今回採用された③のパターンを見ていきます。
あつ森では、とたけけは「人気ミュージシャン」となり、彼を島に呼ぶことが目標になりました。
これなら序盤からミュージックが手に入り、かつ「島にミュージシャンが現れるようになる」という状況が説明できるようになります

画像7

↑あつ森では日替わりで、「たぬきショッピング」にミュージックが並びます。

序盤からミュージックを購入できる環境を整えることで、プレイヤーはとたけけに会えていなくても、ミュージックを楽しむ体験はこれまで通り提供されています。
島の発展というゲームの進行度にかかわらず、プレイヤーの体験を制限しないところがポイントだと思います。

さらに、とたけけが人気ミュージシャンであるという設定にも納得がいきます。
毎日ショップにミュージックが並ぶくらい流通しているのですから、やはり売れっ子のミュージシャンなのでしょう。

そして、彼を「島が発展してから」呼ぶということになれば、「ミュージシャンが無人島に来る」という流れも無理なくつながります。

このように、今回のとたけけの変更は、ゲームの体験という点から見ても、演出という点から見ても、かなり練られたものであることがうかがえます。

まとめ

今回のとたけけの変更は、ゲームの体験を阻害せず、さらに物語としても違和感がない形でつながるものになっていました。

単純に「無人島にミュージシャンがやってくる」というだけで考えたら、「まったく売れていないミュージシャン」であるように想像してしまいますよね。
それならところかまわず現れるのもまだ合点がいきますし、人気ミュージシャンともなると都会にいるようなイメージで、「無人島」とはなかなか結びつきません。

ところがあつ森では、あえてとたけけを「到底無人島になど来てくれなそうな人」と感じられるような設定に変え、プレイヤーの達成目標として設定したことで、ゲームの体験をより柔軟なプレイスタイルに対応するものにし、さらに設定への違和感を無くすことにも成功しています。
思い切った変更が功を奏したキャラクターだと言えるでしょう。



おまけ
e+時代のとたけけの画像を用意しました。

画像8

改めて見ると、「駅前のストリートミュージシャン」時代のとたけけも大変魅力的です。
この頃のとたけけは、プレイヤーが会いに来るよりもずっと前から、毎週土曜日に静かにギターを奏でていたのだろうと思います。
お世辞にも栄えているとは言えない駅前に座る姿は、しんみりとした空気感はあるのですが、「哀愁ただよう」みたいな表現は似合わない気がします。誰も聞きに来ないことを寂しがったりしないような、飄々とした雰囲気がありますね。
かといって、「これから売れっ子になってやるぞ!」みたいな気概も感じません。ただ目の前にある場で音楽を続けていたら、いつの間にか人気ミュージシャンになっていた、みたいな人物なのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?