産地直送タッセル万年筆

覆面アマチュア執筆ユニット。 書いてる人:田中エイドリアン&茨城タワラ/2000字のホ…

産地直送タッセル万年筆

覆面アマチュア執筆ユニット。 書いてる人:田中エイドリアン&茨城タワラ/2000字のホラー:ピックアップ選出『空港』(田中エイドリアン)、愛媛新聞超ショートショートコンテスト:優秀賞『素麺屋台』茨城タワラ

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『プロの神様』

 参拝すると宝くじが当たると話題の神社へ、男は足を運んだ。彼は賽銭箱に十円玉を投げ込むと頭を下げて手を叩き、手を合わせて「宝くじが当たりますように」と願った。そして、その帰りに宝くじを買って帰った。  宝くじの当選発表の日、彼は期待を胸に当選番号を確認した。なぜなら、同じ神社に参った後、宝くじで高額当選した人が身の回りに二人もいるのだ。しかし、結果はかろうじて三千円当たっただけだった。知人たちは思い切って万札を賽銭箱に投げ入れたら百倍以上になったと言っていた。やはり十円じゃ駄

    • 9月3日(火)に福岡市のカフェ、イエナコーヒーさんにて行われるハープの演奏会で、田中エイドリアンの作品を朗読していただけることになりました! 美味しいコーヒーを飲みながら、ハープの演奏と朗読を楽しめるイベントです。 イベントの詳細は下記をご参照ください。

      • 『旅ブログ』

         面白い技術が発達したもので、天国にいる人間や動物が書いたブログをネットで読むことができるようになった。自動翻訳機能のお陰で、外国人や動物による記事も簡単に読めるのが有難い。  最近よく読んでいるのは、半年ほど前に死んだ野良猫のブログ。茂みから脅かしたり、食べ物を与えるフリをして自分の口に入れたりと、学校帰りに友達と一緒にからかっていた猫だ。  その猫が天国のどこかに向かって旅をしているらしく、行った先々の風景や文化について写真や文章で紹介しているのだが、これがなかなか面白

        • 『台風の芽』

           君は知っているだろうか。どれだけ上を見上げても私たちの目には見えないほど空高くで、台風の芽摘み職人たちがせっせと台風の芽を摘んでいるということを。  彼らが芽を摘んでいなければ、台風シーズンの地上はとんでもないことになっていただろう。しかし、まだ小さな芽の間に彼らが台風を摘んでくれるがゆえ、私たちを襲う台風の数はこの程度で済んでいるのだ。  とはいえ、彼らは別に、私たちのために台風の芽を摘んでいるわけではない。旬の台風の芽は、天ぷらにすると美味しいらしい。特に、若くて柔らか

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        • ショートショート
          55本
        • エイドリアンの書庫
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          5本

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          『うちの子は今日も出かける』

           うちの子が出かけて行った。また夢の国へ行くのだろう。この近所に夢の国があるなんて、引っ越してくるまで知らなかった。「夢の国」というのは、あくまであの子にとっての話。ネズミが苦手な私には、完全に「悪夢の国」だ。  今まであの子を育ててきて、困ったことなどほとんど無かった。我ながら、しつけはちゃんと出来ている。しかし、ここへ越してきてからの夢の国通いは、私にとって困り事だ。毎回、帰ってくるなり自慢げに見せてくるネズミが気持ち悪い。夢の国へ行くのは止めないが、お土産だけは勘弁し

          『うちの子は今日も出かける』

          『ループ』

           大切にしていたヒーローの人形が壊れ、小学生が、この世の終わりのように泣き叫ぶ。    しかし、一生懸命勉強した挙句に第一志望の高校に落ちた少年は、人形なんてまた新しいのを買ってもらえば良いし、どうせ数年後には好みが変わって別のおもちゃを欲しがるんだ、だけど第一志望校をもう一度受験することはできない、と嘆く。    そんな少年を見て、初めての彼女にフラれた大学生の青年は、第二志望校に行ったって、ちゃんと勉強すればこうやって大学にも入れるが、あんな素晴らしい女性と出会う機会は一

          『競技新聞』

          ※超ショートショートコンテスト テーマ「新聞紙」応募作品 ついにここまで来た。 厳選を重ね、一言一句暗証できるまで読み込んだ新聞を握り締め、赤コーナーに立つ。 「決勝戦。題、『うみうし』。Ready、GO」 この新聞に『うみうし』の記事は無い。最速で『資源・環境』の頁を開き、最短で隣接する『海・う・し』の文字をマークし、タイマーを止める。 「技有り、青。写真加点」 向こうにはうみうしの記事があったらしい。 「題、『みかん』」 『地域』の頁を開く。笑顔でみかんを持つ農家さんの

          『フラン犬スーツケース』

           博士は長年の研究の末、犬のDNAをスーツケースに移植し、生きたスーツケースを完成させた。見た目はごく普通のスーツケースだが、タイヤのような足は本人の意思で動くため、持ち主が引いたり持ち上げたりする必要は無い。そして、犬らしい忠誠心があり持ち主に懐くものの、スーツケースなので吠えることも無い。そして、もちろん中に荷物を詰めることが可能だ。  スーツケースと犬の良いとこ取り。そんなこの世に一匹しかいないスーツケースに、博士はフラン犬スーツケースと名付けた。  「スーツケースと

          『フラン犬スーツケース』

          『ホワイトデーは倍返し』

           「ホワイトデーは倍返しだよ。意味、分かってるよね?」  バレンタインデーの夜、彼女が言った一言が俺を突き動かした。たった一ヶ月で準備できるのか。できるかできないかじゃない。やるんだ。  あの時、俺は文字通りボロボロだった。肉体的にも、精神的にも。  不甲斐なさからか、それとも緊張の糸が切れて体の痛みを感じたからか、家に帰ってソファに座るなり、涙がこぼれた。  「イカついコワモテの男が、なにめそめそしてんのよ」  そう言いながら、彼女がリビングに入って来た。  「泣いてねえ

          『ホワイトデーは倍返し』

          『美人すぎる歴史学者』

           歴史学者である私が、先日発見された平安時代の文書に食いつかないわけが無かった。  私は歴史学者として本を出版したりテレビに出たりしたことが無く、周りからは「大学の歴史の先生」としか思われていないだろう。私は歴史学者として有名になりたかった。そして、新たに発見された文書が私にチャンスを与えてくれた。  それは、当時の「美人になれる薬」のレシピだった。材料は自然に生えているものばかり。現在は食用となっていないものもあるが、調べてみたところ、どれも毒は無さそうだ。この薬を作って飲

          『美人すぎる歴史学者』

          読書メモ(5)

          『不思議の国のアリス』の訳書はたくさん存在するが、ピンポイントでこれを推したい。 日本語話者の読者が英語話者の読者と同じタイミングで同じリアクションができる翻訳がコンセプトとなっているため、今まで読んだもののなかで、ずば抜けて読みやすい。ストーリーそのものは当然不条理ではあるが、英語で韻を踏んである部分は日本語で韻を踏み、日本語として成立するダジャレになっているため、「何が言いたいのか分からない」という部分が無い。言葉だけでなく、ルイス・キャロルの意図も訳に落とし込まれており

          『相棒』

           この世に生まれて三十年以上、俺はずっと旅を続けている。行き先は常に相棒任せだ。近場を行ったり来たりする日々を過ごすこともあれば、遠くまで行くこともある。俺の相棒はコロコロ変わり、一人の相棒と長期間一緒にいることもあれば、出会ってすぐに別れることもある。一日の間に何度も相棒が変わるのも珍しくない。  相棒が変わるのには、いくつかのパターンがある。一番好きなのは、相棒が直接次の人に俺を引き渡すパターンだ。これだと、すぐに旅が続けられる。だが、たいていの場合は、いったん相棒待機所

          『サヨナラ観覧車』

           ずっと遠くから見つめるだけだったあなたと休憩室で偶然二人きりになり、あなたから話しかけてくれた。実はずっと気になってたんだと言われて、一瞬、運命なんてものを信じてしまった。  翌日も休憩室でお喋りして、その日あなたは夕飯に誘ってくれた。憧れだったあなたとの食事の時間は夢心地のまま過ぎていった。別れ際に「今度の日曜日、遊園地にでも行かない?」と言われた時には、あまりの急展開に戸惑ったけど、私に断る理由は無かった。     日曜日。  長い間、ただ一方的に好きだった人と一緒に遊

          『転勤族』

          ※超ショートショートコンテスト テーマ「ライオンの像」応募作品 「あ。俺、転勤だ」 お知らせを見ていた相棒が言った。 「どこに」 「福岡。あそこ快適でいいんだよね。ここより静かだし」 「そっか。お前が居なくなるのは残念だけど、良かったじゃん」 「できれば松山とかが良かったな。温泉あるし」 「積極的だね。僕は東京のままがいいや。このハイセンスな環境に慣れちゃうと、他の場所なんて考えられないね」 ここに居ると、近くの建物も、行き交う人々も、みんな洗練されていて、自分まで上等にな

          『新作そうめん』

           既存の商品との差別化を図り開発に取り組んできた新作そうめんが、試行錯誤の末、ついに完成した。まずは試食用サンプルを手作りの包装紙に包み、全国の小売店へ売り込みに行く。  どこの地方のどんな店に行っても、包装紙を見た人たちからは必ずと言って良いほど、「漢字を間違えたパッケージの商品を持ってくるなんて」「これじゃ『そうめん』じゃなくて『しらふ』じゃないか」などと嘲笑された。手作り包装紙には「素麺」ではなく「素面」と書かれていたからだ。  しかし、試食を終えるとその態度は一変し

          読書メモ(4)

          1980年代の台北。3人の少年たち。胸が苦しくなると同時に心温まる、不思議な人間関係。2000年代初頭にはまだ見られていた懐かしい台北の風景や、心をヒリヒリさせつつも時にホッとさせてくれる少年たちの日々に浸っているうち、これがミステリーだという事を忘れてしまったがゆえか、後半でなかなかの衝撃を与えられた。