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ロボゲー考:さらば、わが青春のボーダーブレイク

ボーダーブレイク──というゲームを知っているだろうか。
セガが2009年からリリースしたアーケード用TPSロボットゲームであり、最大10vs10のネットワークチーム戦は当時としては画期的なゲームシステムだった。
安価な汎用筐体を使用したことからゲームセンターへの普及率も高く、リリースから10年に渡るロングランヒットを達成。
最盛期には香港、台湾でも稼働し、海外プレイヤーとマッチングすることも多かった。
ロボットを用いた対戦ゲームは多々あれど、これに代わるゲームは未だない。
その特異なゲーム設計について語らねばなるまい。
赤熱の記憶が思い出の砂に埋没してしまう前に。

英雄不在の戦場

このゲームの最大の特徴は──プレイヤーは等しく消耗品である、ということだ。
プレイヤーは搭乗兵器であるブラストランナーを駆って傭兵として資源争奪戦に参加する。
このブラストランナー、装甲が極めて貧弱なのだ。
ボーっと歩いていると5秒と経たずに蜂の巣にされて行動不能となり、制御コンピューターの搭載された頭部に高火力兵器をくらうと一撃で大破する。
ブラストランナーには飛行能力もないし、オートロック機能もないし、高精度の誘導兵器もない。
地べたを這いながら、攻撃目標の敵ベースのコアをひたすら目指す。
死んでは再出撃を繰り返して、ジリジリと進軍し、ジリジリと後退する。
我々は蟻のように進み、藁のように砕けて散るのだ。
開発側のイメージソースは「ボトムズのAT」であり、正しく名もなきボトムズ乗りの気分を味わえる。
自分が特別なヒーローだと勘違いしたプレイヤーほど早死にするし、何の活躍もできず、一切の戦術的貢献もできない、惨めなリザルトの現実に直面する。
なお、プレイヤーは簡単なチュートリアルを受けるだけで、いきなりPvPの実戦に叩きこまれる。
全く容赦がない。習うより慣れろ、なのである。
恐ろしいまでのストロングスタイル。
「現実つらいんだからゲームくらい楽しくさせろよぉぉぉぉぉ!」とか甘ったれたこと言ってる奴は帰れ、とリアルを突きつける。
主人公になりたければ同じフロアのガンダムvsガンダムNEXTに行け、というワケだ。
ボーダーブレイクのプレイヤーは誰もみな等しく塵芥であり、戦術目標を達成するための歯車でしかない。
仲間も敵も顔が見えないネットの向こうのプレイヤーだ。
チャット機能はない。簡単な作戦指示の固定音声を選択できるだけだ。
お互いに一期一会のドライな関係。憎しみも怒りも喜びも次の戦場に行けば忘れる。
こんなゲームが──
ヒットしたのだ。
大ヒットしてしまったのだ。

冷徹なるゲームシステム

ボーダーブレイクは、セガの長年に渡るアーケードゲームのノウハウが注ぎ込まれたゲームだ。
同じメーカーのロボットゲームとしてはバーチャロンシリーズが有名だが、オラトリオ・タングラムは複雑化した操作と超高速のゲームスピードがプレイヤーに著しい負担を強いる。
続編のバーチャロンフォースはゲームスピードは緩和されたが、2on2のバトルは敗北時の「戦犯」と隣り合わせの筐体で、なんとも険悪なムードが漂うことがしばしばあった。
何より、バーチャロンの筐体はフォースで極めて高額化&大型化し、それが普及率の大きな足枷となった。
これらの反省から、ボーダーブレイクは
・操作の簡略化による長時間プレイの可能
・戦犯を有耶無耶にする多人数ネット対戦
・100万円程度の汎用筐体
といった全面的改良を施された。
あらゆる面でストレスが緩和され、プレイヤーは席が空いている限り何時間でも遊んでいられる。

ブラストランナーは四種類の兵装を選んで出撃する。
機動性と直接戦闘力に特化した強襲兵装。
投射火力に富み、砲撃機能を持つ重火力兵装。
修理機能と電子戦でサポートを行う支援兵装。
他の機能と引き換えに隠密&狙撃能力を持った遊撃/狙撃兵装。
狙撃兵装は半分趣味の領域だが、他3兵装を状況に応じて換装しなければ戦闘を有利に進められない。
一つの兵装に固執するプレイヤーはチームの足を引っ張り、空しい自己満足に浸るか惨めな思いをするだけだ。
逆に言えば、機体操作は並でも戦況の判断力と立ち回りが上手いプレイヤーなら、それだけでチームを勝利に導くことも可能である。
そうしてプレイヤーはゲーム内ランクを上げ、マッチング枠もランクに対応する。
上手いプレイヤーは同レベルの「分かっている」プレイヤー同士でしかマッチングしないので、自然とチーム戦はストレスなく連携できるし、緊張感のある対戦が成立する。
レベルの高すぎる対戦についていけないと思ったらランクを落とせば良いし、悔しければ更に鍛錬して上を目指せば良い。
全体的に苦しすぎず、楽というワケでもない、廃人でなくとも熱中できる絶妙なバランス調整だった。

此処より永遠に

ボーダーブレイクは2019年に稼働終了した。
PS4に移植されたじゃないか──と思われるかも知れないが、率直に言ってアレはタイトルを流用した「似て非なるゲーム」でしかなかった。
異なる点をざっと以下に挙げる。

・三ヶ月1シーズンごとにランクリセット
これにより、1シーズンごとに高ランクプレイヤーと低ランクプレイヤーが入り混じる混乱が発生。
いくらランクを上げても、三ヶ月経ったら実力の合わない低ランクプレイヤーに混じって何十戦もプレイしなければならない。
低ランクプレイヤーも高ランクプレイヤーに蹂躙、あるいは介護される屈辱を味わう。
アーケード版ではありえなかった、凄まじいストレス作業を強いられるのである。

・ゲームシステムの大量削除
アーケード版では存在した、プレイヤーアバターの削除。
搭乗可能な移動砲台のワフトローダー削除。
ホバータイプの脚部削除。
ホバータイプのボスエネミーも削除。
武器やステージも削除。
大昔の不完全移植ゲームさながらの大量削除……。

・ガチャと安易な性能ナーフ
アーケード版では買い切りだった武装と機体パーツがガチャによるランダムアソートに変更。
これにより、1パーツ入手するのに数万円が必要な場合も。
環境武器、人権パーツのないプレイヤーは持っているプレイヤーに圧倒的な差をつけられる。
そして、そんな高性能パーツも1シーズン後には露骨に性能が下方修正される。

他にもPS4版の改悪点は挙げればキリがないが、全ては済んだことだ。終わったことだ。
一切も合切も過去になった。
現在のアーケードゲームを取り巻く環境、メーカーの企画開発能力、そしてユーザー需要、どれを考慮してもボーダーブレイクの再来は望めない。
夢は終わったのだ。
一時代を築いたアーケードゲームは燃え尽きて、私というプレイヤーに火傷に似た赤熱の記憶を遺して、思い出に変わった。
さらば、わが青春のボーダーブレイク。

#アーケードゲーム
#ロボゲー
#ボーダーブレイク

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