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#14 そしてバトンは渡された

四方見展望台となりの白い物件と同時に、北灘の方の古民家も候補にあがっていた。とっても風情があって、素晴らしい場所だった。錦織と杉ちゃんが2箇所の物件を何度も見て回り、やっぱり展望台の隣の物件がいいという。

杉ちゃんが「ただ、夜は人気がいなくて寂しいので、お化けがいないかだけチェックしてほしい」と言う(こう書くと笑えるのですが、かなり大真面目)。そこで、錦織が度々、深夜1人で展望台へ出かけた。そして「お化けいませんでした。ここ、最高です」と写メで報告してくる。

確かに、古民家のほうの物件は道路からアプローチまで道が狭く、搬入にも、車でいらしたお客様にも不便だろうなどと検討している間に、古民家の方の物件のオーナー様は、物件を手放さないと決めたと連絡があった。

そうして、選択肢は、四方見展望台の物件一択となった。

鳴門スカイラインの物件を候補にしていると話すと、地元の大抵の人が「あそこは車を走らせるための道で、商売には向かないよ」と言われた。でもあの絶景を多くの人に楽しんでいただいて、その景色の中で、徳島の生産者の皆さんが作ったものでできたお菓子を召し上がっていただきたい。
鳴門の空、鳴門の海、鳴門の緑、鳴門の空気、そんな中で季節を感じながらお菓子を作りできたらどんなに幸せだろう。私たちの気持ちはだんだん固まってきた。

松原オーナーに、自分たちを知っていただくことから始めないとダメだと錦織はいう。それで、まずは、「月へ鳴門へ」をお渡しして、召し上がっていただいた。お孫さんがお菓子をとっても気に入ってくれて、美味しかったと喜んでくださったと聞いてほっとした。

次には、建築の仕事をしている私の兄を連れて行って、建物の修繕の方向性やどれだけそれに予算がかかりそうか。耐久性はどうかなどを見てもらった。

次には、鳴門出身の錦織の母を連れて行って、「ここは本当に素晴らしい」と実感してもらった。

次には、庭いじりが得意で松原オーナーと同世代と思われれる私の父を連れていき、この土地にどんな歴史があるのかオーナーからお話を伺った。

私たちから条件の話はしない。愛を込めてこの場所を育んできたオーナーに、私たちを知っていただき、オーナーから選ばれることを目指して、何度も会う時間を作っていただいた。

多分5−6回のアポイントを重ね、2019年阿波踊りの頃、いよいよ、松原オーナーから、私たちに、大切なバトンが渡された。

嬉しかったと同時に、身震いした。

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わたしは、フレンチモンスター瀬戸内フードアートは、自分たちだけのものじゃないと心から思っている。

徳島をはじめお客様みなさんが、大事な方をお連れくださって、「ここ、素晴らしいでしょう。徳島って素敵でしょう」ってご紹介くださる“迎賓館”みたいな、そんな役割を果たせればいいなと心底思う。

そんなふうに思えるのは、前オーナーから大切なバトンを受け取ったからだ。

四方見展望台のあのあたりには、脈々と続く、故郷を思う気持ちが溢れていると感じるからだ。

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