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かわいいロココ、絵画の魅力

ロココの絵画というとき、はっきりとしたイメージが思い浮かぶ人は多くないかもしれない。某パン屋さんの名前にもなっている、ポンパドゥール夫人とか「ヴェルサイユのばら」なら、知っている人も少しは増えそうだけれども。ちなみにポンパドゥール夫人はブルジョワ階級上がりでルイ15世の公妾となり、国費を湯水のように使って芸術文芸を保護し、ロココの最盛期を飾った人物だ。
 (*ロココの語源についてはこちらへ→クリック

ほっと一息の開放感、ロココ時代の幕開け

 フランスでも随一の世界的観光名所といえばヴェルサイユ宮殿だ。フランス絶対王政を確立したルイ14世は、そこで豪勢な宮廷生活を繰り広げた。これは貴族階級を骨抜きにして、王権を確固たるものにするための戦略の一部であり、徳川幕府が参勤交代制度を行ったのにもちょっと似ている。建築美術は王の偉大さを称揚するためものだったので、構造も装飾も豪壮さが好まれた。17世紀いわゆるバロック美術の時代である。若くして王位についたルイ14世は長寿でもあったので、その在位は72年と長かった。ルイ14世がなくなった時には、すでに18世紀になっていて、さすがに王侯貴族らをはじめとして、人々は早く次に行きたい!気分になっていたようだ。

軽やかで繊細、優美、洗練のロココ絵画

 豪壮であらねばならない絶対王権的な要請から解放された美術には、ふわりと羽が生えたような軽やかさが現れる。高度な技術に裏打ちされつつ、より瀟洒に優雅に、洗練と贅沢を競う。ロココという時代の最初のきらめきを運ぶのが、アントワーヌ・ヴァトー(1684-1721)である。ヴァトーは37歳で早逝したこともあり、作品数は少ない。しかも、その繊細な透明感のある色彩の魅力はなかなか写真図版等では分かりにくく、美術史の流れとしてヴァトーの名前を知っていたとしても、それだけでヴァトーを好きになれるかというと疑問だなと、実は思ってもいる。

 なぜなら自分自身がそうだったから。自分の眼でヴァトーを発見したのは、かれこれ四半世紀前、初めてルーヴル美術館の展示室でヴァトーの作品を観たときだ。なんとも言えない上品な軽やかさ、繊細さ、儚さ、色彩の透明感、夢の世界に誘い込まれるようだった。以来、ヴァトーの大ファンである。

ヴァトーとフェート・ギャラント(雅宴画)

 彼が描いて大人気となった、田園で繰り広げられる夢のような宴の風景は、歴史画とか神話画とか風景画といった、それまでの絵画のどのジャンルにも振り分けられなかったゆえ、ヴァトーがフランス美術の最高権威であったアカデミーに迎え入れらる際には、フェート・ギャラント(雅宴画)という新しいジャンルが創設されたほどであった。彼の作品の数は多くないながら、版画にもなって複製され、後に続く画家たちにも大きな影響を与えた。
 
 ロココの美術の時代は、さらなる最盛期を経て、フランス革命の波がかぶさって終わる。フランス王侯貴族の文化の最後の輝きのときであり、甘ったるくて軽薄だ、不道徳だなどと批判もされるが、なかなか到達できない洗練の極みでもあった。ヴァトーの絵は、ロココの初期のものだけれど、すでにその命運を暗示するような一抹の翳り、物悲しさのようなものも漂う。

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 すぐに実物を観に行くことはできなくても、今や手軽にオンラインで名画を見ることは可能だ。あとは少しの時間と観察と想像力を駆使してみよう。予想以上にパーソナルに、その絵画のチカラと、描かれた時代の雰囲気との出会いが生まれるかもしれない。

ちなみにこちらは、私もファシリテーターとして参加しているオンライン、対話型の絵画観賞コースです。絵を喋る面白さとともに、絵画の世界の魅力を発見していただけると嬉しいです。


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