「蜜蜂と遠雷」(恩田陸)
「蜜蜂と遠雷」(恩田陸)読了。
後輩の子から「一番光の恩田陸です、読んでください」と言われてから約二年。ようやく読みました。
正しく光の恩田陸だった……「チョコレートコスモス」と同じ天才を描いた作品ながら、チョコレートコスモスにあった不穏さや不気味さよりも無邪気なうつくしさや明るさが目の前に弾けるような作品。つくづく恩田陸は目の前に色彩を出すのが上手いと思う。聞いたこともない音楽の美しさだけが伝わるって普通に考えたら謎では。
既視感としては一条ゆかりの「プライド」にも似ていたような。ただ、あちらの人間関係の生々しさに比べて本当に天上の子らというかどろっとしたものが一切ない。完全に純化されている。どっちの方が美しいと言われるんだろう。(いや彼らも死屍累々のなかに自分たちの美があると自覚してはいるんだが、プライドの生々しさからは程遠い。一応亜夜ちゃんが闇側ではあるんだけど、とはいえ……)
私は天才では全くないので明石への共感と彼が認められたことへの嬉しさが一番に来たのだけど、彼はてっきり天才たちを見て満足気に立ち去るのだと思い込んでいた。
だからラストで彼がまた前に進むことを決めた時に凄く驚いたし、彼も違う側の人間ではあったんだなと少し寂しくなった。
この作品にでてきた音楽を聞いたら多分また違うことを感じるのかもしれないけども、聴きたくないなあとも思う。
恩田陸の天才は一人ではなくて必ず複数なのは意味があるのだろうか。チョコレートコスモスもあの天才たちしか立てない地平に、読者は必ず連れて行ってもらえてお得だなあと思った。黄色の花弁を読者は見ることができるし、荒野の中を、青空を仰ぐことが出来る。
チョコレートコスモスの方が物語を知ってるだけに親しみやすかったけれど、こちらは音楽のせいでより神聖で物凄いものに見えたなあ……。