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GⅠ安田記念



序文:“Cross the Rubicon”


歴史が変わるその瞬間というのは、往々にして当の本人が逆境に置かれていることが多い。

BC49年、古代ローマ。
政敵ポンペイウスとの対立が露わになった将軍ユリウス・カエサルは、元老院から自らが統治するガリア属州総督解任および本国召還を命じられ、窮地に立たされていた。
命に従えば自らの立場を追われ、最悪死罪に断罪されるかもしれない。
刃向えば自身は国賊としてみなされ、元老院との衝突は避けられないだろう。
カエサルはルビコン川の畔でひとり思い悩んでいた。ルビコンは当時カエサルが統治を任されていたローマの属州ガリアと、ローマおよびその直轄領から成るイタリア本土とを隔てる境界線だったのである。将軍が軍を率いてイタリア本土に入ることは、ローマの法律で厳格に禁じられていた。
従属したところでどのみち罰せられる。しかし一度弓を引けば、宿敵ポンペイウスを倒しローマを掌握する他生きる道はない。カエサルの手勢は6000騎余り。相手の戦力はこちらをはるかに上回る。
程なくしてカエサルは進軍の決断を下す。彼は腹心のアントニウスにこう告げた「賽は投げられた」と。こうしてローマ内戦の火蓋は切って落とされた。
やがてポンペイウスを追いやりローマの全権を手中に収めたカエサルは史上初の永久独裁官、事実上の最高指導者となり、謀反によりその命が絶たれるまで後の帝政ローマの礎を一代で築き上げた。
この故事から「ルビコン川を渡る」とは「後戻りのできない重大な決断」の例えとなった。
ルビコン川の流れに踏み込んだその時、馬上の男の胸中はいかばかりだっただろうか…。

さて現代の日本。今年で91回目を迎えた「競馬の祭典」日本ダービーは、伏兵ダノンデサイル号の勝利によって幕を閉じた。史上最年長でダービージョッキーの称号を三度手にした鞍上・横山典弘騎手は、壇上でこう答えた。
「大切にすれば馬はその気持ちに応えてくれる。皐月賞の出走取り消しは間違いではなった。」
少なからず周囲を困惑させた、皐月賞出走直前の判断は結果として最高の結末を生んだ。
あの時名手が馬上で下した「決断」もまた、競馬の歴史を変える英断だったのではないだろうか。

さあダービーが終わり、迎える安田記念。こちらも長い歴史を誇るその中で、数多くの「決断」によるドラマが生み出されてきた。

ニッポーテイオーは1988年安田記念を制覇。
昭和最後「マイルの帝王」としてその名を馳せた。

ニッポーテイオーは83年静内町の千代田牧場で産まれた。父の名はリイフォー、日本ではあまり馴染みがないが、ダンシングブレーヴなどで知られる名種牡馬リファールの産駒である。リイフォー自身に目立った活躍はなかったが、アイルランドで1年間種付けをした後日本に輸入されており、この時生まれた馬にBCマイルを勝ったロイヤルヒロイン、アーリントン・ミリオン勝ちのトロメオらがいて、日本では4年間だけ種牡馬生活を送ったあと米のブリーダーに買われていった。母チヨダマサコは千代田牧場のオーナー飯田正の所有馬だった。JRAで5戦1勝の記録を残したのみだが、その血統を遡るとワールドハヤブサの名前があり、この馬はかつてのビユーチフルドリーマーを祖とする名牝の血を引いている。ニッポーテイオーは日本では希少な血を引く、良血馬として期待されていた。
「ニッポー」という冠名も珍しい。オーナーの山石祐一氏の所有馬に名付けられていた。78年の安田記念を制したニッポーキングら、名マイラーが多かったが山石氏は2018年に死去、今その冠名を継ぐ馬はいない。

ニッポーテイオーは85年10月、東京マイルでデビューした。行きっぷりの良い馬で、2着に大差をつけた快勝。その勝利を見た誰もがクラシックへの期待を募らせるような勝ち方だった。実際2戦目以降は日本ダービーを目指したローテーションを組んでいくのだが、2勝目を挙げるのに苦労した。2戦目の万両賞では行きが良すぎるのが仇となり7着と大敗。年が明け京成杯2着、弥生賞3着と惜しいレースが続き、クラシック初戦の皐月賞。21頭立てで行われたこのレースを8着で終えると、ダービーへの雲行きが怪しく感じられてきた。次走NHK杯へ出走、現在のNHKマイルCの前身レースだが、当時は2000mで行われダービーへの前哨戦に位置付けられていた。
この時から鞍上は郷原洋行が務めた。デビューから24年目を迎えた円熟味ある中堅騎手は、この時代にあってオーナーや調教師にも物怖じすることなく意見をぶつけるような、熱いタイプの騎手だった。また「剛腕の郷原」とも言われ、あの野平祐二をして「馬を追えることにかけては日本競馬史上最も秀でた騎手」と言わしめた。80年にはオペックホースに騎乗し、ダービージョッキーの称号も手にしていた。
コンビ初戦となったNHK杯は8着に敗れてしまったが、ここで陣営は思い切った決断を下した。日本ダービーは諦めマイル・中距離路線へ舵を切ることにしたのだ。
郷原はこの行きっぷりのいいマイラーを気に入っていた。調教では自ら積極的に乗り、歩き方からはじめレースを覚えさせていった。そしてニッポーテイオーもまたその気持ちに応えていった。
次走のNZT4歳Sはこの馬にとって2度目のマイル戦となったが、2着のダイナフェアリーに0.6秒差をつけ快勝。待望の2勝目が重賞初制覇となった。以降マイル・中距離までの重賞へ挑み続ける。ラジオたんぱ賞2着の後、函館記念では初めての古馬との一戦だったが、レコード勝ちをするまでに成長した。
中距離の適性が垣間見えていたが、陣営が次に下した決断は天皇賞ではなくスワンSからのマイルCSというローテーションだった。明確にマイル路線を意識し始めていた。スワンSで1人気の期待に応え圧勝すると、続くGⅠマイルCSでも短枠指定を受けた。
調教師の久保田は郷原に逃げるよう指示をしたが、郷原は「差しても勝てる」と言ってきかなかった。結果スタートから後方に回った郷原だったが、直線ではわざと密集しているインコースを突いて上がってきた。スムースに外を回して伸びてきたタカラスチールと対照的な競馬だったが、ハナ差届かなく2着に敗れた。これには久保田もオーナーサイドも激怒。それでも郷原は鞍上を代えられることはなかった。色々とおおらかな時代、負けたならけじめをつけるまでやれと、昭和の調教師やオーナーにはこういった人間が多かった。
明けて87年京王杯からスタート、ここを難なく勝利した。続く重馬場で迎えた安田記念。3コーナーで早々と先頭に立つと逃げ切り体制に入ったが、大外から上がってきたフレッシュボイスに差されて敗れる。続く宝塚記念も早めに先頭に立ったが今度はスズパレードの追込みの前に敗戦。続く毎日王冠も岡部幸雄騎乗のダイナアクトレスに敗れ3着と、抜群のスピードは大いにファンを湧かせていたが、詰めの甘さというか、最後の最後に脆さを見せてしまう。勝負弱いといえばそれまでだが、それもこの馬の魅力だったのかもしれない。
11月秋の天皇賞、このレースでニッポーテイオーは真の覚醒を迎える。逃げ馬のレジェンドテイオーがいたが、ニッポーテイオーは意に介することなくこれを追い抜き先頭に立つと、圧倒的なスピードで追い放していった。詰めの甘さも、勝負弱さもない、5馬身差離しての圧勝劇だった。
レース後、鞍上の郷原は陣営サイドに「ジャパンカップに出たい」と直訴した。当時のジャパンカップは賞金額も大きいうえ、世界的に注目を浴びる国際GⅠレース。八大競争以上に注目度が高く、郷原も憧れていた。が、結果としてその進言が受け入れられることはなかった。「敗けたGⅠを取り返しに行く」と調教師久保田は言った。昨年のリベンジを期していたのだ。郷原は一年前、指示を無視して2着に敗れた自らの騎乗を悔やんだが、覆水盆に返らず。ニッポーテイオーはやはりマイル路線を行くことになった。
リベンジマッチとなったマイルCSだったが、鞍上のモヤモヤした思いを払拭するかのようにテイオーは素晴らしい走りを見せた。追いすがってきたセントレーザーを引き離し、秋天に続き5馬身差の大勝を飾った。この勝利をもってニッポーテイオーは誰もが認める日本最強マイラーの座を射止めたのだった。
翌年、久保田の言の通り敗けたGⅠを勝ちに行く挑戦の日々が始まった。始動戦となった4月の京王杯は、昨年の毎日王冠で負けたダイナアクトレスに再び敗れたが、次走の安田記念ではそのダイナアクトレスに1馬身差をつけて逃げ切った。「マイルだったら、譲れない」。後年のJRAのポスターを体現するかのような、意地の勝利だった。
次走の宝塚記念は当代最強の呼び声高かったタマモクロスとの対戦となった。現役最強マイラーと、長距離を得意とする芦毛の対決に世間の耳目が集まったが、ニッポーテイオーは惜しくも2着に敗れた。そしてその後、骨膜炎を発症。結果としてこのレースを最後に引退することとなった。
惜しまれつつターフを去った彼のことを、誰からともなくこう呼んだ「マイルの帝王」と。85年に安田記念を制したニホンピロウィナーは「マイルの皇帝」と称されたが、「帝王」もまた「皇帝」に勝るとも劣らない名声である。昭和末期を彩った「帝王」の活躍は、時を超え今も語り継がれている。

ニッポーテイオーは3年余りの競走生活の中で幾重もの決断を強いられてきた。正確に言えばその周囲の人たちがだが。
臨戦過程、脚質転換、そしてレースにおいてどう戦い抜くか。サラブレッドの生涯とは決断の連続である。より良き将来を願い決断を下すその陰には、常に支える者たちの信念があることは間違いないだろう。
今年のダービーもそうだった。

冒頭の古代ローマにおけるカエサルの決断。ルビコン川の畔で彼は何を思ったのだろうか。現代の私たちにそれを知る術はないが、その川は今も存在している。
ルビコン川はアペニン山脈に源を発しエミリア=ロマーニャ州南東部のフォルリ=チェゼーナ県内を流れる、全長30km弱の小さな河川。下流域の町サヴィニャーノ付近まで下っても、川幅は狭いところで1メートル、広いところでも5メートル程度の小川である。

ルビコンの決断。
運命を切り開く、歴史を変えるような決断も
見方を変えればその程度のものである。

勝負の世界に限った話ではない。
私たちは日々何かに追われ、悩み、それでも毎日を生きている。
己の中に信念さえあるのならば、迷うことはない。
あなたにとってのルビコン川を渡ってみるのはいかがだろうか。
底は思ったよりも浅く、対岸は意外と近いかもしれない。
大切なのは最初の一歩を踏み出すことだ。

人生は決断の連続である。あなたのその決意が
より良き未来を照らす、光になることを願って。

「第74回GⅠ安田記念、まもなく出走です」

ニッポーテイオーは88年引退後に種牡馬となった。
目立った産駒の活躍は少なかったが、競馬史に残る
「最強」のアイドルホース・ハルウララを輩出した。
16年うらかわ優駿ビレッジにて老衰により死去。R.I.P

はじめに

お疲れ様です。先週の日本ダービーはいかがでしたでしょうか?優勝のダノンデサイル、当noteでもゆる~~く推してはいましたが、まさか勝つとは…笑
正直来ても3着までと考えていたので、本当に驚きましたし、馬券的には残念な結果に…。指数表と合わせ、あてにしていただいた方には申し訳ない結果となってしまいました。
とまあ反省はこのくらいにして、今週はマイルGⅠ安田記念です。毎年ダービーの前にやればいいのに、と思わなくもないですが、言っていてもしょうがないので前向きに予想することとします。春GⅠもここが終われば、来月の宝塚記念を残し終了ですから。なんとしても結果を残したいなと思っています。

今週もあるか波乱決着?!
新時代の「扉(主役)」を開くのは?

19年に施行されたJRAの「“降級制度”の見直し」を覚えている方、もしくはご存じの方はいらっしゃるでしょうか?
当noteは比較的競馬歴の浅い方も読んでいる(と思われる)ため、まずはさっくりと解説いたします。
18年まで採用されていたこの降級制度は、4歳馬に限り6月に入ると収得賞金が半分に減額されるというルールでした。それに伴い、2勝クラス(1000万下)なら1つ下の1勝クラス(500万下)に再び出走することができていました。そのため競馬ファンの間では「夏は降級馬を狙え」が合言葉のように定着していたと思います。
で、このルールの”あおり”を最も受けていた重賞がGⅠ安田記念です。出走を見込まれていた有力4歳馬たちが、旧ルールのせいで出走除外になるケースが多発していたからです。したがって18年以前の、有力4歳馬が出走できない安田記念は、5歳馬以上の古馬が草刈り場とする乱戦GⅠレースとして長く定着してきました。19年にこのルールが撤廃されたことにより安田記念には新進気鋭の4歳馬たちが出走できるようになりました。結果19年はマイル路線固定で使われてきた4歳馬のインディチャンプが、前年の代表馬アーモンドアイを破り優勝。以降ベテラン古馬の台頭は鳴りを潜め、近年は4~5歳馬が中心になる、比較的堅く収まるGⅠとして定着しつつあります。

とまあここまでが安田記念の現状を示す、おおまかな経緯と傾向です。
では今年の展望はどうなるのでしょうか。
19年以降5年間の傾向を探ると、4歳馬3勝。5歳馬が2勝。連対馬10頭が全て4・5歳馬となっています。その遠因は上記の通りですが、府中で行われるマイル戦ということで高速決着になりやすく、切れのある末脚を使えるフレッシュな馬が優勢という傾向も顕著にみられます。
従って4歳馬を中心視した馬券アプローチを考えたいところですが、ご存じの通り現4歳世代はその脆弱さを指摘されています。今年から古馬になって目立った活躍を見せた馬はGⅠ大阪杯を制したベラジオオペラくらいで、その他クラシックで活躍した馬たちは期待に応えることができていません。
今年の出走予定の中で4歳馬は2頭、エルトンバローズとコレペティトールです。前者は昨年毎日王冠で同コースを制しましたが、以降重賞を3戦して馬券内に入ることができていません。後者は年明けに京都金杯を勝っていますが、前走マイラーズカップでは8着に敗れており、世代的な安定感の無さがここでも垣間見えます。
では5歳以上の古馬はどうかというところですが、マイル路線を牽引してきたシュネルマイスター、ソングラインは昨年揃って引退しています。去年の安田記念1・3着馬です。その他の候補に目を向けると、最も有力視されるセリフォスは早熟のダイワメジャー産駒という点で不安が大きいですし、以下ガイアフォースらは上記の馬らに比べると若干見劣りする感が否めません。牝馬ではマイルCS勝ちのナミュールが最上位に挙げられますが、前走VMでは不可解ともいえる大敗を喫しており、やはり安定感に欠きそうです。さらに6歳馬ではマイラーズカップ勝ち馬ソウルラッシュが好調を維持していますが、出遅れ・不利があったとはいえ2年連続安田記念では不振です。
となってくると、久々に香港から送り込まれる大物刺客2頭、ロマンチックウォリアーとヴォイッジバブルに注目でしょうか。特にウォリアーは現在国際GⅠ4連勝中で大いに注目を集めていますが、近走は全て2000mを使っており日本の高速マイルにどこまで対応できるかは不透明です。
さてここまで長々と書きましたが、結論として今年の古馬マイル路線は未だ混沌としており、新たな主役の台頭が求められているのではないか、ということなのです。上記の有力馬たちに勝ち筋を見つけるのも悪くないと思いますが、別路線から台頭してきた新興勢力や、伏兵たちに目を向けるのも一興かと思います。今週もかなり長い前置きとなりましたが、以下の展望を念頭に恒例の解析に移ってまいりたいと思います。
それから最後に補足しておきますが、秋以降のマイル路線はジャンタルマンタル他、現クラシック世代が引っ張っていくことになるでしょう。この点はまず間違いないです。

春のマイル王になるため勝利への必須5箇条

それではここからは恒例の勝利条件必須5箇条を挙げていきます。
過去10年好走データ、推奨馬までいつも通りの流れなのでよろしくお付き合いください。推奨馬は今回時間の都合もあり、4頭とさせていただきました。ご了承ください。

GⅠでの連対歴もしくはGⅡ以上での勝利経験

過去10年で7頭に該当。伝統の古馬GⅠですから、実績のある馬はやはり高く評価すべきだと思います。非該当馬は19年インディチャンプ、18年モズアスコット、15年モーリスの3頭ですが、マイルに特化して走りGⅢ勝利など、実績はそれなりに高かったです。

上がり3F33秒台での勝利経験

過去10年で9頭に該当。非該当馬は16年ロゴタイプのみです。この年のみ近年では珍しいスローペースとなり、前残りの決着になりました。NHKマイル、VMの際にも書きましたが基本高速決着になりやすく、早い上がりが使える馬を軸に選定したいです。目安は33秒台前半で、東京コース実績があることも重要なファクターだと思います。

1500m以下での勝利経験

この点に関してはクラスを気にしなくてもいいですが、マイルよりも短い距離、特にスプリント戦での実績がある馬には要注意です。広く長い府中の直線においてスピード勝負になった際、スプリントで培われた瞬発力・追走力が活かされることがあります。先日のVMを思い出してください。大穴を開けたテンハッピーローズは、出走馬の中で唯一1200mでの勝利経験がありました。

前走1200~1600mのレースに出走

これも上記項目に似ていますが、とにかく東京マイルはスピード対決になりますので、距離短縮で緩めのラップを刻んできた馬では厳しいです。同距離、もしくは距離延長で臨む馬をピックアップ。しつこくなりますが1200m実績のあるに要注意です。個人的に気になるのがウインカーネリアン、前走が高松宮記念で重馬場での開催でした。貴重な経験になったはずです。

馬体重480㌔以上

中長距離戦においては余計な筋肉量は不要であり、したがってダービーの際は480㌔以下を推奨してきましたが、マイル以下ではスピード勝負となるため、スピードを生み出すためのフィジカルとパワーが求められます。過去10年で8頭が該当しており、インディチャンプとダノンキングリーの2頭が非該当でしたが、両馬共に東京マイル重賞を経験したことがあったため、その点も忘れないようにしておいてください。

以上5点になります。東京マイルGⅠということで上がりタイムの重要さを説いてきましたが、各馬の持ち時計はもう一度チェックしておいて損はないと思います。

過去10年好走データ集

1番人気の実績は

1人気は【2-3-3-2】で5連対と連対率50%ですが、過去8年は勝利していないので注意が必要です。2人気【0-1-1-8】で1連対のみ。6番人気以下で6連対。これだけみると荒れやすい気もしてきますが、冒頭で解説した通り降級制度廃止以降は比較的堅く収まってきています。過去5年の連対馬10頭に絞ると9頭が4番人気以内に収まっています。3~4番人気の馬に妙味がありそうです

前走クラス別に注目すると

1番人気で前走GⅠだった馬は【1-3-2-0】で複勝率100%と期待できますが、前走がGⅡ~Ⅲだった馬が1人気になると【1-0-1-2】とやや危険に。想定ではソウルラッシュなので危ないかもしれません。前走マイラーズCから勝ったのは19年インディチャンプのみで、4番人気でした。前走GⅢ組だとダービー卿CTから2頭が勝っています。モーリスとロゴタイプでそれぞれ1・8人気でした。
上位人気陣で前走GⅠ(海外含む)に出走した馬が比較的堅そうでしょうか。

穴党なら「過去の実績馬」

6番人気以下で連来した6頭のうち4頭にGⅠでの連対経験がありました。
ソングライン、ダノンキングリー、グランアレグリア、インディチャンプと、近年を見ても前走敗けてからここで勝っている馬が多いです。従って前走の着順にとらわれ過ぎないようにしましょう。

脚質は差し・追込みから

逃げ馬の成績は【1-2-0-7】で16年ロゴタイプが勝利、無理のないスローペースで逃げ切りました。統計的には差し・追込み勢が12連対で優勢。直線の長い東京で末脚を使える馬が勝っています。マイル実績あり、早い上がりを使える馬がやはり優勢と考えて良いでしょう。

関東馬VS関西馬

関東馬13連対/関西馬が7連対で関東馬優勢です。
また牡馬VS牝馬で見ると、
牡馬13連対/牝馬7連対となっています。
18年以降牝馬の台頭が目立ってきています。グランアレグリア、連覇のソングラインらの活躍は記憶に新しいです。5番人気以内に牝馬が入った場合は【3-4-1-2】と堅実な成績を残しており、今年はナミュールが該当します。


春のマイル王決定戦!!
森タイツ式推奨馬の紹介

帰ってきたマイル王

マイル重賞の長い歴史の中で富士S、マイルCSと連勝した馬は史上3頭しかいません。11年エイシンアポロン、昨年のナミュール、もう一頭が22年のセリフォスです。21年デビュー時からその素質を高く評価され、新潟2歳S、阪神デイリー杯2歳Sと重賞を連勝、朝日杯は2着に敗れましたが、この時勝った馬はドウデュース。この世代でマイルといえばやはりセリフォスしかいないでしょう。
残念だったのは昨年4歳時の臨戦過程で、3月にドバイターフに挑むと5着、帰国初戦の安田記念で2着といまいちな結果に。夏の休養時に発熱で調子を崩すと、秋のマイルGⅠ2戦でも掲示板外に飛び不調に陥りました。
今年初戦となった前走マイラーズCでソウルラッシュの2着に好走し、陣営は立て直しをアピール。今回のGⅠがその真価を問われる一戦となりそうです。

セリフォスはダイワメジャー産駒、自身のGⅠ5勝を含み、産駒にも多くのGⅠホースを輩出しました。昨年11月まで種牡馬として活躍しており、今年1月に産駒の勝利数1300勝を記録。JRA史上11頭目の快挙でした。
産駒の顕著な傾向として以前から言われているのが、早熟傾向が強いという点です。ダイワメジャー産駒におけるマイルGⅠ勝ちは、セリフォス以外に6頭。コパノリチャード、レシステンシア、カレンブラックヒル、アドマイヤマーズ、メジャーエンブレム。そしてアスコリピチェーノです。どの馬も若駒の時代にGⅠタイトルを手にしており、5歳になってから勝った馬は今のところいません。ここで勝利すればコパノリチャードが高松宮記念を勝った4歳3ヶ月を抜き、ダイワメジャー産駒における最年長GⅠ勝利記録を更新します。

セリフォスは中内田厩舎の管理馬で、厩舎と川田将雅騎手の相性の良さは当noteで何度も取り上げてきました。先日のオークス、クイーンズウォーク騎乗時では振るわなかったですが、それでも直近1年このタッグで21勝挙げており、安定感は抜群ですまた中内田厩舎は東京競馬場のマイル重賞を得意としており、過去5年18戦して連対率33.3%の数値を叩き出します。平場も含めれば勝率21%、連対率は34.8%にもなります。今年はプログノーシスを海外のレースへと積極的に参加さるようですが、セリフォスは国内のレースを念頭に調整されているようで、昨年のリベンジに燃えています。先のマイラーズCではソウルラッシュに敗れましたが、仕上がりの差を考えれば妥当ではないでしょうか。「ダイワメジャータイマー」と揶揄される程、血統の資質に不安が感じられますが、それを覆す厩舎力、鞍上の手綱捌きで、昨年の忘れ物”GⅠタイトル”奪取を誓います。

魂の”快”進撃

安田記念においてデータ上は4・5歳馬の活躍が目立つことは先述したとおり、しかしそのデータはこの馬に限っては当てはめなくてもいいかもしれません。6歳を迎え、さらなる進化を続けるソウルラッシュに注目です。
デビューは20年、若駒の頃は目立った活躍もなく3歳10月まで1勝のみでしたが、転機を迎えたのは4歳春。条件戦を3連勝で突如覚醒すると、勢いのまま出走したマイラーズCで初の重賞勝ちを飾りました。以降は重賞戦線に幾度となく挑戦、GⅠの壁には跳ね返されていましたが、昨年秋の京成杯AHで斤量59㌔をものともせず快勝。重賞2勝目を勝ち取ると、続くGⅠマイルCSではナミュールの2着で改めてその強さを見せてくれました。

ソウルラッシュはルーラーシップ産駒です。最近活躍している馬では牝馬のマスクトディーヴァがいますね。どちらもモレイラ騎手が一度は跨っており好相性を示しています。GⅠホースでいうと菊花賞馬キセキ、朝日杯を制したドルチェモアがおり、どちらも牡馬です。産駒の特徴としては芝のコースであれば特に得手不得手なく、中距離以上のコースであれば普く好走することが可能だと思います。母父にはマンハッタンカフェの名前があります。ルーラー×マンカフェの血統は、ダートですがゴドルフィンマイルなどで活躍したアディラートなどがおり、マイルへの適正はやはり低くないと思われます。体型的には中長距離もこなせそうに見えるのですが、ソウルラッシュはマイル路線に舵を切ってから【6-2-1-4】の成績で、馬券外に飛んだのはGⅠだけ。もうワンパンチさえあればここで突き抜けてもおかしくないと思います。

血統的な観点からみてもマイル向けの切れ味と、時計がかかる展開になった際の持続力、ともに持ち合わせている点が魅力です。また馬場が渋ったとしても稍重くらいまでは問題なくこなせるでしょう
前走マイラーズCでは1人気に支持され、セリフォスを下し快勝。1㌔の斤量差があったとはいえ1と3/4馬身差つけての勝利はなかなかでした。前走がメイチの仕上げで今回はどうかと疑問視される部分もありますが、好調を維持しており「6歳でも上積みあり」と陣営にも自信が窺えます。
なにより鞍上にJモレイラ騎手を配することが心強く、今年に入ってから重賞を11戦してGⅠ桜花賞含む4勝、勝率36%、複勝率は63.6%と驚異的な実績を誇ります。モレイラ騎手が来年再び日本での短期免許を取得するためには、「GⅠレースを2勝」という条件を課されており、本人も何としてもここを勝ちたいでしょう。
名手と再びタッグを組んだ6歳馬の、いまだ終わることのない「魂の快進撃」に期待しましょう。

遅れてやってきた素質馬

前走GⅢダービー卿CTを快勝、海外からの刺客を含め多士済々のGⅠにあって、下級条件から這い上がってきた生え抜きがパラレルヴィジョンです。
デビューは22年4月の中山芝2000の未勝利戦。遅くなったメイクデビューでしたが、ルメール騎手騎乗でなんなく初勝利を挙げました。2戦目は東京の芝2000mここも勝利して2戦連勝とすると、次走神戸新聞杯では3番人気に支持され出走しました。ここで7着に敗れクラシックへの道を断念すると、条件戦へ回り着実に力をつけてきました。安定感のある走りで、大敗したのは昨年11月の霜月S(東京OP)の13着だけで、このレースは不慣れなダート1400mという条件でした。
それ以外ではいまだ掲示板を外しておらず、13戦して勝率46.2%、複勝率76.9%と並外れた数字を記録しており、下級条件だったとはいえ侮ることはできません。

パラレルヴィジョンはキズナ産駒、この血統については毎週のように解説してきましたので割愛いたしますが、今年のキズナは”当たり年”といえるほど成績が良く、すでに重賞を「7」勝利しています。この馬のダービー卿CTの他に、同じく東京マイルでクイーンズウォークがクイーンCを勝利しています。昨年、一昨年はキズナ産駒のソングラインが当レースを連覇しており、血統的な適性は非常に高いと言えるでしょう。
また牝系の血統をみると母アールブリュットはJRA芝短中距離を4勝、母父マクフィは英2000ギニーを勝利した欧州の名マイラーで、牡系・牝系ともに高い適性を垣間見ることができます。

この馬の過去レースを見返してみて、最も際立っていたのがデビュー2戦の内容でした。中山・東京と異なる2000mを中山では中団早めから、東京では後方大外から強襲し、綺麗に差し切り勝ちを決めています。特に東京では出遅れもあり、道中不安になるような離され方でしたが、終わってみれば圧巻の内容といった感じでした。また2勝クラスでは、東京芝2000mを上がり3Fタイム最速の33.1秒で逃げ切っており、自分でペースメイクしたとはいえ、平均上がりタイムが34.6~34.9秒台の東京芝2000mで、なかなかお目に掛かれない時計だと思います。
マイルは2戦して2勝、ダートも含むと3戦全勝です。ことマイル戦においては上りタイムというより、好位に取り付いての差し込み勝ちが多く、立ち回りの器用さも大きな武器になりそうです。
今季好調の国枝厩舎すでに桜花賞含む重賞3勝を挙げており、来年のラストイヤーに向け勢いを感じます。最も信頼のおけるルメール騎手とのコンビで出走するのも心強いです。遅れてきた未完の大器が、初挑戦でいきなりGⅠ奪取なるか、注目する価値は十分ありそうです。

”初GⅠ制覇”の流れに乗りたい

ここまで26戦して8勝、7歳にして老いてますます盛んなマイルの雄、ウインカーネリアンの参戦です。デビューは19年の東京芝1800m、以降~2000m級の中距離路線で活躍。クラシック初戦の皐月賞は4着と好走しました。3勝クラスに上がってからマイルへ路線変更、徐々に頭角を現すと22年関谷記念、昨年東京新聞杯と、これまでGⅢ重賞2勝を挙げています。

カーネリアンはスクリーンヒーロー産駒で、その父は有馬記念勝ちのゴールドアクター。安田記念においてはGⅠ6勝のモーリスが15年にこの舞台を制覇しています。他に天皇賞秋など、マイル以上の中距離での活躍が目立っています。牝系をみると母コスモクリスタルはJRA芝1200mで4勝挙げており、母父マイネルラヴはあのタイキシャトルを負かしてスプリンターズSを勝ちました。母方に関しては短距離型の血統といえます。ウインカーネリアンの、マイラーでありながら先行気質の高い性格はこのあたりが反映されているのかもしれませんね。

前走高松宮記念では初のスプリント重賞挑戦でありながら、積極的な騎乗で先頭集団に取り付き、香港のヴィクターザウィナーにはハナを譲りましたが、4着に粘りこみました。初の中京、初の短距離で上々の内容だったと思います。前走は中間の追い切りで自己ベストを更新するなど、かなりの仕上がりで挑んできましたが、今回も短期放牧明けから良い状態を維持しているようです。少なくとも前走の追切と比べて出来落ちしている感は全くありません。後は展開がどう向くかですが、枠順にもよりますが今回は同型の逃げ馬にドーブネがいるので、上手く先手を主張しこの馬のペースでレースを作れるようになれば、一発があっても不思議ではないと思っています。多少なり運の要素は必要になってくると思いますが。
いずれにしろ東京マイルは、かつて重賞勝ちを挙げたこの馬にとって最も得意なコースであることに間違いありません。陣営も何とかGⅠ制覇取らせてあげたいと切望していますし、何より競馬ファンは鞍上・三浦皇成騎手のGⅠ初制覇を待ち望んでいます。今年もGⅠ初制覇のジョッキーが誕生していく中、ついに彼にも順番が。と淡い期待を抱いてしまいます。
立ちはだかるライバルたちは皆強敵ですが、混戦ムード漂う今年の安田記念、ベテラン馬の意地の一発に賭けてみるのもまた一興かと思います。

おわりに-その他の馬を添えて-

以上ここまでが、安田記念攻略noteとなります。今回もまあまあなボリュームになりましたが最後までお読みいただいた方、本当にありがとうございました。これで今年の春GⅠレースに関しては余すことなく記事を掲載できたことになります。春の天皇賞から6週連続になると思いますが、正直かなりきつかったです笑
途中辞めようかなとも思いましたが、熱心に読んでくださる方、楽しみに待ってくれる方までいて、そこを励みになんとかやってこれたと思います。重ねて御礼申し上げます。さてここで少しお休みを入れて、次回のnoteは宝塚記念を予定しています。夏競馬に入る前、上半期の総決算的なnoteにしたいと思っていますので、どうぞ楽しみにお待ちください。

ここから最後に上記に挙げなかった馬たちの、その短評を添えて締めさせていただきます。まだ書くんだね。…今回の安田記念は海外参戦も含めかなり混戦しているので難しいですね。正直そんなに自信がないので、小額投資で済ませる予定です笑笑。

ではまた…。

📝ロマンチックウォリアー

言うまでもなく「香港最強馬」として今回最も注目を浴びている一頭です。香港の事情にはそこまで明るくないので、詳らかに解説はできませんが、まあ強いですよね、馬柱を見れば一目瞭然です笑
追切の内容を見れば先方の本気度はかなり高いことが分かります。少なくとも、ここを叩いて宝塚で本番、といった感じではないでしょう
ただし昨年からかなりタイトに使われてきていて、日本に来てからのスケジュールもけっこう詰まり気味だったよう。またマイル戦での実績にはやや乏しく、つけ入る隙があるとしたらこのあたりでしょうか。
前走の香港GⅠでは日本でGⅠ未勝利のプログノーシスにクビ差勝利、3着は同じくGⅠ未勝利のノースブリッジ…。この力関係を考えると、そこまでではないのかも?と勘繰りたくなってしまいます。
森タイツ式では思いきって3~4番手、もしくはそれ以下の評価に留めるつもりです。危険ですね笑

📝ヴォイッジバブル

個人的に気になっている1頭です。1月の香港スチュワーズCで勝利し、晴れてGⅠホースの仲間入りを果たしました。以降は3戦して勝鞍はなし。この1月のGⅠがどの程度のレベルだったかはわかりませんが、特筆すべきは12月に出走したGⅠ香港マイルの内容で、このレースでは2着に敗れましたが勝ったのはあのゴールデンシックスティ。獲得賞金世界1位にもなった香港の3冠馬です。ヴォイッジバブルは11番人気から2着に入線し、日本から来たナミュール、ソウルラッシュ、セリフォスという安田記念に出走する3頭に先着しています。またこの時6着に負かした馬がBeauty Eternalで、この馬は4月のGⅠチャンピオンズマイルでゴールデンシックスティに勝っています。今回の出走馬のヒエラルヒーを考えると大きな差はなく、やはり混戦ムードの安田記念になっているので、この馬にも十分にチャンスはあると思います。付け加えると、鞍上のパートン騎手はかつてエアロベロシティで高松宮記念を制するなど、かなり日本の競馬には明るいと思うので、その点も警戒したいです。短評と言いつつ長いですねすいません笑

📝ナミュール

牝馬で人気を集めそうな一頭。昨年のマイルCS勝ちを高く評価されており、実際強い競馬を見せましたが、以降は再び勝鞍から遠ざかっている現状です。クラシックで好走した後にマイル路線に切り替えてきましたが、いろいろと不運に見舞われ力を発揮しきれないレースが続いていました。昨年のVM、安田記念がそうでした。運と展開に恵まれていればより多くの重賞勝ちがもたらされていたかもしれません。とはいえ武豊騎手に乗り替り臨んだ前走では大きく出遅れから見せ場なく惜敗と、内容の悪い競馬をしていました。仮に叩きだったとしてもいただけないなと、個人的には思います。素質が高いのは分かりますが、出遅れ癖も目立ちますし。紐程度の評価とし、思い印は打たない予定です。

📝フィアスプライド

牝馬ではどちらかというとこちらの方を評価しています。前走では馬券購入していなく痛い目に合わされましたが笑。出来落ちなく今回も仕上がっているようです。ルメール騎手から坂井瑠星騎手に乗り替りですが、評価を下げるとかでもなく彼は今日本の若手では一番の伸び盛りだと思いますので、外国然り先日のダービー然り、中人気から馬券内にしれっと持ってくることは平気でやって見せます。牝馬につき斤量56㌔という点にも注目です。またフィアスプライドは先述のパラレルヴィジョンと同じ国枝厩舎の管理馬なので、国枝といえば牝馬ですし、GⅠで2頭出しというのも不気味さを感じますから、どちらかは抑えておいた方が良いと思います。

📝コレペティトール

11月の東京マイル戦、秋色Sで記録した上り3ハロンは32.5秒。その後の元町Sも上がり最速で勝利、京都金杯では斤量54㌔と恵まれていたとはいえ、ここも上がり最速で重賞制覇。と末脚の切れ味はGⅠレベルのそれだと思います。スピード勝負になった際は浮上が見込める気がしますし、鞍上も人気薄でも侮れないあの人が乗っています。中途半端な枠よりも、極端な内枠もしくは大外枠の方が腹を括った騎乗をするので、枠順にも注目しておきたい一頭です。


今回参考にさせていただいたサイト


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