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GⅠ高松宮記念



序文:うつろわざるもの達へ

払暁と落日

川田将雅という騎手をご存じだろうか?
2004年デビューから順調に勝ち星を積み上げ、2016年に日本ダービー制覇。
2022年に史上4人目となる騎手大賞に輝き、昨年23年にはリバティアイランド騎乗で3歳牝馬クラシックレースにおける3冠を達成。24年に入り通算2000勝をマーク、と今や日本を代表するトップ騎手である。
…当然、このページを訪れたなら知らない人はいないはずだ。
そんな川田騎手のJRA重賞初制覇になったのが2006年の小倉大賞典。11番人気メジロマイヤー騎乗で見事な逃げ切り勝ちを収めた。
現時点での川田騎手の重賞勝利数は地方交流含め「194」、その記念すべき1勝目、06年小倉大賞典は、いわば今を生きる伝説の幕開けとなったレースといえるだろう。

ここで少し視点を変えてみる。

メジロマイヤーという馬をご存じだろうか?
2001年9月、阪神競馬新馬戦でデビュー、4戦目の未勝利戦で初勝利を飾るとそこから連勝、翌年2月のGⅢきさらぎ賞で勝利、重賞初制覇となった。
そこから長らく勝ちから遠ざかったが、先述の2006年小倉大賞典において、川田将雅鞍上で勝利。重賞2勝目を挙げるも、その後は再び成績が低迷、翌07年GⅢ京阪杯で17着に敗れ、現役生活に別れを告げた。

メジロマイヤーはその名が示す通り、メジロの冠名を有す名門、「メジロ牧場」の生産馬だった。
メジロ牧場は北海道洞爺湖町にあった生産牧場で、日本屈指のオーナーブリーダーとして知られていた。史上初の3冠牝馬メジロラモーヌ、天皇賞春を連覇した最強ステイヤー・メジロマックイーン、GⅠ5勝を挙げたメジロドーベルら、数多くの名馬を世に輩出してきた。
そんなメジロ牧場だったが2000年以降成績が急落、06年を最後に重賞勝利から遠ざかり、11年に事実上の解散。競走馬生産業、馬主業から撤退した。
そう、2006年小倉大賞典を制したメジロマイヤーは、メジロ牧場最後の重賞勝利馬だったのである。

若き騎手の栄光の日々のはじまり、その第1歩目となった06年小倉大賞典は、数多くの栄冠に輝いてきた名門牧場の、落日のはじまりでもあったわけだ。
勝ち負けは戦う者たちの常、誰かの勝利は誰かの敗北を意味し、またその影で勝負の世界から去っていく者たちも多くいる。そんなことを感じさせてくれるエピソードである。

ガラス細工の重戦車

さてそのメジロ牧場の出身で、今回の高松宮記念の前身である高松宮杯において、圧倒的1人気から勝ち切った一頭の牡馬がいた。

メジロアルダン
500㌔を超える馬体から繰り出される前進気勢の走り。
ファンからは「重戦車」と讃えられた。

1985年3月に生まれたメジロアルダンだが、当初は双子の予定だった。もう片方の仔は死産となっており、競走馬の世界では双子は大成しないと言われている。もしこの時、双子で生まれてきていれば、アルダンの後の活躍もなかったかもしれない。
姉には86年の3冠牝馬メジロラモーヌ。期待を寄せられたアルダンは、姉と同じ美浦・奥平厩舎に入厩した。
アルダンのデビューは遅れに遅れた。2~3歳の成長途中の馬によくある症例、「管骨骨膜炎」通称”ソエ”だが、これは本格化していない馬に、強い過度な調教を施すことが主な原因といわれている。アルダンもこれに悩まされた。馬体が大きく見込みもあったが、脚部に不安を抱えており、後に重戦車と称されるそのフォルムも、その実ガラスのような脆さを併せ持っていた。
明け4歳となった88年、3月東京の未出走戦でようやくデビュー。初にして最後のダートレースとなったがこれに勝利。ダート1200m戦で、2着の馬を半馬身差に抑え込む、辛勝ともいえる内容だった。同じ日のメインレースはGⅡスプリングS(当時は東京開催)、アルダンと同世代の馬は皆クラシックへの出走権をめぐり激しく競い合っていた。この時のアルダンとライバルたちの間に、大きな隔たりがあったことに間違いはないだろう。
アルダンは次走の東京芝1800m山藤賞にも勝利、連勝してGⅡ NHK杯に駒を進めた。
この東京芝2000mのレースには強豪サッカーボーイ、マイネルロジックらクラシックへ期待されていた有力馬がおり、メジロアルダンは6人気での出走となった。
余談だがこのNHK杯は当時皐月賞のトライアルレースで、現在は3歳限定のNHKマイルカップとその呼称を改めている。…後のGⅠレースである。
アルダンはこのレースを得意の先行ポジションで競馬を進めると、直線で伏兵マイネルグラウベンにかわされたが、2着に入線。見事日本ダービーへの切符を手にしたのだった。
そして迎えた日本ダービー。メジロアルダンの戦績はここまで3戦2勝、3月のデビューからわずか2か月でこの大舞台を迎えることになった。鞍上は名手・岡部幸雄、6番人気だった。
レース開始から中盤までは、中団の馬群の中に潜り様子を窺う展開に。
最終直線、名手岡部の手腕が光る。一瞬のスキをついて内を狙い、先頭集団に取り付くと、残り200mを切ったところでサクラチヨノオーとの叩き合いから先頭に立つ。
栄光まで150m、がここでサクラチヨノオーに差し返されクビ差の2着、ダービー制覇まであと一歩届かなかった。
デビューからわずか2か月間で日本ダービーへの挑戦。脚部に問題を抱えていたアルダンにとってこの激戦の代償は大きく、レース後に骨折が判明。そのまま1年間の休養を余儀なくされてしまった。
1年後、OP戦メイステークスで復帰初戦を勝利すると、次走GⅡ高松宮杯でバンブーメモリーの追撃をかわしレコード勝ち、重賞初制覇を飾った。
この年の古馬GⅠ戦線は、オグリキャップ、イナリワン、スーパークリークら「平成3強」の全盛期。この3頭がアルダンの前に立ちはだかった。
秋初戦の毎日王冠ではオグリキャップ、イナリワンに敗れ3着。次走天皇賞秋ではスーパークリーク、オグリキャップに敗れ3着、足踏みしている間に屈腱炎を発症、再び長期休養を強いられてしまう。
90年明け6歳を迎え、9月のオールカマーで復帰。1番人気も4着に敗れる。次走天皇賞秋では、同期のライバル皐月賞馬ヤエノムテキに敗れ2着。有馬記念では2番人気に支持されたが、このレースはあのオグリキャップ「奇跡の復活劇」、名馬の引退の影に隠れ10着に泣いた。翌年の日経新春杯4着の後屈腱炎が再発、3度目の長期休養を強いられる。秋には復帰したが全盛期の力は見る影もなく、ジャパンカップ14着を最後に引退した。
デビューから引退まで約3年半の間、その半分以上の時を故障で休養しており、重戦車の強さとガラスの脆さを併せ持つ悲劇のヒーローは、その脚元の弱さに泣かされ続けた。

引退後は北海道で種牡馬生活を送ったが、産駒からは大きな戦績を残す馬は現れなかった。
そんな折、2000年に中国へ輸出されることとなり、北京龍頭牧場で繋養された。
中国で生まれた産駒の中の一頭「Wu Di(ウーディー)」は「無敵」の名前が表す通り、彼の地にて無双の強さを誇った。残念ながらレース映像等はネットを検索してもほぼ見つけることができなかったが、知るところによると「中国競馬27の重賞勝ち」「1400~8000mのレースで勝利」他、数々の偉業を達成したという。現在Wu Diは種牡馬として活躍しているらしい。
メジロアルダンは、今の日本では既に絶えてしまったノーザンテイスト直系の血統。その血筋が海の向こう側でいまだ紡がれているという事実は、なんとなく感慨深いものがある。
中国競馬のレベルや、互いの国の問題もあるかもしれないが。ガラスの脚で走り続けたあの馬の仔。その血筋を再び日本で見れたら面白いかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまう。

非情なる日々の中で

冒頭にも述べたが、勝負の世界、こと競走馬の世界は時として非情だ。かつての名門牧場も、騎手も、血統も、勝てなくなってしまえばその道を閉ざされてしまう。
今はなき名門、途絶えた血統、ガラスの脚で駆け抜けたあの馬。少しずつこの世界から薄らいでいってしまうだろう。

少し話は変わるが、つい先日の阪神競馬場メインレース・コーラルSは、リステッド競争だったにもかかわらず、世間の耳目を大きく集めた。あの福永厩舎の初陣だったからだ。福永祐一と武豊のタッグで挑んだレースは2着に終わったが、レース後の二人のやり取りも含め、ニュースやSNSで話題となった。
一方このレースを勝った馬、レディバグ騎乗の酒井学騎手はレース後にこう語った。

「この馬にはデビューから乗せてもらって思い入れが強い。話題をかっさらって申し訳ないけど、僕もなんとか花道をつくってあげたい気持ちだったので」

地方交流含め、牝馬ダート重賞の中核として戦ってきたこの馬の、引退レースだと知っていた競馬ファンがどれだけいただろう。酒井騎手にとって、陣営や関係者にとって、そして馬自身にとっても敗けられないレースだったことは、想像するに難くない。

誰かの勝利は他者の敗北を意味し、新しい船出の対岸で、帆をたたむ者もいる。
きっと一戦ごとに、それぞれに背負うものがあり、そうやって競馬は成立しているのだろう。
連綿と繋がれてく勝負の世界、繰り返される時として非情な日々。ふと足を止め、去りゆく者たちに思いを馳せることはナンセンスだろうか。どんなに小さいレースの、どんなに無名な馬にだって空虚なものはなく、そこに至るまでには、うつろわざる物語が詰まっているはずだ。少なくとも、私はそう思いたい。

先日引退した武士沢友治・元騎手は、去り際にこう言った。
「自分の騎手人生は終わるけど、馬のドラマとストーリーは続いていく」と。

今日もどこかで馬は生まれ、走り、その物語は紡がれていく。
願わくば、あまねくすべての人馬に幸あらんことを。

「GⅠ高松宮記念、まもなく出走です」


はじめに~近頃の短距離事情~

お疲れ様です。今回も長尺の冒頭文となりましたが、最後まで飽きずに読んでくださる方がいたら、心より御礼申し上げます。かなりポエティックな内容になってしまいましたが、春ですから、別れと出会いの季節ということで、切ない感じご容赦ください笑

ここからは真面目に週末に控えた春GⅠ初戦、中京高松宮記念の考察をしていきたいと思います。本項の後には毎回恒例の過去10年から読み解く好走データと、有力馬たちの紹介を数頭してまいります。どうぞお付き合いください。

まずここ数年のスプリント界隈をざっと振り返ってみます。
21年スプリンターズSを、ピクシーナイトが3歳で制したのが今から3年半ほど前。
ピクシーナイトの一強時代に突入かと思いきや次走の香港でケガ。以降同世代の短距離馬たちも故障などでパッとせず、次なる台頭勢力が現れないままベテラン勢が短距離重賞を引っ張ってきました。

22年高松宮記念 ナランフレグ6歳
22年スプリンターズS ジャンダルム7歳
23年高松宮記念 ファストフォース7歳

と、GⅠだけみてもこのような感じ。

この背景にはXの方でもポストしましたが、大手のノーザンFや社台系の、いわゆるクラブ系の法人が力を注いでいないという、そんな事情があるのではないかと考えます。故障のリスクが大きく、また海外のレースを目標にしたとき、稼げるレースが少ない。というより日本競馬会の最終目標が凱旋門賞(最近はドバイWCも)に設定されている以上、必然的に短距離馬の需要は高まりません。
といった側面もあり、短距離GⅠの高松宮記念はいわゆるマイナー系の生産馬の活躍が目立ちます。昨年のファストフォース、ナムラクレアの1・2着馬はともに浦河町で生産された馬でした。
が、少し潮目が変わったかな、と思わされたのが昨年のスプリンターズSで、4歳馬だったママコチャが勝利しました。
この馬はもともとマイル路線で見込まれていましたが、短距離に舵を切りGⅠ制覇の栄誉をその手に収めました。ノーザンF生産で所有は金子真人HDと、血統も含めバリバリのエリート馬です。
また今年に入ってからGⅢ勝利の4歳馬ルガル、5歳馬トウシンマカオが本格化の兆しを見せ始めており、例年よりも4~5歳馬の躍進がありそうな気がしています。ナムラクレア、ソーダズリング、マッドクールも皆ミドルエイジですね。
さらに昨年までは京都競馬場の工事期間に伴う影響で、冬季期間に中京競馬場で代替え開催をしていましたが、今年はそれがありません。天候の影響もありますが、今年は21~23年よりも、良好なコンディションで開催できるかもしれません。となってくると、前残りの傾向・インコース優勢という2点を加味して予想をする必要があるでしょう。

急坂を擁する中京1200m
馬力・馬格のある馬を選定したい


高松宮記念 勝利への必須条件とは?

ここからは春の短距離GⅠ制覇に向けた、必須条件をその理由と共に解説していきます。

📝非ノーザンファーム生産馬

過去10年全馬に該当。日本競馬会の生産牧場としてトップを走り続ける大手も、当レースでは全く結果を出せていません。理由は先述の通り。
あのグランアレグリアさえ3着で終わっています。

📝4~6歳である

過去10年8頭に該当。昨年のファストフォースはインパクト大でしたが大雨の中の超不良馬場、大波乱の1着ということで、4・5歳馬が有力と考えるのが妥当だと思います。もう一頭の7歳馬は香港からの刺客、エアロヴェロシティでしたね。

📝牡馬である

過去10年9頭に該当。急坂のある中京ではやはり馬格のある牡馬が優勢。牝馬で勝ったモズスーパーフレアも2着からの繰り上げでした。
とはいえ今回は牝馬のエントリーが多く、有力馬の中にも何頭かいます。
牡・牝の取捨は悩みどころとなりそうです。

📝前走が1or2着

過去10年7頭に該当。短距離戦はいかに馬をフレッシュな状態で送り込めるかどうかがカギ。前走好走は重要なファクター。特に前哨戦となったシルクロードS、阪急杯、オーシャンSの好走馬は重視したいです。

📝1400m以上のレースでの実績

繰り返しますが、直線に坂のある中京ではタフさを求められます。1200専の馬では粘りこめないケースも散見されるため、1400~マイルで好走歴のある馬に注目したいです。21年ダノンスマッシュは前年の京王杯を勝ってから、当レースを3度目の挑戦で勝利しました。

過去10年を掘り起こす
高松宮記念 好走データ集

穴狙いなら高齢馬も

10年間の連対馬20頭の内、6番人気以下から連対した馬は6頭いました。その内3頭にスプリントGⅠでの連対歴がありました。
また6頭のうち4頭が前走シルクロードSかオーシャンSで2着でした。
この条件を満たす6歳~の高齢馬がいたら買い目に入れたいです。

馬場が渋ったら迷わず人気薄へ

1番人気の信頼度は低く、10年間で【1-1-2-6】と2連対。
かなり危険ですね。また天候との相関も濃く、過去4年は重or不良馬場での開催で、9、2、8、12番人気が優勝。今年も雨予報。重馬場以上なら波乱に警戒&期待です。

2枠に注目

2枠は【3-2-1-14】さらに4番人気内の馬が入った場合【3-1-1-1】とかなり好成績を残してます。
また6番人気以下から連対した5頭の馬番号はそれぞれ
2、4、13、15、16、17番。力が足りてなくても内をロスなく、もしくは馬場の良い外を通った人気薄の激走があります。
特に重&不良馬場になった場合は外枠の人気薄に注目したいです。

先行馬の連対多し、道悪なら追込み

逃げ馬は【1-0-0-9】、2~4番手につけた先行馬が8連対。馬場が渋った7年の内6年で、10番手以下から追い込んだ馬が連対しています。
重馬場&不良馬場の際は道悪巧者の追い込み馬を選択したいです。

前哨戦GⅢ連対馬に注目
ただしオーシャン組は注意

注意したい点は、荒れる荒れたと言われながらも、過去連対した20頭の内18頭が前走5着以内という事実。前走で好走・善戦を見せている馬はやはり重視したいです。注意したいのは前走オーシャンS組で、勝った馬は【0-0-0-9】で不振。逆に2着馬が【1-2-1-5】で好走が多いです。連対した3頭の内本番ではそれぞれ6、6、8番人気だったので、今回ビッグシーザーが6~8人気になればかなり面白そうです。


春GⅠ開幕ファンファーレ!!
電撃6ハロン戦を制するのは?

ここまでデータ上の買い要素をまとめてきましたが、ここから森タイツが推奨したい本命馬3頭と、穴よりの馬を2頭解説させてもらいます。

ナムラクレア

昨年2着、GⅢ4勝、GⅠ・Ⅱでも好走を続ける牝馬・ナムラクレアが大願成就に向け今年も高松宮記念に出走です。
21年小倉2歳Sを勝利以降、鞍上・浜中俊騎手と共に、常に重賞戦線で活躍し続けてきました。
昨年は不良馬場の中、外目から追い上げたものの2着、秋のスプリンターズSでは痛恨の出遅れから巻き返しを図るも3着と、GⅠ制覇までなかなか手が届かない現状が続いています。今年の始動戦は前走京都牝馬S、ソーダズリングの2着に敗れましたが、当日の馬体重は前走+10㌔で自己最高を更新。少し丸みを帯びた状態で、外枠からの2着は悪くないでしょう。これで今回の本番には万全の仕上がりが期待できます。

ナムラクレアはミッキーアイル産駒、NHKマイルC・マイルチャンピオンシップなどGⅠ2勝の他、高松宮記念・スプリンターズSで2着の実績を有し、SS系ディープ産駒の中では短距離特化型でした。産駒には同レースに出走するメイケイエール他、ララクリスティーヌなど牝馬の好走が多いです。道悪の適正もあり、この馬自身、昨年不良馬場で2着に入っています。荒天に見舞われたとしても、優先順位を下げる必要はないでしょう。

勝ちきれないと評されるナムラクレアの強みは、まずその安定感。これまでに掲示板を外したのは昨年のヴィクトリアマイルだけで、短距離では抜群の実績を誇ります。さらに牝馬でありながらその闘争本能は高く、馬群に揉まれても尻込みしません。ロスのない内枠、道悪の際の外枠も良いですが、むしろ馬混みで牡馬たちに挟まれたときに、この馬の真価が発揮されそうな気がします。想定1人気、牝馬と、データ上は不安視されますが、それを覆すだけの闘志が宿っている。そんな期待をかけたい一頭です。


ルガル

前走シルクロードSで重賞初制覇、勢いそのままにGⅠ戴冠を狙うルガルに刮目です。前走は抜群の発馬を決めると前へ、先手を主張するテイエムスパーダを行かせ2番手につくと、勝負所で仕掛けて押し切りました。初の57・5㌔ハンデで勝ち切った点も大いに評価できます。もちろん相手関係に恵まれたわけではなく、アグリは短距離戦線の常連馬、ルメール騎乗のエターナルタイムも素質馬です。この2頭を相手に残り200mで独走、GⅠ級への覚醒を予感させる勝利でした。

前走の本格化への兆しは、それとなく父ドゥラメンテの走りを想起させました。今は亡きドゥラメンテですが、産駒は3冠牝馬のリバティアイランドを筆頭に芝・ダート、そして距離を問わずに強豪を送り続けてます。
ドゥラメンテはキングマンボ直系でマンボの母は欧州の名牝ミエスク。母方アタブの血統も曾祖母まで遡ると同じミエスク。この名牝は英仏1000ギニーなどでGⅠ 10勝を挙げており、4×4クロスの本馬は、血統的にはまず間違いのない一頭といえるでしょう。

ルガルを管理する杉山厩舎は、昨年の全国リーディング1位。管理馬のジャスティンパレスは昨年の春天を制しています。杉山厩舎は育成はもとより、馬のコース適正を見抜く目に非常に長けており、ルガルは前7走を平坦な京都・新潟を使われてきました。これは平坦なコースへの適性が高いとの判断からでしょう。ここにきて急坂を擁す中京GⅠへの参戦は、この馬が本格化を迎え、難コースと難敵を倒す算段ができたからだと推測されます。
現4歳世代は今年に入ってから目立った活躍がなく、世代レベルでの強さを疑われています。ルガルが真の素質馬かどうか、中京ラスト200m、その坂を登った先に答えがあるでしょう。

ママコチャ

ママコチャが昨年秋のスプリンターズSを制覇したのは、1200mへ路線変更してからわずか2戦目のことでした。その後の阪神Cでは5着に敗れましたが、再びそのスピードを活かせる短距離重賞、となれば巻き返しは必至でしょう。前々走ではその持ち前の前進気勢から好位につけ、勝負所で早々と進出。マッドクールとの叩き合いを制した勝ちっぷりは、暫らく主役不在だった短距離重賞界への光明のようにも思えました。

ママコチャの血統は、スリープレスナイト・カレンチャンとスプリントGⅠ馬を輩出したクロフネの最終世代。現役馬も少なくなってきて、ママコチャには産駒の20年連続重賞勝利という記録もかかっています。牝系はいわゆるシラユキヒメ一族で、GⅠ3勝白毛のアイドル・ソダシは全姉にあたります。この血統はデビュー当時から注目を集めてきましたが、昨年から成長曲線を上がり続け、充実期を迎えたとみてよさそうです。

秋GⅠで見せたように、ママコチャ最大の魅力はその前向きな気性から繰り出される末脚。折り合いの難しさという背反性を持ち合わせていますが、ことスプリント戦においては、プラスに作用していると言えます。
前走5着に負けた阪神カップ後、川田騎手は「行きっぷりが良くなかった」という主旨のコメントを残していましたが、今回は1F短縮戦。得意のスピード勝負に持ち込みたいところ。過去の高松宮記念でも実績抜群の鞍上と共に、GⅠ2勝目を狙いに行きます。

ビッグシーザー

オーシャンS2着、4歳馬にしてスプリント界では現役屈指のスピードスター、ビッグシーザーです。22年8月のメイクデビューから期待されており、3戦目で初勝利を飾ると、OP戦2走、L競争と立て続けに連勝してきました。次走葵Sで3着の後、秋競馬の3連敗で早熟だった可能性が示唆されましたが、淀短距離Sで復活の快勝。前走オーシャンSで2着に健闘してみせました。

ビッグシーザーはビッグアーサー産駒、同レースに出走するトウシンマカオや函館2歳S勝ち馬のブトンドールなどを輩出してます。その父サクラバクシンオーは言わずと知れた短距離界の雄、スプリンターズSを2勝している名馬です。輸入された米国産の母はJRAダート中距離で3勝を挙げました。ビッグシーザーは日本の生産馬で主流になっている、サンデーサイレンスもキングカメハメハも持たない、非常に珍しい血統構成ですね。

この馬の武器は何といってもそのスピード、中京芝との相性も良く、下級条件ですが2戦して2勝しています。出遅れが少なく、ハナを切るか先団に入るか、基本前目の競馬で戦ってきましたが、前走では中団にポジション。4角で不利を受けながらも外を回り、しぶとく伸びてきて2着に入りました。
絶好調期に比べると行きっぷりも悪く、完全復調とは言えないかもしれませんが、逆に差す形での競馬を覚えたのは今回に活きてきそうです。
データ編で述べた通り、オーシャンS2着馬は好走例が多く、中穴人気になるのであれば、思い切って狙ってみたい一頭です。

ウインカーネリアン

ここまで25戦して8勝、マイル路線から7歳馬の雄、ウインカーネリアンの参戦です。デビューは19年の東京芝1800m、以降~2000m級の中距離路線で活躍。クラシック皐月賞は4着でした。3勝クラスに上がってからマイルへ路線変更、徐々に頭角を現すと22年関谷記念、昨年東京新聞杯と、これまでGⅢ重賞2勝を挙げています。

カーネリアンはスクリーンヒーロー産駒で、その父は有馬記念勝ちのゴールドアクター。産駒は天皇賞秋などを勝ったGⅠ6勝のモーリスら、マイル以上の距離での活躍が目立っていますが、高松宮記念で1位入線実績のあるクリノガウディーもいます。母父マイネルラヴは、あのタイキシャトルを負かしてスプリンターズSを勝ちました。短距離適性に欠くという訳ではなさそうです。

ウインカーネリアンにとって今回のレースは初距離というだけでなく、中京のコースも初となります。ただ重賞勝ちした2戦はともに東京・新潟だったので、左回りへの適正は不安視しなくてもいいかもしれません。やはり問題は距離適性で、一流のスプリンターたちに交じって得意の先行ペースに持ち込めるかは未知数。前走東京新聞杯も平均ペースから、直線で差されての2着。全盛期に比べると衰えも見られますが、中間追い切りでは自己ベストを更新するなど、状態は上がってきている様子。展開さえうまくハマれば、一発があっても不思議ではないかも…。波乱の主役には相応しい気がします。

おわりに:その他有力馬について

ここまでが、高松宮記念攻略noteとなります。今回も長文となりましたが、最後までお読みいただいた方がいらっしゃいましたら、厚く御礼申し上げます。毎度々々ポエティックな序文から始まり、それも回を増すごとにボリュームが増しているので笑、今後は少しコンパクトに心掛けようと思います。

後半に解説した推奨馬ですが、3頭は本命寄り、もう2頭は穴目寄りの馬といたしました。荒れることも多い当レースですから、ただ単に有力馬だけでは面白くないなと思いまして…。

でその他の優勝有力候補ですが、軽視しているという訳では無く、週末の予想に向けて買い目に入れていく可能性もあります。
ただ、トウシンマカオ・マッドクールの2頭に関しては今回、印は打たないかなあ、と思っています。
説明するとまた長くなるので、割愛いたしますが…。トウシンマカオはオーシャンS勝馬だから、マッドクールは年内始動戦に当たるため、というのが主な理由となります。
最後に香港からの刺客、ビクターザウィナーについてですが…。
この馬のことはよくわかりません笑
年内初戦の香港1200m・GⅠセンテナリースプリントを勝って、この舞台に挑んできました。勢いを感じさせる反面、昨年12月の香港スプリントでは、日本馬マッドクール・ジャスパークローネには先着したものの、4着に敗れており、怪物クラスのGⅠ馬かというとそうでもなさそうです。
香港の単距離馬といえば、15年に高松宮記念を勝ったエアロベロシティがいました。当時はバートン騎手騎乗で、7歳セン馬にして勝利を収めましたが、その後もシンガポールと香港のスプリントGⅠで3勝を挙げるなど、香港スプリンターは遅咲きのイメージがあります。
今回のビクターザウィナーは6歳セン馬、まだまだ伸びしろを残している可能性もあり、侮ってはいけないような気もしています。
最後に他サイトに掲載されていました、陣営のコメントを掲載して本稿を了とさせていただきます。
今回もお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。
ここから暫くGⅠ開催が続きますので、当noteも頑張っていきたいと思っております。
またXの方もおかげさまでフォロワー数1000名突破、と相成りましたので御礼申し上げるとともに、なにか還元できる企画を検討中ですので、今後ともよろしくお願いいたします。
ではまた…。


チャップシン・シャム調教師
「今朝の追い切りでは最後の200mで非常に良い動きを見せてくれました。前走でG1を勝ち、次走として1400メートルのG1(クイーンズシルバージュビリーカップ)も候補になるところですが、この馬の適性は1200メートルにあること、また香港に来る前にオーストラリアで調教されていましたが、その時に左回りで良い動きをしていたこともあり、高松宮記念参戦を決めました。この馬は非常に素直でおとなしく、物事に動じない性格の持ち主ですし、レースでは前目のポジションで一生懸命走ってくれます。枠順は内を希望しますが、具体的なレースプランは枠順が決まってから考えます」

以上ニュースサイト【競馬のおはなし】より抜粋


その他参照サイト


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