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GⅠ阪神ジュベナイルフィリーズ


序文 「名牝万事塞翁が馬」

馬は馬でも現代の競馬とは全く関係のない話。

古代中国の塞(さい:砦のこと)の近くに一人の翁(おう:じじい)が住んでいた。ある日翁が飼っていた馬が逃げ出してしまう。
周囲は翁に同情したが、本人は「このことが幸運を呼び込むかも」とどこ吹く風だった。
翁の言う通り、逃げた馬が後日立派な馬を連れて帰ってきた。
周囲は翁を祝福したが、本人は「このことが不運を呼び込むかも」とどこ吹く風だった。
翁の言う通り、翁の息子がその馬から落馬し大怪我を負ってしまった。
周囲は翁に同情したが、本人は「このことが幸運を呼び込むかも」とどこ吹く風だった。
翁の言う通り、怪我をした息子は翌年起きた戦争に徴兵されず済んだ…。

幸と不幸は表裏一体、この先なにが待っているかわからない。安易に喜ぶべきではないし、不運を嘆くこともない。「人間万事塞翁が馬」。中国の故事成語である。

さて現代の日本中央競馬、2006年阪神JFを制したのが、かの名牝ウオッカである。当日は4番人気、前走黄菊賞を2着としそこまで期待されていなかった。結果は逃げを図るアストンマーチャンを好位差しで捉え快勝。GⅠ初制覇を飾った。
そこからチューリップ賞まで3連勝し1番人気で迎えた桜花賞、先手を取ったダイワスカーレットに追い着けず2着に敗れた。
…少し早回しにしよう。
次走、陣営はダービーを選択、世間の目は懐疑的も64年ぶりの牝馬制覇に輝いた。ウオッカの時代到来と世間は沸いたが、そこからまさかの9戦未勝利。ダービーから1年、安田記念でGⅠ3勝目を手にした。
同年の天皇賞秋で宿敵ダイワスカーレットとの死闘を制しGⅠ4勝目。ファンの熱気高まる次走ジャパンCで3着に終わると、続く海外遠征2戦は大敗。期待に応えられなかった。
帰国後のヴィクトリアマイルで優勝、直後に安田記念を2連覇。同年のジャパンCを初のルメール鞍上で勝利しGⅠ7勝目の快挙。名牝としての地位を確立し臨んだドバイGⅡで8着、ラストランとなった。

「府中専用機」とまで言われ無類の強さを誇った牝馬も、それ以外のコースでは期待を裏切ることも珍しくなかった。一方で牝馬によるダービー制覇を含むGⅠ7勝は、競馬史に残る偉業だ。
馬券を買う側としたらこれほど「塞翁が馬」な馬も中々いない。
いや「塞翁がウオッカ」か…笑

06年の阪神JF、4番人気で出走した彼女の未来を見通していた者など、唯一人としていなかっただろう。惜敗の後の大勝利、期待を背負いながらの連敗、そこからの逆転、また敗けて、それでも勝って。浮き沈みの激しい競走馬の世界で常に勝ち続ける馬はいない。ディープインパクトは有馬で不覚を取ったし、イクイノックスでさえ天皇賞を勝つまでは期待を裏切っていた。

さあ2023年阪神JF、あなたが期待する馬は何番人気だろうか?
ここで勝っても次戦から苦しむかもしれない。ここで敗けてもいつか大きな栄光を掴むかもしれない。「名牝万事塞翁が馬」である。
彼女たちには誰にも知ることのない未来が待っているのだ。ならばこの戦いに一喜一憂せず、
その行く末を温かく見守っていくのも悪くない。


「GⅠ阪神ジュベナイルフィリーズ、
          まもなく出走です」

阪神JF ウオッカのウイニングラン
すべてはここから始まった。

淑女の社交場へようこそ!
大人の階段を登る牝馬たち

はじめに

年の瀬の最強2歳牝馬決定戦。阪神ジュベナイルフィリーズです。
ジュベナイル=少年・少女
フィリーズ=4歳以下の牝馬
という意味ですが、若い女性(牝馬)が社交場へ初めて登壇するというイメージを持たせているそうです。
12/6時点で想定1人気のボンドガールの出走回避が決まりました。前肢打撲が原因とのこと。人気馬の取り消しで少し荒れ模様になりそうな気がしてきましたが、果たして…。
今回は2歳重賞ということで収集データも少ないため、コース攻略の後、過去10年からの好走データを拾い、森タイツのオススメ馬を2頭上げたいと思います。いつもよりあっさりしてますが、どうぞ最後までお付き合いください。

コース攻略

阪神外回り、桜花賞と同じコースを使用

阪神芝マイル。向こう正面からスタートする外回りコース。
特徴として前半の流れが緩みやすく、前に行った馬が高速ラップで粘り込むこともありますが、外回りの長い直線で差し・追込み馬が決まります。逃げ馬は【1-0-0-9】で勝ったのは19年4番人気だったレシステンシアのみ。急坂をこなすパワーと末脚の持続力も必要ですが、当レースに関しては決め手勝負になることがほとんどです。
前走上りタイム6位以下は【1-0-1-37】と不振傾向に。前走を早い上がりで勝った馬に注目したいです。

ここを狙いたい、好走データ集

[1番人気]
【5-1-0-4】で連対率60%ですが、単勝オッズ1倍台で勝利した馬はいません。また連対馬16頭が5番人気以内。残る4頭は6,8,10,12番人気でした。堅めの決着が多いが、近年は波乱傾向が強いです。

[波乱期待するなら逃げ・先行]
6番人気以下で連対した4頭はそれぞれ、道中3,6,6,8番手につけており、上り順位は4,4,5,4位でした。中団より前目に付けてしぶとい脚を使った馬が波乱を呼んでいます。穴狙いなら目安として「前走で5番手以内につけ3着内に入線した馬」に注目です。

[前走上り3位以内]
連対馬16頭が前走で上り3位以内につけていました。前走早い上がりで勝った馬に注目しましょう。前走上り6位以下で今回3番人気以内なら【1-0-1-0】。前走上りが遅い馬で上位に食い込むなら人気馬のみです。

[アルテミスS連対馬]
中5週で臨戦となるアルテミスS組は【5-3-3-18】で8連対。アルテミス勝ち馬は【3-1-1-4】、今回3番人気内なら【3-1-0-3】
アルテミス2着馬【2-1-1-2】、今回2番人気内なら【2-1-0-0】。
アルテミス3着以下は【0-1-1-12】で連対を外した馬は今回割り引いた方が無難でしょう。

[中3週以内で出走の馬は不振]
アルテミス組含む、中4~8週で出走の馬が14連対と多いです。中1週【0-1-0-14】、中2週【1-0-1-27】で各1連対のみ。
逆に中9週以上空けて臨んできた馬は【1-3-1-17】でした。
臨戦過程にも注意が必要です。

[前走クラス別成績]

前走クラス別の参考データ表

1勝クラス勝ちは5番人気以内なら【1-2-1-5】、2着以下【0-0-0-15】。
OP特別組は今回1、2番人気なら【1-1-0-1】。
前走GⅢは連対馬なら【8-3-5-29】だが、3着以下だった場合【0-1-2-32】で1連対のみでした。

[500㌔以内の中型馬]
馬体重460㌔~479㌔の中型馬が9連対しています。
480㌔~499㌔は4番人気以内なら【3-1-0-5】ですが、5番人気以下だと【0-0-0-12】と極端に不振に。
420㌔以下の小型馬は1連対のみ、
500㌔以上の大型馬は連対なしとなっています。

次世代の最強「お嬢さん」へ…
名乗りをあげるのは

ここまで読んでいただきありがとうございました。最後に2頭、中人気から推奨して本稿を締めたいと思います。

キャットファイト

2歳牝馬・ディスクリートキャット産駒 美浦・上原厩舎
鞍上・大野拓弥

前走アスター賞では、好位につけ直線で仕掛けると一気に抜け出し、ルメール鞍上のバスターコールに0.8秒差をつける快勝を収めました。特筆すべき点は、レース当日未明まで雨が降っていて馬場状態が「稍重」だったこと。その中で2歳コースレコードを更新しての勝利、これには相当なポテンシャルを感じます。時計の出やすい2歳馬戦とはいえかなり力強い内容だったのではないでしょうか。
血統をみると、父ディスクリートキャットは産駒のオオバンブルマイが先日豪州のゴールデンイーグルを制覇したばかり。母父パイロの血統は芝ではなくダート向きな気もしますが、キャットファイトは小柄で俊敏性が高くスピードタイプの雰囲気を醸しています。むしろ前走で示したように芝が重くても時計が出せるのであれば、父の速さと母のパワーを兼ね備えた、ハイブリットな快速馬になる可能性も秘めているかもしれません。
7日の最終追い切りではWコース6F・82秒7~1F・11秒4で、併せたクリーンエア(朝日杯FS登録馬)に楽々と半馬身先着。まだ余力を残しているようにも見え、仕上がりも上々です。
管理の上原厩舎はマイル以下の芝単距離を最も得意としていますし、阪神外回りでは苦手傾向も、ダイワメジャーでマイラーズCを勝利した実績があります。鞍上大野拓弥騎手も、この素質馬との出会いに久々のGⅠ制覇へ意欲も高まっているでしょう。大いに期待できる1頭だと思います。

ルシフェル

2歳牝馬・ハーツクライ産駒 栗東・斉藤厩舎
鞍上・Bムルザバエフ

出世レースといわれる荻Sを勝ち上がって参戦。早くも来年のオークス有力候補に挙げるファンも多く、将来性の高い馬として期待されています。過去3戦全てで上がり最速を記録しており、切れ味だけでいえば既に世代トップの風格も…。
前走は小頭数ながら牡馬との混合戦で快勝。鞍上だった川田騎手が香港遠征のため乗り替りですが、ムルザバエフ騎手を迎え厩舎の本気度も垣間見えます。
父ハーツクライは中距離路線で活躍し、本馬もデビュー以来1800~2000mで戦ってきたので、ここにきてのマイル戦は若干忙しくなりそうな不安もありますが、終いの脚をしっかりと使えれば射程距離内だと思います。そういった意味では先行意識の高い上位騎手に乗り替わったのは大きいと思いますし、発馬を決めていつもより1~2列前の競馬ができるかどうか、カギを握りそうな気がします。
1週前追い切りではWコース6F・81秒3~1F・12秒5で中日新聞杯出走のキラーアビリティに併入。無理はさせなかった印象でしたが、最終追いではCW6F・85秒5~1F・11秒8で最後までしっかりと動けていました。
福島でデビューした馬は09年アパパネ、1600m未経験は19年レシステンシアが勝っています。好走例は少ないですが、裏を返せばデータがないわけではないということ。
ここで結果を残せば、管理の斉藤厩舎にとってクロノジェネシス以来の牝馬クラシック戴冠が視野に入ってきます。陣営側ももちろん先を見越していることでしょうし、将来性を含め投資してみるのも一興かもしれません。

最後に

以上が阪神ジュベナイルフィリーズの攻略noteになります。
菊花賞からGⅠレースは全て執筆してきましたが、今後も暮れの東京大賞典まで継続していく予定です。その後はわかりませんが…。
最近になってXのフォロワーさんが増えてきたこともあり、いろいろな方に読んでいただき好意的な感想を頂戴しています。本当にありがたいことで、日々の励みになってます。
一方で推奨した馬が馬券内に収まることが少なく、参考にしていただいた方へは申し訳ないなという気持ちでいっぱいです。
今回は人気どころの馬を解説しようかとも思ったのですが、2歳重賞ということで将来性を含めた、可能性のありそうな馬をピックアップすることにしました。正直、滅茶苦茶自信があるわけではないですが、冒頭のポエム(笑)も含めて楽しんでいただけたらと思っています。
だらだらと長文をすいません。いつも読んでいただいている方、本当に感謝です。ではまた。


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