GⅠ天皇賞春
序文:そして伝説へ…
今から遡ること34年前、1985年4月29日。天皇賞春。
単勝1.6倍断トツ1人気に支持されたシンボリルドルフは、残り200mを過ぎると一気に加速、ライバルミスターシービーを尻目に独走するとそのまま1着でゴールイン。危なげなく当時最多の八大競争5冠を達成。鞍上の岡部幸雄は壇上で大きく5本指を立てた。今の時代になってもなお語り継がれる日本競馬史の名場面である。
さらにそこから18年前、1967年のことである。
春の天皇賞、同じくしてシンボリ牧場で生を受けた単勝1倍台の馬がこのレースを制した。
スピードシンボリ。通算43戦17勝。
後の「皇帝」シンボリルドルフの祖父である。
JRAにおける殿堂入り、いわゆる「顕彰馬」は現在に至るまで35頭在籍している。
その中にスピードシンボリも数えられている。華やかなスターホースたちに比べるとどうしても地味な戦績に映りがちだが、幾多の敗戦を重ね積みあげられてきた記録にはまた、別格の輝きがある。
スピードシンボリが保有する記録の中で特筆すべきものがふたつ。ひとつは「有馬記念2連覇」、これは孫のシンボリルドルフ、グラスワンダー、シンボリクリスエスが達成しているが、それぞれ全盛期に達成したものである。スピードシンボリがこの記録を樹立したのは引退間際の6~7歳の時、現在の競馬の尺度ではちょっと考えられない。
またJRA重賞勝利数「12」も、後にオグリキャップ・テイエムオペラオーに並ばれたが、60年近くたった今もなお記録を抜く馬は現れない。
スピードシンボリは1963年北海道のシンボリ牧場で産まれた。父はアイルランド産馬のロイヤルチャレンヂャー。母スイートインはイギリスからの持込馬で、60年に北海道三歳ステークスを勝っていた。
幼駒の頃は脚が非常に長く、背は高いが胸の薄い細身の馬で目立った存在ではなかったという。オーナーは和田共弘、当時のシンボリ牧場の代表も務めていた。社台グループの総帥吉田善哉やメジロ軍団の棟梁北野豊吉らと共に、60年代から80年代における日本の競馬界を代表するオーナーブリーダーの一人である。
65年10月野平富久厩舎からデビュー。主戦騎手は野平祐二、富久の実弟である。初戦、2戦目と4着に敗れるも、3戦目11月の東京で初勝利。その後条件戦を2連勝してこの年を終えた。明け3歳、弥生賞で始動するも6着に敗戦。その後メンバーが手薄であったことから急遽出走した京成杯で重賞初勝利を挙げ、クラシック候補の一頭に挙げられたが、直後に体調を崩してしまう。5番人気に推された皐月賞だったが、本調子とはほど遠く21着の大敗。次走はダービーのトライアルNHK杯(現マイルカップ)。ここで13着に終わると、本番の日本ダービーでは28頭立ての27人気まで人気が暴落していた。ダービーでは奮闘し下馬評を覆す8着という結果で終えた。
夏の休養を経て挑んだ京成杯AHで2着、セントライト記念3着、徐々に復調しながら、クラシック最終戦である菊花賞へと駒を進めた。
レースでは直線で猛然と追込みをかけ、1人気だったナスノコトブキを捉える。接戦となった叩き合いは写真判定までもつれ込んだが、惜しくもハナ差で敗れてしまった。こうしてスピードシンボリのクラシック挑戦は無冠のまま終わった。次走、年末の有馬記念に挑んだが、後の名馬コレヒデ、カブトシローに跳ね返され3着に敗れた。
ここまで振り返ると戦績は15戦して4勝、内重賞勝ち1つと、とてもではないが後の顕彰馬に選ばれるような記録ではなかった。
だがスピードシンボリの本当の挑戦はここからはじまる。
古馬に挑んだ有馬の舞台で覚醒したのか、翌年からスピードシンボリの破竹の快進撃がはじまった。年明け初戦のAJCCで快勝すると、続く目黒記念も勝利、次走迎えたGⅠ・天皇賞春では単勝1番人気に支持される。このレースでは4コーナーを回って先頭に出たカブトシローを直線で捉えると、きっちりと差し切って優勝。有馬記念の意趣返しを果たした。その後の日本経済賞も勝って4連勝とすると、陣営のもとに朗報が届く。
米競馬から、ワシントンDCインターナショナルの招待馬に選出されたのだ。
オーナーの和田氏はかねてより所有馬の海外進出を企図しており、この報せは渡りに船だった。
11月米国へと渡ったスピードシンボリ、迎え撃ったのは米2冠馬ダマスカス、アイリッシュダービー勝ち馬の英国リボッコら超一線級。本番は2番手追走から懸命に追うも、惜しくも5着に敗れてしまった。だがこの堂々たる結果に和田ら陣営側は確かな手応えを感じたのだった。
その後日本に帰ると、遠征の疲れからかしばらく低迷、有馬記念ではカブトシローに春天の借りを返された。4連勝と海外での実績が認められ年度代表馬に選ばれたが、年が明けてからも調子が上がらず引退を囁かれ始めた。
再び転機が訪れたのは69年6歳の時、3戦連続重馬場での好走に成長を感じた和田氏が選んだのは再び海外。今回は招待レースではないため、費用の全額が和田本人の負担となったが、それでもなお海外に拘りたかった。
まずは7月のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSに出走、直前でインフルエンザに罹患したことも重なり5着に敗戦。続けざま仏へ移動しドーヴィル大賞典へ、ここでは大逃げの一手で沸かせたが結果10着。10月には最終目標である凱旋門賞へ、日本馬として初めて出走した。24頭立てで行われたこの大レースでスピードシンボリは後方待機策をとった。最終直線、11頭を抜き去る末脚を見せたが届かず敗戦。結果は「11着以下」、当時は2桁順位の公式な記録を取っておらず公にはされていないが、惨敗を喫したことだけは間違いない。
この和田氏が企図した海外遠征は日本競馬界にとって、後々まで残る大きな糧となったことは言うまでもない。日本の競馬には何が足りないのか、世界で勝つためにはどうすべきなのか、真の意味で日本競馬の、世界への挑戦の歴史が産声を上げた瞬間だったのかもしれない…。
スピードシンボリは帰国後も体調を崩さず6歳にして有馬記念に出走、ライバル・アカネテンリュウ相手に勝利を収めた。結局7歳まで現役を続行、5年連続で出走した引退レースの有馬記念では、再びアカネテンリュウとの戦いを制し、見事連覇を達成した。
43戦17勝、数字に書き起こしてみると後の名馬には劣るかもしれない。しかし幾多の敗戦を繰り返す中で、大きな怪我もなく世界で戦い抜いたその姿は、いわゆる「無事是名馬」を地でいく、本当にタフな馬だった。
繁殖入り後、スピードシンボリの血筋は新たな伝説を産み落とした。彼の娘スイートルナから生まれた牡馬は、日本競馬界に今もなお燦然と輝く伝説的名馬へと成長した。
「皇帝」シンボリルドルフ
勝利より、たった3度の敗北を語りたくなる馬
ルドルフの生涯はここでは語らないが、オーナーは和田共弘とシンボリ牧場。そして管理調教師は、かつて祖父スピードシンボリの主戦騎手を務めた野平祐二だった。
国内で圧倒的な強さを誇ったルドルフ。その最後のレースとなったのは海の向こう側だった。86年米サンタニア・GⅠサンルイレイステークス。結果は6着。長く君臨し続けた日本を離れ、最期の最期に夢を追う。それが皇帝の選んだ結末だった。
あれから長い年月が経ち、海外への挑戦が当たり前となった現代の日本競馬。その最終目標である凱旋門賞制覇の夢は、今でも叶えられていない。天国へと旅立った2頭が見たらどんな風に思うだろうか…。
「諦めるな」そんなメッセージが込められた、
雄々しいいななきが聞こえてきそうな、そんな気がしてならない。
世間が笑おうとも、やがて時代が証明するだろう。
俺たちは先に進んだ。じゃあお前たちはどうする?
「GⅠ天皇賞春、まもなく出走です。」
はじめに~天皇賞・春展望~
お疲れ様です。GⅠレースが1週の間隔を空け、ここからまた怒涛のGⅠ開催が始まります。6週連続、とういうことで当noteも気を引き締めてまいりたいと思います。
また今回も冒頭コラムを最後までお読みいただいた方には、厚く御礼申し上げます。自分が生まれるより前の時代の話ですが、調べてみると本当に面白く胸が熱くなるエピソードがたくさんありました。今後も色々な観点から、当コラムを書いて行けたらなあと思っています。
逃げ馬不在?
今年の春天は展開面での変化に注意
いまや絶滅危惧種となったステイヤー。春の天皇賞は、時代に逆行するが如く出走馬に持久力を求める伝統の一戦です。今回の春天を迎えるにあたって、昨年と大きく変化した点が一点あります。それはタイトルホルダー、アフリカンゴールドといった長距離レースで逃げる馬が軒並み引退した点にあります。特にタイトルホルダーの存在は大きく、持久力と末脚を兼ね備えた彼がいたことで、出走するレースはみな緩みのないペースを刻んできましたが、今回はこれといった逃げ馬が見当たりません。今回はよりスローに流れてからの決めて勝負になると思います。
そもそも春天はその特異な距離から、コース適正を最も重視されがちですが、本当に注目したいのは各馬の上がりタイムです。特に近年はその傾向が顕著で、過去4年を振り返ると上がり3F最速を叩き出した馬がすべて勝っており、5年前の19年も上がり最速のグローリウェイズが6人気で2着、フィエールマンが上り2位で1着と、決め手が使える馬が上位を占めています。従って今年も、「長距離適性がありながら切れ味を残せる馬」を選べば、自然と本命対抗が固まってくるはずです。おそらくトリッキーな展開にはならないはず。以上の点を踏まえてシンプルに予想できればOKだと思います。
春の盾を獲るための必須5箇条
ここからは毎回恒例となっている、勝利への条件を5つ列挙していきたいと思います。
4~5歳馬である
過去10年9頭に該当。高齢馬の活躍も珍しくない長距離走でも、八大競争である天皇賞となると話は別です。中心になるのは4・5歳馬。非該当は15年優勝のゴールドシップのみでした。今回4歳馬で中心になりそうなのがタスティエーラとドゥレッツァです。特に後者は菊花賞を制しており、春天への適正も高そうですが、現4歳世代はその素質を疑われているのもまた事実。その能力をいかに見極めるか、次項で解説します。
菊花賞もしくは天皇賞春で3着内の実績がある
過去10年全頭に該当。クラシック世代の長距離重賞である菊花賞。同じ京都で開催される点からも、ここでの結果は天皇賞へ直結します。16・17年連覇のキタサンブラックは菊花賞勝ち馬でしたね。勝ち馬でなくとも、3着内での好走があれば問題はないと思います。
前走大阪杯、阪神大賞典、日経賞で5着以内
過去10年8頭に該当。非該当は19年、20年のフィエールマン。この菊花賞馬は重厚な欧州系の血統構成で、いかにも長距離向きでした。が基本的に長距離を使うのであれば休み明けでは厳しいです。前哨戦で叩いてから本番に挑んでくる馬を有力視したいです。
前走4角5番手以内だった
過去10年9頭に該当。長距離戦では後方一気は通用し辛く、直線に入る前に先団に取り付いていないと勝ち目は薄いです。差し馬を選択する場合は道中で捲れる機動力か、それを促せる手腕を持った上位騎手の存在が不可欠だと思われます。
父の産駒に2400m以上でのGⅠ馬がいる
長距離をこなせる血統構成かどうかは重要なファクターです。近親馬もしくは同産駒の馬に長距離GⅠ馬の名前があるか事前にチェックするといいでしょう。また前述のフィエールマン他、ほとんど全ての馬の母系にノーザンダンサーの名前があります。スタミナを伝える母系にこの名前があることも重要だと思われます。
またその他の要素として、「馬体重500㌔以下」を付け加えておきます。長距離を走るのに大きな筋肉量は不要です。むしろ大型馬はスタミナの消耗が激しくなるため、少し割引くべきでしょう。そして枠順については内枠であればあるほど好ましいです。当然ですが3200mの長距離、ロスなく立ち回れることは有利な事このうえないです。
最強ステイヤーになるため、必見好走データ
ここからは過去10年データによる、傾向と対策を解説していきます。
21~22年は阪神競馬場にて開催されているため、データには若干のムラがあることご了承ください。とはいえ大まかな傾向は掴めると思いますが。
例年堅実決着、勝つのは3番人気内
1番人気は【3-3-0-4】で6連対。連対馬16頭が4人気以内で残る4頭は6~13人気でした。過去9年は3人気以内が勝っています。昨年は圧倒的1人気のタイトルホルダーが競争中止になりましたが、2番人気のジャスティンパレスが勝っています。
穴は長距離重賞の実績馬を狙う
6人気以下から連対した4頭は前走長距離重賞で1,1,3着でした。残る1頭は16年のカレンミロティック、13番人気でしたが前年の春天では3着に入線していました。穴党の方は前走長距離重賞での好走がフロック視されている馬か、前年の春天で好走しつつ今回人気薄になっている馬を選びたいです。
菊花賞馬は有力候補に
過去10年で菊花賞勝ち馬が7勝を挙げています。春天だけでなく菊花賞3着内の経験がある馬を重要視したいです。言うまでもなく今年はドゥレッツァですね。4歳世代は実力を疑われていますが、データ上はかなり有力です。
脚質は先行/差しタイプから
逃げ馬は【2-0-0-8】でキタサンブラック、タイトルホルダーのみ。稀代の名馬につき例外といえるでしょう。4番手前後につけた先行馬と8番手前後に控えた差し馬の連対が多いです。先述したとおりですが、今年はこの中から上がり最速を使える馬を選びたいです。追込み馬を選定する場合は、道中で早めに動ける機動力、もしくはそれを促せる鞍上の手腕が求められます。
前走4着以下はNGだが…
前走4着以下の馬の成績は【2-3-2-74】と奮いませんが、連対した5頭の全馬が前年の春天で3着以内に入っていました。前走5着のフェノーメノ、前走4着のフィエールマンは連覇をしています。いかに独自の適性を求められるレースかということが分かりますね。簡単にいえばリピーターレースです。
前走3着以内が目安に
連対馬全20頭の内15頭が前走3着以内でした。前走GⅠ、GⅡでの好走馬が活躍しています。残る5頭は前走がGⅠ4,13着とGⅡ5、5、6着からの巻き返しでした。前走GⅢは10年で1連対のみ、前走重賞以外は全頭馬券外で出番なし。やはり格が問われるレースということですね。
最強ステイヤーに輝くのは…?
森タイツ式推奨馬の解説
長距離界に真の「帝王」誕生
今年に入ってからGⅢダイアモンドS、GⅡ阪神大賞典と連勝。現役屈指のステイヤー、テーオーロイヤルがGⅠ戴冠へ待望のチャンスを掴みに来ました。
本格化の兆しを見せた2年前の天皇賞春、タイトルホルダーには完敗だったものの、2着のディープボンドとは差のない競馬で3着と、その後の長距離重賞の主役級へ名乗りを挙げました。ところが昨年は骨折の影響で休養を余儀なくされ、始動戦となったアルゼンチン共和国杯でも10着と大敗。一度は完成された心肺機能が、衰えてしまったのかと懸念されました。しかし次走のステイヤーズS2着で復調をアピールすると年明けには重賞を連勝、ここにきて待望のGⅠ制覇へ勢いを感じさせています。
テーオーロイヤルの父はリオンディーズ。キャリア1戦で朝日杯を制した名馬の初年度産駒です。この産駒はいかにもなキンカメ系血統で、かきつばた記念勝ちのサンライズホーク、サウジで勝ったピンクカメハメハなどダート馬の活躍が目立ちます。またパイロ産駒で半兄のメイショウハリオも交流重賞3勝のダート馬ですね。テーオーロイヤルは母父にマンハッタンカフェを持ち、ここに長距離戦への適性が窺えますが、先述したノーザンダンサー系血統は入っていません。どちらかというと直線が平坦な京都よりも急坂のあるコースの方が合っているかもしれません。過去参戦した春天は阪神での代替え開催だったため、京都コースは初となります。ここでの2度の坂超えと、コーナー下りからのペースアップに対応できるかが大きなカギになるでしょう。
前走の結果で3000m以上のレースでは【3-1-1-0】と、テーオーロイヤルの長距離への適正は出走馬の中でも群を抜いています。また過去3戦全てで上がり最速をマークしており、展望で記したスタミナ戦からの切れ味勝負になった際に、最も底力を発揮するのがこの馬だと思います。
連戦ローテによる消耗を懸念する声も多いですが、長期休養もありテーオーロイヤルはここで18戦目。まだまだ余力を残していても不思議ではありません。血統、ローテ、馬齢、鞍上まで含めデータからは少し外れるものの、遅れてきた大器が真の長距離王者になる瞬間に立ち会えるかもしれません。
大いに期待しましょう。
逆襲の菊花賞馬
昨年の菊花賞馬、ドゥレッツァが満を持して春の長距離GⅠに出走です。前走始動戦となった金鯱賞では、長期休養明けだったこともあり鞍上のルメール騎手が無理のないレース運びをした印象を受けました。勝ち馬のプログノーシスには大きく離されましたが、そこまで悲観する内容ではなかったと思います。現4歳世代ですが昨年のクラシックでは皐月賞とダービーを経験しておらず、条件戦を連勝してきた状態から菊の舞台を制しました。ここまで7戦して5勝、どんな競馬が出来るのかまだ底を見せていなく、ルメール騎手の手腕が光っていたとはいえ、かなり器用で総合力があるのは間違いないでしょう。
ドゥレッツァの父は早逝が悔やまれる名馬ドゥラメンテ。産駒にはタイトルホルダーや3冠牝馬のリバティアイランドら、言わずと知れた活躍馬が多数おり、4世代にわたってGⅠを12勝してします。母モアザンセイクリッドはGⅠニュージーランドオークス他海外GⅢを2勝しています。ドゥレッツァは長距離適性の高い血統という訳ではないと思いますが、持ち前のポテンシャルの高さでここまで上り詰めてきた印象です。
思い返せば昨年のクラシック戦線は、皐月賞が重馬場での差し決着、ダービーは超スローからの瞬発力勝負、そして菊花賞はスタミナを要求される長距離戦と、例年以上に異なる適性を求められるレースになっていました。この3戦において全て馬券に絡んだソールオリエンスとタスティエーラは、比較的弱いと言われている4歳世代においても、総合力の高い優駿であると言えます。そして菊花賞でこの2頭を圧倒したドゥレッツァは言うまでもなく世代最上位の能力を有していると評価できるでしょう。
血統は異なれど菊花賞でのあの強い勝ち方、位置取りを一度下げながら上がり最速で勝ち切ったあの競馬は、往年のキタサンブラックを想起させるような走りでした。彼もまた似たレース運びで菊を勝っていました。そして2000mのレースを使ってから春天に臨むローテーションもやはりキタサンブラックと同じ。16年、17年の連覇を思い起こさせます。今はまだ1勝馬ですが、果たしていくつのGⅠレースを制覇するのか…。伝説の再始動に注目しましょう。
反逆のダービー馬
昨年の秋古馬GⅠではイクイノックスの躍進が、牝馬3冠ではリバティアイランドが大きな話題を集めましたが、菊花賞ではタスティエーラとソールオリエンスの対戦が注目を集めました。というのも菊の舞台で皐月賞馬とダービー馬が激突したのは、実に23年ぶりだったからです。結果はご存じの通りドゥレッツァに軍配が。レース後の話題は彼に奪われたものの、3走に皆勤したダービー馬タスティエーラは皐月・菊でともに2着と、その才能を遺憾なく発揮したといえます。しかし、その後の有馬記念、先日の大阪杯では惜敗を喫しており、陣営はその素質を疑われながら立て直しに急を要する事態を迎えています。
タスティエーラの父サトノクラウンは、キタサンブラック、ドゥラメンテらと同期で、その産駒にはアネモネS勝ちのトーセンローリエなどがいますが、同期の中では地味な印象を受けます。翻って牝系にはカンパニー、トーセンジョーダンら名GⅠ馬がいます。やや晩成血統の傾向があるかもしれませんね。母父はマンハッタンカフェで長距離適性の高さが窺えますが、母母フォルテピアノはダート短距離で活躍したパワー型なので、総合力の高いバランス型という見方もできます。
以前のタスティエーラ解説でも述べましたが、この馬は逃げ馬ではないにもかかわらず、これまでに上り3F最速を出したことがありません。GⅠ馬、特にダービー馬として異質な存在と言えます。それでいてクラシックで安定した成績を残せたのは、この馬のレースセンスの高さがそうさせたからだと思います。好位を上手く立ち回れる器用さと、中団後方から差し込める鋭さを併せ持っていると言えます。
しかしながらその器用貧乏さが裏目に出て有馬記念、大阪杯の大敗に繋がってしまったこともまた事実です。春の天皇賞は切れ味勝負になる可能性が高いことは前項で触れましたが、末脚という武器を磨かないままここまで来てしまったことは大きな不安要素です。前走の大敗後、短いタームの中で陣営は立て直しに苦心して来ました。結果上々の仕上がりとなり、最終追切でも見違えた印象を受けました。また鞍上にJモレイラ騎手を迎えることができたことも、大きなアドバンテージでしょう。
距離と展開は前走・前々走より向いてくるはずです。騎乗した馬の能力を最大限に引き出すことの出来るマジックマンの手腕により、もう一段上へ真の覚醒を迎えることができるかどうか、「反逆のダービー馬」に注目しましょう。
勝利の角笛を鳴らせ
個人的には単穴候補として強く推したいのがブローザホーンです。21年11月にデビュー、未勝利勝ちに9戦要しましたが、それ以降は着実に力をつけ馬券の対象を外したのは2度だけと、堅実な走りを見せています。ハイライトは今年の日経新春杯、定年を控えた中野厩舎のまさにメイチといえる仕上がりで、サヴォーナ、サトノグランツ、ハーツコンチェルトといった人気の4歳馬をまとめて差し切って勝利を収めました。その後厩舎解散の前に栗東・吉岡厩舎に転厩、馬自身が戸惑い、厩舎も手探りの段階だったにもかかわらず、阪神大賞典へ日経新春杯と同じ馬体重で出走することに成功しました。レース内容ではテーオーロイヤルに完敗でしたが、斤量負担、なにより環境面で大きな変化があったことを考慮すれば、初の長距離重賞でまずまずの結果だったと言えるでしょう。馬も厩舎も調整慣れした今回、巻き返しは十分見込めます。
ブローザホーンはエピファネイア産駒、種牡馬リーディングでは近年常に上位にいます。産駒で天皇賞春へ出走したのは21年アリストテレス(4着)だけですが、父の実績を考えれば京都外回りの適正は高そうです。デュランダル産駒の母オートクレールは7歳まで走ってマイル以下の距離で4勝挙げていました。短距離血統のイメージが強いですが、フォティナイナーを引く牝系はスタミナも入っており、バランスの良い配合という見方もできます。
本馬は馬体重430㌔に満たない非常に小柄な牡馬です。今回データを集計してなかで確認できたのは、430㌔未満の牡馬でGⅠを勝ったのは、日本調教馬だと93年皐月賞のナリタタイシンと09年有馬記念などを勝ったドリームジャーニーだけです。ここを勝てば快挙と言っていいでしょう。前哨戦の前走では掛かる素振りも見せていたので、スローになった際には折合いに不安がありますし、重馬場巧者につき当日の馬場状態には十分注意が必要です。パンパンの良馬場なら多少の割引は必要かもしれません。
今回テーオーロイヤルと鞍上の菱田裕二騎手のGⅠ初制覇に大いに期待していますが、ブローザホーン鞍上菅原明良騎手もまた、GⅠ制覇を成し遂げるだけ資質があるのではと以前から踏んでいました。快挙達成なるか、緩やかでも着実に成長曲線を描いてきた、小柄なステイヤーの飛翔に期待しましょう。
以上、有力馬の紹介・解説でした。時間と文字数の兼ね合いもあり省きましたがサリエラは今回推奨しませんでした。ダイヤモンドSではテーオーロイヤルと差のない競馬をしており、血統的にも春天は向きそうですが、春の天皇賞を制した牝馬は1953年に勝ったレダだけです。頭候補とはみないで2着~紐までかなと踏んでいます。
おわりに~おまけデータを添えて~
以上が天皇賞春の攻略noteとなります。冒頭コラム含めここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました。毎回10000文字を超えるこの長文を最後まで読んでいただける方がいることに驚いています笑が、大きな励みにもなっています。本当に感謝です。
さて現在金曜早朝、皆さんの予想も固まってきているはず。そろそろ投稿しなければ記事としての意味をなさなくなってしまいます。が最後に少し有力そうなデータを添えて終わりにしたいと思います。いやまだあるんかい。
1点目は「有力馬たちの4コーナー5番手以内率」、勝利への必須条件で述べましたが、前々の競馬が出来ないと春天での勝利は望めないと思います。
①ドゥレッツァ 85.7%
②タスティエーラ 75.0%
③ディープボンド 70.8%
④シルヴァーソニック59.1%
⑤テーオーロイヤル 52.9%
⑥サヴォーナ 46.2%
⑦サリエラ 37.5%
⑧ブローザホーン 31.6%
4歳馬2頭が抜けていて、先行力・機動力という面では一日の長がありそうです。従来通りの流れになればやはり有力なのは間違いないでしょう。
もう一つは19年~23年の上がり3F順位別の着順です。これも繰り返しになりますが、春天においては上りタイムを繰り出せる馬が有力です。下記データを参考に、各馬の前走までの上がり最速回数などを再度チェックしてみてください。
3F上り1位の馬 【4-1-0-0】
3F上り2位の馬 【1-2-1-2】
3F上り3位の馬 【0-1-2-3】
上り4~5位の馬 【0-1-3-6】
上がり6位以下の馬【0-0-0-49】となっています。
枠順は発表されていますので、
展開を考慮して直線進入時に好位に付けれそうな馬、
追切を見て切れ味を発揮できそうな仕上がりの馬、
それぞれに目星をつけ春の天皇賞を的中させましょう。主に俺が。
それでは来週NHKマイルカップでお会いしましょう、もっと早い投稿を心掛けます笑
ではまた…。
今回参考にさせていただいたサイト
参考書籍