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チンアプの憂鬱II〜マッチングアプリの罠〜

 この記事の続き。

 前回、自分がインターネットを介した邂逅に抵抗があったのになぜチンアプ(マッチングアプリの略)を始めてしまったのか、という問いかけに答えを提示しないまま終わってしまっていた。

 結論から言えば、このまま普通に今まで通りの生活を続けていけば本当に生涯における休日のほとんどを家の中で過ごすことになるだろう、という危惧が芽生えてきたからだ。

 当方もともと気の知れた友人が極端に少ない上にそのほとんどがいまや既婚者となってしまったため、休日に誰かと一緒に出掛けるという機会が限りなくゼロに近い。いや、限りなくゼロに近いという書き方をして少し勿体ぶってしまったが、正直に言うと普通にゼロである。

 なので休日は基本的に部屋でサブスク動画サービスを視聴しているか、本または漫画を読んでるか、下半身のケア(というかただの慰撫)をしていることがほとんどなのである。

 休日にベッドに横になって下半身を慰撫していると、このままでは流石にまずいなという気持ちになってくる。このままだと下半身を慰撫したまま老化していき、しまいには下半身を慰撫した状態で車椅子生活を送ることになるかもしれない(いつまで下半身慰撫してんだ……?)。そんな最悪のビジョンが鮮明に浮かんできたため、何らかの行動をしなければいけないという決意をした次第である。

 当方もともとインターネットの世界と現実の世界を分離して考える類の人間なので、現実の世界にインターネットのテイストを持ち込みたくなかったのだが、今回半ば衝動的にチンアプを始めてしまった。

 というのも、時代の潮流的にチンアプが容認されていっているような風向きを少し感じるし、既婚者の知己がこぼしていた「友達にアプリで知り合ったカップルがいるんだけどそっちの方が幸せそうでなんか最近モヤモヤするんよな~」という呟きが心に引っかかっていたからだ(悲哀感がすごい)。
 知己曰く、アプリはそれぞれの性格や価値観など、お互いにするべき自己開示を済ませてから交際を開始するため、そういう価値観の相違などを起因とした喧嘩に発展しにくいらしい。
 まあ確かに一理あるかもしれないが、その時は「アプリとかは確かにくっつきやすいかもしれないけど、その分だけ離れやすいということでもあるんだよ(ドヤ顔)」という謎のフォローをしてしまった。ちなみにこの時まだチンアプをやっていないので完全に自らの憶測だけで言っている。自称知識人Youtuberの動画を見てわかった気になり、受け売りをまき散らす奴みたいなクソダサムーヴである。

 まあともかく、チンアプを完全に肯定する気持ちにはなれなかったが、少しは前述したような利点もあるかと思って始めることにした。利点と難点を上手く見極め、使いこなせれば何も怖いことはないはずだ。


 チンアプの難点として、マルチの勧誘や投資の勧誘などをしてくる業者、またはサクラなどが紛れ込んでいるということが挙げられる。それに関しては、当方ネットリテラシーがそれなりに高い方だと自負しているので大丈夫だろうと高を括っていた。
 だが、しかし今現在そういったマルチの勧誘などではないのだが、まったく価値観の合わなさそうな人間とのやり取りをする羽目になっている。

 そう、先方が年下であるのにも関わらずいきなりタメ口を使ってくるのである。
 チンアプの中には自動でおすすめの相手が選別され、その選別された相手に無料でいいねを押せる機能がある(基本的にはいいねするためには課金が必要だ)のだが、それでマッチングした瞬間、プロフィールにお互いの年齢が明記されているのにも関わらず「珍棒くん(珍棒とはチンアプ内での当方の仮のニックネームである、カリだけに)よろしく~!🥳」と送られてきた。

いや「よろしく~🥳」じゃねえよ!!「よろしくお願いします」だろうが!!敬語って普通義務教育で習うよね!?いやてか義務教育以前の問題だよね!?おまけになんだその🥳絵文字!!ナメてんのかあぁん!?それともアレか!?「🥳=私は頭パッパラパーです」っていう自己紹介か何かのつもりか!?だとしたら律儀に自己開示してくれてありがとうございまさァねェ!!

 ハァ……ハァ……つい抑圧された別人格のようなものが発現してしまったようで大変失礼致しました。時を戻そう(死語)。

 もうこの時点でマサラタウンに別れを告げるかの如くサヨナラバイバイを実行すればよかったのだが、その時は「少しでも経験値を上げるために少しでも多くの異性と交遊関係を結ばなくてはダメだ」という強迫観念じみたものに囚われてしまっていたので、仕方なく言われるがままに連絡先を交換してしまった。

 しかしこれが本当に良くなかった。
 経験を積むためと思いLINEで通話をした際に、予定の空いている日を尋ねられたのだが、適当にあーとかうーとか言って誤魔化してしまっていた。
 そのあとLINEで会うことを催促してくる時も、資格試験がどうたら~とか言って先延ばしにしたのだが、「じゃあ試験終わったら!」とか言って先方が健気に待ち続けるのだ。たとえそれが約1か月半先であろうとも。
 当方もかろうじて人の心を完全に失いかけてはいないので、流石にそれで断ると心証が悪すぎるなと思いここまでズルズル来てしまった訳だが、やはり少しでも違和感を感じた瞬間にサヨナラバイバイをした方が良かったと激しく後悔している。これからチンアプを始める皆さんはくれぐれもご注意ください。断るなら早めにです。

 思い返すと、マルチなどの胡散臭い勧誘系を回避することばかりに集中しすぎ、チンアプをやる上で本当に肝心なことが見えていなかったのかもしれない。
 チンアプはそもそも自分と合った相手を探すためのツールだ。胡散臭い業者を見極める力を鍛えるためのものではない。少しでも「う~ん」と思ったらそこで試合終了させるのがむしろ得策なのである。

 当方はこれから、やんごとなしに件の初手タメ口年下女性と都内の某喫茶店で落ち合わなければならない。
 どうなったかはまた、時間を改めて書き記すことにする。



~約10時間後~
※本当に約10時間が経過した後にこの記事の続きを書き始めた


 ということで都内近郊で先方と落ち合い、喫茶店で面接のようなものをしてきた訳だが、とりあえず疲れた。当方のような対人恐怖症の気がある人間には、人と会うという行為をしただけで水泳の授業後並みの疲労感に襲われる。

 先方が待ち合わせの時間に遅れるということだったので、正直「ちょ、ちょ待、ちょちょちょマテ、ちょマ、おま、ちょマ、」という壊れた木村拓哉のような心境になってしまったのだが、当方は寛容で慈悲深いので優しく微笑みながら喫茶店に先に入店し待つことにした。

 いざ実際に入店し、少し遅れて先方がやってくる。邂逅を果たす。お互い社交辞令のようなものを述べる。「遅れちゃってごめ~ん」「かまへんかまへん(いや名倉やないかい)」というやり取りが交わされる(もちろん名倉のくだりは厳密には交わされていない)。席に着き、注文を済ませる。お茶が運ばれてくる。それを取り分け、飲む。他愛もない話をする。飲む。他愛もない話をする。話をすると言っても当方には致命的なまでに会話能力が欠如しているため、発する言葉の90%は「は~」「へ~」「ほ~」である。いや、それ以外に「ふ~ん」も言う。もう完全に「は行」でしか会話できない人間である。流石に「ひ」から始まる言葉で相槌は打ちがたいので惜しくも「は行」コンプリートとまではいかなかったが、もしかしたら「ひぇ~」とかも言っていたかもしれない。

 そんなこんなで時間が経つ。そろそろお暇かという頃合いになる。腰を上げ、会計を済ませる。今回は全額当方の奢りである。正直ここまでズルズル来てしまったという罪悪感などから、奢ることで少しでも後ろめたさをかき消したいという気持ちがあったことは確かだ。金銭的な清算ではなく、気持ち的な清算が必要だったのだ。
 何か不都合な事案が生じるとすぐに金で解決しようとするのが大人の醜いところである。

 そうして先方に別れを告げ、帰路につき、部屋に帰り、パソコンを再起動し、今に至る。先方の印象としては、そんなに悪くはなく、きちんとした良心があったので、次回の誘いを断るのは非常に気が重い。

 しかしこれは代償なのだ。チンアプという諸刃の剣を使用する以上、自らが傷つかなければならないのだということはもはや必然と言ってもいい。合コンや街コンなどといったある程度労力を要するものに参加せず、インターネットで手軽に出来るチンアプに手を伸ばした者の宿命なのだ、これは。

 出会いがあり、別れがある。チンアプは出会いを自分である程度自由に選べるが、それに対する別れも自らの責任のもと選択しなければならない。大いなる自由には大いなる責任が伴う。

 LINEの画面を開き、極力先方を傷つけず穏便にフェードアウトできるような言葉を考える。しかし考えても考えても一向に言葉が思いつかない。

 おそらく本日の印象、そしてLINEで次回会える日付を確認してきていることを鑑みるに、まさか先方はいきなりこちらから断りの連絡を入れられるとは思っていないだろう(もしかしたら思っている上で連絡してきているのかもしれないが)。そんな状態でいきなりこちらから「もう会えない」と言うのは非常に酷な気がしてくる。

 しかしお断りする時はスパッと断らないと後に尾を引くということも身に染みてわかっている。だからこそ、こうやって泣く泣くnoteに前半部分のような私怨じみたものを書き殴り、無理矢理自分の行為を正当化しようとしているのだ。自分は悪くない、自分は悪くない……初手タメ口、異様なまでにパッパラパーな絵文字、遅刻…………いや、冷静に考えたらどう考えてもこんなことをインターネットの片隅に挙げ連ねている自分の方が陰湿で、醜く、汚い人間であることは確かだ。こんな腐敗した精神の人間に誘いを断る権利があるのか?多分ない。しかし、こんな腐敗しきった精神の人間とこれ以上交流を持たせることもまた先方にとって失礼千万に値するだろう。そろそろ覚悟を決める時だ。

 チンアプは人間の心を摩耗させる。

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