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中世の宮廷画家は誰に仕えていたのか | 自由大学 メールマガジンVol.530

「将来が不安なので、資格を取りまくってます」

転職が有利になるように、とのこと。英語もプログラミングもMBAもできるに越したことはないかもしれません。ただ、漠然とした不安に対して資格武装してもキリがないのも確か。今の時代は仕事に役立つかわからないような、「純粋な好奇心からの学び」に時間を投下する人が増えています。

「相場よりかなり高く自宅が売れた」と喜んでいる知人がいます。さて、何をしたのか。彼はDIYが趣味で、素敵なウッドデッキ(大きな縁側みたいなやつね)をこしらえていたのです。訳あって引っ越さなきゃいけないけど、思い入れのある家だから、安く手放したくはない。挑戦的な値段設定で、売りに出しました。

「ぜったい無理です、買い手はつきませんよ」

ベテランの不動産屋さんが言い切るなか、すんなり決まってしまったのです。買い手は、こんなウッドデッキに憧れていたのだそう。

「たった1人に気に入ってもらえばいいんだからね」

だから守りに入るより、好きにいじって個性を出していったほうがいいんだよ、と知人は言います。もちろん万人がウッドデッキに価値を感じるわけではありません。むしろ余計なDIYをしないで最初のまま、スケルトンに戻してくれたほうが助かる、と言う買い手も多いでしょう。でも、ただのスケルトンでは相場以上には売れなかったでしょう。

家は一軒。どうせ一人にしか売れないんです。100万人に無視されても、たった一人に出会えればいい。これはお金が儲かったという話ではなく、自作ウッドデッキに価値を感じてくれたことが嬉しいんです。

就活も婚活も同じでしょう。体は一つしかないので、何社も就職できません。だから万人ウケする自己PRを目指す必要はないんですね。

万人ウケが必要な人は、アイドルや政治家くらいです。500万人に好かれるためには、スネに傷はないほうがいいし、世論に迎合していく努力が必要です。フォロワー数が命ですから、万人の顔色を伺って多数派の選択肢をとっていきます。

つまり、あなたはどっちで生きていきたいの? ということ。大勢に仕えるか、ひとりに仕えるか。どっちなんだい? 大勢に仕えるアイドルは、しんどい世界です。毎日がファン獲得競争。多様な期待に対して八方美人になるストレスで病む人も出てきます。

では、ひとりに仕えるのが楽かというと、そうでもありません。会社員は一つの会社(一人の上司)に仕えています。ボスに信頼されていれば、しばらくは安泰です。例えるなら中世ヨーロッパの宮廷画家でしょうか。国王に寵愛された画家は、食いっぱぐれません。国王の肖像画をイケてる感じに描いて、ご機嫌をとる。「全然似てなくない?」「 下手じゃない?」 外野がヒソヒソしていても、おかまいなし。国王は自分の作風に満足しているのだ。

大勢よりも1人に仕えるほうが、難易度は低いです。ただし、ボスのご機嫌がすべて。ちょっと関係に波風が立ったら、ストレスは大きなものになります。
(あれ、いま表情が曇ったぞ。何か気に障ること言ったかな)

ひとりのご機嫌に一喜一憂するのも、プレッシャーはあります。ただ、一人の人間なので傾向と対策がわかってくるぶん、まだマシでしょう。大勢の気持ちを予想することはできません。

なので、その間をとったらどうでしょうか。万人でも一人でもなく、少数に仕えるのです。会社員をやりながらも、複業で他の仕事も受けたり、何かを売ったり。少数がいい塩梅だと思います。

自由大学の講義づくりも、ニッチです。万人ウケは狙ってない。少人数クラスゆえ、他にはない企画が可能なんですね。10人くらい集まれば開講できるので、マニアックなテーマで攻めていける。

サウナーは多いですが、サウナビルダーにまでなろうなんて人はそうはいません。日本酒を飲む人は多いですが、新銘柄を自分で開発して売ろう、とまで企む人はそうはいません。(まわりにいます? )「ニッチすぎ」と笑われましたが、いるところにはいるものですね。クチコミを聞きつけて8名の猛者たちが、全国津々浦々から集まりました。

これが「百人、千人集めないと...」となると、テレビで有名なタレントを呼んだり、資格ビジネスにしたり、キャッチーな広告を出したり、自由大学らしくない策を取らないといけないかもしれません。

あなたは何人に仕えて生きたいのか。100万人のファン(アイドル)なのか、100人のお客さん(自営業)なのか、5人の取引先(複業)なのか、1人のボス(宮廷画家)なのか。そのサイズ感をイメージしましょう。

もし、少人数でいくのであれば、不足を埋める資格より、好奇心にまっすぐ進んでいくのもいい。万人ウケを狙うほど、同質化します。好奇心は多様なので、あなたらしさが育まれていきます。

TEXT:自由大学 学長 深井次郎


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