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「最初の質問」


 今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。雲はどんなかたちをしていましたか。風はどんな匂いがしましたか。あなたにとって、良い一日とはどんな一日ですか。「ありがとう」という言葉を、今日あなたは口にしましたか。
 窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。雨の雫をいっぱい溜めたクモの巣を見たことがありますか。樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ち止まったことがありますか。街路樹の木の名を知っていますか。樹木を友人だと考えたことがありますか。
 この前、川を見つめたのはいつでしたか。砂の上に座ったのは、草のうえに座ったのはいつでしたか。「うつしい」と、あなたがためらわずに言えるものは何ですか。好きな花を七つ、あげられますか。あなたにとって「わたしたち」というのは、誰ですか。
 夜明け前に啼きかわす鳥の声を聞いたことがありますか。ゆっくりとくれてゆく西の空に祈ったことがありますか。何歳のときのじぶんが好きですか。上手に歳をとることができるとおもいますか。世界という言葉で、まずおもい描く風景はどんな風景ですか。
 いまあなたがいる場所で、耳をすますと、何が聴こえますか。沈黙はどんな音がしますか。じっと目をつぶる。すると、何が見えてきますか。問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっちですか。これだけはしないと、心に決めていることがありますか。
 いちばんしたいことはなんですか。人生の材料は何だとおもいますか。あなたにとって、あるいはあなたの知らない人々、あなたを知らない人々にとって、幸福って何だとおもいますか。時代は言葉をないがしろにしているー
ーあなたは言葉を信じていますか。

長田弘詩集「最初の質問」より


長田弘さんの詩に初めて出会ったのは、もう何年前になるだろう。

わたしがその作品と、ご本人の在り方に対して敬愛してやまない写真家、藤岡直樹さんからの年賀状に、この『最初の質問』の詩が印刷されていた。
わたしは読みながら涙が出てきて、この年賀状を手帳に挟んで、ずっとずっと持ち歩いていて、何度も何度も、何度も何度も読んでいた。

あの時、この詩は、わたしに必要だったのだと思う。

それから、この詩を書いた長田弘さんはどのような人なのか。他にどんな詩があるのだろう。と思い、本屋さんに行って探し、長田弘さんの詩集を結局4冊、持っている。

他にも素敵な詩は多いのだけれど、でもやっぱりこの『最初の質問』が一番好きで。

でも、ここ数年はすっかり忘れてしまっていた。

それがなぜか眠る前に、ふと思い出して、とりあえず眠るのをやめて、noteに書くことにした。なんだか、書かなきゃいけないような気がして。


もしかしたら、今、あの時のわたしのように、この詩が必要な人がいるのかもしれない。と思う。



そして、今のわたしにもまた、必要だったのかもしれないです。ね。







※トップ画像はその時の年賀状です。

藤岡直樹さんのwebサイト

(藤岡さん、ありがとう)





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