あなたになりたかった私

今日も無駄な動きの一切ない工程を積み重ね、
車のライトを作る作業をしている。
これが私の仕事だ。
いつもは妄想を繰り広げたり、
歌を歌ったり、
30分までに何個ライトを作れるかゲームをしたり、
考えているようで考えてない脳みそが
そこにある。

しかし、今日は違った。



親愛なるあなたへ

私は、朝からあなたの連絡を待ち侘びていた。
連絡が来ることに気付けるように
バイブレーション機能も追加した。
その設定も虚しく、
ポッケで携帯が震えることはなかった。


私は自我を出してみた。
「こんな私もいるんだよ」って、
あなたに知って欲しかった。
知って欲しかったんだ。
でも、真面目なあなたは酷く悩んだ。
そうじゃないの。
私を、知って欲しかっただけなの。
困らせたかったわけじゃないの。

このすれ違いで不安が募った。
私は意地を張って、あなたの代替案を蹴った。
「あなたに会いたくない」
違う。今すぐにでも会いたい。
天邪鬼が私を乗っ取ったみたい。
あなたに構ってほしかったのね、きっと。

天邪鬼の意地悪は、私に天罰が下った。
「今日はもう言葉が出ないから、寝かせて」
突き放されたようで、悲しかった。
突き放したのは私なのに。

「あなたの心に私は居ない」
私はそう言ったよね。
心に他人がいる感覚が、よくわからなかった。


私は朝から不安で涙に溺れそうだった。
あなたから連絡が来なかったら、どうしよう。
今もまだ悩んでいたら、どうしよう。
頭の中で、超ときめき♡宣伝部の
『最上級にかわいいの』が流れる。
これは失恋して可愛くなった女の子の歌じゃないか。
私、振られるのかな。
いつもは楽しく歌っている曲も、今日は虚しい。

10:00の10分休憩がきた。
すぐに通知を確認した。
あなたからの返信があった。
目を瞑った。
あなたは「大丈夫」と言っていた。
うん。大丈夫。私もあなたも、大丈夫。

それ以降は「大丈夫、大丈夫」と繰り返しながら、
超ときめき♡宣伝部の歌を歌ったり、
30分までに何個ライトを作れるかゲームをしたりした。
私は頑張れた。


ねえ、あなた。
“心の中に君がいる”って、
こういうことなのかな?
あなたの存在があるから、私は頑張れた。
それは、妄想とかじゃなくて、
紛れもなく、遠くで頑張っているあなたの存在。
同じような職業に就いているあなたの存在。
あなたは遠くにいるけど、近くにいるような感覚。
これが、そうなのかな?

私、ようやくわかったのかも。

酷いこと言ってごめんなさい。
こんな私も、可愛いと思って。
不安定で危なっかしいけど、
そこも可愛いと愛して。

あなたのリーナより



明日も頑張れそうな予感がする。
それよりも早くお風呂に入らなきゃ。
じゃあ、みんな、おやすみ。



【前編】

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