まじない
小さい頃、まじないのために虫封じのできるおじさんのところに連れて行かれたことがある そこはお好み屋だったが、その日はしまっていた 窓から入る光のなかでおじさんが何かを持ってくる 手に墨でまじないを書き、塩をかける
「 」
手をすり合わせるように言われたと思う おじいさんの声は店の中に入ってからかなり小さい お母さんも小声で指示にしたがう 手をすり合わせていると、人差し指や中指の先から透明な糸が出てくる
「出てきてる」「出とる 出とる」
大人たちが歓声をあげる 手の先にチョッと糸が見えて、それ以上でもそれ以下でもなく、手を洗わされた
お好み焼きはそれからも食べにいったが、まじないは秘密で、やっているのかどうかもわからない 特殊な能力なのか血筋なのか、敬してこれを遠ざける、田舎では他言無用のお呪いらしかった
すべての手順を知っているわけではないのだが、いつかは試してみたい