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大工の戸塚さん

若い頃、乗馬クラブに住み込みで働いたことがある。
競馬が好きで、馬にも乗れるようになりたかったのでそこで働いた。
朝5時から22時まで働いて給料は日給3,500円。3食と先輩との二人部屋が与えられた。

そのクラブに戸塚さんというおじさんがいた。ランニングシャツに大工さんが履く乗馬ズボンと呼ばれる作業ズボン、地下足袋という出で立ち。聞いてみると、やはり大工さんだった。しかし、ただの大工さんではなく、乗馬の達人で夏の間の臨時雇いで働いているという。

戸塚さんは草競馬のアマチュア騎手であり調教師であり、馬主であった。ほうぼうの草競馬に自らの馬を連れて参戦したという話を聞いた。
移動は貨物列車。駅からは馬を曳いて歩いて行ったそうだ。

昔はこのような草競馬が各地で開催されていた。現在では祭りなどで幾例か残っているが、ほぼ廃れた。
アマチュアの騎手という制度も日本では正式にはない。近代競馬発祥の英国ではその制度があるらしい。アン王女はアマチュアの騎手免許を持っていて障害レースに出走したことがあるし、中央競馬のリーディングトレーナーの藤沢和雄も英国修行中にアマチュアとしてレースに騎乗した経験がある。

福島で行われる相馬野馬追の甲冑競馬はアマチュアのレースとしては最高峰だろう。現地で見る機会には恵まれないが世田谷の馬事公苑や大井競馬場でアトラクションとして行われる甲冑競馬は迫力があり、心が踊る。私も福島の相馬地方に男として生まれていたら、甲冑競馬の騎手になりたかった。

戸塚さんとの出会いから40年近く経った。まだご存命だろうか。もっと競馬の話をしておけばよかった。

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