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【地方紹介19】ポワトゥー・シャラント地方

 
<地方データ>
■【francerでの地方名呼称】:ポワトゥー・シャラント地方
■【旧地方圏区分/地方庁所在地】:
ポワトゥー・シャラント地方(Poitou-Charentes)/ポワティエ(Poitiers)
■【現地方圏区分/地方庁所在地】:
ヌーヴェル・アキテーヌ地方(Nouvelle-Aquitaine)/ボルドー(Bordeaux)
■【旧地方圏区分における所属県と県庁所在地】
●シャラント県(Charente /16)県庁所在地:ラン(Angoulême)
●シャラント・マリティム県(Charente-Maritime /17)県庁所在地:ボーヴェ(La Rochelle)
●ドゥー・セーヴル県(Deux-Sèvres /79)県庁所在地:アミアン(Amiens)
●ヴィエンヌ県(Vienne /86)県庁所在地:アミアン(Amiens)
 
★地方概要★
 
ロワール地方の南、アキテーヌ地方の北に位置するポワトゥー・シャラント地方。つまりロワール河からジロンド河にかけて大西洋に面して広がった地方です。広大な砂浜があり、海洋性気候で、穏やかな気候です。数々の歴史遺産を有した上で、未来に向けての先進的な町づくりや取り組みが行われている地方でもあり、中世都市の雰囲気と現代建築が共存している町も少なくありません。
 
西部は大西洋が広がりますが、海岸リゾートがあったり、歴史の舞台となった島々が点在しています。内陸には、中世の姿をそのまま残す美しい村があり、中心都市ポワティエを中心に見ごたえのある歴史遺産を有しています。中でも、サン・サヴァンの旧大修道院付属教会は是非とも訪ねたい場所です。
 
最後に、南部のコニャックを忘れるわけにはいきません。世界的に知られるフランス屈指の高級蒸留酒、コニャックもこの地方で生産されています。
 
ポワトゥー・シャラント地方は、古代から、フランスの運命を左右する重要な戦場となることが多くあった地方です。メロヴィング朝の創始者、クローヴィスが西ゴート族との戦いに勝利し、その後には、世界史上でも有名な戦い、732年のトゥール・ポワティエ間の戦いでカール・マルテル(フランス語でシャルル・マルテル)がイスラム勢力をピレネーの向こう側まで追いやっています。
 
中世にはアリエノール・ダキテーヌ(フランス語ではエレオノール・ダキテーヌ)の治下、ポワティエには華やかな宮廷文化が花開きますが、この時代の繁栄を今に伝える素晴らしいロマネスク芸術がこの地には多数残っています。
 
 
★町や村★
 
有名なトゥール・ポワティエ間の戦いが行われ、歴史的にこの地の中心となったポワティエが、今もこの地方の中心です。クラン川のほとり、丘上に築かれた古都ポワティエ。現在は学生の町としても知られ、旧市街の中心であるルクレール広場やシャルル・ド・ゴール広場の界隈はいつもたくさんの人々でにぎわっています。

ポワトゥー・シャラント地方の中心地、ポワティエ

シャルル・ド・ゴール広場にあるノートル・ダム・ラ・グランド教会がこの町のシンボル。白亜の美しいファサードが印象的で、旧約聖書や新約聖書の名場面が彫刻で表現されています。内部でも内陣の奥には、12世紀から残る壁画が保存されており、大変美しいロマネスク教会です。
 
そのほかにも、フランスでも最も古いキリスト教建築ともといわれるサン・ジャン礼拝堂、ポワティエで布教をした聖イレールの墓があるサン・ティレール・ル・グラン教会など、素晴らしいロマネスク建築が町中に点在しています。これらは、中世に華やいだ宮廷文化とサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼拠点として発展した時代を今に伝える歴史遺産といえるでしょう。
 
ポワティエの東部には、ポワトゥー・シャラント地方を代表する珠玉のロマネスク教会も点在しています。ショーヴィニーのサン・ピエール参事会教会もその一つ。ポワティエから東へ30kmほどですので、ポワティエまで来たら、訪ねてみるのはいかがでしょう。また、ポワティエから東へ40kmほど、前述のショーヴィニーのほど近くにある小さな村がサン・サヴァン。村の中心に建ち、世界遺産にも登録されるサン・サヴァン旧大修道院付属教会で知られます。
 
ロマネスク様式の教会ですが、中でも天井に描かれた36枚のフレスコ画が有名になっています。旧約聖書のエピソードが描かれたフレスコ画は、12世紀に描かれたもので、素晴らしい保存状態で残っており、同じく旧約聖書の場面が天井に描かれたバチカンのシスティーナ礼拝堂を引き合いに、「ロマネスクのシスティーナ礼拝堂」とも呼ばれます。

サン・サヴァン教会のフレスコ画

南部では、歴史ある古都アングレームが比較的大規模の都市で、近年では、漫画やアニメなど、新しい日本文化が紹介されることも多い町です。ローマ時代にはすでに町が築かれていたというアングレーム。メロヴィング朝のクローヴィスが西ゴート族との戦いに勝ったのも、この地でした。
 
中世にはフランス王家親王采地の一つであり、フランスにルネッサンスをもたらしたフランソワ1世はここの出身でもあります。ポワティエ同様に豊かな宮廷文化を享受し、ロマネスク様式の堂々たるサン・ピエール大聖堂が残っています。
 
近年は、現代的なイベントも多く行われ、とりわけ漫画では圧倒的な地名度を誇る町となりました。欧州最大規模の漫画の祭典、「アングレーム国際漫画フェスティバル」が開催され、「漫画の聖地」とも呼ばれる街です。
 
 アングレームの西部には、有名な蒸留酒を生み出すコニャックがあり、周囲にはブドウ畑が広がります。ポワトゥー・シャラント南部に位置するコニャック。いわずと知れた蒸留酒コニャックの故郷です。古くはシャラント川の河港の町で、塩やワインの積み出し港でした。

コニャックのブドウ畑

旧市街には、中世からルネッサンス期の建物が残っており、古城も残っています。この古城は16世紀に「王のバルコニー」と呼ばれるロッジア(屋根付き廊下)が付け加えられ、サラマンダー(火を吹くトカゲ)の彫りこまれた逆ピラミッドの装飾で支えられています。ロワール地方で頻繁に見かけるサラマンダーの装飾は、フランス王フランソワ1世を示すもので、彼がここで生まれたためつけられたそう。
 
有名なコニャックは、元々は味の悪くなったワインの容積を小さくして運搬を楽にしたり、ワイン税を避けて余りをストックすることから始まりました。寝かせることで、さらに質が良くなることがわかり、19世紀には、6つの生産地が定めされました。中でもコニャックの町に近い石灰岩土壌のグランド・シャンパーニュ地区が最高級品質のコニャックとされています
 
大西洋に面した西部には、貿易港として栄えた港町ラ・ロシェル、リゾート地としても発展したイル・ド・レ(レ島)など、豊かな自然景観も楽しめる街があります。港町ラ・ロシェルは、大西洋岸で最も美しい港町とも呼ばれる街です。元々は入り江を守るために11世紀に城塞が築かれ、その後イギリスの支配下におかれながら、商業で発展をしてきます。

港町ラ・ロシェル

旧港には、今でもアリエノール・ダキテーヌ治下に築かれたサン・ニコラ塔が残り、旧市街には、17,18世紀の街並みが残っています。大時計門から旧市街に入ると、木骨組造りの中世的な家並み、ルネッサンス時代から18世紀にかけての建物が調和した美しい町を形成しています。なかでも17世紀のアーケード付き回廊が残る市庁舎の美しさで知られています。
 
 ★名産品と郷土料理★
 
名産といえば、コニャックが頭に浮かぶポワトゥー・シャラント地方ですが、大西洋に面したこの地方では、海の幸も豊富です。中でもオレロン島の牡蠣やムール貝など、貝類の養殖が盛んです。また、ブルゴーニュのイメージが強いエスカルゴも多く食され、なだらかな平野部では、酪農も行われます。フランス産高級発酵バター「エシレ」は、ノルマンディーではなく、このポワトゥー・シャラント地方で作られます。
 
 
コニャックは、同盟の村の近郊で作られ、フランスを代表する高級ブランデー。使用するブドウや、熟成期間など、明確な基準が定められ、高級ブランデーして、確固たる地位を確立しており、主に食後酒などで飲まれることが多いです。
 
フランス南西部では、もう一つ有名なブランデー、「アルマニャック」がありますが、醸造行程が異なり、コニャックが2回の単式蒸留で造られるのに対して、アルマニャックは連続式蒸留器を使って1回の蒸溜で造られるという違いがあります。2回の蒸留で作るコニャックはよりまろやか上品な味わいといわれています。

フランスを代表する蒸留酒・コニャック

名産のコニャックを利用したアルコール飲料で、ブドウ果汁にコニャックを入れ熟成させたピノー・デ・シャラントも知られています。V.D.L(ヴァン・ド・リキュール)という分類がされ、バニュルスやミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズといったような酒精強化ワインと似ていますが、発酵途中でブランデーを入れる酒精強化ワインと異なり、発酵していないブドウ果汁にブランデーを入れるのが、ヴァン・ド・リキュールとなります。この際のブランデーにコニャックを利用するものが、ピノー・デ・シャラントと呼ばれます。なお、アルマニャックを利用した場合、フロック・ド・ガスコーニュと呼ばれます。
 
 
フランスには多数、牡蠣の名産地がありますが、この地方のマレンヌ・オレロン産の牡蠣もその一つであり、フランスでは大変有名な産地の一つ。マレンヌの町の近郊は、古くから牡蠣の養殖と塩田での塩生産を行っていましたが、塩生産が他の地域との競争に負け、その塩田後を牡蠣の養殖に使うようになり、発展しました。

マレンヌ・オレロン産の牡蠣は、フランス各地で消費される

 塩田跡は、深さが浅く、太陽光線が底まで届くためプランクトンが盛んに生成され、牡蠣はたくさんのプランクトンを摂取し、おいしい牡蠣が育ちます。種類も多く、明確な基準も設定されていますが、それだけしっかりとした格付けが行われている牡蠣の名産地というわけです。
 
ポワトゥー風ファルシは、一見するとロールキャベツのようにも見えますが、少し別物。具になる部分には、ほうれん草などの野菜に豚肉などのお肉を混ぜ合わせ、パテのような形状にしてから、外側をキャベツの葉で来るんで、ゆで上げたもの。出来上がったら、切り分けて盛り付けます。素朴な田舎料理という雰囲気たっぷりの郷土料理です。
 
 
特産のムール貝を使った料理ムークラード(Mouclade)は、白ワイン、エシャロット、香草とともにムール貝を煮込んだ後、 殻の片側を外して、ソースにはバター、生クリーム、卵黄にカレー粉をいれ、カレー風味に仕上げた後、オーブンで熱してグラタン風に仕上げるのが伝統的なシャラント風ムークラードです。
 
大西洋岸では、ムール貝や牡蠣など貝類の養殖が盛んで、ムール貝も特産の一つ。また、港町ラ・ロシェルは大西洋に面した港町だったので、アフリカから多数の香辛料などが入ってきたことで、カレー風味が定着したようです。

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