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ステンドグラスが煌めく南シャンパーニュの古都 トロワ

芸術関係の記事を書こうと思ったときに、やはり最初は有名な美術館か人気のある印象派などをテーマにしようかとも思いましたが、このテーマを考えたときに最初に思い浮かんだ町、シャンパーニュ地方のトロワ(Troyes)を取り上げることにします。
 
シャンパーニュ地方と言えば、やはりランス(Reims)が最も有名で、近郊のエペルネー(Epernay)もシャンパーニュ生産では名の知れた町です。この2つに比べるとトロワは、知名度も少し落ちますし、シャンパーニュ生産のメッカは地方の北側に集中しているため、南部のトロワはシャンパーニュ生産でも、ランスやエペルネーほど有名ではありません。
 
しかし、初めてトロワを訪れた時には、その旧市街の美しさに驚いたものです。ランスやエペルネーを訪ねた方も、トロワに行ったことがないという方は多いのではないでしょうか。しかし、その芸術性の高さと町としての佇まいが素晴らしいところですので、機会があれば是非とも訪ねていただきたい町の一つです。
 
南シャンパーニュの古都トロワの町。よくシャンパーニュの産地と掛け合わせて「シャンパーニュの栓の形をした旧市街」などと紹介されますが、それは単なる旧市街の形状の話で、町の中を歩くと、歴史のある古都がしっかりと残っている町です。

トロワは南シャンパーニュにおいて、フランドル地方とイタリアを結ぶ交通の要所として発展し、12世紀以来、毎年大きな定期市が行われたため、ヨーロッパ中の商人や職人が集まり、発展しました。これがトロワの第一の発展時期となります。その後、商業ルートが変わり、この商業は衰退しましたが、16世紀の初頭にはメリヤス(ニット)工業が発展し、それとともに毛織物、染色、製紙工業が発達しました。靴下や帽子を中心に製造し発展した時代を旧市街の歴史的建造物は今に残しているように感じます。
 
旧市街は可愛くも、芸術性の高さと当時の発展を思わせる建物が多く残ります。まずは市庁舎近くに広がる木骨組の家並みが続く界隈。石材が不足するこの地方では当然のことであったのでしょうが、古い街並みが非常によく残っており、フランスの田舎を思わせる素朴でありながら歴史を感じる旧市街が残ります。中でもネコの小道(Ruelle des Chats)は趣のある通りとして知られ、この界隈はゆっくりと散策したい界隈です。

木骨組みの家並みが続くトロワの旧市街

もう一つは旧市街に数多くの教会が残り、14~17世紀にかけて造られたステンドグラス、15世紀の華麗なゴシック・フランボワイヤン様式のファサード、美しいマリア様の彫像など特筆すべきものが多数残っています。その中でも最も素晴らしいと感じたのは、サント・マドレーヌ教会。トロワの旧市街の中で最も古い教会であり、ステンドグラスのストーリーが非常に明快です。

サント・マドレーヌ教会『天地創造』のステンドグラス

神様による天地創造から、カインとアベルのストーリー、イサクの犠牲など旧約聖書のストーリ、キリストの家系図を表わすエッサイの樹の素晴らしいステンドグラス、キリストの受難、そして教会に祀られているマグダラのマリアのステンドグラスがあります。どれも聖書の有名な場面を表したものであるので、一見してすぐにわかるものばかり。もちろん、聖書を知らない人にとってステンドグラスはどれも同じかもしれませんが、当時の人たちには非常によい教科書となったのであろうと思う内容です。その他にも聖母マリアのステンドグラス、マグダラのマリアの生涯を描いた宗教画(17世紀)、マグダラのマリアと共に流刑にあったサント・マルスの像など、特筆すべきものが多くある教会です。さらには、この教会はジュベと呼ばれる仕切り壁で内陣と身廊が分かれている現在では珍しい教会。この部分の装飾も見事なものです。
 
また、すぐ近くにあるサン・チュルバン教会には「ぶどうを持つ聖母」像があります。穏やかに微笑むマリア様と幼子キリストの姿は甘美であり、優しさにあふれた表情は非常に印象的です。当地の特産となるブドウの実を一房持っているのも、シャンパーニュ地方らしい彫刻です。

サン・チュルバン教会の『ぶどうを持つ聖母』

そして、荘厳な雰囲気のサン・ピエール大聖堂。中世の様々な時代の建築様式がミックスされていますが、ゴシック・フランボワイヤン様式のファサード、そして1500平方メートルにも及ぶステンドグラスは見事の一言。当時の繁栄ぶりを感じさせる大聖堂です。この大聖堂を挟む形で、中世からルネッサンス期の美術品を集めた「サン・ルー美術館」、そしてブラック・デュフィ・マティスなどの絵画を集めた「近代美術館」があります。

どちらもコレクションとしては素晴らしいものですが、サン・ルー美術館は元修道院を改装した建物なので、展示だけでなく、その内部も非常に立派な造りとなっています。見ごたえのある作品が多く、受胎告知の木製彫刻、ガルグイユの展示、最後の審判、クローヴィスの生涯など素晴らしいものが多く展示されています。

シャルル・ジョセフ『レダと白鳥』

なかでも個人的に気にいったのは、シャルル・ジョセフの『レダと白鳥』。16~18世紀にかけての絵画がお好きな方は必ず気にいると思います。トロワは旧市街内に位置するホテルや徒歩圏内の場所にもホテルが多く点在しています。是非立ち寄り観光ではなく、じっくりと時間をとって街歩きを楽しんでみたい町です。

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