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カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムにおけるパウエルFR議長の講演について(福井強のマクロ経済分析レポート vol.6)

8月23日に米国ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムで、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は金融政策についての講演を行い、9月に開催される次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに踏み切る意向を示しました。

この講演の中で、議長はCOVID-19による世界的パンデミックがもたらした米国経済の需要・供給サイド両面の変調と、その後のインフレの高進、この事態に対するFRBの金融引き締め政策の成果について説明を行なっています。2021年にインフレが急騰したときに、FRBの政策担当者や大方の民間エコノミストたちが、インフレを一過性のものとみなして、対応が後手に回ったことを率直に認めた一方で、2022年から2023年にかけて金利を5.25%も引き上げた結果、今年に入ってインフレ率が年率2.5%まで低下した経緯を語っています。議長は、今回の金利引き上げが不況という経済のハードランディングを伴わずに、インフレ率の低下を達成できたという点を強調し、それはこれまでのFRBの2%インフレ・ターゲットを掲げた金融政策の実績が米国民の信任を得た結果であると結論しています(実際にインフレが沈静した直接の要因としては、パンデミックやロシアのウクライナ侵攻に伴う需要・供給面の歪みが解消されてきたことを挙げています)。

今回のようにFRBの金融政策の舵取りが経済のソフトランディングに成功した例はあまりなく、それ以前では、1995年に当時のグリーンスパンFRB議長の指揮下でソフトランディングに成功した例があります。ちなみに1995年のソフトランディングは、その後のI T株式バブルに繋がり、2000年にバブルが弾けて不況になるまでの米国経済の絶好調の始まりでした。その後、住宅バブルが発生し、2004年6月から始まったFRBの金融引き締めは1回あたり0.25%という緩慢なペースが災いして後手に回り、最終的に2008年にサブプライム住宅ローン・バブルの破裂と金融危機を招いて、世界経済が不況に陥ったことはまだ私たちの記憶に鮮明に残っています。したがって、今回のソフトランディングが次の資産バブルを引き起こす発端になるのかどうかを見極めるために9月から始まるFRBの金融緩和のペースと株式や不動産といった資産市場の動向を注視していく必要があります。

最後に、他の先進国の中央銀行に比べて周回遅れでようやく利上げを開始した日銀は、7月末の想定外の利上げにより、株式大暴落の引き金を引いてしまったため、年内に次の利上げを行えるかどうかはまったく不明です。この先、万一、米国のソフトランディングが頓挫するようであれば、さらなる日銀の利上げは封印されてしまうことになるでしょう。

執筆:福井 強(ふくい つよし)
個人トレーダー(フランス・パリ在住)。1984年慶応義塾大学経済学部卒業。1990年コロンビア大学ビジネススクールにてMBAを取得。明治安田生命(旧明治生命)、JICA(旧OECF)を経て、1993年より2020年まで世界銀行勤務。世界銀行では投資管理局グローバル債券デスク・ヘッド、G7債券ポートフォリオ・マネージャーとして金利およびクレジット・ポートフォリオ戦略の立案、実施に従事した。米国証券アナリスト(CFA)。訳書に『ザ・トレーディング』(アレキサンダー・エルダー著/FPO)とその旧版にあたる『投資苑』(パンローリング)がある。
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