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セールスの基本 3000円のピアスのつもりが100万円のダイヤネックレスを買ってしまった奥様の話。

もしあなたの奥様が3000円のピアスを買いに宝石店に行ったのに帰ってきたら100万円のダイヤネックレスと指輪を購入してきたらなんて言いますか?

それは驚くことでしょう。でも大丈夫です。

きっと旦那様はその事実を知ることはありません。いわゆる内緒買いと言われるものだからです。3000円のピアスを買いに行った主婦がどうして100万円のダイヤを買うことになるのか。

今回はクレジット会社時代にみてきたセールスの世界に関してです。記事自体は2011年2月に書いたもののリニューアルになります。ブログ歴も10年以上になります。

販売のプロ集団を知っていますか?

私の前職はクレジット会社の営業でした。担当店でセールがあると応援として店頭でクレジット受付をします。その日は担当店の宝石屋さんにいました。

店に入り店長や店員さんに挨拶をしていると見知らぬ3人の方がいました。販売応援ということです。この人たちはいわゆる宝石販売のプロの方たちです。

そのセールスのプロと言われる人たちが3000円のピアスを買いに来た主婦に100万円のダイヤの指輪を販売するのを目の前で見ることになるのです。

この出来事は独立した後の私に大きな影響を残しています。ではその方法とはどんなものか。かれこれ20年以上も前の話なので今ではできないことはご承知ください。

まず最初にどんなに低価格でも、そう3000円の特売品のピアスを買いに来た奥さまに接客します。ネックレスなどと組み合わせたりして何とか3万円まで購入金額を上げていきます。

ここでクレジットの登場です。3万円をクレジットで購入させます。現金はいらない、口座からの引き落としにします。3000円10回払いなので支払い安いですよね。

3000円の現金を払って帰る方はどうするのか。その方は決して無理には売りませんでした。3万円なのでカードでというお客様もいますがそんなお客様になんとかクレジット用紙に記入させるのです。

当然、不審がるお客様もいます。そういう方は途中で『やっぱりやめます』といって3000円のピアスを購入して帰ります。ここで押しに弱いかどうかの判別が行われます。

しかし実際には言われるがままにクレジット用紙に書く方が多いのです。それはいい言い方を知れば素直でいい奥さま、悪い言い方をすれば騙される要素をお持ちの奥さまということになります。

私は仕事としてお客様が書いたクレジット用紙で審査をします。3万円の審査ですからよっぽどのことがなければ審査は通常はOKです。その時セールスのプロから聞こえないような小さな声で囁かれます。

『いくらまでなら審査が通る』

例えば50万くらいまでならと言ったとしましょう。そのプロの人は分かりましたと言って再びお客様のところへ行きます。

ではその間、お客様はどうしているかというと別のプロの人が違う商品を見せているのです。『このピアスにはこのネックレスがお似合いと思いませんか?』こんな具合にです。

その時です!

先ほどいくらまでなら審査は大丈夫かと聞いたプロがテーブルの上に色のついた石を置いていくのです。この石は何種類かの色があります。この3万円を皮切りに接客している店員が今度は違う色の石を置くのです。

この色石は当然シグナルです。

何のシグナルか?『この金額までの宝石を持ってきて』という合図なのです。そう、この3人はチームプレーで販売しているのです。こうやって少しづつお客様の顔色と性格を読み切り長ら単価をあげていきます。

このあたりまで来ると邪魔が入ることがあります。売れない店員はこの売り方を知りません。だから私たちクレジット会社社員にすぐにお客様のところに行かせようとします。早く終わらせて帰らせようとします。

もし店員に言われたからと言ってプロに近寄ってクローズさせようとしたならきっとこのセールスの単価アップの邪魔になります。私はこの売り方を知っていたので色々と言ってプロには近寄りません。

こうして石を見ながら別のプロが選んだ商品を見ている奥さまは自分との戦いが始まります。最初はこんな高いダイヤ、買えないと言って困っています。

しかし徐々に表情が変化していくのです。支払い額は最初は月に3000円でしたが今度は月5000円になっていてその上ボーナス払いが入って合計50万円となっているのです。

『月5000円なら払えるかも』そんな奥さまの胸の内が聞こえるようです。それでも長い時間葛藤しています。そしてついに購入していくのです。月5000円の60回払いでボーナス払いありです。

笑顔でお店を出ていく奥様をみて

奥さまは新たに金額が変わったクレジット用紙に記入して手続きをし今度こそは私が分割払いの手続きをして購入して帰宅していきます。奥さまのその時の表情はどうだと思いますか?

私のようなクレジット会社の人間はなんとも言えない気持ちなのですが奥さまは違います。『こんな高い物買う気なんてなかったのに』と言いながら笑顔なのです。

しかもとびきり素敵な笑顔なのです。

女性は美しいものが大好きなのです。

好きなだけ食べていいよ

その日の仕事終了後の話も書いておきましょう。普段しない立ち仕事で疲れていたので早く帰りたいと思っていた私を満面の笑みを浮かべた3人が待っていました。販売のプロ集団からお食事に誘われました。

『なんでも好きなだけ頼んでいいよ・・・』

その意味はすぐにわかりました。遠慮なくいただきました。そして言われました。『知っていたんでしょう。私たちの売り方を』と。また会いましょうと言われましたが2度と会うことはありませんでした。

セールスの世界は奥が深いものです。私には不思議な世界でしたが店を出る奥様全員みな素敵な笑顔だったのは忘れられません。あの笑顔が私の罪悪感をぬぐい捨ててくれました。

余計な心配無用なのだと。


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