見出し画像

ファイナンシャルプランナーは中立か?

ファイナンシャルプランナー(FP)とはいったい何をしている人なのか、一般にはあまりよく知られていません。「中立性」が売りといわれることもありまますが、どこまで中立かを突き詰めると意外とあいまいだったりもします。そこで、「FPは中立か?」を、FP本人が真剣に考えてみました。


■FPとは?

ファイナンシャルプランナー(FP)は、家計や貯蓄、保険、住宅、税金や年金など、暮らしや人生にかかわるお金についての知識をもち、資金計画や人生設計のアドバイスやサポートをする専門家です。

日本には2種類の資格があり、いずれかを取得すると「FP」を名乗ることができます。各資格のなかにも1~3級またはCFP®/AFPという試験の難易度に応じたレベルがあるのですが、どのレベルの資格保有者でも「FP」になれます。

つまり、「FP」は資格の名前でもあり、職業名や肩書にもなりうるわけです。

■FPを生業としているのはFPのごく一部

ただし、実はFP資格を保有している人の大半はFPを生業としているわけではありません。資格認証団体のひとつである日本FP協会の実態調査によると、資格保有者の68.9%を会社員や公務員など被雇用者が占めています※。

仕事でFP資格を活用している人はさらに限られます。金融機関などに勤めていてFP資格を活用している人は36.0%、FP専業の事務所や会社、または税理士や会計士などの専門職の事務所でFP関連の業務をしている人は3.7%にすぎません。

これらを合計しても、FPを生業としている人はFPのうち半分以下です。本業となると、もっと少ないはずです。

ちなみに会社員などでFP資格を保有する人のことを業界では「企業系FP」と呼びますが、その勤務先は銀行や保険会社、証券会社、保険代理店、不動産会社などが中心です。これに対して金融機関などに属さずに自分で事務所や会社を経営している人のことを「独立系FP」と呼んだりします。

どれもお金に関わる職業ではありますが、多様なキャリアの人が「FP」を名乗っているわけです。経済紙やマネー誌、マネー系メディアなどを読む方はFPが登場する記事をよく目にすると思いますが、直接関わることがなければ、正体がわかりにくい職業と感じても不思議ではありません。

■独立系FP=中立といえるか?

FPを専業とする独立系FPのなかでも、「何で稼いでいるか?」はさらに多様です。

基本的には「相談」「講演」「執筆」がFPの3業務といわれ、独立系FPはこのいずれか、または組み合わせて活動しているのが一般的です。上記の調査や私の周囲の様子をみると、とりわけ「相談」をメイン業務としている人が多いようです。税理士や社会保険労務士などと兼業している場合もあります。

FPのメイン業務

FPの3業務は、こんなことを行います。

・相談

家計や住宅購入、教育資金や老後資金の準備などに関する相談に乗り、アドバイスをしたり、将来のお金の収支や貯蓄推移をシミュレーションしたりする。

・講演

相談業務で扱うようなお金関連のテーマで、行う講演。消費者向けや金融機関の利用者向け、大学の学生向けなどさまざまな会場で行われる。FP自身で企画開催することも。

・執筆

お金関連のテーマでの書籍、新聞、雑誌、ウェブメディアなどの原稿執筆。ライティングはライターが担当し、専門家として監修のみ行うことも。

筆者作成

上記に挙げた3つのほかに、金融商品や不動産の募集・仲介といった業務もあります。金融機関に属していなくても、生命保険の募集や株式・投資信託(投信)、不動産の仲介業による手数料収入を得ている場合があります。個人差はありますが、上記に挙げた3業務以上に保険や投信などの販売手数料収入が多いというFPや事務所も多数存在します。

もし、保険や投資信託を売っているのであれば中立とは言えないと考えるなら、「独立系FP=中立」とは言えないことになります。

本当に、そう言い切れるでしょうか? もう少し考えてみましょう。

■商品ラインナップが豊富なら中立といえるか?

金融商品の仲介など販売業務をしているか、していないかという軸は、さらに分解してみることができます。

図はあくまでも私の独断によるおおまかな分類ですが、一例として保険の場合、販売関連業務をしている独立系FPの中でも、1社の商品のみを扱うケースと、複数社の商品を扱うケースがあります。

筆者作成。※ビジネス形態は事務所・会社により千差万別です。この分類に当てはまらない場合もあります。

複数の会社の幅広いラインナップがあれば、中立的にお客様に合った商品を提案することは可能かもしれません。しかし、何社、何本の商品を扱っていれば中立と言えるのかは難しいところです。

すべての保険会社の全商品を扱うのは事務コストや商品知識習得などの面でかなり困難で、とりわけ少人数で経営することの多い独立系FPには現実的とは言えません。また恣意的に特定の商品ばかりを販売していれば、結局中立ではなくなる可能性もありえます。

反対に、1社の商品しか扱っていなくても、その保険会社の品ぞろえが豊富であれば中立的に選べるかもしれません。

そもそも多くの保険は1つの商品のなかでもプランが選べたり、オプションを付けはずしできたりするので、同じ商品を選んでも内容は人によってオーダーメイドに近い個人差が生じます。

ですから、一概に品ぞろえだけでは中立性を判断できないと、私は思います。

■保険や投信を売っていなければ中立といえるか?

では、金融商品の販売関連業務をしていなければ中立なのかというと、そうとも言い切れません。

こちらも私の独断で大まかに分類したものですが、保険や投信などの金融商品を扱っていない独立系FPのなかでも、講演や執筆業などを通して、銀行や保険会社といった金融機関と取引をしている事務所や会社はあります(私が経営する会社もその一つです)。

筆者作成。※ビジネス形態は事務所・会社により千差万別です。この分類に当てはまらない場合もあります。

一方で、売上は個人のお客様からの家計相談の相談料のみで、金融商品を扱う業者とは取引をしないという独立系FPも存在します。

なかには、事業資金や個人の預金などを除き、銀行など金融商品を販売する事業者とは一切付き合わないというFPもいます。

弊社の場合、特定の商品やサービスを推奨しないなどの線引きをしたうえで執筆や講演を引き受けることがありますが(これについてはまた別の機会に詳しくお話するつもりです)、どこまでOKで、どこからがNGかというスタンスは、数少ない独立系FPのなかでもかなり差があります。

そして、どこからNGとすれば中立なのか?も、考え方しだいです。商品を売っていなくても、銀行での講演や保険会社のサイトの記事執筆をしていれば中立ではない、とも言えるわけです。

こうしたスタンスの違いは絶対的な正解があるわけではなく、本人の考え方しだいです。同じ人でも、細かな線引きは案件によって変わる場合もあります。

ですので、商品販売の有無以上に、「FPが中立か?」を判断するのは、第三者からも、まして本人でも難しいかもしれません。

■中立は信頼の証になるか?

誤解しないでいただきたいのは、私は、企業に属するFPと独立系FPのどちらが中立かとか、商品を販売するFPとしないFPのどちらが中立かを論じているのではないことです。まして、どちらが信頼できるか優劣をつけるつもりも全くありません。

ここまで読んでいただいて感じた方もいると思いますが、なにをもって「中立」なFPか?の定義はあいまいです。

ですから、中立かどうかだけで信頼できるかどうか一概に判断できるものではない。FPという職業が、いろいろなアプローチで商品やサービスを提供していることを知っていただきたい。それがこの記事のメッセージです。

実際、保険に入りたいので保険を扱っているFPに相談したいというお客様もいますし、住宅購入のための相談だけしたいというお客様もいます。

どちらの形でも、お客様から信頼いただけるよう全力でサービスを提供するプロフェッショナルが数多く活躍しています。

大事なのは、消費者の誤認を招かないことです。商品やサービスの提供側はスタンスを明確にし、お客様や相談者はニーズに合った専門性を持つFPを選べる。それが、目指す姿だと思います。

業界全体として、消費者がわかりやすく確認できるしくみを整備することも必要でしょうし、個人的にも、きちんと伝える工夫をしていかなければと感じています。

世の中でのFPの認知度は、残念ながら現状はそれほど高くありません。だからこそ、消費者に信頼していただけるよう、いっそうの努力が必要です。

もし、FPに関心を持っている方や相談を検討している人がいたら、参考になればうれしいです。

加藤梨里(ファイナンシャルプランナー)


※本文中に記載のある「募集」「仲介」「販売」は、正確には意味が異なりますが、本記事では一般向けにかみ砕く目的で、一部の表現を簡易にしています。

※出典:日本FP協会「2021年度ファイナンシャル・プランナー実態調査」

https://www.jafp.or.jp/

この記事が参加している募集

お金について考える

最後までお読みいただきありがとうございました!あなたにお金の安心をお届けできるよう、これからも全力で執筆活動をしていきます。もし、サポートしていただけるようでしたらこちらからお願いいたします。泣いて喜びます。