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他己紹介

社内に若手スタッフがチラホラいた時分、彼らの新人研修を兼ねた編集講座を企画したことがあります。ついでに編集に興味を持たれているクライアントさんや外部クリエイターさんなんかもお呼びして。お客さんと現場の相互理解の場として期間はワンクール、週イチペースでやってました。

カリキュラムは、わたしが某専門学校の講義のために練ったワークショップ的なやつ。それこそ編集企画の立て方やら、予算の組み方やら、取材の段取りなど、ひと通り頭に入れておけば、明日からでもうちの会社でやっていけんじゃないかというくらい実践的なものです。一応は。
そもそも新人研修が裏テーマにありましたからね。実際の案件に照らしながら教えていくより効率的だと考えてチョイスしたものばかりでした。

その中で、参加者の皆さんから「楽しかった〜」と好評だったのが「他己紹介」でした。自己紹介ではなく「他者」にインタビューして、その人物の活動や人となりを記事にして、他の人たちに向けて発表するというプログラムです。

具体的には、まず2〜3人1組でインタビューのしあいっこ。雑誌でよく見かけるインタビューページをイメージしながら仕上がりを構想し、目の前にいる「他者」に対する質問を考えた上で取材に挑みます。

この場合のインタビューパートは、取材対象者である「他者」の話に耳を傾け、それを汲み取りながら自分の言葉で文章化するというのが目的。普通は「他者」の紹介を、トークで伝えるという方法が採られるんでしょうが、文章で伝えるというのが肝ですね。リアリスティックにありのままの「他者」を記事化してもいいですし、「他者」を何か別の架空の存在に仕立てるフィクションもよしとしました。その人物のキャラクターや魅力、バックグラウンドなどが、記事の中で活かされていればおk。

一方、編集作業には、各参加者のセンスやスキルが今どのレベルにあるか、現在地点を測るという意図がありました。なので、実際に誌面のラフレイアウトを自分で描いてみるだけでなく、取材対象者のポートレイト撮影もやってみようかということに。
このパートは懇意のカメラマンさんにご協力いただき、そのカメラマンさんのスタジオを使って撮影会。編集者は現場を取り仕切る能力も求められます。やりたいことを言葉で伝えなきゃいけませんでしょ。ですから、その立ち位置で、「他者」が最も映える撮影手法やシチュエーションをカメラマンさんと相談しながらやっていただきました。あ、ムラバックとか背景紙とか、お金のかかる舞台装置はヌキですよ。そのスタジオの白ホリゾントを生かし、カポックとか、椅子とかを使うのは可。その場でできる範囲での演出のみとしました。

これが結構面白くて。
1回目はレクチャーとインタビュー、2回目はポートレイト撮影とレイアウトのイメージ作成、3回目で発表会という流れだったのですが、かなりワチャワチャと盛り上がってましたね。座学より皆さんイキイキしてました。

発表の場面では、素直に王道のインタビューページを「紙のカンプ」でつくってきてくれた人もいれば、「ブログのプラットフォーム」を活用して、まとめた記事をノートPCで発表する人もいました。中には「グラフィックデザイナーというのは世を忍ぶ仮の姿で、実は異国の諜報機関に所属する凄腕ヒットマン」といった突拍子もないシチュエーションを設定した人がいて。ポートレイト撮影も陰影強め、表情がわからないほどにライティングを落として、それっぽく“顔出しNG”的なあしらいに。最終的には某写真週刊誌風の体裁で「独占スクープ」に仕上げてくれました。

インタビューで拾いあげた情報をキチンと反映させつつ、取材時の「他者」の様子や仕草の描写などもしっかり表現されていて、どれもこれも読み物として充分耐えうるものになっていましたね。それぞれに工夫を凝らしたインタビュー記事ができあがっていました。

たぶん皆さん、雑誌の編集にはまだまだ未習熟な部分は多いものの、雑誌の読み手としてはインタビューページというものに、各々の「かくあるべし」というのがなんとなくあったのでしょう。

展開形式も人それぞれ。
ごくポピュラーな3人称構成もあれば、音楽雑誌の『rockin’on』風にQ&Aの掛け合いが続く構成だったり、特異なパターンでは淡々と1人称の口語調で「他者」その人に自分語りをさせるという斬新なものもありました。
1人称だと客観的に書けない難しさが付き纏います。本人に過去の実績とかを語らせちゃうと、どうしても手前味噌な自慢話に聞こえちゃうもんなんで。ところが、照れ臭ささを感じさせる話し言葉を絶妙な匙加減で添えたり、抑揚を効かせた言葉選びの組み合わせで、そこそこ惹き込まれる内容になってたんです。だからこそ逆に「他者」のキャラクターがちゃんと伝わってきて。あれはホントに素晴らしかった。「インタビュー記事は3人称一択やろ!」なんて固定観念に囚われていたわたしにとっても学びになりました。

まぁ、ここまで大掛かりに悪ノリする必要はありませんが、「他己紹介」というのは結構コミュニケーションの訓練にいいかもしれません。
文章化や、ページ構成に落とし込むまではやらずとも、話を聞いて、みんなに話すというベーシックな方法なら、さほど時間をかけずにその場で完結できます。知らない人同士が一気に距離を縮めるチャンスになります。ま、だからこそ大学のサークルの余興や、企業の社内研修で使われたりするんでしょうけれど。

当然プレゼンテーションの練習にもなりますし、設定の工夫次第であらゆる職域に対応させながら業務の理解度を深められるカリキュラムに作り替えられます。
御社の社員研修でもこの「他己紹介」、いかがですか?  きっと盛り上がると思いますよー。


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