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賃貸か持ち家か論争

随分と前から喧しいこの論争。ちょうど家を買おうか買うまいか悩んでいらっしゃるお取引先のディレクターさんがいて、つい先日その話になりました。

わたしは、これに関しては断然「持ち家派」なんですが、ディレクター氏ご本人は「賃貸派」。奥様は一軒家でもマンションでもいいから持ち家購入希望で、いつも何かと対立するんだそうです。

「家を買っちゃうと、そこでいろんなことが決まっちゃいますよね。先々転職する時に足枷になっちゃうかもしれませんし、子どもの学校も自宅から通えるところを選んじゃいそう」

でた! 家を買うと自由が狭められる論。賃貸は住み替えが簡単で気楽論。

他にも、彼の口からは賃貸のメリットが続々と出てきます。
何か不具合が生じたら大家さんに申告して修繕してもらえるからとか、固定資産税がかからないとか、ご近所トラブルに巻き込まれにくいとか、なんかあったらすぐに引っ越せるとか、地震のような天災で壊れても補償してもらえるとか、まぁいろんな理由を舌鋒鋭く飛ばしてきます。

わたしもね。賃貸の気安さと利便性は理解しているんですよ。上京して初めて住んだ風呂無しアパート。その後、社会人になってからの風呂付きワンルーム。結婚して所帯を持った時に移り住んだ都内郊外の1LDK。やがて子どもが生まれて、さらに奥まで引っ込んで借りた3LDK。それぞれの街に思い出があって、暮らしの拠点が変わるたんびに都会の生活に慣れていき、知恵が付いたり、勉強になることがたくさんありました。

で、三十路に差し掛かる直前に、終の住処のつもりで購入したのが横浜のマンション。その当時、義母も同居するという話が持ち上がって、ひと部屋多い新築の4LDKを選びました。

もともと、わたしも嫁さんも若干世間知らずなところがあって、そこに至るまでに住んでいた賃貸物件が、わりかし家賃の高いところばっかりだったんです。よく給料に対して家賃の割合は3分の1以下に抑えるべしといった一般常識がありますが、共働きだったのもあって、そんなことはあまり気にしていなくて。マンションを購入する際にローンを組んでみたら、今住んでる賃貸より全然安いじゃん!という状況がたまたま生まれ、先々の不安など考えなしに決めてしまえた(今となっては、いい意味で背中を押してもらえた)んです。

でも、後々この判断がよかったんですよ。
交通の便や、街の発展具合などは、わたしも嫁も興味があったので、物件を探す過程で吟味しまくりました。どうせ終の住処なんだからと間取りの使いやすさにもとことんこだわりました。何年か後に、どこそこにナニナニが立って、といった再開発計画も一応チェック。道路の拡張予定があるとか、空いている土地が何かに開発されるなどという情報は、意識してチェックしていれば新聞のベタ記事などで見かけますし、各県の都市整備局のホームページからも閲覧できます。そういったことが「このマンションを売って一軒家に住むか」ということになった時に功を奏したのです。

それは、住み始めて十数年後。子どもらが大きくなって一人暮らしをはじめたり、大学の近くの寮に移り住んだり、同居していたお義母さんがちょっとした事情で別居することになったのも遠因。夫婦2人で広いスペースを持て余してた頃でした。不動産屋さんに相談したところ、リセール価格は買った当時のほぼ8割でいけるだろうとのこと。近隣エリアの地価上昇、ファミリー向けの4LDKがなかなかない、築20年以下ならフラット35の適用範囲内、空前のマンションブームなど好条件が重なって、、、売り抜けました。

これってかなり凄い話です。8割戻ってきたってことはですよ? 最長35年のローンを十数年にわたって家賃がわりに払ってたものですから、残債(買値の半分程度)を償却しても支払金額の大部分は手元に残ったということです。簡単にいうと買値の2割ほどで十数年間賃貸住宅に住んでたのと一緒。ほぼほぼ貯金してたのと一緒。たまに、投資用に買った物件が倍の金額で売れたなんて話を耳にすることがありますが、住んでいるエリアによっては、それに近い現象がこうして起こるんですね。さっそくこの資金を頭金にして、現在の家を購入したのはいうまでもなく。

それと、賃貸か持ち家かで悩んでいる人には、よく実家の話もします。

郷里にいるうちの父は、祖父から譲り受けた実家に住んでいますが、当然ローンなどはとっくに完済していて、せいぜい毎年の固定資産税を払うくらい。ど田舎ですから大した金額じゃありません。年金暮らしの父にとってはとてもありがたい状況です。

いっぺん、売りに出してみる話はあったんですがね。建物は二束三文としても土地はそれなりの価格で売れるんじゃないかと。売ったお金で老人ホームに入るなり、安いアパート暮らしをしてもいいんじゃないかと。
ところがどっこい、古い家屋が残された土地はおいそれとは売れません。上物を壊す費用を考慮し、買い手は足元をみて買い叩きにきます。用地買収の候補地になるなど、よほどのラッキーがない限り売れないでしょう。
また、地方とはいえ老人ホームはバカ高い。条件のいい施設は、数十人から100人待ちがザラ。費用だって都心のワンルーム以上のお金がかかります。
一方、賃貸だって、収入のない後期高齢者に部屋を貸してくれるようなところはないのが実情。不注意で水漏れやガス漏れ、火事なんて起こされたらたまったもんじゃない。孤独死されでもしたら、すんなり次の入居者が現れない。当然審査も厳しく、特別な縁故でもない限り難しいでしょう。
そもそも、家財道具の大半を処分するにもお金がかかり、引越しするにもお金がかかり、ようやく一段落ついても死ぬまで家賃負担が続くんです。持ち家があってむしろよかったねという話に収まりました。

持ち家には、こんなメリットも挙げられます。
例えばリフォーム。業者さんに頼んだら、予算と相談しながらお仕着せの修繕をするほかありません。自分なりに手を掛けたり、思い立った時に模様替えをしてみたり、ホームセンターを回って安い資材を集めたり、あれこれ考えたりするのは、実益を兼ねた趣味になり得るもの。仮に素人では難しくて結局プロに依頼するような作業でも、中身を調べて知っているのと知らないのとじゃ、かかる費用も段違いで変わってくるでしょう。税制や保険なんかの知識も増えますし、家を持つことで確実に見識が広がります。それを仕事に活かせたこともありますし。

でも、最後に決めるのはその人ですから。必ずしも持ち家がベストとはいえない場合もあるでしょうし、ケースバイケース。くだんのディレクター氏は果たしてどうされるのか。決着はまだ先のようです。

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