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【和訳】"MTOMB (feat. Liv.e)" - Earl Sweatshirt

"FEET OF CLAY (Deluxe)" リリース

 "FEET OF CLAY"のデラックス盤がリリースされました。追加された二曲のうち "WHOLE WORLD (feat. Maxo)" はすでにシングルとして配信されていたものになります。このため新曲は実質 "GHOST (feat. Navy Blue)" の一曲ですが、前作収録の"The MINT (feat. Navy Blue)” に続き、EarlとNBのタッグが今回も抜群の相性を見せています。

"MTOMB"のクレジットについて

 さて今回和訳するのは"MTOMB"です。

 プロデュースはThe Alchemist。NasやSnoop Doggの作品を手掛けたこともあるHIPHOP界の大物です。先述 "WHOLE WORLD (feat. Maxo)"でもプロデュースを担当しています。ファンの間では Earl × Alchemist によるアルバムないしEPの製作が待望されています。(Madvillianの再来を彼らに期待する声もあるようです。)

 フィーチャリングのLiv.eは女性のボーカリストで、7月31日にアルバム"Couldn't Wait To Tell You..."をリリース予定です。

 また、先述の"The MINT"をプロデュースしたBlack Noi $eと共にシングル "The Band (feat. Liv.e)" を発表しています。

 サムネイルのみならず、MV全体通してEarlが出ずっぱりです。"East"と似たような手法(脈絡なく別の動画を画面上に埋め込む)で作られていることも注目に値します。

こちらはEarlのインスタアカウントですが"The Band"のリリース時にはわざわざ宣伝の投稿をしていました。めちゃめちゃ仲良いっぽいですね。今後も彼の作品に大きく関わってくる可能性大です。

和訳

(イントロ)
"So, so we, so we did it? ~"
 俺ら、なあ俺らかましたよな? *
yeah, yeah
  
 イェーイェー

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* 伝説的ヒップホップグループ、Wu-Tang Clanの NPR Music Tiny Desk Concertからサンプリング。

 18分59秒からのRZAのMCがサンプリングされている。「フリースタイルするから合わせて演奏してくれないか」とバンドに問いかけているシーンである。このライブはデビューアルバムリリース25周年を記念したもの。


(バース)
Pray for the people 
 人々に祈ろう*
I make up the easel first, then paint what I see through
 俺はまずイーゼルを作る、すると絵が透けて見えてくるんだ
The maze, I'm an eagle, spend a day up at the creek
 迷路に対して俺は鷲*。小川*の辺りで1日を過ごす
We got the same amount of heat too, but they not as regal
 俺ら同じ熱量を持ってる、でも奴らは俺らほどの威厳*はない
Crudités not gon' cut it, cut it slight
 クリュディテ*をカットしないだろう、ほとんどうまくいきやしねえよ

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*サンプル元の"Theme (for the people)” をサンプリング。また"EAST"の終盤の歌詞と文脈が繋がっている。
*迷路を上から俯瞰しているイメージ。"74" 序盤の歌詞からも分かるように、Earlは自身の行手を阻むトラブルを克服する術を身につけてきているようである。
*アメリカコロラド州に本社をおく旅行かばんメーカー、Eagle Creekをもじった言葉遊び。どちらかというとアウトドア系の用品を主に扱っているみたいです。 

* "regal"は王者の威厳を意味する語。
*Cruditéはフランス料理の一種で、生野菜によるオードブルを指す。高級フランス料理店では、前菜としてサラダや野菜スティックが出されたりすることがあるらしい。解釈は以下の2通りあると思われる

1. Earlはラップの王者としての威厳を纏っているが、多くの若手はそうではない。また高級フランス料理は地位が高くリッチな客が通うような、格式の高い店で提供される。王者たるEarlはこうしたフランス料理を食べる資格があるが、若手達は野菜を細かく切り分けるクリュディテ(が出されるような店)に格が追いついていない。また"cut it"には「うまくやる」と言う意味合いもある。まとめると、「スキルのない若手ラッパーたちは王者Earlに対して格下であり、いずれ失敗の憂き目を見る」と解釈できる。
2. 高級フランス料理店に着飾って通うような層を皮肉っている。クリュディテは基本的に冷たい状態で提供されるメニュー。「Earl及びその仲間は熱量を保っており、ラップの王者としての威厳も他のラッパーには勝るが、王者だからといってカッコつけてフランス料理店にいき、冷めた野菜をチマチマ切ったりしない」。
→試訳では1を採用。いずれにしろ「野菜切るのはシェフだろ」と言う疑問は残る。

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Braids brought out my eyes
 ブレイズが俺の目を引いた*
I saw a light, I was nine
 俺は光を見た。俺は9歳だった
Told my n**** Miles we might gon' be all right
 マイルス*のやつに俺らオッケーだろって言ったんだが、
Guess I was right, twenty-five was a quarter to life
 俺は正しかったみたいだ。25年は人生の四分の1*
I'm on it, I strike, trials
 俺は今そこにいる。試練に打ち勝つ

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*Apple Musicのエディターノーツに、このパートについての本人のコメントがある。どうやらEarlは小さい頃に髪をよくブレイズにしていたようである。
*同じくApple Musicのエディターノーツには、製作の過程で削除されたと思しき歌詞が引用されている

‘I don't know what, but I know when we 18, I'm going to have an apartment and I'm going to be smoking in that m***f***a.’

 彼の解説を要約すると、「自分も9歳くらいの頃は(人と同じように)自分の部屋で遊んでいたが、やがて18になり自分のアパートを借りて、そこでチルするようになった。このアパートに当時住んでいたのがマイルスで、二人でよく大麻(もしくはタバコ)を吸っていた」ということらしい。
*リリース当時彼は25歳。「人生の1/4」を経てようやく光が見えてきた彼の人生を描写している。またここでは裁判にちなんだ言葉遊びが行われている。アメリカの法律では殺人罪の懲役が最低でも25年、最高で無期であることから、"twenty five to life"と言う定型表現が存在する他、次の行の”trial”にも裁判の意味がある。


Tricknolog' you fond of, I don't even like
  トリックテクノロジー*をお前は愛してるが、俺は好きですらない
The socialite reformed, alone every night
 社交的な性格は変化した。毎晩孤独だ
Post-performance, dizzy in the corner, boy, it wasn't nice
 ライブの後、隅でめまい、なあ、やな出来事だったよ*
Learnin' how to get grimy
 俺は汚れ*方を学んでるところだ
Pick a pole to grab and flip
 ポールを選んで掴め、そしてフリップしろ
Ho, we gon' shake something now
 ビッチ、俺らアレを振るんだ
I got some time this year
 今年は時間がある
I'ma go ten rounds and dip out what time is it?
 10ラウンドまでいくよ、そして「今何時だ?」って感じで帰る

*"trick"+"technology"を掛け合わせた語である、"tricknology"の略。ペテン、いかさまのテクニック、特に人を騙すための会話、言葉のテクニックを指すようである。
*父の死を指すと思われる。ちなみ彼は父の死を受けてライブをキャンセルした経験がある。


*Grimeと呼ばれるジャンルを世に広めたのはロンドンのMC、Dizzee Rascalであり、彼の出世作となったアルバムが"Boy In Da Corner" である。"dizzy in the corner"と"grimy"はいずれもここにかかっている。


⭐︎"Pick~"から”~ is it?”の四行は、2通りの意味を持つパートである
1. 性的な行為の描写。"pole"はポールダンサーがダンスに使うポールを指す。”flip"は尻を上に突き出すような動きのこと。"shake"するのは尻、もしくは腰となる。"10 rounds"は「10回戦」のこと。10回もした後ならば、どれだけ時間が経ったか気にもなるだろう。
2.犯罪行為。"pole"は銃の隠語であり、"shake"には相手をびびらせると言う意味合いがある。また"round"は弾薬の単位(一発分の弾薬を指す)である。ただし"flip"の目的語に銃が取れるのかどうかは不明。いずれ場合もEarlがやろうとしているのは「ダーティ」な行為であり、直前の"Learnin' how to get grimy"と文脈が繋がる。

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Mami Wata, shawty blew the fish out
 マミワタ*、かわい子ちゃんが魚を痛い目に合わせた。
Piscean just like my father, still got bones to pick out
 魚座生まれ*の俺は父によく似ている。まだ話したいことがあんだよ
For now let's salt the rims and pour a drink out
 今は縁に塩をつけて*、お酒を注いで
And sip (Mmh)
 一口飲もうよ(うーん)

*アフリカや、アメリカのアフリカ系の人々の居住区などで信仰される水の女神(Mammy Water) 。人魚の形で描かれることもある。
*Earlは2/24日生まれの魚座。ちなみにEarlの父は9月生まれなので別に魚座でもなんでもない。
*グラスの縁に塩をつけて飲むカクテル、マルガリータの描写。


サンプルとタイトルついて

 "MTOMB"というタイトルは、トラックに用いられたサンプルがMtumeの"Theme (for the people)”から取られていることを踏まえた言葉遊びになっています。Genius.comの以下の記事に詳しい記載があります。ちなみに"Theme (for the people)"のリンクが埋め込まれていますが、日本では聴けないみたいです。無念。

 Mtumeが70年代のファンクバンドであること、Mtumeは他にも"Juicy Fruit"がThe Notorious B.I.G の"Juicy" (90年代ヒップホップを代表するクラシック)に用いられていること、さらにThe Alchemistは同じ”Juicy Fruit”を使ってビートを製作したことがあることなどが説明されています。

 また記事には、"FEET OF CLAY"が「帝国崩壊の苦しみの中で感じたものを描いた」作品であること("74"の和訳の際に触れた内容です)や"MTOMB”の歌詞の内容についても記載があります。

 取り上げられているのは "I'ma go ten rounds~"から最終行までのパートで、記事によれば、ここでEarlは"extended metaphor"を掘り下げていると言います。つまり、Earlはまず性行為をする相手を美しい人魚("Mami Wata" = "shawty")になぞらえ、そこから海にまつわるテーマを発展させて「魚」を登場させ、魚座生まれの自身の話題を持ち出したのだと考えられます。"fish"はEarl自身の暗喩です。
 一方、"blow out" には一般に「吹き飛ばす、撃ち殺す」などの意味があります。この場合"fish"がEarlを指すとは考えにくいかもしれません。(直前の歌詞で"pole"を使っているのはEarlの方であるため)。
 そこでもう少し調べてみると、"blow someone out of the water"と言う表現があることがわかりました。「痛い目に合わせる、コテンパンにする」と言う意味のほか、「大いに驚かす」(予想を裏切ると言うニュアンスが含まれることもあるっぽい)があるみたいです。「全くあのマミワタちゃんのハードなプレイには参ったね」くらいのニュアンスで理解しておくのが妥当かもしれません。

Earl Sweatshirtプロデュース楽曲と比較するThe Alchemist

  これまでに和訳した"74" "EAST"はいずれもEarl本人がプロデュースした楽曲でした。"MTOMB”はこれらに比べると聴きやすい作りになっています。と言うかEarlが作った他のトラックがめちゃくちゃすぎる。特に次回和訳予定の"OD" はかなり聴く人を選ぶ作品です。"MTOMB"はFOTにおいてまともなドラムループが聴き取れる、数少ない楽曲のうちの一つなのです。
   彼は前作"Some Rap Songs"でも多くのトラックを自ら製作し、オリジナリティあふれるアブストラクトなサウンドを自身の手によって確立しました。しかしそのクリエイティビティはFOTにおいて、すでに「行くところまで行ってしまっている」ように思います。特に顕著なのは拍感が失われている楽曲が多いことです。一方"MTOMB"はごくシンプルな8ビートを刻むドラムスがきちんと聴こえてきます。ですがこの楽曲がアルバム全体の雰囲気を崩すことはありません。そして(Earl作の尖ったトラックと比べて)陳腐に聴こえてしまうこともない。The Alchemistの実力が十分に理解できるプロデュースだと思います。(僕はEarlが作ったエクストリームなビートも大好きです)



(参考) "Earl Sweatshirt - MTOMB Lyrics | Genius Lyrics " 


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