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【和訳】 EAST - Earl Sweatshirt

  "FEET OF CLAY"の二曲目、"EAST"の和訳です。アルバムタイトル同様 "ALL CAP" での表記となっています。

 "EAST"はアルバム内で唯一MVが公開されている楽曲です。しかしアルバムの中ではかなり浮いた曲、さらにいえば彼のキャリアの中でもかなり尖った一曲になっています。僕は公開直後に視聴したのですが、コメント欄からも英語圏のファンの困惑が伝わってきました。

和訳

 今回も主にGenius.comを参照。すでにne.Lamb様がブログにて和訳を公開されていましたのでこちらも参考にさせていただきました。ありがとうございます。以下にURLを貼っておきます。


Double back when you got it made
 成功を収めたら来た道を引き返せ
Thirty racks and weed, no fat in the collard greens
 30パックのビール*と大麻、カラードグリーンには脂肪分がない*
Off top was me, no cap, I don’t bottle things
 オフトップ*なのが俺だ、嘘はない、何も瓶詰めしたりしない*
Flashin’ grandmama rings on her fingers and fondle the thing
 婆さんのゆびにリングを輝かせ、物事を愛でるんだ
Hollow with glee
 喜びで満ちた俺の心の穴*

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*rackの訳はGenius参照。「ビールのパック」という意味が本当にあるのかは不明。
*カラードグリーンはキャベツに似た緑黄色野菜の一種。アメリカではかなりポピュラーな野菜で、家庭で食されている。ここでは大麻のこと指していると思われる。
*"Off top"とは、頭にぱっと浮かんだことを即座に口に出すこと、転じて嘘がないこと。"Off the top of my head" を縮めた表現。"I Don't Like Shit, I Don't Go Outside: An Album by Earl Sweatshirt" には "Off Top" というタイトルの楽曲が収録されている。

しかしここではこの曲に言及しているというわけではないようである。
*"no cap" は「マジだよ、嘘じゃないよ」という意味合いで一般的に使われている表現。ここではボトルのキャップにかけている。
*Geniusのアノテーションでは「"hollowではなく”holler"の間違いだ」とされているが、"hollow”でも意味は通じる("holler”の場合、「喜びで声を上げる」という意味合いになる)。ちなみにEarlの代表曲、"Chum" には以下のような表現が見られる。

"Sixteen, I'm hollow intolerant, skip shots  
I storm that whole bottle, I'll show you a role model"
ー "Chum" - Earl Sweatshirt

Not ominous but James Harden D
 ジェイムズハーデンのディフェンス*以外に不吉な*要素はない
Weak n****s guarding will peak
 弱いやつらの守備が最高潮に達する
Followers just like me
 俺みたいなフォロワーたち
I lost my phone and consequently
 俺はケータイをなくしたんだがその結果
All the feelings I caught for my GF
 ガールフレンドに抱いてたあらゆる感情までもなくしたんだ
My hands was on her wings
 俺は彼女の翼に手をかけてた
I took ’em off, had a story careen against the bars
 俺はそれを外して、物語を小節*へと向けた

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*ジェイムズ・ハーデンはNBAのトッププレイヤーだが、守備が弱点。バスケファンの間でも彼の守備がネタにされているようである。
*音源を聴く限り、"not ominous but"とは言っていないような気がする。
*音楽、ないしラップのこと。彼女を拘束するのをやめて、ラップに向き合うことにしたという内容。


My canteen was full of the poison I need
 俺の水筒は俺に必要な毒*でいっぱいだ
The trip as long as steep
 長く険しい旅
My innocence was lost in the East
 俺の純粋な心は東*で失った
Amidst the thick exhaust
 濃い排気ガスの中
Ahki hit the horn, it beep
 アーキ*が警笛を鳴らす。ビーっと音がなる
Mention my sentence is strong
 俺の文章は強力だ
We all that we need
 俺らに必要なもんは全てここにある
But don’t call me brother no more
 だがもう俺を兄弟って呼ばないでくれ

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*アルコールのこと
*「東」は主に2通りに解釈可能である。
1.  アメリカ東海岸。父の死を受けて製作した"Some Rap Songs"のレコーディングを、Earlはイーストコーストで行ったようである。
2.  中東。トラックの元ネタがエジプトのシンガーによるものであることを受けて。またアメリカ東海岸のニューヨークや中東の都市部ではいずれも排気ガスによる公害問題が深刻である。
*アラビア語で「兄弟、ブラザー」を意味する。どうやら場面はアラビア語圏である。


I keep my sentences short
 俺は文章は短く保つ*
Stack Pendleton keep me warm in the winter
 重ねたペンドルトンは冬でもあっためてくれる
Ksubi’s cuff done hit the floor
 スビの裾が床を叩いた
Doobie Brothers where the city morgue
 ドゥービーブラザーズ*、市の遺体安置所はどこなんだ?*
Who would truly love a visit from us?
 俺らの来訪を誰か真に歓迎してくれるかな?
My soul and my heart
 俺の魂と心は
All in it, keep fishing
 全てそこにあるんだ。探し続けるんだ
Gone, the macabre finish
 どこかに消えた、不気味な終わりを

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*彼のラップスタイルのことを説明している
*ドゥービーブラザーズはアメリカ西海岸を代表する70年代のロックバンド。
*このあたりから歌詞のテーマが「Earl自身の死」にシフトしている。ドゥービーブラザーズはかつてのメンバーがすでに複数名亡くなっている。Earlは「俺が死んだらいくことになる安置所はどこなんだ」と先に亡くなった偉大なミュージシャンに問うているのではないかと思われる。ただし、Earlの育った地がロサンゼルスであるのに対しドゥービーブラザーズはロサンゼルスで活躍した西海岸のスターではあるものの、そもそもはロサンゼルスではなくサンノゼのバンドである。何か他の解釈があるのかもしれない。


And miss my Pop dukes, might just hit me
 父さんが恋しいよ、その拳*に殴られるかもしれないけど
Depending how I play my cards
 俺の立ち振る舞い次第なんだよな
The wind whispered to me, “Ain’t it hard?”
 風が囁いてくる「辛いよな?」ってさ
I wait to be the light shimmering from a star
 俺は自分が星の煌めきになる*のを待ってる
Cognitive dissonance shattered and the necessary venom restored
   認知的不協和*は粉々に崩れ、毒*がまた必要になった。
As if it matters if you think it matters anymore
 今やそれを重要だとお前が考えてるかどうかの方が重要みたいだ
‘Cause shit be happening with quick results
 なぜならクソみたいなこと*が起きてるから。その結果はすぐに出るんだ

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*"poppa dukes"が父親を指す定型表現であり、同時に"dukes"が拳、ないし格闘を意味する。掛け言葉。Earlが6歳の頃両親は離婚し、父は彼を置いて家を出て行った。2018年1月に他界。
*死ぬこと
*自身の中に矛盾する認知が存在すること、またはそれに因する不快感。この矛盾を解消するために自己の正当化や合理化が行われることがある。
    ex) 狐と葡萄(イソップ童話)
*すでに登場した"poison"と同様、アルコールと解するのが適当かと思われる
*(黒人に対する)警察による暴力や不当な逮捕などのことを指している。このあたりからテーマはアメリカにおける構造的な差別、黒人の人権問題に移っていく。

画像2


They couldn’t fathom all the damage that had to get done
 奴ら今までに俺らが受けてきたダメージの全てを推し量ることなんかできない
Piglets in a barrel we cookin’ up
 俺らは樽の中の豚*を調理してるんだ
Don’t get a sparrow, no harrowed runics in that there tomb
 すずめを捕まえるな、その墓には削られた*ルーン文字なんてない
And a share of deadly flowers bloom
 死にかけの花の一部が咲く
Holler rabidly, we stare at you
 そして急に叫びだす。俺らお前*を見つめる
And say a prayer
 そして祈りを捧げるよ
Let’s take it there like carrier pigeon
   伝書鳩を送り出すときみたいにさ

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*"pork barrel" という表現が存在する。英辞郎 on th WEBによると、奴隷制に由来する政治用語であるという

語源は諸説あるようだが以下の記事にわかりやすく解説されている。歌詞の解釈としては「(Earlたち)黒人は、かつて奴隷に与えられてきたような樽入りの豚を今も食べている(アメリカには奴隷制の頃と変わらず差別構造が残存している)」が適当かと思われる。


*"harrow"の元の意味は「クワで耕す」。石碑に掘られていたが、経年劣化で判読不能になっているような字句のことを指していると解釈した。正確な意味は不明。

*"stare at"は「驚いてみつめる」というニュアンスを持つ表現。よってみつめる対象は「急に叫んだ人」になる。

※このパートにまつわる本人のツイートが以下の二つ。Geniusのアノテーションには「こちらが正しい歌詞だ」と書かれていたが、おそらく本人による替え歌の可能性が高い。このツイートはジョージフロイド事件の直後に投稿されたものであり、BLM運動に関連して、彼の主張を自身の楽曲に絡めて述べたものと思われる。

奴らこれまでのダメージを全て推し量ることなんてできないぜ、腹の中の豚を俺らが調理するんだ /  すずめに警察に同調するための空気や場所を与えるな。死にかけの花が咲く。そして急に叫び出す。俺らお前を見つめてそして祈るよ。一緒に行こう。


50,000 roots, none of ’em rigid
 五万のルーツのなかに、厳密なものはない
Some of them wicked how they grew
  そしてそのいくつかは酷いもんだろ


解釈〜西から東への旅〜

 Apple Musicのエディターノーツには、"Ahki~"から"~brother no more" までについて本人のコメントが掲載されています。彼によればこの部分は「タクシーの後部座席における実生活の真実」だそう。正直これだけではあまり意味がわかりません。ただ僕は、「彼は自身の人生を車による旅に喩えているのではないか」と考えています。

 彼はロサンゼルスで育ち、ロサンゼルスでOdd Futureに加入してデビューした、いわゆる「ウエストコースト」のラッパーです。若干15歳にして才能を認められた当時の彼には、怖いものなどなかったかもしれません。しかしOdd Futureの活動はすこぶる過激で、Earl自身も薬物中毒やアルコール中毒に犯されていたようです。デビュー直後にリリースしたソロ曲"EARL"のMVには、彼らのクレイジーな遊びっぷりが収められています。

 音楽活動が彼に与える悪影響を心配した母親はEarlを自宅に軟禁し、さらにはサモアのボーディングスクールへと入学させます。サモアで何があったのかは我々にはわかりませんが、復帰後初のソロシングルとなった"Chum"では長年憎んできた父への複雑な感情をエモーショナルなピアノリフに乗せてラップしています。デビュー当時の攻撃性はそこには見られません。

 また、父の死を経てアメリカ東海岸で製作した"Some Rap Songs"は非常に暗い内容になっています。彼はラッパーとしてのキャリアの中で、デビュー当時のスタイルを離れ、そのスタンスを変化させてきたのです。

 こう考えると、Earlは「若さを捨て、純粋さを失いながら痛みや悲しみを受け入れていく過程」を、「西海岸(ロサンゼルス)を離れ"EAST"(故郷ではない場所、西ではない場所)へと向かう過酷な旅」になぞらえているのだと解釈できます。さらにその過酷な旅の途中、車窓から見えたのはアメリカの抱える環境問題や人種問題。2分未満の楽曲ですが、そのリリックの濃さは相当なものです。そしてここまで読み解いてみると、冒頭の一行は、並々ならぬ重みを持ったパンチラインとして胸に迫ってくるように思います。


サンプルについて

 トラックに用いられたサンプルは今のところ不明です。一応調べた限りの情報を記載しておきます。

・genius.comの"EAST"のページには以下のような記載がありますが、「エジプトの国民的シンガーであるアブドゥル・ハリム・ハーフェズの楽曲のいずれかである」以外の情報は得られませんでした。また、何を根拠にハーフェズの楽曲だと主張しているのかも不明です。

"He does so over a sample from a song by 20th-century Egyptian singer Abdelhalim Hafez. "
  ー"Earl Sweatshirt - EAST Lyrics | Genius Lyrics"    

引用元: https://genius.com/Earl-sweatshirt-east-lyrics

・元ネタを探すのに役立つ whosampled.com にはそもそも"EAST"のページが見当たりませんでした。
・Earlの楽曲に用いられたサンプルをまとめた動画を発見しましたが、投稿者も"EAST"の元ネタに関してはわからないようです。

この動画のコメント欄からも、元ネタ特定の困難さが分かります。


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Bandstandは、アルバムやアーティストごとに使用されたサンプルをまとめ、動画化して公開しているチャンネルです。しかし"FEET OF CLAY"の動画は制作されていないようです。(前まであった気もするんだけどな、、、)いずれにせよ元ネタ探しは迷宮入りということになりそうです。




参考: "Earl Sweatshirt - EAST Lyrics | Genius Lyrics" 





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