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【和訳】"Off Top" - Earl Sweatshirt

 "EAST"を和訳する際にこちらの曲も訳してしまったので、記事として公開しようと思います。2015年リリースの"I Don't Like Shit, I Don't Go Outside: An Album by Earl Sweatshirt"に収録されており、 このアルバムからは"Grief"と"Off Top"の二曲がMV化され公開されています。

 プロデュースはOdd FutureのLeft Brain。アルバム内では唯一、Earlプロデュースでない楽曲です。Left Brainは同じくOFのHodgy Beatsと共にMellow Hypeを結成して活動しています。


タイトルについて

 和訳の前に楽曲のタイトルについて解説を加えておきます。「思いつきで、パッと浮かんで(口に出す)」という意味を持つ"off the top of one's head"という定型表現があり、これを縮めたものが"off the top"ないし”off top"になります。「あれこれと考えて口に出したのではない」という意味が転じて、「嘘ではない、マジの」というニュアンスを表すこともあるようです。スラング解説サイト、"Urban Dictionary"より、off topのページを参考までに貼っておきます。

"Urban Dictionary: off top"  https://www.urbandictionary.com/define.php?term=off%20top

 連想ゲームのように種々の話題に触れながらパンチラインやワードプレイを並べていく、という彼の作詞技法を"off top"と表しているのであれば、この曲のタイトルは「徒然」とでも訳しておくとお洒落かもしれません。

和訳

(イントロ)
Yo I gotta stop smoking backwoods
 俺はバックウッド*を吸うのはもうやめようと思う

(バース)
"How you doing?" And what's your motive, ho? 
 「よお、元気か?」 って何が目的だよお前
I only trust these bitches 'bout as far as I can throw 'em
 俺は俺が投げ飛ばせるやつしか信用しないんだ*
Trying to pay my momma rent, figure that's just what I owe her
 ママの家賃も払おうと思ってるんだ。それが彼女に対する義理だと思うからさ*

*葉巻の銘柄
*「全然信用していない」という意味の定型表現
*Earlは母子家庭で育った。2010年、Odd Futureでの活動に没頭するEarlの身を案じて彼を一時自宅に軟禁し、サモアの全寮制学校に入学させたのも母だった。ちなみに彼女はロサンゼルス大学カリフォルニア校にて法学教授を務めており、特に人種問題にまつわる研究で論文を多く発表している。OF時代のEarlが母親と衝突していたことは想像に難くないが、近年はむしろ彼女の知識に学んでいる部分が少なくないように見受けられる。EarlのYoutubeアカウントには親子対談の動画がアップロードされている(いつか訳したい)。


I been trouble since I tumbled out that stroller
 ベビーカーから転がり出てからというものトラブル続きだった
Strollin easy down this narrow path, beefin' with your scary ass
 この狭い道を難なく転がっていって 臆病な奴らにビーフを仕掛けた
'Preme got my little niggas cheesing off the cherry ad
 シュプリームは俺の仲間に"Cherry"*の広告料をよこした*
And n***a that's a great lunch
  なあ、あれは最高のランチ*だったな
Poppa swamp and stomping with the skate fucks*
 パパ・スワンプ*、FA Sk8 Fucks*と一緒に足を踏み鳴らしてる
Heavy handing tracks until the day the fucking train come
 くそったれの電車が来るまで、トラックと格闘してるんだ*

*Earlの友人が所属するスケートチームはSupremeに"cherry"というタイトルのスケートビデオを提供した。

*"cheese off"は「イラつかせる」と言う意味の慣用句になるようだが、ここでは意味が通じない。ラクレットのように、チーズを削り落とす("off"する)イメージの方が適しているかと思われる。

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*「あれは最高の経験だったな」という意味で、ビーフ、チェリー、チーズの流れを受けた表現になっている。
*Earlのニックネームらしい
*Fucking Awesomeというスケートブランドのスケートチーム。Earlも関わりがあるらしく、FAの公式Youtubeチャンネルには彼が出演するラジオがアップされている。Jason Dillはブランドを創設したレジェンドスケーター。

*「死ぬまで(お迎えの列車がくるまで)音楽に取り組み続ける("track"は線路と楽曲のダブルミーニング)」


Raised up where every mouth that speak the truth get taped shut 
 真実を語る口はどれもテープで塞がれた、そんな土地で育ったよ
Peep the evening news my nigga, we don't do the same stuff
 夜のニュースを見てくれよ、俺らこんなことしないよな
Kiwis couldn't take us, boy I’m jogging around these bases
 キウイ*は俺らを受け入れない よお、俺はベースを回ってるんだ*
N****s pitches need to change, I separated from my main one
 ピッチ*は変化を必要としてる、俺もメインの女とは別れたよ
It's just another day, another n***a's bitch to face fuck
 いつものことだよ、誰かの女にクチでしてもらうなんて

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*"Kiwi"はニュージーランドの人々のこと。ニュージーランド移民局は「公序良俗に反する恐れがある」としてOdd Futureのメンバーの入国を拒否している。
*ホームランのこと
*"pitch"は「(野球の)投球」と「音の高低、転じてメロディ、音楽スタイル」のダブルミーニング。

「Earlはホームランを打っている」→「ピッチャーは投球内容を改善しなくては打たれ続けてしまう」→「同じようにアーティストも自分の音楽を更新し続ける必要がある」→「Earlもかつてのスタイル("main one")をすて、新たな試みに取り組んでいる」→「さらにEarlは古いスタイルだけでなく、かつての彼女("main one")とも決別した。」→「結果他の男の彼女とも肉体関係を持つ」 

⭐︎MVの該当箇所ではEarlが"main one"とラップするシーンで女性のイラストが一瞬オーバーラップしている。"main one"を昔の彼女とも解釈できるのはこのためである。

スクリーンショット 2020-07-28 4.15.53


I been like this since the Motorola Razr  
 モトローラのRazr*が出て以来ずっとこんな感じだよ
What a bastard that baby was, little mad n***a missing dad
 その赤ん坊は哀れにも私生児*だった。小さないかれた黒人が父を恋しがってたんだ
Never praying much
 そしてもはや祈ることはなかった
Right around the same time his grandmama drank a bunch
 その頃ばあちゃんはめちゃくちゃ酒を飲んでた
Take the bus, take a n****s seat like it was made for me
 バスに乗って、黒人シートに座る。俺のために作られた席みたいに。
I got this n***a Da$h with me
 俺はDash*と一緒に過ごした
He sipping on some maple leaf 
 奴はメープルシロップ*をやってたよ

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*アメリカの携帯端末メーカー、モトローラ社が2004年に発表した折りたたみ式の薄型携帯モデル。当時Earlは10歳だが、果たしてこの頃から人の彼女に口淫させていたのだろうか、、、。ちなみにRazrはこのたびフォルダブルスマートフォンとして復活するらしい。
*Earlは母子家庭で育った文字通りの私生児
*Da$hはA$AP MOB所属のラッパーで、アルバムのネクストトラック”Grown ups"にフィーチャーされている。ロッカフェラレコードの設立者の一人であるDamon Dashの甥。
*リーンのこと

I'm only happy when there's static in the air cause the fair weather fake to me 
 俺は静電気が空気に満ちてる時だけ幸せでいれるんだ。良い天気は俺を騙すからLiving in the scope, hairs crossed like adjacent streets
 俺はスコープの中で生きてる。レチクル*は燐接する*道のように交差する
Dare a n***a think it's sweet, never, bitches funny boy, 
 それをあえて楽しいことと捉える、そんなわけないだろビッチ、面白え奴だな
You berries and you honey for the bear that's here to tear and eat
 お前らベリーにハニーだよ、熊がやってきて引き裂いて食っちまうぞ
Run a n****s pockets like some errands,  make it hasty
 ちょっとした用事みたいに黒人のポケットをあさる。急ぐぜ。
Hope the sheriff keep away from me
 警察が俺から離れてくれることを祈るよ。

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*レチクル("hair")とはスコープに描かれた十字の座標軸のこと

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*"adjacent"は「隣接角」などの数学用語に用いられる単語。ここでは二つの道が隣り合って平行に伸びているのではなく、一つの点で接しているイメージ。

シカゴの黒人少年射殺事件への言及

 2014年10月、アメリカイリノイ州シカゴで、高速道路を歩いていたラカン・マクドナルドさんが白人の警察に発砲を受けて死亡する事件が発生しました。

 Genius.com のアノテーションに付随するコメント欄では、"Living in the scope, hairs crossed like adjacent streets" のラインが、この事件に言及して書かれたのではないかと言う解釈も見受けられます。いずれにせよ、スコープを覗いているのは警察官だと解釈するのが妥当かと思われます。



(参考) "Earl Sweatshirt - Off Top Lyrics | Genius Lyrics" 



  

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