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銀座のママと休業補償


新型コロナウィルスの大流行で休業している高級クラブのママの「どうやって生きて行けば良いのか」発言が物議を醸している。


まぁクラブのママと言えば、作家物の友禅に西陣織の帯と大きな宝石が付いたアクセサリーを身に付けて、エルメスのケリーバッグを持って、家賃数十万円~数百万円の高級マンションからご出勤。お客様にハイブランドのバッグや靴やアクセサリーを買って頂くのが日常で、お誕生日プレゼントは高級車かマンション…というイメージなんだろう。

そのイメージのまんまの存在だと思っているから「あなたお金持ちでしょ、休業補償なんて言ってないで自分でどうにかしたらどうなの?着物とかブランド品売るなり高級マンションから引っ越すなりしたらいいじゃない」という意見が出てくるのだと私は思う。


しかし、銀座や北新地などの高級エリアに店を構えるママ達の中でもそんな人はほんの一握りなのだ。というより、バブル時代のイメージじゃないか?それ。今時「●●ママお誕生日おめでとう」とメルセデス・ベンツの鍵を渡すお客様など絶滅危惧種である。

大箱や歴史ある格式高いお店のオーナーママならいざ知らず、雇われママや中箱・小箱のママだったり独立したてのママは世間の皆さんが思うよりも堅実な生活をしている。

ブランド品とか高い着物とか持ってるじゃないか!どこが堅実なんだ!と思うかもしれないが、ママが身に付ける大粒のダイヤモンドもエルメスのバーキンもマノロ・ブラニクの靴も手描きの京友禅も、全部商売道具だ。

一流のビジネスマンの衣装は仕立ての良いスーツと高級時計(ダイヤギラギラ系じゃないやつ)と高い革靴って言うでしょ。それと同じ類いのもの。高級エリアで飲めるようなお客様相手に安い格好で出てきて「私がママでーす」なんて出来るわけがないじゃん。ママは店の顔なんだから。

そしてママともなれば出費も多い。生活費と衣装や自分のメンテナンス代を除いても、お中元お歳暮・お客様の誕生日などのイベント事のプレゼント・ホステスや黒服を労うための食事会やちょっとした心付け、数えればキリがない。

店は店で家賃はアホみたいに高いし、税金もまぁまぁ持って行かれて(世間の皆さんが思っているより脱税している店舗は少ないと思うよ)、酒の仕入れもしなくちゃならないし、クリスタルガラス製のグラスを使うのが基本だし、もちろん人件費も支払って……。それに売掛金の未収があったら?そう考えるとママの手取りってどれくらいなんだろうね?


水商売はハイリスクハイリターンが基本で、こういう時に真っ先に危なくなるというのもリスクのうちではあるけれど、国からの要請で休業して何の補償もないことに対して「どうやって生きて行けばいいのか」と声を上げたら叩かれるのは違うんじゃないかと思う。

「自分で選んで自分が好きでやってるんでしょ、職業選択の自由があるんだから」なんて意地の悪いことを言う人は、自分が勤める会社が突然潰れた時に「自分で選んで自分が好きで入った会社でしょ」って言われたらどんな気持ちになるのかな。


それに、ママというのはホステスやスタッフに雇用主としての責任は果たさなければならない立場だ。いくら今現在店が開いてなくても営業していた期間のお給料は支払わなければならないし、バンス(前借り)の相談もあるかもしれない。こうして声を上げたのは店と自分だけでなく従業員を守る為でもあると思うんだ。

今は店の資金で従業員の給与やお店の維持費を賄うことが出来ても、それが尽きたら?アホのよーに高い家賃は毎月発生するし営業再開の目処は立たない。

私財を投じる?貯金が尽きたらどうするのだろう。

着物やブランド品を売る?着物の中で買い取り額が一番高い一級品の加賀友禅ですら、買った時は数百万円でも売る時は十分の一くらいの値しか付かないしブランド品も似たり寄ったりだ。


それでもクラブのママはたんまりお金を貯め込んでいるから、高価なモノをたくさん持っているから、補償なんかしなくていいって言うのだろうか。

別に普段通りの売上や普段通りのホステス達のお給料を補償しろとか言ってないじゃない。

「風営法管轄だけが差別されています。一般企業、一般市民と同じ処遇を!」として、「休業をしている間の店舗家賃の補償」「最低限の人件費の補償」「無担保無利子融資の斡旋」の3つを求めている。


それから、この記事を読んで「銀座のママともあろう者がこんなこと言うなんて情けない」「粋じゃない」って言ってる人は色々と貧困なんだろうなぁと哀れに思ってしまう。あ、貧困って言ってもお金のことじゃないからね?


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