カルチョの「ふたご星」
2羽の大きなウサギを、かれこれ2か月も追い続けている。
CLと、CL権。準決勝を目前に控えたビッグタイトルと、クラブの継続性そのものにおいてそれ以上に重要と思われる来季の出場権だ。とりわけ後者、今季セリエAトップ4フィニッシュに向けては綱渡りだ。第34節を終えてミランは5位。他の上位勢同士の対戦の結果、自力でのトップ4入りは消滅した。自力では渡りきれない綱の上にいる。
とはいえ、その第34節の快勝により心境はややポジティブだ。2位のラッツィオ戦。あの悪夢のような1月、0-4であしらわれた敗北からのリターンマッチだ。序盤にレオンがまさかの負傷交代。だが、持ち味の前プレから生まれたべナセルの先制点と、テオ・エルナンデスの衝撃的なスーパーゴールで前半早々に試合のケリをつけた。とりわけ、メニャンの球出しを受けたピンクの髪が80mを独走し突き刺した2点目は、昨シーズン終盤のアタランタ戦で彼が決めた長距離ドリブルからのゴラッソを、スクデットに相応しいあの強いミランを想起させた。自分たちには世界最高のGKと左SBがいる。それを再認識し、勇気を与えられた勝利だった。
そして、ヨーロッパの舞台に上がるミッドウィークが巡ってくると、国内の憂慮をいったん忘れて大舞台に酔いしれるのは、ファンとして止めようのない「業」かもしれない。ミラニスタとは幸せな生き物だ。
レオンを欠く1stレグのスタメン
前の試合で右太ももの内転筋を痛めたレオンは、準決勝1stレグ当日の情報で、既に痛みはなく招集メンバーに入る可能性があるものの、さすがにスタメン起用はなさそうとの観測だ。代役の左WGは、サーレマーケルス。ラッツィオ戦でも前半11分にレオンと交代出場した。あのナポリ戦4ゴール目のドリブル突進あたりから、加入以来最高レベルの好調を維持している。
エースを欠くのは心許ないが、このベルギー小僧は、守備の貢献と攻撃時の連携でレオンとは違った安定感をチームにもたらすはずだ。180分の戦いを安定から作り始めるのは悪いことではなく、レオンが確実に戻ってくる見込みの2ndレグにつなげられればいい。左WG・サーレは、単純なスケールダウンではなくオプションだと思うことにする。
5連勝中のインテルを、無敗継続中のミランが迎え撃つ
インテルは強い。ベンフィカを下してCL4強を決めると、それが合図だったかのように3~4月の不調を払拭し、以後の5試合(リーグ4、コパ1)を15得点(しかも1失点!)で5連勝。15点中10点はラウタロ、ジェコ、ルカクのFW陣で取っていて、ラウタロは毎試合ペースの5G、ルカクはシーズン通算数の半分にあたる3Gを、この期間だけで決めている。調べてみて思った。僕がインテリスタなら間違いなくこう感じているだろう。「負ける気がしねえ」。
だが今大会、ミランには実績がある。1回戦のトッテナム戦ではケインとソン、準々決勝では後日イタリア王者になったオシメンとクヴァラツヘリアという強力なアタッカーたちを、ことごとく封じ込めてきた。この4試合での失点は、ナポリ戦2ndレグ終了間際のオシメンの一撃による1点のみだ。予想スタメンの2CBは、いつものケアーとトモリ。そう、いつもどおりやればいいのだ。負ける気がしねえ。
反対にミランの直近の成績といえば、ご存じの通り決してパッとしない。セリエAでは4月以降、3勝4引き分け。とにかくドローが多く、勝ち点を取りこぼしてきた。ただ同時に、気づけば4月以降、積み上げた無敗は、CLも含め9試合にも達している。そして「引き分けが多いこと」は、20年前のユーロダービーがそうだったように(0-0、1-1のアウェーゴール差でミラン勝利)、CLのレギュレーションにあてはめれば、必ずしも悲観することではないのだ。
イタリアがヨーロッパじゃない。
ミラノが、ヨーロッパだ!(がしゃんっ)
一時はCLから姿を消したミラノの2クラブ。ともに復興著しい。ここ数年、CL復帰→スクデット獲得→CL決勝ラウンド進出…と、その返り咲きの道において、常にインテルがミランを先行してきた。この2年でついにミランが追いついた。その証が、今夜からのユーロダービーに他ならない。
ただ結局、戦いが始まってしまえば、CL準決勝であること以上に「ミラノダービー」だという意識が上回ってくるだろう。勝ったら決勝だ!ではなく、「この目の前の黒くて青い奴らを退けることだけが使命だ」というモードに入る。ミラノダービーの価値がCLによって高まるのは間違いないが、ミラノダービー自体の重みやアイデンティティは、UEFAでさえ司ることはできない。いざや、気高く泥にまみれた宿命の夜へ。
今宵、カルチョの「ふたご星」。
たくさんの星が描かれた、特別なボールを蹴り合おう。
赤と黒と黒と青。そのシャツたちが幾度も見てきた舞台だ。
フットボールよ。1週間、きみのヨーロッパをミラノが借りるぞ。
これらの夜、俺たちがヨーロッパだ。
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