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刺さる台詞:後悔はせず、思い出して(『燃ゆる女の肖像』)

 『燃ゆる女の肖像』を見た。2020年に見ていたら年間トップ5の1位か2位に入れたと思う。『フォードvsフェラーリ』にも特別な思い入れがあるので順位をつけるのは難しいが。(該当記事でも書いたがあまり映画館に行けず『マティアス&マキシム』や、短編『リコーダーのテスト』がすばらしかったキム・ボラ監督の『はちどり』といった作品も見逃しているので最終的に順位がどうなるか分からない)

 その後半で「新たに、後悔の念が芽生えてきた(J'ai un nouveau sentiment, le regret.)」というエロイーズ(アデル・エネル)に対し、画家マリアンヌが返す言葉がこれ。

「後悔はせず、思い出して」
(Ne regrettez pas, souvenez-vous.)

 この台詞が最後のシーンにつながっていると思うとラストは鳥肌が立った。思い出から後悔の念を抜くのは苦労する。思い出と後悔はほぼ表裏一体だからだ。でも思い出から後悔の念を除けたときに人は笑えるというか…。
(何言ってんだろうね)

 詳細には触れないとして、『燃ゆる女の肖像』でオルフェウス(字幕では「オルフェ」)の冥府下りについて女性3人が議論するシーンがある。なぜオルフェウスは地上に出る直前にエウリュディケのほうを振り向いたのか、3人は意見が分かれる。ソフィは男が勝手だからと怒り、マリアンヌは芸術家として一瞬の思い出を選んだと語り、エロイーズは女が「振り返って」と呼びかけたからだと語る。三者三様の意見がそれぞれの考え方と行動を表していて、すばらしかった。

 昔、『アパートメント』(1996年)という映画の冒頭でヴァンサン・カッセルが宝石店で指輪を選ぶ際、店員の薦める3つの指輪がヴァンサン・カッセルの3人の女の特徴を表していたというのと似ている。

 でも3人の女性の強い生きざまを描いた『燃ゆる女の肖像』と違って、『アパートメント』はナルシスト男の妄想にすぎない。

 『フォードvsフェラーリ』も男がスピードレースに興じるだけの映画と言われればそれまでだし…。

 「カンヌ映画祭の脚本賞とクィア・パルム賞を獲った『燃ゆる女の肖像』のような傑作と、男の妄想映画を一緒にすんじゃねえ」とフェミニストから怒られそうだが、非フェミニストも楽しめる作品だと伝えたい。
(あまりチェックはしてこなかったが、日本ではフェミニズム的な要素を強調しすぎて宣伝し、失敗している感じがする)

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