冬用のパンツがないまま上京して半年
最近めっきり肌寒くなってきたので実家から取り寄せた毛布を腰に巻いて暮らしている。歩きにくくなるのと、トイレが冷蔵庫のように感じられる以外は優れものだ。「めっきり」という副詞は気温が低下したときにしか使わないので、言えるときに言っておくのがコツ。短い人生のうち誕生日はたかだか80回くらいしか来ないが、「めっきり」は果たして80回も口にする機会があるだろうか(いや、ない)。
こども塾のバイトで膝が真っ白になったスキニーをゲロでダメにして以来、うちには裏起毛の寝巻用パンツとSuchmosのヨンスのようなジャージ、七分丈のジーンズに膝上の白パンと、とにかく秋から冬にかけてのパンツが存在しない。
夏の終わりごろユニクロで「すみません、このワンサイズ下のスキニーはありますか」と尋ねたところかなり仕事のできそうな店員が素早くタブレットを操作し「現在吉祥寺にしか存在しません」と答えてくれたので、その場で拳銃自殺を図って今に至る。
おれは着るものをとにかく買わない。LOLのキャラクターを豪華な見た目に変えるための1600円くらいする課金ボタンは軽やかにクリックしてしまうのに、Tシャツにセール1000円の値札がついているのを見ると「残高」「食費」「来年」という言葉がありありと脳みその上のほうに浮かんでは消え、今ではないと自分に言い聞かせる。
そういえば上京してかれこれ半年経つ。これが何を意味するかというとつまりおれは半年間東京でバイトなしでやっていけてるということだ。赤裸々に収支について話すなら、ちば賞とバイトで状況前70数万貯め、上京後ちば賞で50万(実際には税が差っ引かれて45万)、原稿料が35万、それでなんとか生きている。
ところが自炊を一切と言っていいほどしないので、まあ思い返せば過去一人暮らししていた頃もしなかったのだが、食費はあんまりにも高く、日々Uberでマクドナルドからダブルチーズバーガーを取り寄せ、毎日下痢している。
冬の到来をきしきしと感じる。これは擬音語ではなくひしひしに空気のひび割れる冷たさをあてた副詞で、たった今作った。
暮らしが下手な人間から冬に死んでいったのは毛皮で暮らしていた頃の人類も同じなんだろう、と思う。とにかく転がり込んできた仕事で金を稼がなくてはならない。
サラリーをもらって暮らしている社会人に比べ新人漫画家に辛いところがあるとすれば、企画の立ち上げそのものに賃金が発生しないことだと思う。企業による企画・構想は、たとえそれがポシャったとしてもその会議に時給が発生していなければ大問題なのだが、漫画の構想というものにはそもそも時給がない。といっても社会人に比べて圧倒的に楽ちんなのだが、企画を立てるためには時間が必要で、時間をとるためにはお金が必要だ。
実家にいた頃に比べて漫画を買うようになった。実家にいた頃は早く上京したくて手元に物を増やさないようにしていたのだが、漫画を買ったは買ったで積読するようになってしまった。これは忙しくて時間がないとかではなく、単純に面白い漫画を読むと嫉妬や感嘆で疲れてしまうからで、新宿駅の横にでっかいデジタルサイネージにチェンソーマンやアスカノが広告されていると疲れてしまうのと似ている。
積読漫画一覧
プラトニック・ホーム-いけだたかし
THE 4DAYS OF THE DEAD-望月三起也
偽物協会2巻-白井もも吉
天然-根本敬
スーパーベイビー-丸顔めめ
トリリオンゲーム-稲垣理一郎/池上遼一
びんちょうタン-江草天仁
コージ苑-相原コージ
刑務所の中-花輪和一
長嶋有漫画化計画(よしもとよしともだけ読んだ)-著者多数
絶対安全剃刀-高野文子
スピン-ティリー・ウォルデン
漫画は増え続け、冬用のパンツは不在を続ける無職期間は7か月目に突入する。
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