プレゼンテーション1

病院薬剤師が語るアンサングシンデレラの舞台裏(第1巻)

皆さん、こんにちわ。病院薬剤師だまさんと申します。

本ブログ(note)にアクセスしていただき、ありがとうございます。

本ブログは、2020年7月よりフジテレビ系でスタートする木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」を10倍楽しむためのブログです。

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とりあえずは私が何者なのか、自己紹介をしておこうと思います。

自己紹介(病院薬剤師だまさんってどんな人?)

病院薬剤師だまさんのプロフィール

私は今年(令和2年)でブログ歴15年となる病院薬剤師ブロガーです。

地方の県庁所在地にある中核病院に勤務しています。

自慢はトップブロガーとして有名なイケハヤ(イケダハヤト)さんよりブログ歴が長いこと(あちらの次元が段違いですけどね)。

そもそも病院薬剤師ブログ自体が希少な存在です。

※ビジネス上の事情からか、開局薬剤師ブログは結構あります。

疑うなら探してみてください、数えるほどしかありませんから。

理由は簡単。

病院薬剤師って、ブログを書く暇がないほど忙しいのです。

それが管理職(副薬剤部長)になった今も続いているという・・・。

要するに、私って変わり者の暇人なんですね。

私がプログにハマった理由。

それは、日常の中で得られた「学び」や「気づき」を手軽に気軽に情報発信できるブログにすっかり魅了されてしまったから。

私にとってブログは、いわば「補助脳」。

記憶のバックアップの役割に加え、今ではブログの執筆を通してでないと、まとまった思考ができない域にまで達しました。

そんなブロガーの私が、2019年からYouTubeとTwitterも始めました。

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ブロガーであり、YouTuberであり、Twitter民である病院薬剤師。

もし、少しでも興味が湧きましたら、下記も覗きに来てください。

【ブログ】※代表的なもの
病院薬剤師って素晴らしい!【病院薬剤師ブログ】
悩める薬局長のための薬剤師不足でも業務改善できるクラウド型院内医薬品集を制作するためのブログ
【YouTube】
病院薬剤師って素晴らしい【YouTube編】
【Twitter】
病院薬剤師だまさん@もうひとつのフォーミュラリー

あと、仕事とは関係ありませんが、宅地建物取引士(宅建)・日商簿記検定2級・漢字検定2級の資格を有し、更にカラーコーディネーターや社会保険労務士(社労士)も目指している「資格マニア」としての一面もあります。

完全に「変わり者」ですね(苦笑)。


Rp.1「連ドラ初」の真相 ~顔の見えない薬剤師~

本ドラマは、大人気女優・石原さとみさんが主演ということもありますが、連ドラ史上初となる、病院薬剤師を主人公にした医療ドラマということでも注目を集めています。 

何と、病院薬剤師を主人公の医療ドラマって今までなかったんですね。

実はこの記事を書いているのが2020年2月の下旬。

試しに現在放映中の医療ドラマを列挙してみましょうか?

トップナイフ-天才外科医の条件-(主演-天海祐希;日本テレビ系)
恋はつづくよどこまでも(主演-上白石萌音・佐藤健;TBSテレビ系)
病室で念仏を唱えないでください(主演-伊藤英明;TBSテレビ系)
アライブ がん専門医のカルテ(主演-松下奈緒;フジテレビ系)
病院の治しかた〜ドクター有原の挑戦〜(主演-小泉孝太郎;テレビ東京系)

「いくら何でも多過ぎやろ!」

・・・というのが、「外科医有森冴子」(1990年)や「振り返れば奴がいる」(1993年)が医療ドラマの出発点だった私の率直な感想です。

視聴率が稼げるとはいえ、毎年これだけ膨大なドラマが放映されてきたというのに、同じ病院に勤めている薬剤師が「これっぽっち」も登場しないってど・ゆ・こ・と?

それが私の率直な疑問でした(笑)。

そして、その理由を追究した時、ある仮説にたどり着きました。

「病院薬剤師が主人公の作品が少ないから」という仮説です。

確かに少ない、というか本ドラマの原作『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ作/富野浩充原案)以外、私は病院薬剤師が主人公の小説や漫画は思い浮かびませんでした(皆さんはどうですか?)

※脇役として登場した作品ですら、「おたんこナース」(佐々木倫子作/小林光恵原案)くらいしか記憶がありません(主人公・似鳥ユキエがメモ書き越しに薬剤師と喧嘩した回)。


実は、薬剤師の世界では一般の人には理解困難なスローガンがあります。

「顔の見える薬剤師」

フツーに考えて、顔が見えている職種にこんな表現は使いませんよね?

いちじくも原作の第1話の冒頭でもこんなセリフ(独り言)が登場します。

「もしかして 薬剤師っていらなくない?」

今回はここまで。

次回(Rp.2)では、主人公・みどりがそうつぶやいた理由に迫ります。


Rp.2 病院薬剤師の立場 ~理解されない最後の砦~

(あらすじ)
ある日の朝、(記念すべき第1話だというのに)みどりのご機嫌はすこぶる悪かった。その理由は、入院患者の処方に疑義(処方せんの内容に疑問等が生じた際に、それを発行した医師に問い合わせること)をかけたところ、処方医から逆ギレされたからだった。

いや~、「薬剤師あるある」ですねぇ(しみじみ)。

私も薬剤師になりたての頃、意を決して心臓血管外科の先生に疑義をかけたしたところ、「そんな質問は薬剤部長を通じてしてくれ」とガチャと電話を切られてショックを受けましたもん(今ではありえへん!)。

「え?処方せんってそんなに疑義(疑問)が生じるものなの?」

一般の方には不可解かもしれませんが、軽微なものまで含めると毎日結構な数に上ります(それだけ医師は多忙だということでもあります)。

≪代表的な疑義≫
・勘違いや入力ミス(薬名・用法・用量・日数・重複など)
・禁止薬(禁忌・併用禁忌に該当する薬)
・不適切な剤形・調剤方法
・医師側または薬剤師側の勉強不足
・保険上の不備(適応外処方など)など

ただ、軽微なケアレスミスとはいえ、スルーすれば間違いなく医療現場や患者、ひいては治療そのものに影響することだってあり得ます。

薬剤師の仕事は、病院で扱う千種類以上(※病院の規模による)の医薬品の管理、そして医師の処方せんに基づいた調剤、患者さんへの提供など。

薬を安全に患者さんに届けることこそ、薬剤師の一番の存在理由なのです。

だから医師に処方せんの疑問点を確認する「疑義照会」はとても重要なのですが・・・、毎日医師を質問攻めにする薬剤師は、もしかしたら医師からは疎まれて(ウザがられて)いるのかもしれません(涙)。

【 薬剤師法 第二十四条 】
薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

しかし、法律で定められている以上、疑義照会を省く訳にはいきません。

言い換えれば薬剤師は、医師の出す処方箋に唯一異議を唱えることができ、患者にとっては「最後の砦」とも言うべき重要な存在なのです。


鬱積したみどりの「良からぬ」妄想は更に膨らみます。

みどり「いつか医薬品のことを全て把握してるAIかなんか開発されたら…」

医師「いや~情報は正確だし、彼がいればもう薬剤師なんか要らないなぁ」

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すると、自分の立場を卑下するみどりに、先輩薬剤師・瀬野は、トレードマークの「お団子」をわしづかみしながらこう伝えます。

「自分で自分の立場決めちまったら、そっから進めなくなるぞ?」

医師はもちろん、患者さんにも薬を渡す窓口くらいにしか思われていない、まさにアンサング(讃えられない)シンデレラ。

決して脚光を浴びることはありませんが、全国30万人以上もの薬剤師たちが患者の「当たり前の毎日」を取り戻すために日々奮闘しているのです。

今回はここまで。

次回(Rp.3)では、みどりが起こした「ある行動」を検証します。


Rp.3 AIにできない仕事 ~感性と知性と根性と~

(あらすじ)
ふとしたことで知り合った整形外科の患者・古賀の異変を察知し、血液検査を提案するみどりだったが、主治医からは「管轄外だ」と拒絶されてしまう。しかし、持ち前の根性で主治医を説得すると、検査結果から異変の原因がテオフィリン中毒のためだったことを突き止めるのだった。

う~ん、なるほどぉぉぉぉ(←読者「勝手に納得すんな」)。

やや「斜め上」からの目線になってしまいますが、今回のテオフィリンに関するエピソード、ドラマにするにはうってつけのネタだと思いました。

「障壁」を一つずつ乗り越えていく、という点で。

みどりが患者の異変の原因にたどり着くためには、次の3つの障壁を乗り越える必要がありました。

障壁①:「あれ?」(患者の異変に気付ける感性)
障壁②:「もしかして・・・」(異変の原因に対し仮説を立てられる知性)
障壁③:「見過ごせない!」(仮説を検証するため医師を説得する根性)

まず障壁①から。

みどりは何も最初から異変の原因がわかっていた訳ではありません。

みどりは実に様々な情報を収集しています。

・患者より(顔面が真っ青・タバコの匂いがしない)
・ハクより(喘息持ちなのに喫煙者・すごく感じ悪かった)
・妻より(仕事には吸入薬を持っていかない・頑固病)

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みどりは、「顔面蒼白」という入院患者ならばありがちな事象を(念のため)確認するため病室まで押しかけました(撃退されてしまいますが)。

しかし、この患者に寄り添おうとする姿勢が妻からの証言を引き出します。

「本当はあまり具合が良くないんだと思います」

ここまでたどり着けたのは、みどりの「感性」のおかげだと思います。

これがもし、患者に良い印象を持っていなかったハクだったら、ここまで関わろうとしたでしょうか?妻から相談を持ちかけられたでしょうか?


次に障壁②。

異変を察しても、その原因がわからなければ患者は救われません。

そこで、みどりはある仮説を立てます(※漫画では描写されていません)。

「異変の原因は薬の副作用(テオフィリン中毒)なのでは?」

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想像するに、みどりはテオフィリンついてそれほど詳しかった訳ではないと思います(小児科担当なので基礎知識はあったでしょうが)。

「よし!!」

みどりが薬品情報室の本棚の前で自らの両頬を叩いて気合を入れるシーンですが、恐らく彼女はここでテオフィリンに関する情報を収集した筈です。

よく勘違いされていますが、薬剤師といえど全部の薬を隅から隅まで熟知している訳ではありません(ええっ!そうなの?)。

弁護士が六法全書を丸暗記している訳ではないのと同じです(言い訳…)。

単なる「物知り」では薬剤師は務まりません。

必要な情報をいかに早く入手し、いかに的確に判断・評価するか。

薬剤師は「知識」より「知性」が求められる仕事なのです。


最後に障壁③。

自分の仮説を確かめるため、血液検査(テオフィリン血中濃度測定)を主治医に提案するみどりでしたが断られてしまいます。

「いやいや、ちょっと待って。それ整形で診ることじゃないでしょ!」

拒絶

整形外科の医師が、突然自分のよく知らない薬の検査を依頼されたら戸惑う気持ちは私も理解できます(しかも小児科担当の薬剤師に)。

しかし、みどりはこれにメゲずに食い下がり、先輩薬剤師・瀬野の後押し、そして古賀自身の懇願により検査を実現させるのでした。

ここまでたどり着けたのは、みどりの「(プロ)根性」の賜物です。


以上、(漫画なので)随分と大騒動になってしまいましたが、みどりをここまで突き動かした原動力、一体何だと思いますか?

恐らくは「薬剤師っていらなくない?」という疑念を打ち消すためです。

「感性」「知性」「根性」という能力はAIには期待できません。

みどりは、これらの能力をあえて発揮することで、自らの存在意義を体現しようとしたのではないでしょうか?

ここで薬学生さんや若手の薬剤師さんに質問です。

・(理解されなくてもいいから)みどりのような薬剤師になりたい。

・(理解されないのなら)みどりのような薬剤師にはなりたくない。

皆さんの答えはどちらでしょうか?

今回はここまで。

次回(Rp.4)では、またしてもみどりがAIに負けない能力を発揮します。


【コラム】勝手に禁煙しちゃダメ!? ~テオフィリンという薬~
第1話(「普通」のために)で登場したテオフィリンは、喘息発作を予防するための薬です。実は喘息治療のトレンドはステロイド吸入薬なのですが、今回の古賀さんのように「そんなモン、仲間の前で使えるか!」なんて言う患者の場合、テオフィリンのような内服薬に頼らざるを得ません。しかし、これからお話するように、結構「ややこしい」薬なのです。

一つ目は「治療域(適量)」が決まっている点。つまり薬の量が足らないと全然効かない(発作が抑えられない)し、かといって多過ぎると副作用(中毒)が起こるという、実にさじ加減が難しい薬なのです。

二つ目は「個人差」が大きい点。通常薬の量というのは成人であれば同じの場合がほとんどです(体重が100kg超だとか特殊な場合は別ですが)。けれどテオフィリンという薬は人により適量が異なり、同じ量で効く人もいれば、全然効かなかったり逆に副作用を起こしてしまう人もいます。そのため、血液検査(血中濃度測定)を行い量の調節を行う必要があるのです。

三つ目は「相互作用」が多い点。他の薬の影響で効き目が変動しやすい特徴があります。今回問題となったタバコ。喫煙者がテオフィリンで治療するためには通常量の1.5倍必要だと言われています。ところが古賀さんは医師に内緒で禁煙を始めたものですから(いや、内緒にしなくても整形外科医が気付けたとは思えませんが…)、結果として過剰投与となり中毒症状が出てしまった、という訳です。なお、この相互作用は受動喫煙でも起こり得ます。よって患者自身が喫煙していなくても同居人が吸っていたら影響は出ます。

効果は高いけど使い方を誤ると大事になる。そんな薬はテオフィリンに限らず医療現場には沢山あります。そのような「ややこしい」薬と薬剤師は日々対峙しているのです。


Rp.4 飲めない薬は効かない ~おくすり飲めたね~

(あらすじ)
シングルマザー・山口は仕事と育児の両立に奮闘する日々だった。ある日、マイコプラズマ肺炎に罹った息子に抗生剤クラリスロマイシンが処方されるが、苦くて飲ませることができず病状は一向に改善しなかった。休みの長期化に伴い、次第に精神的に追い込まれていく山口。そんな苦衷を見かねたみどりが山口に差し伸べた手とは?。

う~ん、あるねあるね(毎回こんなパターンですいません)。

私もの薬に関しては苦い(!?)思い出があります。

当時幼稚園児だった息子が熱を出してしまい、家にあったクラリシッド錠を砕いて飲ませようとしたところ(翌日から家族旅行だったので焦りもありましたが、今思えば無謀な行為)、苦くて全然飲んでくれませんでした。

ならばと、ジュースに混ぜて飲ませようとしたところ、「それ、ジュースじゃないよね」と疑いの目を向けられたという・・・(結局旅行は中止に)。

純真無垢な我が子に実の親が「人を疑う心」を芽生えさせてしまった事実に、「取り返しのつかないことをしてしまった」と茫然自失となりました。


さて、みどりにはAIには真似のできない「特殊能力」がありました。

味だけで薬の名前を当てるという能力です。

念のためにお断りしておくと、薬剤師といえども全ての薬の味を把握している訳ではありません(みどりは小児科担当だったから…かな?)

「新薬出たら舐めて転がして味わうでしょうが!」

そう力説するみどりでしたが、同僚からは「変態」呼ばわりされるハメに。

そればかりか、ベテラン薬剤師・刈谷に患者との雑談時間の長さを指摘され、窓口対応に余計な時間をかけないよう釘を刺される始末。

しかし、みどりのこの「薬の味へのこだわり」が、薬の飲ませ方に苦慮していた山口を救うことになります。

20190519速読野郎の備忘録(アンサングシンデレラ❶)

みどりは、この薬の苦み防止のコーティングが混ぜる物によって剥がれてしまうことを知っていました。

実はこれまで試みた方法(ジュースやゼリーに混ぜる・水で溶いて頬の内側に塗る)はかえって苦みが出て飲みにくくなる方法だったのです。

今回、みどりはチョコアイスを提案しましたね。

強い甘みや冷たさは味覚を鈍くしてくれるので、他の薬も応用できます。


あと、このお話ではもう一つ押えておきたいポイントがあります。

それは「信頼関係」です。

薬をジュースに混ぜて飲ませようとする母親ですが、すぐに見破られます。

「にがいー!くすりやだ!ママうそついたぁ、ジュースじゃないもん」

母親は「うそはダメだよね、ごめん…」と謝るしかありませんでした。

子どもに騙して薬を飲まそうとする行為は厳禁です(グサッ!)。

そんなことを何度も繰り返していると親子の信頼関係は崩れ、今後一切薬を飲んでくれなくなる可能性があるからです。

ならば、どうすれば良かったのでしょうか?

近年「インフォームドアセント」という考え方が注目されています。

≪インフォームドアセントとは≫
治療を受ける小児患者に対して、治療について理解できるよう分かりやすく説明し、その内容について子ども本人の納得を得ること。

つまり、子どもを一人前の人間として扱い、「病気を治すためのお薬だから、頑張って飲もうね」と説明と同意のもとに服用してもらい、上手に飲めたら褒めてあげる、という訳です。


最後に、もう一つだけ「舞台裏」をご紹介しておきます。

それは、今回のお話でも描写されている「窓口対応」です。

「窓口対応で重要なのは正確にスピーディーに患者さんに薬を出すこと」「余計な時間はかけないこと」

患者とお話するのが大好きなみどり。

ベテラン薬剤師・刈谷に怖い顔で釘を刺されてますね~(笑)。

そう、調剤はとにかく時間との闘いなのです(私も激しく同意)。

どうやら、みどりの病院では服薬指導が必要な患者には医師から依頼書が出るシステムのようですね(それ以外は時間を浪費するな、ということ)。

ちなみに院外処方率95%超の私の病院では、外来患者への窓口対応は1日10件前後に過ぎません(※窓口対応の多寡は病院の規模や方針によります)。

でもたった1人でも薬剤師に抜けられると、処方せんはどんどん溜まっていくし、用事がかち合うと調剤室が回らなくなることもしばしば(涙)。

「捌いて、捌いて、捌ききる!!」

業種を問わず、どの職場でも舞台裏というものは修羅場なのです。


さて、瀬野のフォローのお陰で刈谷からのお小言を回避できたみどり。

その才能は無事実を結ぶのでしょうか?

今回はここまで。

次回(Rp.5)では、救命救急の現場でみどりは貴重な体験をします。


【コラム】私の「苦い薬」ワースト3
前述の通り、薬剤師と言えども全ての薬の味を知っている訳ではありませんが、経験上「苦い薬」ワースト3を挙げるとすれば下記の通りです。

第3位 コデインリン酸塩散
咳止めでもあり、下痢止めでもあり、痛み止めでもあるこの薬。乳糖で賦形してあるので幾分苦みは和らいでいますが、ジワッと来る苦さがあります。

第2位 クラリスロマイシン
今回のテーマでもあり、個人的にも「苦い」思い出のある薬です(苦笑)。

第1位 パンスポリンT錠(粉砕)
耳鼻咽喉科でよく処方されていた抗生剤(第2世代セフェム系薬)。サイズが大きいのでよく看護師から粉砕の依頼が来ましたが、十中八九飲めずに返品されて来ました。凄まじい苦さで、これを1錠分飲み切れる人がいたら尊敬します(ただ、もう販売中止となっています)。

皆さんのワースト3も是非お教えください。


Rp.5 「薬剤師さん」じゃない ~チーム医療の一員とは~

(あらすじ)
ある日みどりは救命看護師・豊中と出会う。豊中は、杓子定規な仕事しかしない薬剤師たちの中で、医師に物申せるみどりに一目置いていた。そんな中、蜂毒によるアナフィラキシーショック疑いの患者が搬送される。豊中と共に救急処置に参加するみどり。だが、患者はアドレナリンに反応せず心肺停止に陥ってしまう。それに気付いた瀬野が取った行動とは・・・。

これまでとは打って変わって、第3話「近くて遠い目の前」ではみどりはな~んも活躍してません。

救命救急の現場でオタオタしてベソをかいただけ(笑)。

「全っ然慣れない。めっっっちゃ怖い(フーフー)」

まさに「近くて遠い」救急現場のダイナミズムを味わうのでした。

しかし、彼女にとっては一生忘れられない経験となったに違いありません。


さて、今回患者(峰田)が陥った「アナフィラキシー」および「アナフィラキシーショック」とは以下のような状態のことです。

アナフィラキシー
アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状 が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応

アナフィラキシーショック
アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合

※「アナフィラキシーガイドライン」(日本アレルギー学会)より

アナフィラキシーの主な誘因は「食物」「昆虫」「医薬品」の3つ。

特に今回のようなスズメバチによる被害は毎年後を絶ちません(カチッカチッという音は縄張りに入ってきた敵に対する威嚇音です)。


で、その特効薬がアドレナリン(筋注;0.01mg/kg)という訳です。

ただ今回は何とか病院にたどり着けましたが、通常アナフィラキシーは急激に症状が進行するため、アドレナリン投与が間に合わない(つまり死亡する)ことも珍しくありません(ゾゾー)。

よって、過去にアナフィラキシーの既往がある患者には「お守り」代わりにエピペン(成人:0.3mg、小児:0.15mg)という注射薬を処方しておき、非常時に自己注射してもらうこともあります。


ところが、今回はその特効薬を何回使用しても効果がなく、やがて心肺停止にまで陥ってしまったのですから、そりゃあみどりもパニくりますよね。

すると、その様子を眺めていた先輩薬剤師・瀬野が「機転」を利かせます。

一緒に搬送された患者に服用薬の有無を尋ね、峰田が「血圧の薬」を毎日服用しているのを聞き出すことに成功します。

この際、瀬野の頭の中では以下のような思考過程が働いたと思われます。

アナフィラキシーショックにアドレナリンが無効(なぜ?)

患者はβ-プロッカー服用中なのでは?(でもどうやって確かめる?)

友人ならば知っているのでは?(この際手掛かりだけでも可)

「血圧の薬」=β-プロッカーの可能性は十分あり得る(今は緊急時だ)

「先生!グルカゴン入れてください!」(迷っている猶予はない)

ふぅ~、救急担当ならば常識なのかもしれませんが、正直言って今回の事例、難易度がハンパではありません。

なぜなら、下記の条件が一つでも欠けていたら、救命は叶わなかったと考えられるからです。

❶ 症状が重篤化する前に病院搬送が間に合ったこと
❷ 「アドレナリン無効」に気付くことができる猶予があったこと
❸ 「β-プロッカー投与中はアドレナリンが無効」と知っていたこと
❹ 峰田が「血圧の薬」を服用中であるという情報を入手できたこと
❺ その際の特効薬が「グルカゴン」であることを知っていたこと

❶❷❹は完全に「運」の問題ですが、みどりは「内服薬の確認をすべきでした…」と自らのミスを悔やみます(でも、仮に確認してたところで、もし❸の知識がなかったら無意味でした)。

❸❺の知識は正直私も知りませんでした(「聞いたことあるかな?」ってレベル)ので、それを知ってたみどりも瀬野もすごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいと思いました(※この物語はフィクションです)。

特に❺は「アナフィラキシーマニュアル」が頭に入っていなければ知り得ません(医師も「今回のはすごいレアケースだった」って言ってますし)。

第一、グルカゴンの添付文書には「アナフィラキシーショックに効く」なんてひとっっことも書かれていないのですから。

グルカゴンの効能又は効果 ※添付文書より
1. 消化管のX線及び内視鏡検査の前処置
2. 低血糖時の救急処置
3. 成長ホルモン分泌機能検査
4. 肝型糖原病検査
5. 胃の内視鏡的治療の前処置


と、ここまでが第3話の解説だったのですが、もう一つだけ「舞台裏」をご紹介しておくとしましょう。

それは先述した「持参薬の確認」です。

どんなに大きな医療機関でも、世の中に存在する全ての医薬品を扱っている訳ではありませんし、成分は同じでも製薬会社が違うと販売名が違う場合だってザラにあります。

なので、医師は薬品名を見聞きしても、自分の知っている薬以外は何なのかさっぱりわからない、というのが実情なのです(ご存知でしたか?)

そんな時、重宝するのが薬剤師なのです。

薬剤師は、薬品の「名称」や薬の本体や包装に記載された「識別コード」を元にその成分や薬効、そしてそれが採用薬の中でどれに相当するかを調べることができます(もちろん書籍やネットを使用してですが)。

このスキルは大規模災害時にも大いに役立ちました。

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例えば東日本大震災(2011年)や熊本地震(2016年)の際、避難施設には大量の医薬品が供給されましたが、薬剤師がそれをきちんと分別・整理しなければ、医師だけでは患者に薬を処方することすら適わなかったのです。

ただ、あえて厳しいことを言わせていただくならば、「薬剤師は薬が何かを調べるだけじゃダメ」という点。

例えば、今回のように「β-プロッカーを内服中」という事実を突き止めるだけではダメで、「ノルアドレナリンは無効かも」という推論にたどり着き、更に「グルカゴンを用意しておきましょうか?」と医師に提案できる、そんなセンスが救急担当の薬剤師には求められるという訳です。

当院の薬剤局にも救急医療支援科という部署があり、担当薬剤師は日々救急外来と救急病棟(ICU・CCU・HCU)を行き来しています。

残念ながら私は救急医療支援科に所属したことはありませんが、ICTラウンドで視察に伺った際、平時には和気あいあいとした雰囲気に驚かされました(そりゃあ、いつもピリピリしてたら持ちませんよね)。

医師も看護師も薬剤師も、相互の信頼関係で成り立っている救急の現場。

「先生ちがうよ。"薬剤師さん"じゃなくて、薬剤師の葵みどりさんだよ」

豊中のこの言葉で、めでたくチームの一員に加われたあおいでした。

今回はここまで。

次回(Rp.6)では、瀬野が昔関わったある「事件」についてです。



Rp.6 橋の先にある砦 ~自分にしかやれないこと

※タイトルを変更しました。

(あらすじ)
仕事を終え翌日が休みのみどりは、顔なじみとなった豊中を居酒屋に誘う。目的は瀬野のゴシップネタを仕入れるため(笑)。すると、豊中は5年前の「ある事件」について語り始めた。瀬野はHELLP症候群疑いの患者を巡り産婦人科の医師と衝突。越権行為の疑いにより部科長会議で処分が検討されることとなったとのこと。追い詰められた瀬野の運命は・・・?

さて、今回もみどりではなく瀬野の「武勇伝」です。

瀬野は患者がHELLP症候群であることを疑い、第1話のみどりと同様に「感性・知性・根性」を発動します。


と、まずはその前にHELLP症候群という病気を学んでおきましょう。

HELLP症候群
妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命の危険に伴う一連の症候を示す状態。 3大徴候の英語の頭文字(Hemolytic anemia(溶血性貧血)・Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)・Low Platelet count(血小板低下))を取って名付けられている。 妊娠高血圧症候群に伴うことが多い。 また、その後に子癇を発症する場合も多い。一般的な症状としては、頭痛(30%)、視力障害不快感(90%)と、吐気や嘔吐(30%)と、上腹部の痛み(65%)等を呈する。こういった症状を呈してきた場合、緊急に血液検査を行って診断をつけることが重要である。HELLP症候群が認められた場合、緊急に急速遂娩または帝王切開によるターミネーション(妊娠継続の終了)に移る。※Wikipediaより抜粋

難しいことはともかく、一分一秒を争う危険な状況、という訳です。


まずは【感性】の巻。

頭痛を訴える妊娠後期の妊婦には禁忌のロキソニンが処方されたことから、(そんな初歩的なミスを犯すからには)処方医が研修医と睨み、薬を取りに来た助産師・倉本から産婦人科の事情を聴取します(さすがです)。

次に【知性】の巻。

違和感を覚えた瀬野は、調剤後カルテで薬歴と検査歴の推移を参照。更に疑念は深まり、薬品情報室で専門書で確認します。

最後に【根性】の巻。

処方医から先程の頭痛薬が無効だったことを聞かされた瀬野。単なる片頭痛ではない(HELLP症候群の可能性が高い)と確信した瀬野は研修医を促し、上級医の呼び出し・血圧測定・切迫早産治療薬マグセントの投与を開始します。そして「勝手に患者に触るな」とクレームをつける主治医・林に対し、瀬野はこうタンカを切るのでした。

「患者を助けるためなら、俺にできることなら何だってやる」
「あんたも自分にしかやれないことをやってから医者を名乗れ・・・!」

いや~カッコいい(こんなこと一度でも言ってみたい)。

これこそ薬剤師という資格の覚悟のなせる業です。


ところで、瀬野はなぜこの患者が片頭痛ではないと気付けたのでしょうか?

実は私も片頭痛持ちだからよくわかります。

※頭痛薬に関するブログも好評公開中ですので、よろしければどうぞ。

「目がチカチカする」(閃輝暗点)は片頭痛の前駆症状であり、痛みや嘔気が出現する頃には消失している筈なのです(しかも初めて、と来た)。

若い女性に多い片頭痛ですが、鎮痛薬に反応しないことも含め、総合的に判断して「ただ事ではない」と感じたのでしょう。

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瀬野の活躍の甲斐あって、無事出産し母親も回復できました。

ただ、タンカを切って主治医の心象を悪くした瀬野は、「越権行為の疑いあり」として部科長会議にかけられることとなります。

しかし、助産婦・倉本の証言のおかげで「お咎めなし」となり、この一件は後々病院スタッフの意識を変えるきっかけとなるのでした。



ここで、薬剤師にとっては少々耳障りの悪い話をしようと思います。

この物語は(実話に基づいていたとしても)あくまでフィクションです。

今回はたまたま倉本さん(とその上司)が擁護してくれたから瀬野は処分を受けずに済みましたが、薬剤部長は既に謝罪してしまっていましたし、場合によっては停職等の処分を受けていたかもしれません。

仮に瀬野が「出来心」でほんの僅かでも医療行為をしていたら、問題は更に大きくなり、最悪、薬剤師免許の停止・剥奪まであり得ました。

瀬野はとんでもなく「危ない橋」を渡っていたことになります。

しかし、考えてみれば、あえて病棟まで乗り込まず、研修医に注意喚起だけして「終わり」にすることもできた筈です。

瀬野があえてそんな危険を冒した理由、皆さんはおわかりでしょうか?

「今、自分が動かなければ患者が死ぬ」

そう直感し、患者のために今自分にできることを最優先に考えたからです。

念のためお断りしておきますが、法律上は薬剤師にここまでの「冒険」を強制している訳ではありません(努力義務のレベルです)。

皆さんなら、瀬野と同じ行動を取れますか?取りますか?

いみじくも、豊中からこのエピソードを聞いたみどりは、「瀬野さんのようになりたい」と心に誓うのでした(で、はしご酒へ♪)。


では、最後にもう一つだけ「舞台裏」をご紹介しておきましょう。

今回は「バイタルチェック」「フィジカルアセスメント」です。

バイタルチェックとは
バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸)を機器等を使って計測すること。

フィジカルアセスメントとは

身体診査技術(問診・視診・触診・打診・聴診など)を用いて、健康上の問題を査定・評価すること。

突然ですが質問です。

皆さんは、例えば今回の瀬野のように、薬剤師に血圧を測っもらったことってあるでしょうか?では、聴診器で胸の音を聴いてもらったことは?

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恐らくほとんど経験された方はいないと思います。

しかし、実はそれも薬剤師の仕事の一環なのです。


でも、そもそも薬剤師ってそんな医師や看護師みたいなこと、してよかったのでしょうか?

今回の産婦人科医・林とのトラブルもそこが原因でした。

「勝手に患者に触んないでくれるかなァ-!?」

実は、私が薬剤師になりたての頃、先輩から「薬剤師は患者の体に触れてはいけない」「脈も取ってはいけない」と教えられた記憶があります。

理由は、医師法第17条(医師でなければ、医業をなしてはならない)に抵触するから・・・だったのですが、平成17年に出された医政局長通知(第0726005号)によりその「解釈」は大きく変わることとなりました。

「治療」目的で行うこれらの行為が医師法第17 条違反となることは今も昔も変わらないのですが、「薬害防止」「適正使用確保」の目的で行うこれらの行為は医業に抵触しないということが明確化されたのです。

今回のお話をもう一度読み直してみてください。

瀬野は患者の体に触れはしたものの、治療行為は一切していませんよね?


とはいえ、私のような古い薬剤師(ううう、書いてて辛い・・・)にとって、バイタルチェックもフィジカルアセスメントも決して身近なものではありませんし、正直な話、教育も十分に受けられていません。

だからこそ私は、未来を担う薬学生や若い薬剤師の皆さんには、新たに認められたこの職能を活かして医療の質向上に貢献して欲しいと願うのです。

やっぱり、病院薬剤師って素晴らしい!(←私の決め文句です)

今回はここまで。

次回(Rp.7)では再びみどりの特殊能力(!?)が炸裂します(笑)。



Rp.7 患者に教える・患者に教わる ~「理解したつもり」を越える術

(あらすじ)
みどりは1型糖尿病の中学生・奈央の血糖コントロールについて主治医より相談を受ける。元々真面目で理解力もあり、手のかからない患者だった筈の奈央に、コントロール不良の原因を考えあぐね頭を抱えるみどり。そんなある日、低血糖で倒れた奈央に遭遇したみどりが気付いた事とは?

今回のテーマは「インスリン」。

ただ、今回みどりの前に立ちはだかったのは「医学的な壁」ではなく、思春期の子供に特有な「心の壁」でした。


血糖コントロールが突然不良となった原因を、みどりは「仮説⇒検証」を繰り返すことで突き止めようとします。

仮説❶:自己注射の手技に不備があるのでは?

この動画の通り、インスリン自己注射は正しい操作方法(手技)で行う必要があります。ただ、初心者ならばともかく、ベテラン患者の奈央ちゃんが手技を誤るというのは不可解な話です。
(検証)
ただ、「慣れ」によりルーズになっている可能性もあり得ると判断したみどりは、インスリン注射の「おさらい」を行い、見つかった不備の修正を行います。しかし、それでも血糖値は安定しません。

仮説❷:退院したくないのかな?
みどりは担当看護師からの情報(奈央ちゃんは同室の優花ちゃんと違って退院時期を全然尋ねない)から、「奈央ちゃんは退院したくないのでは?」という仮説にたどり着きます。
(検証)
主治医と協議の上、当面は食前の注射は誰かが立ち会うことになりました。ところが、単位数を誤魔化すことが難しくなった奈央ちゃんは、食直前に打つべきインスリンを早めに打って低血糖症状を起こしてしまいます。

仮説❸:インスリンを捨てているのでは?
客観的には奈央ちゃんが意図的に投与量を減らしていることは明らかでした。しかし、みどりにはその理由が思い当たりません。普通に生活するためにインスリンは絶対に必要なもの。それは本人もよくわかっている筈。かといって、本人を問い詰めることなどできない・・・。
(検証)
インスリン独特の臭いに気付いたみどりは、意を決して奈央ちゃんに「間違えたの・・・わざとだよね・・・?」と尋ねてみます。そう、奈央ちゃんは仲良しの優花ちゃんと別れたくないためにインスリンの一部を捨てていたのです。


いや~凄いですね、みどりの嗅覚(・・・そこ?)。

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もしこの特殊能力の発動がなければ、奈央ちゃんの退院はもっともっと遅れていたに違いありません(※この物語はフィクションです)。

後日、みどりは今回の一件を振り返り、こう反省します。

「(奈央ちゃんが)病気を受け入れているだなんて勝手な思い込みでした」
「彼女の気持ちも知らず、きちんと薬を服用できているか、そのことにばかり気を取られてました」

これに対し、担当看護師はみどりを擁護しつつこんな助言をします。

「でも土台に信頼関係がないと、いざというとき支えになれないから、患者さんのことを知ることも治療のひとつかな?それが難しいんだけどね~」

対人業務抜きでは医療は回らないことを看護師は嫌と言う程知っています。


う~ん、このお話って看護師漫画の金字塔「おたんこナース」のカルテ⑬「子供好き?子供嫌い?」のオマージュだと思うんですよね~。

※ちょいと横道にそれますが、しばしお付き合い願います。

(あらすじ)
主人公・似鳥は看護学生時代の「苦い」思い出を回想します。似鳥は、小児科病棟で慢性の腎疾患の小学生・崇の担当となります。年不相応に大人びている崇にどう接すべきか考えあぐねた似鳥は、共通の趣味(日本史)を通して「殿様と家来」という関係で崇と打ち解けることに成功。二人だけの「秘密の世界」で楽しく日々を過ごしました。やがて実習期間も終了となり、崇に別れを告げる似鳥。しかし、それを受け入れられず大号泣する崇を目の当たりにした似鳥は、長期入院生活を送ってきた彼の奥底にある孤独に気付けなかった自分を悔やむのでした。

・・・いかがでしたでしょうか?

今回ご紹介した二つの物語は、医療人として患者の心に寄り添う姿勢と距離感の大切さを教えてくれています。

薬剤師は服薬指導を行う性質上、「教える」ことだけに注目しがちです。

しかし、私自身、逆に患者から「教えられた」経験は沢山あります。

我々薬剤師は患者に「教えている」つもりでいて、案外患者から「教わっている」ことの方が多いのかもしれません。


さて、今回の「舞台裏」は「薬の責任者」です。

2013(平成25)年12月に、薬剤師にとって大きな法改正が行われました。

薬剤師法25条の2の改正です。

薬剤師法25条の2太字:改正箇所)
薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与
の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たって
いる者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見
に基づく指導を行わ
なければならない。

一読しただけではピンと来ないと思いますが、巷ではこの改正により薬剤師が「薬の専門家」から「薬の責任者」に変貌したと言われました。

・・・まだピンと来ませんよね?(更にかみ砕いてみます)

(改正前)
薬剤師 = 薬の専門家
  ↓
必要な情報を提供する義務がある
  ↓
対物業務のみを行う

(改正後)
薬剤師 = 薬の責任者
  ↓
必要な薬学的知見に基づく指導を行う義務がある
  ↓
対物業務に加え対人業務も行う

ここで言う「責任」とは、「結果(アウトカム)を出す」ことと同義です。

要するに、改正薬剤師法では「薬物療法に目を向けるだけでなく、患者にとってのアウトカムを出さないとダメ」と言っているのです。

第1・2話のみどり、第3・4話の瀬野。

どちらも薬だけでなく患者にも目を向け、患者を救うことを最優先に考えて持てる力をふり絞る・・・そんなお話でした。

(昔はともかく)これこそが今の薬剤師に求められている姿なのです。

ここで薬学生さんや若手の薬剤師さんに質問です。

・(対人業務をして)薬の責任者(=薬剤師)になりたい。

・(対人業務はせず)薬の専門家(≠薬剤師)になりたい。

皆さんの答えはどちらでしょうか?

第1話の感想

2020年7月16日、ついに第1話(初回15分拡大)がオンエアされました!

様々な反響があったようですが、私なりに感想を述べさせていただきます。

#1 「知られざる病院薬剤師の医療ドラマが誕生! 」のあらすじ
 葵みどり(石原さとみ)は、萬津総合病院薬剤部に勤務する薬剤師。救急センターで蜂に刺されて搬送された患者への医師の投薬を薬剤部副部長の瀬野章吾(田中圭)とサポートしていた。そこに、薬剤部部長の販田聡子(真矢ミキ)が新人の相原くるみ(西野七瀬)を連れて来た。心肺停止に陥った患者が心臓マッサージを受ける中、みどりは患者が日常服用している薬に気づく。それを医師に報告したことで、患者の心拍は回復。薬剤師が患者を救ったと、くるみは感動。しかし、患者の家族たちは、医師にしか感謝をしない。くるみに疑問をぶつけられたみどりは、「感謝されたいなら薬剤師は向いてない」と答える。
 患者の投薬状況を見て回るみどりの早足に、くるみはついて行くのがやっと。医師から小児病棟の糖尿病患者、渡辺奈央の血糖値が安定しないと聞けばすぐさま病室に赴くみどり。その病室には奈央と仲の良い森本優花も入院中。優花も糖尿病で入退院を繰り返していた。
 薬剤室に戻ったみどりは刈谷奈緒子(桜井ユキ)に一喝される。医師から続々と届く処方箋の調剤に大忙しだからだ。みどりは届いた処方箋をくるみにも渡して調剤を始めた。羽倉龍之介(井之脇海)が、くるみの紹介をするが誰も手を止める事はない。そんな時、みどりは産婦人科医・林(飯田基祐)の処方箋に疑問を抱く。すぐに、みどりは林に疑義照会(処方箋を出した医師への問い合わせ)をする。


❶ストーリー詰め込み過ぎ!?

初回ということもあるのか、原作3話が同時進行する展開。

第3話「近くて遠い目の前」
⇒ アナフィラキシーショック(アドレナリン無効)
第4話「資格の覚悟」
⇒ 妊婦(HELLP症候群)
第5話「病気とお付き合い」
⇒ 1型糖尿病(訳アリの女子中学生)

「目まぐるしくて集中力切らすと置いてかれる」

Twitter上ではそんな意見もありました。

実は原作の「アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」は「コミックゼノン」という雑誌に連載中なのですが、月刊誌なので進行が遅いのです。

この記事を書いている時点(7/18)で最新話がまだ第28話なので、「こんなハイペースで大丈夫か?」って心配してしまいました(笑)。


❷キャラ追・キャラ変

原作では登場しない(これから登場する?)キャラも沢山登場しましたね。

七尾拓(池田鉄洋):治験管理担当で「対物業務論者」の副部長
荒神寛治(でんでん):「調剤の魔術師」の異名を持つDI担当薬剤師
工藤虹子(金澤美穂):情報通の4年目薬剤師

ひときわ異彩を放つ七尾は、「薬剤師は薬のことだけ見ていればよい」とする古いタイプの薬剤師の象徴として登場させたのだと思います。

個人的に期待したのは(私と同じく)DI担当の荒神だったのですが・・・、まさか「魔術師=マジシャン」だったとは!(妻には「こんなキャラ要らん」とディスられてしまいました。トホホホ・・・)。


現役の薬剤師としては、我々の「縁の下の力持ち(アンサングヒーロー)」にもスポットを当てて欲しいな、と思いました。

DI担当薬剤師もそうですし、(お気付きでしたか?)調剤室の奥で緑色のユニフォームを着て走り回る「調剤補助員(もしくはSPD)」にも。


あと、原作で登場しているキャラ設定も随分と変更されてましたね。

葵みどり(石原さとみ)
(原作)激情型の2年目薬剤師 ⇒(ドラマ)淡々とした8年目薬剤師
販田聡子(真矢ミキ)
(原作)癒し型の男性 ⇒(ドラマ)「わかる~」が口癖の計算高い女性
羽倉龍之介(井之脇海)
(原作)気弱な陰キャ ⇒(ドラマ)おしゃべりなお調子者
瀬野章吾(田中圭)
(原作)葵の指導者 ⇒(ドラマ)鬼軍曹
相原くるみ(西野七瀬)

(原作)愛らしいみどりの妹分 ⇒(ドラマ)ドライな今ドキの女子
刈谷奈緒子(桜井ユキ)

(原作)感情を出さない鉄の女 ⇒(ドラマ)裏ではみどりを温かく見守る
小野塚綾((清原翔⇒)成田
(原作)DSから在宅特化型薬局に転職 ⇒(ドラマ)救急薬剤師に転身

原作では、瀬野をメンターとして新米薬剤師・みどりが成長していく過程が描かれていたのですが、ドラマでは既に仕上がっていましたね。

・・・てか葵さん、スーパー過ぎでしょ!(※このお話はフィクションです)


❸対物業務 vs 対人業務

少し難しい話になるかもですが、現代の薬剤師には「(薬相手の)対物業務」「(患者相手の)対人業務」という二つの責務があって、そのどちらもこなす義務があります。

「対物業務」の最たるものが調剤室(殺気立ってましたよね~)。

何せ足で拍手をする程ですから(せんせん、そんなこと)。

一方、病棟業務は「対人業務」がメイン。

「患者を救うこと」「患者の日常を取り戻すこと」「患者の未来に灯をともすこと」を実現するためには、患者の心に寄り添い、かつ患者と薬の相性を見定めなければなりません。

結局のところ、「対物業務」だけでもダメ、「対人業務」だけでもダメ。

それぞれの薬剤師が自分の特性を活かして、今やれることを懸命にやるしかないのです。


ただ・・・勘違いしてはいけません。

相原「薬剤師も患者さんの命を救うことあるんですね?」
瀬野「違う、救ったのは医者だ」

葵「相原さんは感謝されたいの?」
相原「そりゃあ、そうですよ」
葵「じゃあ、この仕事は向いてないかな?」
相原「えっ?」

それこそが、薬剤師が「アンサングシンデレラ」と呼ばれる所以です。

※9年前に私が書いた記事「「素晴らしい!」と感じた瞬間」も、よろしければあわせてご一読ください。


余談にはなりますがTVCMの話。

これまでの人生(!?)で、これ程集中して調剤薬局グループのCMを見たのは初めての経験でした(ローカル枠では地元の薬局CMも流れたし)。

でも、病院薬剤師のドラマなのに何か違和感(もちろん大切な連携相手だということは理解してるけど・・・、劇中で変な忖度だけは止めてケレ)。



第2話の感想

さてさて、第2話も15分拡大版ですよ~。

#2 「薬剤師は薬を渡して終わりじゃない 」のあらすじ
 調剤室に走り込んで来た販田聡子(真矢ミキ)は薬剤部一同に向かって、厚生労働省の麻薬取締官が医療麻薬の管理調査に来ると告げる。病院で扱っている医療用麻薬が適切に管理されているかの確認のためだ。刈谷奈緒子(桜井ユキ)は調剤室にある医療麻薬と帳簿と照らし合わせ、薬の数が帳簿と合っていることを確認。販田は他の保管状況を調べる。
 そんな中、葵みどり(石原さとみ)は入院患者が薬をしっかり飲んでいるか、相原くるみ(西野七瀬)とともに病棟を回る。右腕の骨折で入院している大宮清(小林隆)の病室へと入ると、見舞いに来ていた篠原麻利絵(大後寿々花)と何やら言い争いをしている。2人の口論を止めた後、みどりは入院前に飲んでいた薬はないか大宮に聞くも「知らないよそんなこと」と吐きすて、大宮はポーチを持ってトイレへと立ってしまう。困ったみどりは麻利絵に大宮の最近の体調を尋ねるが、麻利絵もわからない様子。みどりが麻利絵に大宮との関係を尋ねると“父親”だと答えるが何か事情がありそう。すると病室の外が騒がしくなる。みどりとくるみが病室の外に出ると、大宮が意識不明で倒れていた。みどりはくるみを調剤室へと帰し、麻利絵と一緒に救急センターの救急処置室に搬送される大宮に付き添う。一方、麻薬管理室を調べていた販田たちは、薬剤の数が足りない事に気づく・・・。

今回も3つの話が同時進行するパターン。

しかし、うち2話は原作にはないエピソードでした。

第2話「飲めない薬」
⇒ クラリスロマイシンドライシロップの服薬介助
第?話「マトリ、来襲」
⇒ 厚労省麻薬取締官(通称マトリ)との攻防
第?話「下痢止めで心停止!?」
⇒ 止瀉薬(ロペラミド)の過量服用で重篤な不整脈


❶自己満足か割り切りか

今回の最大の見どころは、効率を最優先する「鉄の女」こと刈谷と、患者の心に寄り添うべく日々奮闘するみどりのせめぎ合いでした。

刈谷「(一人の患者のために奔走するのは)単なる自己満足だよ」

販田「わかる~(※口癖)」

みどり「わかりません。私は刈谷さんみたいに割り切れません」

薬剤師数が僅か23名の萬津総合病院薬剤部。

しかも部長(販田)・副部長(七尾・瀬野)・DI担当(荒神)の4名(+α)抜きで外来調剤までやってるのだとしたら、確かにキツいと思います。

七尾の言う通り「薬剤師は薬のこと(対物業務)だけ考えていればいい」のかもしれませんが、国は「対人業務に注力しなさい」と言っているのです。

なので「対人業務の急先鋒」であるみどりを大半のスタッフは応援している訳ですが、ここまで七尾と刈谷だけは否定的なスタンスでした。

しかし今回、刈谷にも心の変化がありましたよね?

自分と同じ境遇(シングルマザー)の母親が薬の飲ませ方で苦しんでいる姿を目の当たりにして、みどりの姿勢にも理解を示し始めています。

くるみ「あの二人、ホント全然違うタイプですけど、いいコンビですね」

強敵であればあるほど、味方になれば心強い存在になるものです。

刈谷がみどりの味方となる日は・・・、そして七尾は・・・?


❷マジシャンで終わるつもりなん?

今回最も見るに堪えなかった(!?)のがDI担当・荒神のご活躍でした。

原作にも登場しないDI担当を登場させてくれたのは有り難い限りなのですが、その役割がコーヒーを点てたり、手品でマトリを誤魔化すことだとしたら・・・要らんわっ(涙)。

※そもそもDI業務って、現場の薬剤師からも十分に理解されていないんですよね。「アンサングヒーローの中のアンサングヒーロー」ってへへ・・・。

荒神はん、最終回までにはDI担当らしい姿、どうぞ見せとおせ。


❸リサーチ不足?

わざわざ私が指摘しなくても他の方が散々している筈ですが・・・。

ないない、ロペラミドであんなことにはなりません。

架空の薬ならともかく、実在する薬でデタラメ言ったらダメです。

これは一般の方だけでなく、医療従事者や薬学生も見てるんですから。


折角のドラマです。

私だって重箱の隅などつつきたくはなかったのですが、薬学生が誤解したまま医療の場に入って来たら困るので、はっきり記しておきます。

患者・大宮は、娘の麻利絵に自分の病気(骨肉腫)のことを知られまいと、手持ちの薬(ロペラミド)をトイレ内で全て服用し、その場で倒れます。

ここで私が違和感を覚えたのは、「え?ロペラミドってそんな危険な薬だったっけ?」という点です(小児用だって発売されてるのに)。

大宮は骨肉腫の治療薬(抗がん剤)による副作用(下痢)を和らげるためにロペラミド(下痢止め)が処方されていました。

抗がん剤によってはひどい下痢が起こる場合があり、治まるまで2時間毎に1錠ずつ服用していき、最大で1日8錠まで服用することもあります。

大宮さんが今回服用したのはせいぜい20錠(片手に乗る量)。

通常量を多少超過したからといって、毒薬でも劇薬でもない本剤が致死的な毒性を発揮するとはとても思えません。

そこで私は、ロペラミドの資料(インタビューフォーム)を調べてみましたのですが、以下のことがわかりました。

・Tmaxは4~6時間(=作用のピークは服用後4~6時間)
飲んですぐ効く薬ではないため、トイレで倒れたとしても別の要因?

・副作用に対する潜在能力を調べる実験で、健康人に 1 回 60mg まで投与したが、重大な副作用は起こらなかった。
20錠(20mg)程度を服用してもまず大丈夫。

・中枢神経系の抑制がみられたら、ナロキソン(麻薬拮抗薬)を投与する。⇒ 心室性不整脈に有効とは書かれていない。

結果的に救命はできたので、それはそれで良かったのですが、自転車を漕いで自宅や医大病院に押し掛けてようやく入手した情報(ロペラミドの処方履歴)は実は不要だったのかもしれないのです。

「何だかなぁ」です。

原作のエピソードは実に入念に取材されており、現役の薬剤師が見ても違和感はほとんど感じません。

しかし、ドラマ用に急遽追加された今回のようなエピソードは、もしかしたら・・・リサーチ不足なのかもしれませんね(DI業務も含めて)。


第1巻はここまで。

これ以降は、このブログ共々「第2巻」へと移ります。

次回(Rp.8)は切実なお金の話です。

「鉄の女」刈谷が遂に始動します。

病院薬剤師って素晴らしい!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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