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病院薬剤師が語る気になるクスリの話 第1話「下剤(便秘薬)」

※本文中に登場する「診療ガイドライン」とは、現在の医療水準で推奨される医学的見解をエビデンス(根拠)と共に示したものです。

誤解の多い「便秘」と「下剤の使い方」

「便秘」と「下剤の使い方」は実に多くの方が誤解されています。

便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」慢性便秘症診療ガイドライン2017)と定義されています。

この「本来体外に排出すべき糞便」という箇所にご注目ください。

そもそも食事量が少ない人は「本来体外に排出すべき糞便」も少ないため、排便回数は減って当然ですし、たとえ排便困難や残便感を自覚していてもそれだけでは便秘とは呼べません。

よって、極論かもしれませんが、以下のことが言えます。

・排便回数が少ない(だけ)
・排便困難がある(だけ)  ⇒ いずれも便秘とは限らない
・残便感がある(だけ)

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なのに「自分は便秘なんだ」と信じ込み、下剤を汎用している・・・。

そういう方も相当数いると考えられます。


ここまで読んで来て、ピンと来られた方も多いのではないでしょうか?

そう、ダイエットと下剤の関係です。

次のグラフをご覧ください。

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このように、便秘を自覚する人口は若年層では女性に多く、60歳以上では性差を問わず急増していきます。

便秘を起こす薬(向精神薬など)を服用していることが多く、消化管機能が低下している高齢者に便秘が多いのは納得できるとして、若年層で男女比が何倍にものぼる点は、ダイエット抜きには説明がつきません。

つまり、こんな仮説が立てられます。

若年女性(の多く)はダイエットのため食事の絶対量が少ない
      ↓
「本来体外に排出すべき糞便」が少ない(厳密には便秘ではない)
      ↓
にもかかわらず、便秘と誤解して下剤を汎用(乱用)する場合が多い

下剤が乱用される要因にはもう一つあります。

それは下剤が、便秘に伴う肌荒れや吹き出物、腹部膨満感、頭重、のぼせなどの症状の緩和・改善をもたらすことがある点です。

一度その爽快感を体験してしまうと、たいした便秘でもないのについつい下剤に手が伸びてしまう、といったこともあるかもしれません。

しかし、そういった使い方は決して望ましいとは言えません。

下剤はとても身近な薬ですが、その分、正しい知識が必要なのです。


主な下剤の種類と特徴


1.刺激性下剤
腸に刺激を与え、排便に関わる大腸の運動をうながす薬です。

基本的に作用は強めで速効性があり、効き過ぎると腹痛や下痢などの副作用も見られます。

また長期間飲み続けると耐性(薬が効きにくくなること)が生じるため、使用量が増えたり、薬が手放せなくなることがあり要注意です。

慢性便秘症に対して、刺激性下剤は有効であり、頓用または短期間の投与を提案する(推奨度2、エビデンスレベルB)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

そのため、ガイドラインでも頓用または短期間の使用を推奨しています。

このジャンルの成分としては、❶ビサコジル❷センノシド❸ピコスルファートナトリウム水和物などがあります(❶>❷>❸の順に効果が強い)。

≪代表的な市販薬≫
❶ビサコジル:「コーラック」など
❷センノシド:「スルーラックS」(❶も配合)など
❸ピコスルファートナトリウム水和物:「ピコラックス」など

【使用してみた感想】
3成分とも服用したことがありますが、やはり効果は❶>❷>❸の順で間違いありませんでした。❶は効き過ぎると腹痛や下痢が厄介ですが、頑固な便秘の際は頼りがいがあります。❷は生薬由来の作用の穏やかさで安心感はありますが、飲んでいるうちに1錠⇒2錠⇒3錠と量を増やさないと段々効かなくなる現象(耐性)を経験しました。❸は最弱とはいえ、病院でなら液剤が処方してもらえるので、滴数で微調整できるのが便利です。大腸内視鏡検査の前日に1~2本(10~20mL)丸ごと飲まされるのもこの❸です。

【病院薬剤師からのアドバイス】
ガイドラインにもある通り、「ここぞ」という時に限って服用すべき薬だと思います。長期連用すると腸が刺激に慣れてしまい、最悪下剤が一切効かない体質になってしまうからです。また、手軽に買えてよく効くことからダイエット目的で服用する方もいるかと思いますが、ろくに便も溜まっていないのに排便ばかりをうながしていたら、本来吸収されるべき水分や電解質を捨てているようなもの(食べてすぐ吐くのと同じです)。いずれ脱水や電解質異常を起こし、命にかかわる場合もあることを知っておいてください。


2.浸透圧下剤
腸内の水分量を増やして腸の動きを高める薬です。

刺激性下剤とは対照的に穏やかな作用で、習慣性も低いのが特長です。

塩類下剤(酸化マグネシウムなど)と糖類下剤(ラクツロースなど)の種類がありますが、塩類下剤が主流です。

慢性便秘症に対して、浸透圧下剤は有効であり、使用することを推奨する。ただし、マグネシウムを含む塩類下剤使用時は、定期的なマグネシウム測定を推奨する(推奨度1、エビデンスレベルA)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

ガイドラインにもある通り、腎機能低下患者がマグネシウムを含む塩類下剤を服用すると高マグネシウム血症を起こす可能性が高いため、定期的に血清マグネシウム値を測定し、初期症状(嘔吐・徐脈・筋力低下・傾眠など)が現れた場合には、服用を中止し、直ちに受診する必要があります。

≪代表的な市販薬≫
・酸化マグネシウム:「酸化マグネシウムE便秘薬」など
・水酸化マグネシウム:「ミルマグ液」など

【使用してみた感想】
酸化マグネシウムは腎機能低下患者を除けば安心して使えるので、病院でも最も汎用されている下剤です。弱点は効き目が水分摂取量に左右されるため確実性が低い点。つまり、全く効かないこともあれば、逆に効き過ぎて漏らしてしまうこともある点です。なので、「軟便の際にはスキップ可」等、患者に一定の裁量が与えられていることがあります。それを逆手に取り、普段より多めに飲んで硬便の「ふやかし効果」を期待することもありました。

【病院薬剤師からのアドバイス】
頑固な便秘の場合は刺激性下剤に軍配が上がりますが、習慣性や耐性が少ないため「普段使い」には浸透圧下剤が適しています(ガイドラインでも推奨度は最高ランクです)。刺激を避けたい妊婦の便秘には特におすすめです。


3.浣腸・坐剤など
直腸に物理的な刺激を与え、蠕動を高めることで排便をうながす薬です。

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使用してから効果発現までの時間が短いのが特徴です。

ただし、体質に合わない場合、腹痛や下痢が起こることがあります。

慢性便秘症の治療法として浣腸、坐剤、摘便、逆行性洗腸法は有効であり、使用することを提案する(推奨度2、エビデンスレベルC)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

長期にわたる使用は副作用の出現や習慣性を招くため注意が必要です(特に日本は乱用気味であり、依存症や多量の薬剤使用が問題となっています)。

≪代表的な市販薬≫
・浣腸:「イチジク浣腸」など
・坐剤:「新レシカルボン坐剤S」など

【使用してみた感想】
浣腸も坐剤も入院中に使用した経験があります。浣腸を勤め先の看護師さんしてもらうのは恥ずかしかったので(笑)、ネットで事前学習してから自ら挑戦しました。その際、「立位(立ったまま)での投与は厳禁」と書いてあったのを覚えていたのですが、最近、立位で投与したばかりに注入口が陰嚢まで貫通して大事になったという医療事故の報道を知り納得しました。注入後3~10分我慢していると、「来た来た」という感じで便通があります。

【病院薬剤師からのアドバイス】
浣腸は赤ちゃんや介護老人の便秘などには重宝しますが、物理的な方法であるがゆえに肛門を傷めたり、連用すると刺激性下剤と同様、次第に効きにくくなるリスクがあります。よって使用は短期間にとどめ、排便リズムの回復を認めたら適宜漸減や中止を検討すべきです。


4.その他の治療法

・膨張性下剤 @ 便秘型過敏症腸症候群
 (推奨度2、エビデンスレベルC)
・消化管運動賦活薬 ※日本で使用可能な薬剤のエビデンスは少ない
 (推奨度2、エビデンスレベルA)
・一部の漢方薬
 (推奨度2、エビデンスレベルC)
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

本稿では一般の方でも入手しやすい「便秘に用いる漢方薬」を紹介します。

(注)漢方薬と言えど「体質に合う合わない」があります。購入前に専門家と相談することをお勧めします。

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≪日常臨床で便秘に対して頻用される漢方エキス剤≫
・大黄甘草湯(大腸刺激)
・桃核承気湯(大腸刺激+塩類下剤)
・防風通聖散(大腸刺激+塩類下剤)
・調胃承気湯(大腸刺激+塩類下剤)
・潤腸湯(クロライドチャンネル刺激)
・麻子仁丸(便軟化)
・桂枝加芍薬大黄湯(整腸)
・桂枝加芍薬湯(整腸)
・大建中湯(消化管運動促進+血流増加)
・大柴胡湯(大腸刺激+消化管運動促進)

※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より


5.次世代の下剤
ここ数年、新しい作用機序の下剤が相次いで上市されています。

・上皮機能変容薬
 ルビプロストン(商品名:アミティーザ)
 リナクロチド(商品名:リンゼス)
・胆汁酸トランスポーター阻害剤
 エロビキシバット(商品名:グーフィス)
・末梢性μオピオイド受容体拮抗剤
 ナルデメジントシル酸塩(商品名:スインプロイク)
 ※いずれも医療用医薬品

上皮機能変容薬は、小腸での水分分泌をうながして便を柔らかくし、腸管内での便の移動を容易にする薬です(リナクロチドは消化管知覚過敏を改善させる効果もあるため、便秘型過敏性腸症候群の治療にも用いられます)。

胆汁酸トランスポーター阻害剤は胆汁酸の再吸収を抑制することにより大腸管腔内に流入する胆汁酸量を増やす薬です。胆汁酸が増えれば、①消化管運動②腸管内への水分分泌③便意をうながすことに繋がる訳です。

末梢性μオピオイド受容体拮抗剤はがん疼痛治療などに用いられるオピオイド(モルヒネなど)による便秘の副作用を和らげる薬です。

なお、ガイドラインに記載があるのは、現在のところ上皮機能変容薬のみ。

慢性便秘症に対して上皮機能変容薬は有用であり、使用することを推奨する。ただし、ルビプロストンは妊婦には投与禁忌であり、若年女性に生じやすい悪心の副作用にも十分に注意する必要がある(推奨度1、エビデンスレベルA)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

これらは既存の薬よりも有効性・安全性に優れており、ガイドラインでの推奨度も高く設定されています。よって、医療施設では既存薬に取って代わる勢いで使用されていますが、新薬のためまだ病院でしか手に入りません。


薬以外の治療の選択肢

食物繊維は必ずしも便秘を改善しない
意外かもしれませんが、食物繊維を闇雲に摂れば便秘が改善する訳ではありません。むしろ過剰な食物繊維の摂取は便秘を悪化させます。そういえば私自身、「蒟蒻畑」を食べたら更に便が出なくなったという経験が何度もあり不思議に感じていました。どうやら、食物繊維が有効なのは摂取量が不足している場合のみ、ということのようです。

※食物繊維の推奨摂取量:1日あたり成人男性20g以上、成人女性18g以上「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚労省)より

腹壁マッサージ(腸もみマッサージ)は結構おすすめ
便秘解消に運動が有効であることは以前より言われているのですが、いかんせんエビデンス(根拠)が乏しいのが実状です。そんな中、注目を浴びているが「腹壁マッサージ」(巷では腸もみマッサージとも呼ばれています)。やり方は次の動画(わずか1年間で150万回再生というオバケ動画;この記事を書いている間にもみるみる伸びていきました)をご覧ください。手軽にでき、お金もかからず、特に副作用もないのでおすすめです。

下記の通り、腹壁マッサージはガイドラインでも触れられています。

適切な食事や運動、腹壁マッサージは慢性便秘症の症状改善に有効であり行うことを提案する(推奨度2、エビデンスレベルC)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

プロバイオティクスは「排便回数」に効果あり
プロバイオティクスとは人体に良い影響を与える微生物(善玉菌)、またはそれらを含む食品・製品(ヨーグルトなど)のことで、腹部症状を悪化させずに排便回数を増加させる効果があることが報告されています。

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慢性便秘患者においてプロバイオティクスは排便回数の増加に有効であり、治療法として用いることを提案する(推奨度2、エビデンスレベルB)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

便秘と心の密接な関係
これは大きな声では言えないのですが、出張中に宿泊したホテルで出来心(!?)でHなビデオを見まして、それが結構マニアックというか変態チックな内容で、女の人がドデカい浣腸をされて、いやあの・・・いわゆる「●カトロ」というやつでして、すると、あ~ら不思議!元々「1週間以上の便秘は当たり前」の私に突如便意が訪れ、一気に便秘が解消したという出来事がありました。なので、下記のバイオフィードバック療法や精神・心理療法が有効であることを奇しくも実感したのでした(ああ、恥ずかしい)。

※その一方で、「慢性便秘症患者の過半数にうつ、不安などの心理的異常を認める」という報告もあり、慢性便秘症と心理的異常の間には少なからず関連性があることが示唆されています。

機能性便排出障害による慢性便秘症に対して、バイオフィードバック療法は有用であり、施行することを提案する(推奨度2、エビデンスレベルA)。
慢性便秘症に対する精神・心理療法は有効である可能性があり、行うことを提案する(推奨度2、エビデンスレベルC)。
※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より

最終手段は外科的治療
昨年のTV番組で、草刈正雄の娘でモデルの紅蘭(くらん)さんが16歳から自力で排便していないことを告白して話題となりました。

これは「逆行性洗腸法」という外科的処置の要らない方法でしたが、更に高度の便秘になると、手術で盲腸に穴(盲腸瘻)を開けてそこから洗腸液を注入する「順行性洗腸法」という治療を行うことがあります。それでもダメな場合、最終手段は大腸切除・人工肛門造設ということになります。

「たかが便秘、されど便秘」という訳です。

順行性洗腸法(ACE)は、保存的療法が無効か継続困難な高度の便秘症に対して、人工肛門や大腸切除などの手術を回避するための外科的治療法として有用であり、施行することを提案する(推奨度2、エビデンスレベルC)。
大腸通過遅延型便秘に対する結腸全摘+回腸直腸吻合は、一定の基準のもとに患者を選択すれば有効であり、行うことを提案する
(推奨度2、エビデンスレベルC)。
便秘症の原因が直腸脱、直腸瘤、直腸重積などである場合は外科的治療が有効であり、行うことを提案する
(推奨度2、エビデンスレベルB)。


下剤が適さない便秘

下剤が適さない便秘があることをご存知でしょうか?

それは「二次性便秘」です。

二次性便秘とは、何らかの要因によって二次的に引き起こされる便秘のことで、具体的にはヘルニア(腸閉塞)大腸がん甲状腺の病気糖尿病などから起こる便秘などがそれです。

便秘だけでなく、激しい腹痛や頭痛・めまい、倦怠感、粘血便などを伴う場合や便秘が長期に渡る場合などは、早めに医療機関を受診してください。

また、便秘を起こしやすい薬(下記参照)も多数存在しますので、主治医とよく相談して、可能な薬は中止してもらってください。

(注)自己判断で勝手に中止するのは厳禁です。

≪慢性便秘症を起こす薬剤≫
・抗コリン薬
・向精神薬
・抗パーキンソン病薬
・オピオイド
・抗がん剤(の一部)
・循環器作用薬(カルシウム拮抗薬・抗不整脈薬・血管拡張薬)
・利尿薬
・制酸薬(アルミニウム含有薬)
・鉄剤
・吸着薬・陰イオン交換樹脂
・制吐薬(5-HT3拮抗薬)
・止痢薬(ロペラミド)

※「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より


まとめ動画を作ってみました。おさらい用にどうぞ。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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