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「いつものロコ・ソラーレ」が決勝進出!——カーリング女子準決勝、日本vsスイス

試合前、「いつものロコ・ソラーレが帰ってきた!」と思った。

試合前の選手紹介のとき、いつものように陽気に手を振る彼女たちの姿があった。前日の「ジャイアンにボコボコに殴られたのび太のような泣き顔」はどこにもなかった。たった一晩で何が彼女たちを立ち直らせたのかわからないが、吹っ切れた表情の選手たちに期待で胸が高鳴った。

第1エンドは何事もなくブランクエンドで終えたが、激戦はここから。第2、第3、第4エンドは日本とスイスが互いに不利な先攻で最小失点にとどめる好守を繰り返した。ここでスコアは日本の1-2。

互角の戦い——、いや、ゲームの中盤過ぎまで、スイスの氷の読みのズレが目立った。リード、セカンドのショットでストーンが思惑よりも曲がらなかったり、遠くまで滑る場面が散見された。そのため、「スイスチームのジャイアン」、フォースのアリナ・ペイツは1点取らされる展開を余儀なくされ、苦笑を浮かべる場面があった。昨日からの対日本戦で、彼女がこのような表情を見せるのは初めてだ。

私が勝手に「スイスのジャイアン」と呼んでいる、スイスのフォース、ペイツ

第5エンド、日本の石がハウスの左側に集まる形でチャンスが生まれた。ここで日本のスキップ、藤澤五月の2投目がハウス内の奥に並んでいた相手のストーンを2つ弾き出すミラクルショット。一気に4点を奪取し、これで6-3。

前日、スイス戦の終盤第9エンドにペイツにダメ押しの3点を奪われるダブルテイクアウトを決められていたが、同じダブルテイクアウトで4点を奪い、きっちり借りを返した。

続く第6エンドもスイスのスキップでサードを務めるティリンツォーニのミスを誘い、日本が1点スチールに成功した。

ただ、スイスはタダでは試合を渡さない。スイスの後攻で迎えた第7エンド、フォースのペーツの1投目が日本のハウス内の2つのストーンを弾き出す見事なテイクアウトとなり、これが決め手で一気に3点を取り返す。

日本の後攻で迎えた第9エンド、サードの吉田知那美のショットが相手のガードストーンに触れてしまい、自分のストーンがハウスに入らないばかりか相手のストーンをハウス内に移動させてしまう絶体絶命のピンチを迎える。最悪4失点。2失点に抑えるだけでも上出来の場面だった。

ここで藤沢が見事なミラクルショット連発でピンチを防いだ。相手の得点源となるストーンを2つずつ弾き飛ばし、なおかつ自分が投げたストーンを相手が打ち出しにくいガードストーンの後ろ側へロールさせる。これで失点を「1」にとどめた。日本の7-6。

これで1点リードで有利な後攻で第10エンドを迎える。まだ気の抜けない日本チームより、スイスの方がすでに敗北を悟ったように見えた。

第9エンドで失点を「1」にとどめたのが、ここで効いた。日本はもはや1点取りにいく必要もなく、スイスのストーンを全部弾き出して0点となるようなブランクエンドとなれば日本の勝利が決まる。リードの吉田夕梨花、セカンドの鈴木夕湖の相手のガードストーンをずらしにいくショットが面白いように決まり、相手の得点の芽を潰していく。

「この相手にはスチールできない」——前日、圧倒的なショットで日本に立ち塞がったペイツの表情はそう語っているように見えた。

最後は藤沢のドローショットが綺麗に決まり、1点を加点。8-6で試合を終えた。


「人間って、1日でこんなに変わるものか」、そう感じたゲームだった。

藤澤が前日に相手に大量得点を許したパターンをそっくりやり返した第5エンド、そして、絶体絶命のピンチを2連続のミラクルショットで最小失点に抑えた第9エンドが最高の見せ場だった。前日、あれだけ怯えた表情でミスショットを連発した彼女が、どうやって精神を立て直したのか本当に知りたい。

浮かんでは沈むジェットコースターを見るような気分で見てきたカーリング女子の試合だったが、ついに決勝戦にたどり着くことになった。どんなドラマを見せてくれるか楽しみだ。


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