築地と私。3話
「どうだった?築地は。」
事務所に帰ると、社長がこう私に尋ねてきた事を今でも覚えている。
「大都会の一等地にあんな施設があるとは、、夢にも思いませんでした。何というか、昭和のドヤ街と言うか。。」
すると、一言。
「周りが随分変わったんだよ。。」
タバコを吹かしながら、遠くを見つめるようにこう答えてくれた。
「昔に比べたら人も減ったし、随分と変わったよ。昔は、人が歩けないくらい賑わったもんだ。商いが上手い奴は家が2軒、3軒持てたからなぁ。今は厳しくなった。お前は昔の魚屋の商売を知ってるか?」
「はぁ。。街にある魚屋ですか?」
「そうだ。」
「昔の魚屋ってのは、氷詰めたケースに値札付けてお客さんにその魚をどうするか尋ねて売るもんだった。焼くか、刺身にするか、今晩はどうするかってな?」
「はい。」
「中にはお客さんによっては捌き方がわからない人もいる。そういう人にはこっちが裁いて、竹の皮で包んで、新聞紙で渡したもんだ。今はスーパーで予め出来上がってスチロールでラップして並んでるだろ?商売人が入る隙がなくなったよ。あれじゃあ、どんな魚かも分からないし、捌き方すら教えられない。」
確かにそうだ。
大量消費のこのご時世。
量販店だけが生き残っている中で、昔ながらの威勢の良い声は街から姿を消した。
プロが教える機会がないのだ。
「すると、面倒な魚は食卓に並ぶ機会が少なくなった。肉を食べる方が楽になった。今度は上がった魚を食わなくなった。。そのうち環境が変化し、その魚すら上がらなくなった。それが今だ。」
更にこう話す。
「諸外国が今まで魚を見向きもしなかったが、健康志向が広まり魚を食べ始めた。。今、一番の脅威が中国だ。これから、中国が魚を食べ始めたら、、、日本人が魚を食べられなくなるかも知れない。」
「え?!」
「いいか?!今の魚屋ってのはグローバルに動いているんだ。正確な情報を集め、その時の為替のタイミングで打つか決める。昔からだが、無い物は世界を股にかけて集めに行くんだ。現場は戦争なんだぞ?!」
魚が上がらない。
でも、食卓に届けさせなければならない。
日本の食の事情というのが初めて分かった瞬間であった。
「今日はこれから、うちの中国の工場から届いた荷物があるから検品に行くぞ?!」
「検品??」
「うちの製品を説明してやるよ。どんなものを作っているのか。。まぁ、商売人は売るものを自分で確かめなきゃならんからな?これから当分、朝築地に行って、日中は検品、輸出輸入の書類作成、時には海外の現地にいきなり行く事になるかもな。覚える事が沢山あるからついてこいよ?」
「はい。」
こうして、一息つく暇もなく、
右も左も分からない私の新人研修無しの実践の社会人生活がスタートした事を今でも覚えている。
築地の商売人はせっかちだ。
次回に続く。
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