築地と私。第1話
20代前半の頃だ。
私まだ大学4年だった頃、世間は就職氷河期の真っ只中であり、100社回って、一社内定が貰えるかどうかという辛い時代を過ごした記憶が今でも残る。
それを見兼ねたアルバイト先の先輩から
「もし、職に困っているのなら、、知り合いの五反田の水産会社が大卒を募集しているから、行ってみるか?」
このご時世で、こんな有難い話に乗らない手はない。
私は迷わず、間髪入れずに
「はい」
の一つ返事で答えた。
当時、職を選ぶ程の学もない私には選択肢など何もなかったのだ。
話が頂けるだけ有難い。
後日、五反田へ面接に伺うに
とある雑居ビルの一事務所、社長含めて5人という非常に小さな会社ではあったが、中国に自社の加工場があり年商はざっと15億。
これから非常に伸びるという話は聞いていた。
事務所で待たされる事、数分。
「良く来たな?」
角刈りに金縁メガネ。
内に何かを秘めたギラついた眼差しはいまでも印象に残る。
とてもカタギには見えない風貌の社長だ。
「うちは今、人が足りない。学生をやりながらで申し訳ないがすぐ働いて仕事を覚えてくれ。」
単位は残すところあと僅か、週一日学校に行かせて貰えれば卒業は出来る。
その旨を説明した所、理解は得られてホッとしたのだが、
「早速、明日から築地に通って魚を勉強してくれ。」
私には断る選択肢はなかった。
職があるだけ有難い。
翌朝。
銀座から程近い、中央区のコンクリートジャングルを抜けたど真ん中に、
突然、昭和のノスタルジックな異様とも言える光景が目の前に広がる。
朝日新聞の社屋の前を、スーツ姿のビジネスマンの波を掻き分け、くわえタバコで運転する荷物満載のターレーが横切る衝撃的な景色。
こんな世界が、都会のど真ん中にあるのか?
道路一本境に、昭和と平成が共存しているのだ。
ここが日本の食を支える台所。
築地。
あの日、
生まれて初めて大江戸線の築地市場駅を降りた目の前の衝撃的な光景は、今でも鮮明に目に焼き付いている。
次回に続く。
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