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「稼ぐ力」のある人は、いったい何をやっているのか?

「○○で稼ぐ方法」とか「お金に愛される○○」とか「○○だけで年商○億」なんて本を出しているくらいだから、この出版社の社員はきっと大金持ちだろう――

ビジネス書系の版元にいると、こんな皮肉をよく目にしたり、耳にします。
確かにその本のとおりにすれば大金持ちになれるのかもしれません。
しかし、それでもなお斜陽と呼ばれる場所で働くことに喜びを感じる変わった人たちが集まるのが出版社です。稼ぎなんてたかが知れています。
とはいえ、当然のこと、今よりも少しでも稼ぎたいとはみんな思っているのも事実。「稼ぐ力」というものがあるのであれば、ぜひ身につけたいと。
そこで、北畑淳也『世界の思想書50冊から身近な疑問を解決する方法を探してみた』の中で、ロバート・B・ライシュ『最後の資本主義』(東洋経済新報社)を読み解いた箇所を、本記事用に一部抜粋・改編してご紹介します。

というのも、ここには「稼ぐ力」を身につけるためのヒントが記されているからです。


「稼ぐ力」を身につけたい方に手に取っていただきたい本があります。それは、ロバート・ライシュの『最後の資本主義』です。資本主義のなれの果てを描いたこの本は、「稼ぐ力」のある人がどういう人かについて、一般的な社会通念とは異なる視点を与えてくれます。そして、我々のような庶民がどうすれば「稼ぐ力」を身につけられるのかについても言及しています。
 もしかすると、ここに描かれている「大金を稼ぎ出す方法」に我々は絶望すら感じるかもしれません。なぜなら、今の「稼ぐ力」のある人の中には、猛勉強してテストでいい点をとるという正攻法を放棄している人がかなりの割合でいるからです。それらの人が何をしているかといえば、事前にテストの回答を入手したり採点者を札束で買収したりということをしているのです。

「稼ぐ力」への誤解が生まれる背景

 一般的に「稼ぐ力」がある人とはどのような人でしょうか。英語がたくさん話せる人でしょうか。MBAを持っている人でしょうか。有名外資系企業で働く人でしょうか。いろいろ思いつくでしょう。
 ただ、多くの人はこういわれると納得するのではないでしょうか。「お金をたくさん得ている人には稼ぐ力がある」と。実際、この考えは昨今流行する「能力主義的」な価値理念を土台とする現代において主流です。
 たとえば、「月給30万円の収入を得ている人」がいたとして、この人が30万円を稼げている理由をどのようにして説明するでしょうか。努力したとか、副業で稼いだとか、会社と交渉したとか、いろいろ理由があるにしても、一言でまとめれば「30万円稼ぐ力があるから」という理由になるのではないかと思います。
 じつは、これはまさに「能力主義的」な価値理念に支配された考え方です。しかし、ライシュはこの考えは現実に照らせばありえないものとして批判するのです。
 では、このような論理がなぜ多くの人を支配しているのでしょうか。それは、この論理によって不利益を被っている人すら受け入れていることを挙げなくてはいけません。事実、〈仕事に対してわずかな賃金しか支払われない人は、その金額以上の「価値」がない〉と考えています。不利益を被っている人さえ支持してくれるというのは、この論理によって恩恵を受けている人にとってうれしい限りでしょう。

「稼ぐ力」のある人がしていること

 では、「稼ぐ力」のある人が実際に何をしているのかという話に移りましょう。もちろん、真っ当な努力をしてその対価として報酬を得ている方がいることを否定するつもりはありません。
 しかし、桁違いの報酬を得ている中の少なくない人が〈社会のルール自体を自分達にとって有利になるように働きかけるか、社会のルールの穴をつくことで巨額の報酬を得ている〉とライシュはいうわけです。『最後の資本主義』ではこのことを豊富な例を通して教えてくれます。その中から3つ紹介します。
 まず1つ目は、自社株買いにより巨額の利益を得ることです。
 ライシュの調査では、複数の巨大企業で経営陣が自社株買いで一時期に株が上がるタイミングを見計らって、自分が保有する株式を短期売買して巨額の利益を得ていたと指摘しています。自社株買いをする場合、その行動自体に公表義務はありますが、いつそれを行うかを公表する義務はありません。このルールは、すべての投資家がいつ自社株買いするかわかっていたら相場が混乱するため、その抑止力として存在します。
 しかしこの規則下では、個人として自社株を持ち、会社として自社株買いの決定に携わる人間には苦労せずに大金を稼げます。
 2つ目の例は公金の横流しです。
 某外資系保険会社のCEOの事例を挙げましょう。この企業は金融危機のときに、株が半値近くに落ち込み事実上の倒産状態にありましたが、その状態から数千億ドルの公金を受けて救済されたのです。しかし、会社がこのような状態にありながら、CEOが会社を辞めるときには数千万ドルの解雇手当を受けとりました。「稼ぐ力」がまったくない破産会社で、トップは多額の退職金を手に入れたのです。
 最後はプロダクトホッピングです。
 このケースではある製薬会社の例を挙げます。ある医薬品が特許切れを起こしそうになっていたのですが、当該企業は単に錠剤をカプセルにしただけで、ジェネリック版の登場を阻止しました。これは〈消費者や健康保険に大きな負担を負わせ続ける〉ものとなる一方で、その製薬会社は多額の利益をその後も継続的に得ることができました。
 これらの他にも、政治家に働きかけ自社に都合のいいように法規制の緩和を行うレントシーキング活動などもライシュは挙げました。
 まとめると、これら多数の例からライシュがいおうとしているのは、大金を稼ぐ企業や大金を稼ぐ人が必ずしも「大金を稼ぐに値する」とはいえないということです。


いかがでしたでしょうか?
私は一生、大金に縁がなさそうです。
ではなぜ、我々のような庶民には「稼ぐ力」がないのでしょう?
後日、その点についても考えてみたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 いしぐ ろ)

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