ASKA「歌になりたい」について

CD発売の2週間前にハイレゾの配信版で入手した。
不思議な曲だと思う。
まずはフルでPVが公開されているので、聴いていただきたい。

楽器やメロディは複雑でもないのに、なんでこんなに響くのか。

サビのメロディと歌詞がシンプルで、コーラスとの輪唱という構成と相まって、耳に残りやすいというのが理由の1つにあると思う。

どうして僕らは 愛を求めながら
寂しい方へと 歩いていくんだろう
ずっと僕らは 命の中にいる
時を超えても 命の中にいる

2019年1月からの「40年のありったけ」ツアーに何度か足を運んだが、ともかく終演後にサビを口ずさんでいる人が多かった。 ライブから帰ってきた後、寝る前に延々と脳内再生されて止まらなかった覚えもある。2番のサビが1番の答えのようで、延々と円を描くようにリピートできるのだ。

1番のAメロまでは、「Breath of Bless」から続いているような、"人工的な"コーラスと、ギター、単調なエレキのみで、"天の色を"とあるように、どこか荘厳な雰囲気の問いかけから始まる。
配信になって、意外とギターが強めな、より削ぎ落とされたシンプルな曲になったと言う印象。

2番のサビ前までは、「僕」の中での揺れ動く不確かな心、迷う心についての嘆きが綴られる。これまでASKAさんの色々な曲で歌われている歌詞が想起されるように、ASKAさん自身も感じているであろうことの、集大成のような歌詞だ。

しかし、2番のサビで一転する。
当たり前のようにありながらも、「ずっと」、「時を越えても」、僕らは命の中にいるのだ。
この部分は解釈が分かれると思うが、うまく言葉に言い表すのが難しい。
ともかく後押しするようなコーラスと、確信に変わっていくような声で、この部分は、「僕」の中で大きな気付きだったのだと取れる。

ここから、リズムを刻むパーカッションが加わる為か、歌が加速し天へ突き抜けていくように感じる。

もし僕に もし君に 役目があるのなら
この地上の この星の この宇宙の歌になりたい

この大サビは「僕」の中だけの心の動きじゃなく、「君」への、共感を求めての投げかけだ。
その後のサビのリピートも、この気づきを経て、「僕」の心の中の動きではなく、確信を持って歌いかけることで、みんなに対して共感を求めているのだと感じる。
アルバム「SCRAMBLE」を出したときのラジオで、喜怒哀楽を自分の年代に応じた気持ちで歌っていく、というようなことを話されていた。
だとすれば、この「歌になりたい」は、正にASKAさん自身の気づきを通した集大成であり、彼自身の今後続いていく決意表明ではないだろうか。
だからこそ、ラスサビをフェードアウトにしたのではないかと。

短い詩の中でどれだけ聞き手に想像させる歌詞なんだろうかと思う。

またシンプルな構成故に、歌の強弱や抜き方による表現と、楽器の音色による表現が恐ろしいほど研ぎ澄まされている。最新アルバムに収録されている「Fellows」を聞いたときに、これまでの曲にこれだけ驚かされてきた上で、この人にはまだこれだけの声の表現の引き出しがあるのかと、
もはや驚愕したものだが。

両A面である「Breath of Bless~すべてのアスリートたちへ」を聞くと、楽器の方はどれだけ研ぎ澄まされているか、余計に分かる。
こちらについてはまた次回にでも語りたい。

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