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すし水、あるいは上等な海鮮丼。

「動かす・体感する」表現と「動きをみる」表現

現状のVRChatにおける博物館的な表現の極致はコスモリアとすし水であると個人的には思っている。ご存知の方も多いと思われるがコスモリア・VR宇宙博物館コスモリア https://virtualspaceprogram.org/cosmoria とは、ソーシャルVRで宇宙・天文関係のイベント開催やワールド作製を行っているVSP https://virtualspaceprogram.org/ が昨年公開した宇宙・天文関係の科学館のワールドである。筆者は公開当時にこのワールドにお伺いしたが、それまでの博物館ワールドではありえないほどのボリューム・世界観・展示方法で筆者をチビらせたものである。コスモリアの一番の特徴としては大勢の有志が集結したプロジェクトチームによるリッチな展示表現とVRならではの…例えばロケットの断面が見られたり、月の重力を再現したり、宇宙ステーションの中に入ってみたり…といった現実世界の科学館的なものをより発展させた「体感型」展示であった。その展示の出来栄えは現実の科学館に勝るとも劣らないもので、これには筆者も「VRでの博物館表現もここまで来たのか…」とただただ感動していた。
それから数か月がたち、今回のすし水・Sushi Aquarium https://metacul-frontier.com/?p=9721 である。こちらはモデル提供や協力はあるものの、基本的にはkaiiiiiiiiiさん https://twitter.com/kaiiiiiiiiiVRC とロングポテトさん https://twitter.com/sigmaz111 の二人による共同製作の水族館ワールドだ。すし水の特徴は軽容量・Quest対応とはとても思えないリアルな水族館表現、散りばめられた小ネタといっぱいあるが、特筆すべきは「生き物ファースト」な生き物のモデルとその「動き」の表現である。

動きをスケッチする

ワールド制作者の一人、ロングポテトさんと初めて出会ったのはヨネデルさん https://twitter.com/Yone_dell が主催するイベント「生き物好きの集会所」だった。
このイベントはその名の通り生き物が好きな人達が集まって駄弁る…いわゆる雑談系イベントである。ペットのみならずマニアックな野生動物の話も飛び交うコアなイベントであるが、そこに生き物アバターの制作者が集まってアバター談義をすることもお馴染みの光景であった。

とある日の生き物好きの集会所の一枚。アシナガバチの飼い方を説明するロングポテトさん(左)とヨネデルさん(右)

ある回のとき「こんなアバター作ったんですよ」とロングポテトさんが見せてくれたのがアシナガバチのアバターだった。このアバターが妙によくできていて…見た目がリアルなのは確かなのだが、それにしても妙に雰囲気がリアルなのである。
理由を尋ねると「翅の動きにこだわってますからね」とのことだった。
昆虫に限らず、生物の翅の動かし方はただ単純に上下に動かしているだけではない。ハチは上下動させているように見えて実は前後に動かしているし、その際に翅の角度を変えているのだ。(偉そうに書いていて実は私も詳しくは知らないが…)
動物好きならわかる方もいらっしゃると思われるが、動物も種類によって微妙に動きが異なる。というか、種特有の「クセ」がある。蝶で例えるとタテハチョウの仲間は直線的でいかにも気の強そうな飛び方、シロチョウやシジミチョウは花の周りをフワフワしてるし、アゲハチョウの中でもナミアゲハはゆっくりと優雅に飛ぶけど、カラスアゲハは蝶道をハイペースで飛びがちといった癖がある。
このようなモーションの特徴や可愛らしい仕草をモデルやアバターに落とし込む…モーションをスケッチするのが生き物アバター制作者の皆さんは本当に上手かった。

水生生物モデラー交流の場としてのフィッシュヘッド集会

すし水に至るまでの道の上で欠かせないのがフィッシュヘッド集会の存在である。
そもそもフィッシュヘッド…?となるが、元々は生き物アバター制作者のカヤさん https://twitter.com/KAYA_Vchat が製作したマンボウのアバター。これのマンボウ部分をヒューマノイド素体の顔の部分にドッキングした「マンボーマン」をカヤさん自身が爆誕させ、VRChat各所で出没しまくっていたのがフィッシュヘッドの原風景である。(ちなみにすし水のメキシコサラマンダーのモデルはカヤさん製作)

筆者のイベント「博物喫茶」にやってきたマンボーマン(カヤさん)。この時はまさかこんなことになるなんて知る由もなかった…

その後は周囲の生き物アバター制作者を巻き込みつつ、遂にジョニー・ニコライさん https://twitter.com/zhoney666 とカヤさんの共同主催で開催されたのがフィッシュヘッド集会である。そのキャッチーさが話題を呼び、回を重ねるごとに参加者も増えていった。
因みに筆者も度々参加させて頂いている。なお、すし水お披露目回はJoin戦争に敗れた。
裾野が広くなれば当然、山は高くなる訳でフィッシュヘッド達のクォリティも高くなり、その表現の多様性も広がっていった。そして人が増えるほど交流は盛んになって魚類のみならず海洋生物のモデリング技術やテクスチャの製作技術も切磋琢磨されていった事は想像に容易い。

Vket2023Winterでは遂にブース出展を果たしたフィッシュヘッド集会。見ての通り楽しいイベントである。写真最上段中央で槍を携えているのが「族長」ことジョニー・ニコライさん。

海洋棟 ダイナミックな大水槽と創作ならではの展示

前置きが長くなってしまったが、すし水の個人的なお気に入りポイントを上げていこうと思う。
まず入口…のロゴもそうだけど、入場ゲート。

最近の水族館の入場ゲートってバーコードなりQRなりでピッとして入るので入場ゲートって結構シンプルなんですよ。まだまだ紙の券を人がモギる館もあるけどね。
シンプルゆえに製作コストも小さくできるし、ポリゴンも大きく削減してワールド軽量化に貢献できるわけで…それでいてシーンとして違和感を感じなくする事ができるので良く考えられてるなぁと思いました。
次にムツゴロウ。

ムツゴロウは干潟に生息しているので、ここだけ水中じゃないんです。
このムツゴロウの動きが可愛いんですよね。背びれを立てたり畳んだり、あくびとかしますしね。あと何故か台とかに乗りがちな所とかね。

クルマエビの水槽は日中は身を守る為に目だけを出して砂に潜っている習性を再現しています。他の小型の魚にも言える事なのですが、ここまでしっかりモデルを作りこんでいるとやっぱり「細かいとこまで見てほしい!」という気持ちはあるでしょうし、見る側にとっても小さくて良く見えないな、となってしまうリスクもあるわけで…
でも、そういう誘惑を乗り越えてリアルなサイズ感や生態に徹しているのが良いですね。

ウツボの展示は素焼きのちっちゃい土管みたいなやつがつるしてあったりブロックが組まれたりしているのですが、これもリアル水族館あるあるです。この管の中にウツボがしこたま詰まってるの、可愛くて良いですよね…。

大水槽は海洋館の目玉であるのでやはり気合が入っている。ジンベエザメが悠々と泳ぐ姿は迫力満点。国内だと沖縄の美ら海水族館や大阪の海遊館で見られるのですが、いづれもかなり巨大な水槽です。これだけの巨大水槽だと周囲をぐるっと回るような順路になっていることも多く、したがって柱と柱の間から巨大水槽を覗けるようになっています。

で、この隙間から岩陰で休んでいる魚を観察できることもあります。「こいつこんなところでサボってるぞ!」的な良さですね。かと思えば、水中トンネルの所にはジーっとこちらを見続けているナポレオンフィッシュが…

クエの仲間みたいな大型の魚ってなんかわかんないけどこっちを凝視(してるのかボーっとしてるのかわかんないけど)してくるやつって居るんですよね。これも水族館あるあるです。
そして、大水槽で一番関心したのは底部が深海の展示になっている所。

そして、大水槽で一番関心したのは底部が深海の展示になっている所、実際の水族館は生息環境の違いから深海の生き物とサンゴ礁の生き物を同じ水槽で飼育するとか絶対不可能ですが、ここはVRChatなのでそういった展示も可能なわけです。岩とサンゴで違和感なく仕切っています。深海なので鯨骨や熱水噴出孔っぽい岩があったりします。よく見るとハオリムシも居ますね。リュウグウノツカイが立ち泳ぎしてサンゴ礁と深海を行ったり来たりしている表現もかなり好きです。

よく見るリュウグウノツカイが泳いでる映像は体をヘビのようにくねらせて泳いでいることが多いのですが、身体の作りがタチウオ等に近いことから普段はこのように立ち泳ぎしているのでは…と考えられています。

淡水棟 モーションや生息地の対比と河川環境の多様性

続いてワールドが変わって淡水棟です。身長の低いアバターを使用している方はまめひなたコライダーが入口にあるので、これを使うと見やすくなります。
順路的には海洋棟→淡水棟となるので海から河口、中流、上流と遡上していく展示になります。これも実際の淡水水族館ではお馴染みの展示ですごくリアルです。

上流域であるヤマメとイトウの水槽では同じ日本産・淡水のサケ科の魚でもここまで大きさが違うんだよ~という対比を楽しむ事ができます。ホントにイトウデカいな…

その後は世界中の淡水魚が地域ごとに展示されています。シルバーアロワナとコロソマの水槽では表層を優雅に泳ぐアロワナとじっとしてあまり動かないコロソマが対照的です。

このコロソマという魚、こういう言い方はアレなのですがデカくて地味な、いわゆるパッとしない魚なんですがリアルの淡水水族館にもよく居るんですよね~大抵の淡水水族館に居るイメージがある。お馴染みの顔といった所でしょうか。

クラウンローチの水槽では一匹横になって動かないヤツが居ますが、これは死んでいる訳じゃなくって、こういう体勢で寝る習性があるのだとか…初めて知った。

魚の展示だけではなくて両生類の展示もありますよ!メキシコサラマンダー(ウーパールーパー)は結構活発に鰓を動かしていたり欠伸をしていたりして可愛いですね。

アマガエルとよく似たシュレーゲルアオガエルの展示ではちゃんと頬袋を膨らませる際にお腹を引っ込めています。芸が細かい…
それを抜けると淡水棟一番の見どころである2つの巨大水槽があります。こちらは通路の左側が東南アジア、右側が南米の魚と異なる熱帯域の淡水魚を対比して見る事ができます。

メコンオオナマズとピラルクという世界最大級の淡水魚を同じ空間で見られるのは中々無いかも…?広い水槽でもピラニア・ナッテリーが群れて泳いでいるのも観察できます。
上の桟橋通路に行くことも出来て、ここでは魚を水面から観察することができます。
東南アジアの水槽上では、通路の真ん中が透明になっていて泳いでいるスネークヘッドを真上から見ることができます。

南米の水槽の所には小舟が浮かんでいて、そこから水面を覗ける他、待っていると回遊しているピラルクの一匹が小舟に近づいて来てくれるんですよ。水中からデカい魚が迫ってくるって結構迫力あってビックリしますよ!是非、体験してみて下さい。

すし水を見終えて

水族館の最後にはミュージアムショップもあります。ぬいぐるみは動物園や水族館のお土産の定番になりましたね。京都水族館のオオサンショウウオや天王寺動物園のキーウィなんかが有名ですが、すし水ではナマズやハルキゲニアのぬいぐるみがあります。ハルキゲニアのぬいぐるみ…?

出口(海洋棟へのポータル)の手前にはすし水の建築模型があります。こういう設定資料的なヤツ良いですよね…。

さて、ざっと語ってきた訳ですが、まだまだここでは語り尽くせなかった魅力もまだまだあります。
すし水は言うならば、海鮮丼のようなワールドです。シンプルな様でいて決して見劣りしないし、鮮度の維持や刺身の切り方でテクニックを感じる事もできる、アジを食べたりマグロを食べたりと色々な魚の美味しさを感じることができるワールドです。
皆さんもすし水で自分なりの楽しみ方・過ごし方を探してみてはいかがでしょうか?
最後になりますが、kaiiiiiiiiiさん、ロングポテトさん、ワールドの完成&公開おめでとうございます。
そして素晴らしいワールドを製作してくれて本当にありがとう。












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