見出し画像

【離婚後共同親権】子の”連れ去り”は本当に違法なのか?(2)

※前記事

上記記事の中で、”子の連れ去り”(←あえてこう表現しています)に対する法的手段について、次の3つが考えられると記しました。

①民事訴訟による方法
 (親権に基づく妨害排除請求権)
②家事審判手続き法による方法
 (家庭裁判所に申し立てる方法)
③人身保護請求

このうち、③については上記記事で判例をご紹介し、非常に難しくなっていることをご紹介しました。

今日は、①の方法による裁判例のご紹介です。

1、親権に基づく妨害排除請求権の基本判例(最大判昭35.3.15)

この事件は、子A(裁判時10歳)の引渡しを、下記のXがYに請求した裁判です。

X:母親(親権者)
Y:Xの死亡した夫Bの弟(非親権者)、継父。
 ※BはXとの婚姻中に死亡しているため、Xは単独親権者。

判旨
「本件請求は、右Aに対し、民法821条の居所指定権により、その居所を定めることを求めるものではなくして、Xが同人に対する親権を行使するにつき、これを妨害することの排除を、Yに対し求めるものであること、多言を要しないところである。したがって、本件請求を認容する判決によって、Xの親権行使に対する妨害が排除せられるとしても、右Aに対し、Xの支配下に入ることを強制し得るものではない。それは、同人が自ら居所を定める意思能力を有すると否とに関係のない事項であって、憲法22条所定の居住移転の自由とも亦何等関係ない」

「判例百選」44事件ですが、ちょっとわかりづらい表現ですね。

親権者が子を監護教育する権利があり、この親権に基づく妨害排除請求権という考えは、戦前からありました。(大判大10.10.29、同大12.1.20)

これに基づき、親権者が事実上の監護者に「子を引渡してもらう。妨害するな」と要求可能なわけですが、条件がありました。

子どもが17歳のケースで、戦前の最高裁判所にあたる大審院は、居住が子の意思に基づくものである以上、事実上の監護者が”妨害している”とはいえないとして、親権者の請求を否定した判例があるのです。(大判大12.11.29)

上記判例もこの考えを踏襲しているよ、というものです(だから「強制し得るものではない」といっている)。
そして、本件では、子AはXと離れ離れになった時の年齢は2歳→裁判時10歳というケースですが、子Aに自由意思があるとはいえないとして、妨害排除請求権を認める、というものなのです。

2、では子がいくつになったら自分の意見を認めてもらえるのか?

という疑問が出てきますが、「判例百選」44事件では、このように紹介されています。

5歳・・・×(最判昭45.5.22)
6歳と9歳・・・×(最判昭46.2.9)
10歳と12歳と14歳・・・〇(最判昭46.11.30)

そのため、多くの解説書・判例等で「10歳程度」を基準とすると認められている、とされています。

〔例外〕
子が11歳10ヶ月に達していたが、監護権者が親権者を嫌悪と畏怖の念を抱かざるを得ないように教え込んだ結果、子が監護権者の下に留まる意思を形成した場合は、自由意思とはいえない、という判例があります。(最判昭61.7.18)

3、妨害排除請求権は絶対無制限ではない(最判平29.12.5)

では、親権者が監護権者に対し、妨害排除請求権に基づく引渡し請求が必ず認められるのか、というと、そうではありません。

最高裁判所は3年前に注目すべき判断を示しました。

〔事案〕
子A:離婚時3歳→裁判時7歳
X:父親(親権者)
Y:母親(非親権者だが監護権者)

XからYに対し、妨害排除請求権に基づく子の引渡しを求めた裁判です。

〔判旨〕
「親権者は、子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条)から、子の利益を害する親権の行使は、権利の濫用として許されない。」
そして、本件では次のような事情を事実認定しました。
(1)Yは4年以上Aを単独で監護しているが、監護権者として不相当であるという事情はない。
(2)Yは現在、自分に親権を変更する旨の申立てを行っている。
(3)Xは、家事事件手続法65条に基づき、Aの引渡しを求めることができる(※冒頭にご紹介した②の手続き)のに、親権に基づく妨害排除請求権を行使すべき合理的理由はない。
「上記の事情の下においては、XがYに対して親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めることは、権利の濫用にあたる」

4、まとめ

ざっくり言いますと、次の①~④の通りです。

①親権に基づいて、子を監護している者に引き渡せ!!と要求する権利は一応認められる。

②ただし、子が10歳を超える場合は、自由意思で監護している者に居住していると考えられ、「妨害排除」を請求できない以上、この法理論に基づく引渡し要求はできない。

③可能な場合であっても、絶対無制限ではなく、事情によっては権利の濫用にあたる場合がある。

④基本は家庭裁判所の手続きをするべき

ということになります。

いろいろ判例を調査してきましたが、基本的には、家庭裁判所の手続き以外の方法は例外的方法であって、原則家庭裁判所でやってね、ということになります。

〔出典〕
水野紀子・大村敦志編「民法判例百選Ⅲ親族・相続」(有斐閣) 44事件
常岡史子「離婚後の親権者たる父から母に対する子の引渡請求と権利の濫用(最高裁判所第三小法廷平成29年12月5日決定<LEX/DB25449093>)」
http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-040931585_tkc.pdf

(了)

【お知らせ】
2021年4月から、新しいニュースレターを発行します。
今までと変わらない、正確で信頼性の高い法律情報をタイムリーにお届けいたします。



【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。