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【最速公開】どこよりも早い、池田良子「実子誘拐ビジネスの闇」(飛鳥新社)読書ノート【ネタばれあり】(その1)

〔写真〕あまりにも表紙が恥ずかしいので、カバーかけてもらいましたw

購買レコードを汚染された屈辱

大学卒業から20余年。
新宿高島屋に当時はあった紀伊国屋書店で会員登録してから、世人をして嫉妬に胸を焦がすような、私の輝かしい法学書購買レコードを、渡世の義理でついに汚してしまう屈辱を味わいました。

どこのネトウヨ研究業界でも同じ悩みでしょうが、正直、唾棄の一言に尽きる、こんな〇〇本だって蒐集これ努め、離婚後共同親権の保守派政治家の策動がいかに危険かを世間に知らしめる、ささやかな使命を背負っていかなくてはなりません。

まず奥付で唖然とする

帰宅してさっそく全体をチェック。

池田良子氏という、聞き慣れないジャーナリストの今までの経歴を見て、目が点。。。

池田良子(いけだ・よしこ)
ジャーナリスト。
ヒューマニスティックな視座で、世の中の不条理や不正義を問う!

表紙カバーの著者紹介も全く同じ。
自己紹介になっとらん。。。

Hanadaプラスの紹介ページによれば、慶應大学文学部中退と書かれていましたが、他にほとんど情報はありません。

もう少し検索して調べてみると、昨年6月。ネトウヨ論壇誌「Hanada」に寄稿した記録が3件ありました。

①「告発キャンペーン第2弾! 「実子誘拐ビジネス」の闇 ハーグ条約を"殺した"人権派弁護士たち」Hanada2020年6月号
②「「実子誘拐」告発キャンペーン第4弾! 「片親疎外」という児童洗脳 : 司法の黒い霧」Hanada2020年9月号
③「「実子誘拐」告発キャンペーン第5弾! 家族を殺す日弁連という危険分子」Hanada2020年12月号

後述しますが、同じ題名の章が本書にも設けられており、どうやらこれらの連載を加筆・書き下ろししたもののようです。

全編を貫く「サヨクへの怨嗟」

本書の内容を一読してみると、いわゆるフレンドリーペアレントルールで話題となった離婚裁判の一方当事者(元夫)のインタビューを軸に構成されたものです。

娘は、父親が育てるべきなのか、母親が育てるべきなのか。長女(9歳)の親権をめぐって大きな注目を集めた離婚裁判に7月、最高裁が結論を下した。勝訴した母親側が8月28日、東京・霞が関の司法クラブで記者会見した。
この裁判では、1審・千葉家裁松戸支部が「年間100日に及ぶ面会交流計画」を立てた父親に親権を認める、異例の判決を出して話題を呼んだ。
しかし、2審・東京高裁は「親権者は母」と逆転。最高裁もこの決断を支持した。
(上記記事より)

※以下、本note記事では上記裁判を「松戸裁判」と呼ぶことにします。

当事者の立場として裁判の内容にももちろん触れているのですが、なんか、、、いろいろぶっこまれています。
目次をみてみると、

【目次】
第1章 世にもおそろしい実子誘拐の真実
第2章 父親への集団リンチと人格破壊
第3章 ハーグ条約を”殺した”人権派弁護士
第4章 「片親疎外」という児童洗脳
第5章 家族を壊す日弁連という危険分子
第6章 DVシェルターという拉致監禁施設
第7章 ”敵”がたくらむ全体主義社会

それぞれの章に、書くもおぞましい怨嗟に溢れた小見出しが付けられていますが、まあ、それはおいおい。

実子誘拐問題について掘り下げるというよりは、途中に日弁連や裁判所の批判が延々と続いたり、北朝鮮拉致問題や従軍慰安婦問題まで登場します。

つまり、ずいぶんと脱線します。

松戸裁判のインタビューやその周辺の話は、前半の60%くらいでほぼ終わります。
後は、実子誘拐とは、あまり関連性がない論点に移行します。

著者からしたら、実子誘拐ビジネスの背景となる勢力を暴こうという意気込みなのでしょうが、総じて説得力はありません。(理由は後述)
というか、文献や出典、引用が日本国紀の再来かよ、というくらい酷い。
何が出典で何が引用かさっぱり分からない。

そこらの凡百のネトウヨ本同様、脚注が全くついていないので、本格的な学術的検証にとても耐えられるものではありません。

読後の感想をざっくり申し上げておくと、

①全編を貫くのは、実子誘拐ビジネスへの怒りというよりは、サヨクへの怨嗟
②「闇」とはよく言ったものですが、要するに根拠のない陰謀論の羅列

というところが全体観です。

嘉田由紀子議員の梯子を外した書き出し

もう少し、詳しく読書ノートを作成していきます。

まず、「はじめに」では、子どもを連れ去った元夫たちが逮捕したり、裁判で有罪になったという新聞記事が紹介されています。
これが例によって、どこの新聞社の記事が書かれていない。
著作権法32条の引用条件を満たしていません。

そして、著者こう問題を提示します。

二〇〇五年一二月六日の最高裁判決が、諸悪の根源と言われている。
(P.3)

???
となりました。

なぜなら、現在、離婚後共同親権界隈では、むしろ、上記判決を根拠として、「連れ去り違法論」を主張するのが主流であるからです。

参考なまでに、相互FFのkozakana-sakanako先生の連続ツイートを挙げておきます。

にもかかわらず、筆者はこう主張します。

”最初に”子どもを奪い、その後、子どもを実効的に支配し続けた親に親権という褒美を与え、”二度目に”子どもを奪い返そうとした親には未成年者略取誘拐罪という罰を与えるのが、いまの裁判所の運用なのである。
(P.5)

これは明白な間違いなのですが、わずか5ページのところでいちいちチェック入れていたら夜が明けてしまいます。
これもおいおい書きますが、この時点で、離婚後共同親権推進派の嘉田議員を後ろから攻撃しています。

著者の主張は、

最高裁裁判官らが作り上げた、この仕組み自体を壊すしかない。
(P.8~9)

となるはずですが、後述するように、矛先はあっさりそれていきます。

一方当事者の言い分→中傷→ちょっとだけ疑問→一方当事者の意見のみ→また中傷。。。

第1章と第2章では、卒田さん(仮名)とされた、松戸裁判の一方当事者(非監護親)のインタビューと、その言い分を”補強する”闇勢力の動きについて詳しく論じられています。

が、文章が酷い。

同じ裁判のことを、「離婚訴訟」(P.18)と書いたかと思えば、次のページで「親権訴訟」(P.19)と書かれている。全体を読めば同じ裁判についてのことだと分かりますが、そもそも「親権訴訟ってなんだよ。。。」という疑問があります。

また、事実関係にも疑問があります。

卒田氏のインタビューによれば、元妻を名誉棄損で告訴し、検察庁へ書類送検された経緯について、「警察は私の告訴状を受理し、彼らの”悪事”を認め、書類送検しました。」(P.22)とありますが、警察(警視庁)が悪事を認めたという根拠は提示されていません。

こんな感じで、インタビューはほとんど裏付け取材がされることなく、垂れ流されていく。

と、書くと反論が来そうなので弁明しましょう。
途中、筆者は、元妻の代理人弁護士が記者会見で配られた資料に基づいて、事実関係の食い違いを質してはみせます。
しかし、卒田氏の話を無批判に受け入れ、その後も事実関係の裏付けがなされることはありませんでした。(P.35~39)

そしてまた中傷。
「義母と妻。異常なまでの母子密着」と小見出しを付け、義母が書いたメモなるものを根拠に、執拗なまでに元妻の母親に対する、真偽不明の義母批判が垂れ流されていきます。(P.42~51)

対立勢力は、「敬称略」ではなく「呼び捨て」

第2章に入ると、ボルテージが上がるのは、卒田氏というよりかは筆者の池田氏のような気がしてきました。

ここで、私は1つの事実に気が付きました。

著者は、自分や卒田氏に親和的な、味方と認知している人物には敬称を付ける一方、”対立勢力”側の当事者、専門家らを呼び捨てにしているのです。

その幼稚さに私は呆れ果てました。

例えば、55ページには、「共同養育支援議員連盟(旧親子断絶防止議員連盟)」の会長である自民党の馳浩元文部科学大臣」というように、馳氏は紹介されますが、同じページで、「妻側弁護士の齋藤秀樹、蒲田孝代、萩原得誉とともに、」という表現が見られます。
表現を意図的にそろえていない。

本書で一番、呼び捨てにされているの方の一人は、シングルマザーの支援団体、しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長赤石千衣子氏ですが、一度も「氏」はつきません。
そのほとんどが赤石と単に呼び捨てされています。

赤石氏の立場を考えると、いわゆる実子誘拐ビジネスに関わる可能性は非常に低く、この問題の当事者といえるかすら疑わしいのですが、著者は何かの個人的恨みでもぶつけるかのように、呼び捨てを徹底しています。

おおおお。こんなに儲かるの。。。!?

この本の白眉(←嫌味)といえる箇所は、P.59以降に展開される、実子誘拐ビジネスの紹介です。

「人権派弁護士らの儲けの手口」。。。おお、やっと出てきたかネトウヨワード。

弁護士の世界で、「実子誘拐」ビジネスは、「第二のクレサラ」特需と言われているという。
(P.59)

おおお、一体だれが言っているんでしょうねー。
消息筋とか関係筋とか出てくるかと思ったが登場せず。

その儲けのからくりは次のように説明されています。

「実子誘拐」ビジネスとはどのようなものか、それを知るためには弁護士の報酬体系を見るのが一番手っ取り早い。
たとえば、「費用は『成功報酬』月々の養育費からお支払い」を謳う弁護士のホームページには、報酬は「元夫側から振り込まれる毎月の養育費の30%を支払うだけでOK」と記載されている。「この先10年、20年と元夫への養育費の請求を続けながら、お母さんと子どもの安全もしっかり確保しますのでご安心ください」との記載からも明らかなとおり、子どもが大学を卒業するまで養育費の三割をピンハネする前提だ。
もし、この弁護士が離婚訴訟で元夫の親権を剥奪し、二歳の子どもに対し、月二十万円の養育費を支払わせる判決を勝ち取れば、子どもが二十二歳で大学を卒業するまでの二十年間分、つまり、一千四百四十万円がこの弁護士の懐に入る。
(P.60)

。。。いやー、すごいな。
凄まじい皮算用だ。

いやー、こうやってベンチャー企業は潰れていくんですねえ。。。
みたいな白昼夢のような試算。

3分くらい次のページに行けませんでした。

あ、ちなみに上の弁護士報酬に関する引用元は全て不明です。

ホントに専門書を読んだのか!?

さらに次のページには扇動的な表現が出てきます。

...ある女性誌で弁護士は次のように述べている。
「親権争いは最初の対応が肝心。家を出る場合は必ず子どもを連れて出ること」
日弁連法務研究財団発行の本は、
「実務家である弁護士にとって、親権をめぐる争いのある事件で、常識といってよい認識がある。それは、親権者の指定を受けようとすれば、まず、子どもを依頼者のもとに確保するということである。」と記載されている。
日弁連の財団が「実子誘拐の教唆幇助」は、「弁護士の常識」と認めているのだ。
「実子誘拐」を依頼人に教唆し成功すれば、子どもを奪い返されるおそれはない。もう一方の親が子供を連れ戻しにくれば、二〇〇五年の最高裁判決を利用し、誘拐犯として警察に逮捕させればよい。
(P.61)

読みてーーー。出典を教えてくれーーー。wwwwww

※もちろん書いてありません

弁護士らは、表では子供の貧困の悲惨さを訴えつつ、裏ではその貧困をふせぐための養育費をかすめ取っているのだ。
(P.62)

とまあ、弁護士がとにかくやり玉に挙がる。
一体どこの弁護士のことなのかと思う。。。

一応、健全な読者諸氏に、日弁連の内情をお伝えすると、日弁連所属の弁護士の圧倒的多数派は、無関心派だとされています。※この段落は当初公開した内容を訂正しています。

【次回】


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