見出し画像

【離婚後共同親権】世論はどのように操作されるのか(6)「二審で明かされた虚偽DV訴訟原告の性的虐待」

〔写真〕虚偽DV訴訟二審判決で明らかにされた原告の性的虐待は、決定的な証拠が採用されていた

※前記事

法令違反だった一審判決

前記事でご紹介した虚偽DV訴訟一審判決ですが、実は、法令解釈の明白な誤りがありました。

本件で違法性が争われた、住民基本台帳法に基づく、住民台帳事務上の支援措置は、昭和60年に旧自治省(現:総務省)が定めた省令に基づいて運用されています。

条文は複雑なので省略しますが、これによれば、住民台帳基本法第12条第2項に定められる住民票の写し等の交付を請求する者は、総務省(旧自治省)が省令で定める一定の事項を請求する必要があり、これに基づき、市町村長は、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)第1条第2条に定める被害者に関連する請求である場合、請求者に対し請求事由を明らかにするよう求めることができ、不当な目的に利用されるおそれがある場合、住民基本台帳法第12条第6項に基づき請求を拒否できる、というものです。

※関係条文
住民基本台帳法第12条第第2項第4号
昭和六十年自治省令第二十八号・住民基本台帳の一部の写しの閲覧並びに住民票の写し等及び除票の写し等の交付に関する省令第4条第2項第1号(最終改正: 令和元年六月二十日)
住民基本台帳法第12条第6項

とするならば、住民基本台帳法・旧自治省省令に基づく支援措置を受けられる範囲は、DV防止法第1条第2項の被害者と一致することになります。

DV防止法第1条第2項は、「この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。」と定めています。ここにいう「暴力」の範囲は、第1条第1項により、身体的暴力のほか、「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」も含まれます。

ところが、前記事でご紹介したように、一審・名古屋地方裁判所は被害者を認定するにあたり、原告の身体的暴力のみに限定して論じてしまい、いわゆる精神的暴力を考慮することなく「原告が被告Yに暴力を振るったと評価できるような性質のものであるかどうかは判然としない」と判断してしまいました。

精神的暴力の存在の有無について判断せず、支援措置申出の違法性を検討するという過失をおかしているのです。

※この指摘は、長谷川京子弁護士(兵庫県弁護士会)が、後述する論稿の中で触れています。

深刻な影響があった一審判決の危険性

さらに、前記事に筆者(foresight1974)が指摘したような、いくつもの事実誤認、偏った事実認定がありました。

被告Yの代理人である可児康則弁護士は、二審判決の1週間前、毎日新聞の取材に答えて、「元夫の言動に追い詰められ、元妻は突発性難聴や過呼吸発作に陥った。長女は精神的に錯乱状態となり学校に通えなくなった。警察の助言に応じて措置を申し出た元妻に責任は全くない」と一審判決の事実認定を批判しています。

また、同じ記事の中で、DV・性暴力の問題に取り組む山崎新弁護士(東京弁護士会)は、「1審の判決に従えば『面会交流を巡って争いがあれば支援措置を出すことに慎重になるべきだ』ということになる。被害者保護の観点からは疑問の多い判断だ。」と、その法的判断を批判しています。

これに対し、原告側も控訴していました。代理人の梅村真紀弁護士は、「1審は元夫の主張をおおむね認め、制度の改善に言及した画期的な判断」としながらも、「認められた損害額が低い」とする。控訴審でも「支援措置に該当するような身体的暴力の危険性はなかった。警察や行政のずさんな調査でDV加害者とされ名誉が傷つけられた」と主張しています。

この裁判の行方は、DV被害者の保護に深刻な悪影響を及ぼす可能性がありました。

関西地方の市役所で支援措置に携わる職員は、「子供が精神的に不安定になっている状況がある以上は、支援措置を決定してしかるべきだ。目的外利用どころか、制度の趣旨に沿った決定だ」と批判したうえで、「現場に大きな影響が出る」と懸念。愛知県警の幹部も「何かあったら取返しがつかない」と懸念していました。

〔参照〕DV被害者守る「住民票閲覧制限」が危うい? 31日、名古屋高裁で注目判決(毎日新聞電子版2019年1月25日)

一審判決(原審)では、被告Yが訴えた暴力について、医師の診察等を受けていないことを理由に否定したため、二審(控訴審)では、子Aらの医師の意見書が証拠採用されていました。

そこに驚愕すべき事実が記載されていたのです。

長女は錯乱状態にまで追い詰められた

第二審(名古屋高等裁判所)が認定した事実によれば、2014年(平成26年)に、子A(長女)は小学校に入学し、原告はこれ以前に成立した面会交流審判に基づき、子Aの小学校の行事に参加しています。

ところが、翌月に早くも子Aは小学校への登校を渋り始めます。
さらに、6月7日~8日に原告との宿泊交流があった後、被告Yが子Aを病院に受診させたところ、衝撃的な診断が下りました。

Aは、H2病院において、性的な刺激を受けた疑いが強いとされ、愛知県R児童・障害者相談センター(以下「児童相談所」という。)に、同年10月17日付けで一時保護され、同月17日から同年12月25日まで、H2病院に入院した。一時保護は同日解除された。(判決文より)

これでも原告の付きまといは止まりません。
翌年(2015年)1月の授業参観では、保健室まで押しかけ、母親(被告Y)に抱かれ泣きじゃくる状態の子Aに執拗に話しかけ、スマートフォンに録画するなどの暴挙に及んでいます。

これでも司法は原告を止めません。
面会交流について、原告と被告の争いは足掛け2年に及ぼうとしていましたが、2015年(平成27年)5月28日、面会を拒否した被告Yに、間接強制金1回4万円とする、呆れ果てるような決定を出しました。
被告は面会交流変更の調停を申し立てましたが、判決文中に理由は明らかとなっていませんが、8ヶ月にわたって調停期日が開かれませんでした。もはや怠慢であります。
そのさ中の2016年(平成28年)1月、以前から再三の子Aの拒否にもかかわらず、授業参観への出席を強行。

長女は錯乱状態となりました。

二審判決はどのように判断したのか

第二審(名古屋高判平31・1・31)は、次のように判断しました。

まず、第一審(原審)が渋々認めたDV防止法の被害者要件について、
・被害歴は3年前から、頻度は2日に1回あったこと
・平成23年に右大腿部を蹴られたこと
・銀行の駐車場での暴言
・無理やりドアを開けられて腕を挟まれ負傷
・原告も有形力の行使を認めたこと
・平成24年12月に愛知県女性センターへの相談したこと
といった事実から、「一審被告Yが、DV防止法第1条第1項にいう暴力(身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)を受けたものであることを一応認めることができ、本件支援措置の当時、一審被告Yが被害者要件を欠くものであったことは認められない。」としました。

また、第一審が否定した危険性要件について、次のように述べて、法令解釈の誤りを修正します。

支援措置の対象とされている配偶者からの暴力とは、DV防止法1条1項に規定する配偶者からの暴力(身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)であり、支援措置の被害者要件も、DV防止法1条2項に規定する被害者(同条1項にいう配偶者からの暴力を受けた者)に該当することを意味すると解されることに照らせば、支援措置の危険性要件とは、身体的な暴力を受けるおそれがあることに限られるのではなく、身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼすおそれがあることを意味すると解することが相当である。

そして、第一審同様、身体的暴力を受ける危険性は否定したものの、次のように述べます。

一審原告と一審被告Yとの間には、本件支援措置申出の当時、離婚訴訟のほか、Aについての面会交流、面会交流の不履行に関する間接強制の申立て、子の監護者の指定、子の引渡し等多数の法的手続が係属しており、紛争が長期にわたり継続した状態にあったことが認められる。

そして、2014年6月に行われた宿泊交流後の子Aの上記入院の事実。その後再三にわたった強引な学校訪問など経て、子Aが錯乱状態に陥った事実を認めたうえで、次のように述べます。

このような一連の事実経過に鑑みれば、一審原告と一審被告Yは、平成28年3月31日にされた本件支援措置申出の当時、子Aの監護権及び面会交流権を巡って激しい紛争状態にあったというべきであり、その結果として、一審原告の行動により、Aの当時の心身の状況は不安定となり、入院を要する等心身に有害な影響を及ぼしていたということができる。Aがこのような状況であったことにより、監護していた一審Yも心労が重なり、心身が不調で、このままでは限界であると感じていたことが認められる。
加えて、上記(1)の通り、同居中、一審被告Yが一審原告から暴力(DV防止法第1条第1項にいう暴力)を受けた旨のK署等への申告が根拠のないものと認めるに足りないことに鑑みれば、本件支援措置申出の当時において、一審原告からの身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動により、一審被告Yがその生命又は身体に危害を受けるおそれがなかったとまで認めることはできない。したがって、本件支援措置申出の当時、一審被告Yが危険性要件を欠くものであったとは認められない。

判決は、直接的な言及はしないものの、子Aの入院・不調は「原告の行動」との因果関係を認定して、それが「有害」であったと判断しています。これらの事実評価は、H2病院医師の意見が事実であること、証拠採用されていることが論理的な前提となるため、事実上、原告の性的虐待を認めたものと評価することができます。

また、一審判決が認めた、被告Yの目的外利用について、明快に否定しています。

面会交流は、子の利益を最も優先して考慮して定められなければならないものであるから(民法766条参照)、監護親において、面会交流が子の福祉を害すると考えて、その実現を妨げる行為を行った場合、当該行為が直ちに不当なものになると認めることはできない。
(中略)A及び一審被告Yの心身の状態の悪化を防ぐことが動機であることを考慮すれば、一審被告Yが、一審原告とAの面会交流を妨害する目的で、本件支援措置の申出をしたものと認めることはできない。

結論において、一審原告の一審被告Yに対する請求は理由がないものと棄却されました。

【検討】なぜ、逆転裁判は起きたのか

判例時報2013・2014合併号において、虚偽DV訴訟第二審判決の解説者は次の点を指摘しています。

①暴力の有無・程度に関する認識
第一審は被害立証が非常に高かったが、第二審はより緩やかに判断した。

②面会交流に関する認識の差異
第一審は非監護親重視だったが、第二審は子の利益を重視した。

③PAS・PA問題(片親引離し症候群・片親疎外)
第一審判決は、この影響を受けているという指摘があったが、第二審は影響を受けていなかった。

私見ですが、ほかにも次のような事実を挙げることができると考えています。

④事実上、立証責任の転換があった
前記事の裁判所の判断と読み比べていただけるとおわかりになるかと思いますが、被告Yの主張を一応事実と認めたうえで、それを覆す事実の不存在を理由に判断しています。例えば、「Yが危険性要件を欠くものであったとは認められない」という表現は、危険性を欠く要件の主張・立証を原告側にあることを十分に示唆しており、その事実の不存在が判決の論理的前提となっています。
判例時報の本判決解説者も次のように述べています。

通常夫婦間のトラブルで生じた暴行・傷害事件についていちいち診断書をとるのはむしろ例外に近いとも考えられる。最近の家裁のDV事案でも客観的な証拠がなければ認定されにくいといわれることが多いが、この問題は控訴審(第二審)の認定判断の方が適正処理に近くなるのではないか…

⑤原告の性的虐待を事実上認定していた
上記引用したほか、H2病院の医師の意見書は、再三にわたり原告の主張を否定する材料として引用されています。
裁判所として、子への性的虐待を積極的に認定はしなかったものの、当該意見書の真実性を前提に、事案が、原告の行動が被告、子らへの有害な悪影響が生じおり、追い詰められた被告側の支援措置申出を行った、という構図をイメージし、あくまで支援措置申出の法的正当性が担保されていれば、判断として十分、と考えていたものと思われます。

最高裁(最決令元・9・19)

前々回の記事でご紹介したように、最高裁はその後、原告の上告を不受理とする決定を出し、二審名古屋高裁の判決が確定しました。

虚偽DVはいったい誰が得をしているのか

しかし、この判決の後も、虚偽DVプロパガンダは一向に止む気配を見せません。前回記事の自民党政治家によるツイートの通りで、否定された判決文の一部を剽窃した言説が横行しています。

確かに、本当に虚偽DVがあったならば、事情を知らないたいていの一般市民は憤慨し、原告に大きな支持が集まることが期待できます。

だが、そこに陥穽を指摘するのは、離婚後共同親権の危険性を指摘する、長谷川京子弁護士(兵庫県弁護士会)です。

そもそも「虚偽DV」にメリットはない。離婚しなければ、住まいも生活費も共同親権である。しかし、全体では7人に1人とされる子どもの貧困率は、ひとり親家庭では2人に1人に跳ね上がる。離婚は、母親にとっても経済的苦境に直結する。その経済的打撃は、数百万円の慰謝料では到底埋まらない。離婚後の親権者指定にしても、親権者指定の要因である「監護の継続性」を、大抵の母は、子の出生以来、主に子の監護を担うことで備えており、親権獲得のために子連れ別居する意味はない。母子は「DVがあった」と訴えても、裁判所は面会を命じるから、父子の面会接触を断つことはできない。だから、虚偽DVを訴えるメリットは皆無である。
(長谷川京子「虚偽DV論」所収:「離婚後の子どもをどう守るか」日本評論社)

そして、驚くべき指摘をします。

「虚偽DV」といえば、DVであると積極的に虚偽の主張をしたこを意味するが、離婚や子の監護の裁判、あるいは保護命令の裁判でも、「虚偽の主張をした」という証明が行われることはない。したがって、「虚偽の主張をした」という事実認定がされることはない。裁判所が「DVがあると虚偽の訴えをした」と認定した例を筆者は寡聞にして知らない。(同)

これは、民事訴訟法の授業を少し受けた法学部の学生なら、すぐ気付くような話です。

裁判所は通常、民事訴訟においてある法律上の論争を判断するとき、その条文に該当するかどうかについて必要な事実のみについて判断を下します。例えば、DVについての損害賠償の有無が争われる場合、「DVの事実があったか、なかったか」を判断すれば、主文(損害賠償を認める・認めない)を決定するうえでは必要十分な情報であり、「DVの事実がなかったとして、それが虚偽によるものかどうか」について、踏み込んで判断する必要はないのです。(本件訴訟において、裁判所が原告の性的虐待を正面から認めていないのは、被告や子らが支援措置を受けるにあたって、原告の行動の有害性を指摘し、原告への損害賠償義務を否定すれば十分であり、それ以上踏み込む必要がなかったからです。)

したがって、本件訴訟の一審判決のように、虚偽DVは否定されているにもかかわらず、目的外利用=虚偽DVであるという政治的なプロパガンダが行われるのです。

プロパガンダはプロパガンダそのものが目的なので、結果の真実性はどうでもいいのです。上記論稿の中で、長谷川弁護士は、西牟田氏や産経新聞について、「高裁判決が地裁判決を取消し確定しているにもかかわらず、その事実は、判決後1年を過ぎても伝えず沈黙している。まるで彼らの世界には、高裁判決による取消しも最高裁の上告棄却も存在しなかったようですある。」と痛烈に皮肉っています。

そして、次のように結論付けます。

以上のように少しばかり立ち止まって吟味すれば「虚偽DV」論のいかさまぶりはわかるにもかかわらず、「虚偽DV」論が、政治家やメディア、一部の裁判関係者にも抵抗なく受け入れられるのはなぜだろう。それは、彼ら受け手にとって、男性の卑劣な暴力支配の事実より、女性の被害の訴えが嘘という、ジェンダー差別を支えるファンタジーが好ましいからである。「虚偽DV」論は、例えば性暴力被害を訴えた被害者に対する苛烈な二次的集中攻撃と同様、「(男に歯向かう)女は嘘つきだ」というジェンダーバイアスと女性蔑視・男性支配を支える価値観に歓迎され、支持されて広がっている。「虚偽DV」論は、卑劣な暴力による男性の女性支配を覆い隠すための、虚構の蓋なのである。(同)

いかにも最近の自民党保守政治家たちや経済界首脳による、女性差別発言と地続きになるような構造が見えてきませんか?

ところが、です。

実は、この虚偽DV訴訟に加担したのは、自民党政治家ではありませんでした。

現在は立憲民主党に所属する、驚くべき議員の名前が登場していたいのです。

(つづく)

【次回】

【お知らせ】
2021年4月から、新しいニュースレターを発行します。
今までと変わらない、正確で信頼性の高い法律情報をタイムリーにお届けいたします。



【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。