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【離婚後共同親権】世論はどのように操作されるのか(1・補)「欧州議会の決議を確認してみる」(20.7.24完成)

※前記事

前回記事で取り上げた、欧州議会の決議について、内容をチェックしてみましょう。

【チェックしたもの】
下記にリンクした、欧州議会のプレスリリース。
決議文(正文)もチェックしましたが、文書構造が複雑なため、また、内容はほぼプレスリリースと重なっているため、プレスリリースを中心にチェックし、必要に応じて決議文を参照しています。

【ご注意】
どのようなニュアンスなのかをご理解いただくため、重要な部分のみを抜粋して翻訳しています。
太字部分がプレスリリース文でカッコ書きが翻訳部分。<注>に法令解釈の参考情報を掲載します。
翻訳:foresight1974

<欧州議会プレスリリース>

<欧州議会決議文(正文)>

1、欧州議会は、子の連れ去り=誘拐と考えている

Parliament sounds alarm over children in Japan taken from EU parents(議会は、EU内の親から日本へ連れ去られた子どもたちに関して警告を発する。)

<注>
take (away) from~が一般的かと思いますが、「~から奪う(ひったくる)」という意味の犯罪表現。
overは「~関して」と訳すのが妥当でしょう。

MEPs are concerned over the high number of parental child abduction cases due to the reluctance of Japanese authorities to comply with international law.
(欧州議会の議員たちは、日本の当局が国際法に従うことが消極的なため、多数にのぼる子どもの一方の親による誘拐事件を懸念している。)

<注>
MEPはMember of the European Parliament 、欧州議会議員の略。たくさんいるので、複数形のsが付いています。
concernedについては、be concerned with で大学受験で覚えた方が多いでしょうか。worryにニュアンスが近いです。ここではwith ではなく overが使われています。
abductionとはしかし酷いですね。完全に誘拐犯扱い。
reluctanceは、日本語で言うと「しぶしぶ」。ここでは消極的姿勢くらいでしょうか。

欧州から日本に非難された親子にとって、「誘拐犯扱い」は大変心外に思うでしょうが、これはあくまで欧州法の論理。
理由は後述します。

2、欧州議会が懸念しているのは、「子供の幸福」

Parliament expressed its concerns over children’s wellbeing as a result of children in Japan being abducted by a parent.
(欧州議会は、一方の親によって、日本に誘拐されたことによる、子どもたちの幸福に懸念を表明した。)

<注>
これと同趣旨の声明文が繰り返し、随所に登場しますが、あくまでconcerned overとしているのは、 children’s wellbeing(子の幸福)に対する懸念です。
別居親の幸福(ポエム)ではありませんのでご注意を。

3、欧州議会が要求しているのは、「分担監護」

They call on the Japanese authorities to enforce international rules on child protection and to introduce changes to their legal system to allow for shared custody.
(彼ら欧州議会のメンバーは、日本の当局に子どもの保護に関する国際的ルールの実施と、分担監護を容認する法的システムへ変更を導入するよう要求する。)

<注>
call onなので明確な要求です。
complyではなく、なぜenforce(実施)を要求するかというと、原則として国際法(条約・協定)は、国内法的効力はありません。条約を国内法効果として実施する責任はあくまで主権国家の政府です。(講学上、条約の自働執行性といいます。)したがって、欧州議会が要求しているのは、あくまで「実施を要求」なのです。
そして重要なのはここ!!shared custodyです。
日本では、「共同親権」なる訳語が乱造されていますが、正しくは分担監護。sharedですからね。別れた男と女(というパターンばかりではありませんが)が共同で作業することを要求はしません。契約に従ってお互いの役目を果たすことを約束するのでsharedなのです。
日本の共同親権とは全く違う法制度です。

※なお、決議文では「shared or joint custody」とあり、こちらは「分担又は共同監護」と訳します。通常、欧州法ではどちらか一方というわけではなく、子どもの監護事項によってsharedであったりjointになったりします。

4、お門違いの「国内法改正要求」

They urge the Japanese authorities to enforce domestic and foreign court decisions on the return of the child and on access and visiting rights after the parents’ relationship has ended, in order to bring their domestic laws in line with their international commitments and obligations.
(彼ら欧州議会のメンバーは、日本の当局が、親同士の関係が終了した子どもについて、その返還、アクセスおよび訪問の権利に関する、国内および外国の裁判所の決定を実施するよう、また、国内法を彼らの国際的な公約と義務に沿って国内法を合わせるよう、日本の当局に促す。)

<注>
このurgeの訳はちょっと迷いましたが、EU側の立場を考えると、「主張」だとおかしいと思います。「促す」でしょう。あるいは「要請する」かな。
the parents’ relationship has endedってなんで書いたのかしばらく考えてしまいましたが、欧州法の世界では、パートナーの終了原因が必ず離婚( divorce)とは限らないからでしょうね。
この欧州議会の要請ですが、すでに日本ではハーグ条約の国内実施法が成立・施行されていますので、この指摘は的外れではないかと考えます。

5、欧州議会が関心があるのは「非監護親」の利益ではなく、「子の最善の利益」

MEPs underline that safeguarding the child’s best interest must be the primary concern and abduction cases must be handled swiftly to avoid long-term adverse consequences on the child and the future relationship with the non-custodial parent.
(欧州議会のメンバーたちは、子どもの最善の利益が最も重要な関心事項であって、子どもへの長期的な悪影響を回避し、非監護親との将来にわたる関係のために、誘拐事件は迅速に処理されるべきであることを強調する。)

<注>
handleは、treatとか、deal with~とセットに覚えることが多いですかね。「扱う」というニュアンスで覚えたかと。
よくビジネス英語的には、「ハンドリング」などとか言われたりしますが、ここでは「(軽く右から左に)さばく」というニュアンス。swiftlyで協調されています。
the non-custodial parentは非監護親。
やはり、欧州議会の議員のメンバーの頭にあるのは、「非監護親との長期的な引き離しは子どもへの悪影響」という従来型の価値観がインプットされている、ということですね。

6、欧州で子の連れ去りが誘拐罪になるのは、監護は権利ではなく、父母双方の義務と責任だから

決議文から、重要な一文を発見しました。決議文の成立経緯を示す「whereas」から。

I. whereas parents have the primary responsibility for the upbringing and development of their child; whereas Parties are obliged to use their best efforts to ensure recognition of the principle that both parents have common responsibilities for the upbringing and development of their child;
(両親は、子どもの育成と発達に主要な責任を負う。また、当事国は、両方の親が、子どもの育成と発達に共通の責任を負うという原則の共通認識を確保するため、最善を尽くす義務を負う。)

<注>
whereasは訳しません。
なぜprimary responsibilityなのかというと、続いて当事国の親に対する責務が書かれているから。
決議文のPartiesの訳は難しいところです。出てくる箇所により、特定の条約の加盟国を指す場合や、EU加盟国に限定しているところもあります。
best effortsは最善を尽くすと訳しましたが、自分なりの最善を尽くせばOKという趣旨。ただし、自己満足という意味ではなく、合理性は求められます。
ここでは、
両親・・・子どもの養育への主たる責任を負う義務者
当事国・・・両親に子どもの養育の共同責任を負わせる原則を確立するため、最善を尽くす義務者
なのです。いずれも”義務”なのです。(日本の共同親権推進推進派が叫ぶような権利ではない。)

これで、なぜ欧州各国が子どもの連れ去りを誘拐罪とするかがご理解いただけたでしょうか。一方の親による連れ去りは、義務違反=違法だからです。

特に欧米は、契約などの違反に対するペナルティは一般に重いです。
日本の母親がアメリカから子どもを連れ帰って巨額の罰金が課せられたのは、非監護親の権利侵害だからではなく、契約違反だからです。

一方、日本国内では、以前、この記事でご紹介しましたが、子の連れ去りは原則適法です。考え方が全く違うので、欧州議会の決議には、政治的に得策かどうかは別として、法的に論理的な反論が可能です。

もう1つ。

M. Parties are obliged to respect the right of a child who is separated from one or both parents to maintain personal relations and direct contact with both parents on a regular basis, except if this is contrary to the child’s best interests;
(当事国は、子供の最善の利益に反する場合を除き、一方の親または両方の親から離れた子供の、個人的な関係を維持し、双方の親と直接連絡を取る権利を尊重する義務がある。)

<注>
重要なのは、「except if this is contrary to the child’s best interests」(子の最善の利益に反する場合を除き)という留保がついていること。

7、<結論>欧州議会は日本型の共同親権に1ミリも賛成していない【重要】

こうしてみると、欧州議会は、子の引き離し問題について、「欧州型の価値観・法システム」による解決を日本に求めていることが分かります。

この「欧州型」というのがキモであり、日本型の共同親権制度に1ミリも賛成していない、ということです。

いかにも外圧というと、もっともらしいですが、日本の報道自体は「まゆつば」であるということを頭に入れる必要がありますね。

(おしまい)

【次回】

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