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【離婚後共同親権】面会交流に関する裁判例を調べてみたよ<判例調査>(Ver2.0)

離婚に直面したシングルマザーの方が最も頭を悩ませる問題の1つが、別居した夫(元夫)と子供を会わせるかどうか、どうやって安全に会わせるかという”面会交流”の問題ではないでしょうか。

家庭裁判所の調停委員や調査官から「面会交流やってください」という”圧”がかかり、信頼できる弁護士さんに相談してもむしろ説得されちゃったり。。。なかなか、”セカンドオピニオン”にたどり着けないのが現実かな、と思っています。

私は何らかの法曹資格を有しているわけではありませんが、企業法務の実務経験を通じて、リーガル・リサーチの技術を持っています。
この技術を使って、面会交流の裁判例が実際どのようなものになっているのか、調べてみました。

セカンドオピニオンというわけではありませんが、皆さんが正確な情報に基づいて、納得の行くご判断ができることを願っております。

【ご注意】
本記事の掲載情報は、DV、ハラスメントなどに悩み、離婚を考えているシングルマザーのような方を想定し、正確かつ信頼できる法律情報を、著名な判例、標準的な学説、信頼できる実務家の見解・書籍等に基づき、出典を明示して提供していますが、個別のケースに関するご相談・お問い合わせには対応できません。あらかじめご了承ください。

1、面会交流に関する条文と裁判例

面会交流が法律上問題になるとき、次の2つのケースに場合に分かれます。

(1)離婚する前の段階
このケースでは、面会交流を認める法律上の条文はありませんが、判例が存在します。
最高裁決定平成12年5月1日
「父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行い、親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うものであり(民法818条3項、820条)、婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容であるということができる。そして、別居状態にある父母の間で右面接交渉につき協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができると解することが相当である。」
※条文は決定当時のもの

(2)離婚後の段階
このケースでは、現在条文が明記されています。

民法766条
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

ここで重要なのは1の段落(第1項)です。「面会及びその他の交流…必要な事項は、その協議で定める」とありますので、離婚時において、「面会交流をする・しない」も含め、面会交流について何らかの取り決めがなくてはなりません。
実際には、面会交流の取り決めをしているカップルは、統計によると、母子家庭で24.1%、父子家庭で27.3%となっており、決して高い数字とはいえないようです。
〔出典〕厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」

2、面会交流は権利か?

そこで、何らの取り決めがない状態に、別居親が子供への面会交流を権利として求めることができるか?という疑問が生じます。
法律では通常、誰かに権利があることを認めるときは、「●●は、~することができる」と記述されますが、上記に挙げた条文・判例では、別居親に「面会交流を求めることができる」とは書かれていないので、明確ではないのです。
学説は次のように対立しています。

(1)面会交流権肯定説
この法律理論は、大別して6つもあり(。。。)、いちいち紹介することは得策ではありません。ざっくり根拠を挙げると、
・面会交流権は親子という身分関係から認められる固有の権利
だとか、
・親権や監護権に基づく権利
だとか、
・子の権利を親が援用できるんだー。
だとかワーワー書いてあります。ただ、学者の大半は、この立場だということはできます。

(2)面会交流権否定説
実は反対説もあります。「面会交流って同居親に要求できる権利じゃなくて、裁判所に申立てできるだけだよね?」というのが論拠であり、1に挙げた条文(766条1~4)・判例を素直に読むと同感ではありますが、なにぶん少数説です。
〔出典〕梶村太市「親子の面会交流原則実施論の課題と展望」判時2177号P.6

(3)実際の運用
ただ、学説は様々に分かれているものの、皆さんがネットで調査する弁護士事務所のHPの解説の大半は、別居親に権利があることを前提にして書かれており、実務の運用は「権利がある」という前提で回っているというのが実感です。

3、【重要】実は最高裁判所はこう考えていた?

ところで、最高裁判所は実際にはどのように考えていたのでしょうか?
実は興味深い記述があります。

最高裁判所の判決・決定は、15人の判事たちによって行われますが、あまりに大量に事件を処理する必要があるため、お付きの補佐官が、1人あたり2~3人(全体で40人ほど)割り当てられています。
最高裁判所調査官といわれる人たちで、彼らも司法試験を合格した裁判官です。

彼らが判事に与える影響は非常に大きく、ある事件でA案・B案・C案を起案し、判事は「B案で行ってくれ」と指示しているだけだという批判がされることもあります。
〔出典〕山本祐司「最高裁物語」(講談社)

そのため、彼らの判例解説も非常に権威があり、「最高裁判所判例解説」として公刊されています。

実は、1でご紹介した判例の調査官解説では、面会交流権は、別居親が面会交流を求める請求権というよりも、子の監護のために適正な措置を求める権利であることが示された、とあるのです。
〔出典〕杉原則彦「最高裁判所判例解説民事篇平成12年度(下)」P.511

つまり、面会交流権は別居親が会わせろ―とワーワー言う権利ではなく、子の監護の適正を求める手段としての面会が認められるに過ぎない、というわけです。

ということは、子の監護のために別居親が会うことが不適正である、というケースも論理的には考えられます。
いかなる権利にも絶対無制限なものはありません。上記の民法766条第1項も「子の利益を最も優先して考慮」するこが条件であり、これにそぐわない場合は、面会交流が禁止・制限されるという判例も存在するのです。

3-2、【これも重要】最高裁判所は面会交流権は憲法上の人権ではないともいっている(2020.7.11追記)

実は、上記最高裁調査官の解説、「面会交流権って、同居親への請求権ではなく、適正な監護を求められるだけだよね。」という考えは、先例があります。

昭和59年、最高裁は、面会交流を認めるかどうかは、子の監護の処分に関する民法766条1項または2項の解釈運用の問題であって、憲法13条の幸福追求権の問題ではない、とする判断を示していました。(最決昭59.7.6)

この判例は現在まで変更はされておらず、最高裁判所は、面会交流権について、裁判所が当事者の申立てを受けて判断するもの、という考えに親和的な見方をしていることがうかがえます。

4、面会交流が禁止・制限される裁判例

判例調査の基本文献の1つ、「判例百選」(有斐閣)によれば、次のようなケースが紹介されています。

①子の意思
父母の葛藤が激しく、子が明確に面会を拒否している場合、子の福祉を害する可能性が高いとして、面会交流を認めた原審を取り消し、認めなかった例(東京高決平19.8.22)
一方、別居中は良好な交替監護が行われたのに、離婚後突然子が面会を拒否したケースでは、監護親による影響が推認されるとして面会交流を認めた例もあります。
(福岡家審平26.12.4)

②非監護親の暴力等
この場合、2つ考えられます。
まず、子に対する暴力があったケースは制限される要件です。
(横浜家審平14.1.16)
次に、配偶者への暴言や暴力は、証明されたときは否定要件になります。
(東京家審平13.6.5など)

【注目判例】(2020.7.11追記)
2011年の民法改正以降、DVが認定されているにもかかかわらず、面会交流を認める裁判例が増えてきたことが懸念されています。
そんな中、DV事案で妻だけでなく、子に対する心理的影響も考慮し、家庭裁判所調査官から面会交流を肯定する意見書が出ていたにもかかわらず、直接交流を否定する裁判例が出ました。(東京高決平27.6.12)
※後日別記事としてアップする予定です。

③監護親の再婚や継親子養子縁組など
古い判例では否定要件になっていましたが、現在は直ちに否定的要件になるわけではなく、宿泊付き面会交流は制限されるなどのケースがあります。
(大阪高決平18.2.3)

〔出典〕水野紀子・大村敦志編「民法判例百選Ⅲ親族・相続(第2版」(有斐閣)

最後に

いかがでしたでしょうか?
ネットに氾濫している情報から1歩進んで、より確かな見方ができるようになりましたか?
皆さんのご参考になれば幸いです。
今後も、有益な法律情報を適宜追加していきたいと思います。
よろしくお願いします。

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