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③Niziプロジェクトはなぜ人々を魅了するのか?              プロデューサー、パクジニョン(J・Y・Park)の「徳」について

  

2020年。

東京オリンピック一色に染まるはずだった今、世間を騒がせている「Niziプロジェクト」を、みなさんはご存知だろうか。


今や社会現象のNiziプロジェクト


Niziプロジェクト、通称「Niziプロ」とは、スターの卵を発掘し、世界に羽ばたくアイドルを作るべく、日本と韓国の大手芸能事務所が共同で開催したオーディション番組だ。総勢1万人以上の応募から選ばれた女の子達が、生き残りをかけて、歌やダンスなどのミッションをこなしていく。

地域予選では1万人の中から26人が選ばれ、4日間の東京合宿に参加する。そしてその中から13人が選ばれ、6か月の韓国合宿に。最後に9人のデビューメンバーが決まる、といった形だ。

毎回のパフォーマンスのレベルの高さや、練習生としてアイドルになるという「夢」に向かう参加者達の成長の過程は見る人を惹きつけてやまない。当初は動画配信サービス「Hulu」での配信のみだったが、最終ステージの韓国合宿の様子は地上波でも放送される事になった。

番組を経て9人組ガールズグループとしてデビューが決まった「NiziU」は、プレデビューとして配信した「Make you happy」が配信初週にBillboard JAPANストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”で1000万回再生を記録し、週間最高記録を塗り替えた。今や社会現象となっている。



◾️Niziプロは、中毒的に面白い

私もファンだ。それもかなりのファンだ。配信を見すぎて月の半ばには速度制限だし、電車の中で動画に集中し過ぎて、最寄り駅を過ぎていたこともある。終電だった。5,000円かけてタクシーで帰宅した。

「一体、なぜこんなにハマっているのか」「私は何にここまで惹きつけられているのか。」

深夜1時のタクシーの中、ふと疑問に思った。かなりハマっていた。中毒的だった。ここまでくると自分の奇妙な行動に理由が欲しかった。また、私と同じように、この魔術的な魅力の正体を知りたい人がいるのではないかと思った。

なぜNiziプロジェクトは中毒的に「面白い」のか。この命題について解明することを決めた。そして(いつものように)そっとHuluを開いた。


意外な事実

Niziプロジェクトの面白さを解明するという大義名分を得た私は、引き続きHuluでの配信を細かく見つつ、同じようにハマっている人々にインタビューをした。インタビューを進めると、意外な事実が見つかった。

Niziプロにハマっている人たちは、元々KPOPやアイドルに興味があったというわけでは無かったのだ。アイドルはもちろん、音楽にも全く興味のない人までもハマっていた。

友人のO君が、「もうあの練習生たちが、夢を追いかける姿が最高。それと、パク・ジニョン氏のアドバイスが最高に面白い。」と、どハマりしていたのには驚いた。(お酒かタバコか麻雀の話しか聞いたことなかったのにな。)


◾️パク・ジニョン

そしてもう1つ興味深いことに、ほとんど全員が、「パク・ジニョンのコメント」の話をした。

パク・ジニョンとは、このNiziプロジェクトを企画する韓国の大手芸能事務所、JYPエンターテイメントの創設者で、TWICEやGOT7など「超」有名アイドルグループをプロデュースしてきた敏腕プロデューサーだ。今回のNiziプロジェクトでも総合プロデューサーをつとめ、参加者にミッションを与え、参加者のパフォーマンスを審査、評価する立場にいる。

夢に向かってひたむきに努力する少女たちに、ミッションという名の試練を与え、またそれを審査し、ふるい落すのだから、本来ならば憎まれ役とも思われても仕方がないはずである。しかし、人々はそんな「パク・ジニョン」の言動に感動し、賞賛していたのだ。


◾️彼のコメントが気になる

振り返ってみると私も彼の「コメント」を聞くことを楽しみにしていた。番組の中で、パフォーマンスを披露した練習生に、彼は毎回独自の視点からコメントをする。そのコメントは厳しい一方、彼女達に勇気を与えるのだ。

例えば、Part2の第2話。練習生の1人、アヤカのパフォーマンス後のコメント。彼女は他の練習生と比較し、ダンスや歌の経験が浅いため、実力も不安定だった。

厳しい練習の成果を披露した彼女だったが、パク氏は、

本当にデビューしたければまだまだ実力不足。これからもっと頑張らなくては行けません。と厳しい言葉をかける。

思わず戸惑いの表情を浮かべる彼女に対し、「でも」、とつけ加え、

「でも、僕はアヤカさんがもっとコツコツ努力すれば、充分に成長できると思います。他の方々が見たら違いがわからないかもしれませんが、僕が見る限り1ヶ月間、ものすごく頑張って努力した人に見えます。次のステージではもっと成長した姿が見られると思います。」

と告げるのだ。

彼のこの言葉に鼓舞された彼女はこの後、コツコツ努力を重ね、みるみるうちに成長し、晴れてデビューメンバーの1人に選ばれることになる。



パク・ジニョンの魅力

この他にも、パク・ジニョンのコメントにはいつもハッとさせられる。彼は主に4つの基準(歌、ダンス、スター性、人柄)で評価をするのだが、それがユニークで面白い。歌、ダンスに関してはさすがは敏腕プロデューサー。細かい技術や表現方法まで見逃さず指摘する。その視点は非常に鋭く、面白く、見る人全てに「この人はすごい」と思わせる。

更にパク・ジニョンを魅力的に見せるのは、「スター性」「人柄」への評価だ。

◾️スター性

スター性において彼は、「その人が個性を表現し、見る人を感動させられるか。」という基準で評価する。

例えばアイドルになる夢だけを目指して明るく元気にパフォーマンスを披露した練習生には、

「ぼくに良く見られることだけ考えているから、あなたの個性が見えませんでした。見えない精神や心を見えるようにすることが芸術です。だから、自分の精神、心、個性が見えなかったら、そのパフォーマンスは、芸術的な価値がないのです。」

と告げる。

ずっとダンスを極めてきたという練習生が自信満々にダンスを披露した際には、

「自分がうまく踊ることだけを考えています。ダンスや歌は、見てくれている人のためのものです。でも(審査員である)ぼくと心を通い合わせようとしませんでした。」

と酷評する。

彼は、歌やダンスの上手さ、技術力の高さだけではなく、その人にしか出せない「個性」が見たいと言う。目に見えるものだけで自分をよく見せようとせず、精神、心、努力、個性など見えないものから自分だけの魅力を表現することを練習生に求めるのだ。


◇個性が見えないと評価するパク氏(1:45頃〜)


◾️人柄

「人柄」の評価では、彼女達の練習を見るトレーナーや他の練習生達が、練習中の様子や、普段の生活の様子を評価する。カメラのないところでの、彼女達の「人柄」見るためだ。

「立派な人柄」について、Part2の第7話で彼は以下のように述べている。

「ダンスや歌に劣らず持っていてほしいのは、立派な人柄です。カメラの前でできない言葉や行動は、カメラがない場所でも絶対にしないでください。気をつけようと考えないで、気をつける必要がない、立派な人になってください」

カメラがあるから立派に見せる、ではなく普段から立派でいる。もはや意識することなく、自分の人柄が「立派」なものである状態。それこそが真に立派な人柄であると言う。

実際にデビューが決まった9人は、わざとらしさが全くない。常時笑顔は絶やさないが、そのどれもが、ありのまま彼女達のままである。そんな姿に見る人はただただ癒される。(※筆者を含む



◾️関心と愛情を持って、評価すること

このように、彼は一貫して表面的な良し悪しだけでは評価をしない。「作られた笑顔」が張り付いたアイドルは求めていない。その人が持ってる個性がそのまま人々を感動させられる、そういった逸材を求めている。

そんな個性を見極めるために、彼は、練習生達が披露するパフォーマンスそのものだけでなく、彼女達それぞれを知ろうとする。そして、愛情を持ってコメントする。「なんとかアラを見つけて、落としてやろう」という態度は全くない。もちろん、時には厳しいコメントもあるが、それらは練習生が「次はもっといいパフォーマンスができるように」と願った、大きな愛情の裏返しなのだ。そのおかげで練習生達も、みるみる殻を破り、自由に個性を表現するようになる



こんな時代だからこそ魅力的なパク・ジニョンの言葉


ここで私はふと気づいた。

もしかしてパク・ジニョンのコメントって、こんな時代だからこそ、より鋭く人々の胸に刺さるのではないだろうか…?


◾️失われた「情」のあるコミュニケーション

考えてみてほしい。

マスク生活が始まり、人に会うのも、外に出るのでさえ憚られる今、他者とコミュニケーションはどう変化しただろうか。

この状況の中で、この人と会うべきか、この人と話すべきか、この話題を続けるべきか。

なんとなく自分のなかで、「内側」と「外側」にコミュニティを分けて、「外側」にいる人々には表面的な接し方で、最低限の接し方で受け流してしまってはいないだろうか。

例えば「マスクをする人」と「しない人」、「飲みに行く人」と「行かない人」、「帰省する人」と「しない人」など、ある行動1つで他者をカテゴライズし、自分と違う枠にいる人は否定してもいい、そういった風潮が世間で蔓延している。私自身も、いつのまにかそういう枠組みで思考してしまっている時があったように思う。

こういったコミュニケーションの問題は今に始まったことではない。しかしながら、コロナで加速し、問題が顕著になったように思う。他者への関心や、愛情や尊敬を持った、「情」を交えたコミュニケーションは少なくなり、今や世の中では「情」の無いコミュニケーションがデフォルトになっている。

このような世界では、人々は他者から傷つけられることを恐れ、自分を守ることで必死になってしまう。真に自分の味方だとわかっている相手以外は、自由に自分らしく振る舞えず、かなり窮屈な世界だ。


◾️パクジニョンのコメントから学ぶこと

だからといって、パク・ジニョンを見習って、全ての人を知りたいと思い、愛情を持って接しましょう、と言う訳ではない。

ただ、少しだけ意識して、例えば、会話の機会があった他者に、この人はどんな人なのかな、と、興味を持って会話することはできるのではないだろうか。学歴や職業、出身地など目に見える経歴以外に、自分自身に興味を持ってくれる相手と話すのは誰でも楽しいだろう。少しの意識でコミュニケーションのあり方は大きく変わるのだ。

今から100年以上前、『善の研究』という書籍で西田幾多郎は、同じように「知」(=関心)と「愛」(=愛情)を持って他者と接することこそが人格者だと述べた。

この本の主題である「善」とは善い悪いの「善」ではなく、もっと広い意味の、あらゆる宗教や哲学が目指す「徳」のような意味で使われている。

パク・ジニョンの、相手を知ろうとし、愛情を持ってコメントする姿勢は、この本でも求められているような、「知」と「愛」を持って他者と接する、「徳の高い人格者の姿勢」と言える。


「損得勘定」から「尊徳感情」へ


なんだか色々、思いが溢れて長くなってしまったが、以上、Niziプロジェクトの中毒的な面白さ、パクジニョンの魅力について考察してきた。

情を交えたコミュニケーションがなくなっている今だからこそ、パク・ジニョンの「知」と「愛」を持って相手と対話する、そういった姿勢が人々を魅了しているのである。


実を言うと私自身、地元を離れ、1人暮らしを始めてから、他者とのコミュニケーションの中で、相手に対し、「そんな言い方しなくても…。」や、逆に自分に対しても「なんであんな言い方してしまったのか…。」と思うことが多くあった。家族ではない、友人でもない、これから知っていくはずの他者とのコミュニケーションに何かもどかしさがあった。

そんなある時、「コロナ後の世界」についての議論をしていて、あるForesight creatorが「損得から尊徳へ」というフレーズを提唱したのだが、なぜかこれにとてつもなく感動した。そうか、今まで私は、相手との関係性を損か得かのような冷たいものでどこか判断していたのかもしれない。と気付いた。

そして、ちょうど同じタイミングでハマっていたパク・ジニョンのコミュニケーションの姿勢に関心(知)と愛情(愛)があることに気付き、まさしくこれが「尊徳」の実践なのではないかと考えるに至ったのである。


◾️大きな変化の時代にある今だからこそ

損する、得する、といった考え方から離れる。相手のことを深く知ろうと興味・関心を向け、愛情を持ってコミュニケーションをとる。こういったことを少し気にかけるだけで、他者とのコミュニケーションはかなり快適になる。

先に述べた「善の研究」は、発売当初は、さほど日の目を浴びることはなかった。しかし、1947年に岩波書店が西田幾多郎全集として発売し、爆発的な人気となったそうだ。

当時の状況はというと、戦後2年が経過し、明日生きていく食べ物が全く無いというような危機的状況は去っていた。人々の生活には少し余裕が生まれていた。そうした時、人々は自分たちが飢えていたのは身体だけではなく、心もだったと気づくのだ。そして、飢えた心を満たすような「叡智」を求め、この本は瞬く間にベストセラーとなったそうだ。

もしかしたら、今もその状況に少し似ているのかもしれない。正体不明のウイルスだったコロナとどう向き合うべきか、というのはそれぞれ分かってきている。緊急事態宣言直後の、1歩も外に出てはいけない、という訳では無い。そんな中、今度は、コロナ禍で希薄になった「心の繋がり」を満たしたいと思う人が増えているのかもしれない。だからこそパクジニョンのコメントに心を奪われる人が続出しているのかもしれない。

なんて、

そんなことを思いながら、もうすぐ、地上波でNiziUがが初めて歌番組に出演しパフォーマンスを披露する。今回の青い衣装もとても似合っている。ようやく地上波に来てくれた。速度制限を気にせず、とびっきりの愛情を胸に、彼女たちの初パフォーマンスを見届けたい。



この記事を書いた人:まいぴろ

ひとこと:Foresight Creator 資格取得者。左利きっぽいと言われるが、実は右利き。幼少期からお菓子が大好きで、最近、頻繁に上唇と下唇の付け根が切れてしまうようになり、かなり痛いので、食生活を考え直そうか悩んでいる。