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フォアーが取り組む、暗号資産のステーキングを用いた賞与設計について

90年代以降、OECD諸国の実質賃金が軒並み上昇しているなか、日本の実質賃金だけが停滞し、高度人材の流出や労働生産性の低迷といった社会問題の誘因となっています。

しかし、現在の労働基準法の制約の中で給与体系を柔軟に設計するのは難しく、思うように施策を進められていない企業も多いのが実情です。

データ解析事業を手掛ける私たち株式会社フォアーは、社員の労働生産性や成果物を正当に評価し、個々の才知を引き出すための報酬体系を模索してきました。まだまだ道半ばではありますが、ほとんどの役職における実質賃金がIT業界の世界水準を大幅に超え、一定の成果が得られています。

本記事では、私たちが取り組んできた賞与設計や暗号資産のステーキング制度ついて紹介します。これらのインセンティブだけが職場環境や企業文化を作るものだとは考えていませんが、国際的な視点から人事課題に取り組む方や、高度人材定着に向けた施策を実施する方が、何らかの着想の示唆を得られる機会となりましたら幸いです。

独自のインセンティブ設計で労働生産性向上を目指す


現在の労働基準法の枠組みの中で固定給を上げるリスクは大きいため、労働生産性や実質賃金を高めるための現実的な手段として、臨時賞与の設計が挙げられます。

これまで私たちが作ってきた制度には、新規案件獲得報酬や開発ライセンス報酬、生産性連動性報酬(開発期間圧縮報酬)、博士号取得報酬、経費削減に対する報酬といった一般的な制度に加えて、被スカウト報酬やIPマネージメント報酬、アファーマティブ・アクション報酬といった一風変わったものもあります。

成果報酬の仕組みはボトムアップで生まれることも多く、日々見直されていますが、今回は、中でも特に高い効果が得られたIPマネージメント報酬と被スカウト報酬、アファーマティブ・アクション報酬の3つを紹介します。

-IPマネージメント報酬:研究から生じた運用益を還元

IPマネージメント報酬とは、IP(知的財産)を管理・運用することで得られた利益の一部を報酬として還元する仕組みです。

フォアーのR&D部署は、機械学習や分散型台帳技術、認知科学など幅広い分野の研究に取り組むチームで構成されていますが、社内のリソースは限られています。そのため、何らかの社会課題解決に向けた事業を請け負った場合、各国の政府公的機関や研究機関に対してコア技術やメソッドを提供し、共同研究プロジェクトを進めることがあります。

フォアーの社員は、各々の裁量で基礎研究のキュレーションをおこなうため、研究から生まれたIPの運用益の一部は、その社員に還元されます。

これらの成果に関しても、当社サイトにて随時紹介していきます。アカデミック・キュレーションの設計や効率的なIPマネージメントを検討する際の参考にしていただけますと幸いです。

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(Treaties)
小さく偏ったデータセットから学習できる人間の認知バイアスを備えた機械学習モデル
人間の認知的バイアスのニューラルネットワークへの実装とその応用
文章類似度に基づくユーザーリコメンドシステムの構築

(参考)
官民研究開発投資拡大プログラムについて
委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン
国の研究開発プロジェクトにおける国際連携強化に関する基本的な考え方


-被スカウト報酬:他社からのオファーを「資産」と認識

被スカウト報酬とは、他社からスカウトやヘッドハンティングを受けた場合に報酬が付与される仕組みです。私たちは、他企業による従業員の評価を客観的な指標のひとつとして重視しています。

人材の360°評価について考えたとき、社内の評価だけでは偏りが生じてしまうためです。逆説的ではありますが、私たちは、社員が他社からスカウトやオファーを受け、面接に出向くことを心から歓迎しています。

他社によるスカウトや面接から得られる情報は常にインサイトに溢れており、人事評価を補完するものだからです。そのため、他社から受けたオファー内容はフィードバックされ、インセンティブとして還元されます。

-アファーマティブ・アクション報酬:中長期的な目線で評価する

フォアーの社員の出自や思想は千差万別であるため、会社としてのMissionやVisionがあるわけではありません。ただ社会的価値のみを共有しています。

社内には、NFTを用いて社会問題を映写するものや、特定の思想家、例えばルネ・ジラールに傾倒するものなど、様々なアフィニティグループが形成され、それぞれが自立的に、あるいは無秩序にアファーマティブ・アクションを推進しています。

何の生産性にも結び付かないまま、表面的に世相をなぞるだけで霧消するプロジェクトもありますが、思わぬ形で各国の政府公的機関や研究機関との共同プロジェクトに繋がることもあるため、近視眼的な判断をすることはありません。

アファーマティブ・アクションに報酬を設計することに対しては賛否があると思いますが、社内で報酬を設計しなかったとしても、いずれ資金が必要となるものです。名もない、漠然とした感情に基づく社員の行動が社会に一石を投じる瞬間に、当事者として立ち会う会社でありたいと考えています。

【参考】
・Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development
・OPEN SOCIETY FOUNDATION-JUSTICE REFORM AND THE RULE OF LAW

ペイロールの柔軟性と暗号資産を用いたステーキング

フォアーでは、前述のような臨時賞与に加えて、ペイロールに関しても最適な形を模索しており、給与や賞与の支払い手段を多数用意しています。支払い手段には、各国の法定通貨やストックオプション(SO)に加えて、レアアースや暗号資産なども含まれます。

ポートフォリオの数は人の数だけあり、ライフステージに沿って変遷していくため、日本円という一律の支払い手段しか提供しないのは不自然だと考えているからです。どの支払い手段で、どれだけの割合で報酬を受け取るかは社員が自ら設定します。非常に稀なケースですが、給与の大部分を日本円で受け取る人もいます。

また、私たちは社員一人ひとりに対して、独自のブロックチェーン上でステーキングノードを立ち上げており、暗号資産での支払いを選択した場合には、バリデーター報酬や委任ステーキング報酬として得ることも可能です。

フォアーには、分散型台帳技術の技術者も数多く在籍しているため、社内でコピートレードをしながら暗号資産のポートフォリオを組む人もいれば、自ら特定の暗号資産を選びステーキングする人もいます。

暗号資産の市場は目まぐるしく変遷するものであり、相応のリスクが伴うものです。それを理解した上で、社会情勢に伴い自身のポートフォリオに偏りが生じている場合、自国法定通貨の保有がハイリスクである場合、あるいは暗号資産による破壊的な富の移動を目の当たりにしてしまった場合などに選択される傾向があります。

もし特定の法定通貨のみによる支払いを求める人がいたとしても、行動変容を促すようなことはありませんが、柔軟なペイロールの設計は、私たちが最も重視する施策のひとつです。

最近はWEB3.0開発プラットフォーム「Moralis」のように、分散型台帳の上でノード管理や認証、トランザクションインデックスを管理できるサービスも充実し始めています。暗号資産を用いたインセンティブ設計の敷居は確実に下がってきていると感じます。

世界のタレントと繋がる手段としての暗号資産

“No scheme for a change of society can be made to appear immediately palatable, except by falsehood, until society has become so desperate that it will accept any change.”
                                                      — T. S. Eliot

暗号資産により、突如として生れた(ように見える)経済圏は、良くも悪くも人類史上類を見ない規模での富の移動と貧富の格差をもたらしました。指数関数的に成長する破壊的な市場と向き合うとき、漠然とした不安を感じる人も多いかもしれません。

過大評価も過小評価もされがちな暗号資産の価値を評価するのは簡単ではありませんが、暗号資産を用いた報酬体系の設計は、世界各地に在住し、常習的に越境する高度IT人材と繋がるための有望な手段だといえます。

経済産業省が発表したレポート「2025年の崖」の中でも指摘されているように、高度IT人材の不足は喫緊の社会課題であり、年々深刻化しています。特に分散型台帳技術や機械学習の技術者に対して適切なインセンティブ設計を考えるとき、法定通貨のみで対応するのには限界があります。

最近は日本のIT業界でも、EOR(Employer of Record)のような仕組みを用いて海外在住の技術者を雇用するケースも増えているため、暗号資産を活用したボーダーレスなペイロールを設計は、より大きな注目を集めることでしょう。

フォアーは今後も、普遍性のある人事評価制度の形を様々な角度から追求してきます。「賞与の額をどう調整するか」「暗号資産で賞与を設計する際にどのようなシミュレーションをおこなったか」といった具体的な設計もご紹介していければと思います。

冒頭で述べたように、インセンティブの設計だけが解決策になるとは考えていませんが、私たちの取り組みが皆さまにとって新たな着想のきっかけになりましたら幸いです。

https://www.fore-co.ltd/ja/