1-7ある山奥のホール (大丸 喜世榮)
生理痛がひどすぎてシフトをパートの方に代わってもらった昨日、とんでもなく美人の若いお客さんがうま牛に来たらしい。モデル?タレント?だとか。
昨日の夕方に続いて、なんと今日の朝と昼も。忙しすぎてジロジロとお客さんの顔も見る時間がない職場だけど、2回連続でレジの対応をした子が興奮していて、瞬く間にアルバイトスタッフの連絡グループで話題になった。ホールの子も、ちらっとだけ顔を見たらしい。
流石に写真を撮る人はいなかったから安心したけど、こういう「芸能人(らしき人、イケてる人)が来た」みたいな出来事は、私たちの中では些細な喜び、楽しみの一つになってるらしい。バイトを始めて2ヶ月、そういうことがあると聞いてはいたけど、初めての出来事。グループメッセージの通知が止まない。ここまで盛り上がるのも久々らしい。
不思議で笑えてしまうのは、そういう「田舎を取材しに来たテレビ番組」の放映自体はその後まったく話題にもされなくて、ただうま牛にテレビ局の人が入ったことのほうが一大事なこと。先輩は「うわー、俺が盛った汁だく、木村アナが食べたのかな」なんて言ってるけど、絶対スタッフの人の持ち帰りの分だよ。アナウンサーは、ホテルのルームサービスか、この町で一番高い、予約制のレストランに入ってる。
年に一回の映画祭の時期には、何かしらのローカル番組の取材で来た俳優さんとかアナウンサーさんが、こもの町のどこかでお酒を飲んだ帰りにふらっと寄ったりすることもあるらしい。私は高校生だからその時間のシフトにはまず入らないし、この先も立ち会うことはなさそう。
美人さんか〜〜〜〜。見てみたかったなぁ。休みだけど忘れ物をしたふりでもしてお店を見に行けばよかった。なんか、本当にとんでもない美人だったらしい。こういう瞬間に立ち会えるのが本来の特権じゃんね、田舎随一のバイト先に合格した優等生なんだから。私は。
世界はどんどん小さくなっているとか、人と人との距離が近くなっているとか、都会と田舎の境目がなくなっているとか、そんなことを言ってるのは都会の人だけだと思う。もしくは、田舎に都会を持ち込める人、田舎の良いところだけを吸い取ってあとは無視を決め込める人がそう言えるだけ。全てを捨ててまた都会へ戻れる豊かな人も、都会と田舎なんて同じだよ、という。
でも、都会と田舎はやっぱり違う。ここはただの山の中だよ。雲の上の。叫んだらやまびこになるレベルの。
とんでもない田舎だよ。誰かと誰かが付き合ったら次の日には100人がそれを知ってる。ご家庭の離婚なんてあろうもんなら、一晩で学校中の人に知れ渡ると思う。……見たことはないから、わからないけど。
高校生にでもなったら、誰が処女で、誰が経験済みらしい、みたいなことは、実際にその人が言いふらすでもなく、なんとなく皆が知っている。知りたくもないのにそういう情報が入ってきてしまう。そんな気持ち悪さがこの田舎にはある。私はそう思ってる。
ていうか、バイトの面接で高校の成績を見せなきゃいけないって時点でで結構異常じゃない?まぁ、ただでさえ少ない高校生の中から、少しでも物覚えがいい人間を採用したいっていう理由は子供の私にもわかるけど。でもさ、関係ないじゃんね。都会だったらニュースになってそう。ネットに書いたら炎上しそうだな、と思うけど、やめておこうと思う。ここは田舎の家族が集うオアシスだから。
明日は11時から16時までホール。流石に来ないよねえ……。見てみたかったなあ。人生でハーフの人に出会ったこと、喋ったことって、一度もないから。どこの国とのハーフの人なんだろう。……きっと、都会では普段MoonSwingとかに入ってて、カッコ良い彼氏とかがいて、別れて旅に来た、みたいな?……いやいや、きっとその方も、中身はどこにでもいる普通の人……。こういう勝手な妄想とか差別もよくないか……。
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