1-5ある山奥のチェーン (スミス・ティファニー・千笑)

仕事が1ヶ月のオフ。これまでは毎年友達と旅行に行ってたけど、今年は一人になりたくてヒッチハイクで旅に出た。27歳になってからヒッチハイクなんて笑える。
道中出会った人は、(自分で車を止めておいて申し訳ないけど)視線が気持ち悪い男の人が多くて、優しそうなおばさんだとか、老夫婦の車を乗り継いだ結果、自分はいつの間にか北海道の山の中にいる。北に向かえば当然果てにたどり着くだろうとは思っていたけど、まさか青森を超えてフェリーに乗っちゃうとはね。

ここまで田舎だと「携帯の電波がつながらなくて」が言い訳に使えるから、実際はバッチリ電波をつかめるけど男からの連絡を返さなくていいのは結構楽。旅に出てから気付いた。
お母さんには一応連絡を返す。詳しいことは何も言わずに家を出てきてしまったから。
こんな田舎にもうま牛はある。お母さんに「ちゃんとご飯食べてるよ」と返事をした。田舎のチェーン店って、ファミレスみたいに家族のお客さんが多くて、それも皆さん笑顔で食べてるところがとっても良い。「ちゃんとしたものを食べなさい」なんてすぐにお母さんから返事が来たけど、お母さんはこの笑顔のご家庭にも「ちゃんとしたものを食べなさい」面と向かって言えるんだろうか。結局、周りと比較して牛丼を見下してるだけ。ここはTHE・平和。平和がここにある。

レストランとかカフェに行こうとすると、いつも誰かに声をかけられる。ファッション・美容業界は狭いから。女の子の友達も正直疎ましいと思うようになった。男なんて尚更。
今の私には誰も声を掛けてこない。仙台のうま牛ですら、なんかニタついて気持ち悪い長髪男にジロジロ見られて嫌だったのに。いまは本当に自由で気持ちいい、自分の人生を過ごしているとはじめて思えた。
この空間の私が明らかに異質だからか、道の駅の売店で誰かに声をかけられたとしてもせいぜい「どちらから?」くらいの質問程度。
私を知ってる子供にも話しかけられたけど、みんな行儀が良かった。私自身への変な興味関心じゃなくて、私の周辺の世界への興味が勝ってるような純粋さを感じる。これまで何度か仕事を変えたり、付き合う人を変えてもこの感覚は結局得られなかったものだから、この「私自身以外が注目されている感覚」が生まれて初めてでとっても楽しい。聞かれたらところで地元を紹介することに慣れていないから、とっても下手で申し訳ないけど。
そういえば、旅に出てから私を知らない人にも話しかけられたけど、「どこのハーフ?」とは一度も聞かれていない。どうしてだろう。北海道にハーフの人って多いのかな。外人観光客が多いから?慣れてるのかも。

最初はどこを見ても同じ都会を離れるためにここに来たはずなのに、田舎の真ん中でも都会と変わらず白く光るうま牛の看板にスーッと吸い寄せられてしまったことが今になっておかしく思えた。けれど、結果として私は520円で田舎の社会の良い所をすべて満喫してる。
あぁ、こんなところにカフェがあったらきっと、一人でゆっくりできるのに。さっき調べてみたけど、この山の中にはカフェはないみたい。
……仕方ないからまた道の駅にでも行ってみようかな。もし近くにあれば。できればこの辺に一晩泊まりたいんだけど、高めのホテルしかないんだよなあ。スキーのオフシーズンだし、高いのも仕方ないかあ……。田舎でのご飯はうま牛で(が)いいってわかったし、宿くらい奮発しちゃってもいいのかも。
…田舎の人って、食べ方が綺麗でいいなあ。農家の方が身近に多いからなのかな?

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