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ゲームモデルに基づいたPDCAサイクルについて③-1

みなさんご無沙汰しております。わっきー(@kumaWacky)です。

そろそろ桜も咲き始めそうな季節となって参りました。和歌山県では、2月に閉幕した新人戦とほぼ同時に県1部リーグが開幕しました。今回はすでに4節を終えたリーグ戦のマッチレポートを軸に記事を書きたいと思います。

【要約】
■新人戦終了後1ヶ月後に控えたリーグ戦開幕に向けてどのような準備をしたのか
■開幕戦以降をどのように戦えたのか
■4節を終えて、現状の成果と課題をどのように評価しているのか

では早速前回の続きです。

2019年2月2日、県サッカー新人戦3回戦において初芝橋本高校に0-10で敗れ(この後、初芝橋本は優勝)、我々は岐路に立たされました。今まで積み上げてきたものは間違っていたのか否か・・・。正しく答えるなら「積み上げてきたもの」は間違ってはいないけど、「積み上げ方」には間違いもあった、と言えるでしょう。そこで、チームの方向性は維持しつつ何にどう取り組むべきかを整理するところからスタートしました。

新人戦では何に挑戦でき、何が足りなかったのか。まずはその精査をするべくミーティングを行いました。最初に抽出したのは「結局自分たちは何を手に入れたのか」ということでした。新人戦が終了した直後、私自身は審判があったので選手たちと話す時間が無かったのですが、トレーナーたちがダウンがてら可能な限り選手たちと話をしながら「思い」を聞き取ってくれていました。
その声も含めてミーティングでは、「大敗は喫したものの、ゲームモデルとして据えてきた戦い方の共有自体は着実に進んできている」という思いを確認しました。それと同時に、初芝橋本が見せてくれたプレスの圧力を前に押し流された事実から、「基礎技術の向上や設計図の洗練などに取り組まないといけない」という部分も共有しました。その上で、ゲームモデルのリファインを行うためにも現状の段階で確認を目的とした練習試合を行うこととしました。特に、個人的には失点の量の原因を精査し、改善を行わないといけないという思いが強くありました。

<TM vs和歌山工業高校>

新人戦ではベスト4進出を逃したものの、各トーナメント形式の大会では県ベスト4常連とも言える強豪校、和歌山工業を最初の相手にお願いしました。1ヶ月後に控えたリーグ戦においても同じカテゴリーに所属していますし、初芝橋本相手の試合のごとく押し流されるのか、しっかりと戦えるのかを知る上でもベストの相手と考えました。新人戦敗退から一週間、2月9日に練習試合を実施しました。この試合では

◇基本的に重心を高めに設定し、相手陣内へと圧力を届かせる
◇3-4-3ベースの相手に対し、優位性をいかに創出できるか
◇ボール保持時の構造設計の共有がどこまで行えるか

辺りをポイントとしてピッチへと送り出しました。

しかし、立ち上がりからエラーが続出します。前日のマラソン大会の影響もあってか、選手たちのコンディションが思わしくなく、どうしても「あと一歩」を踏めない状況が見受けられました。特に守備時の組織化に綻びが発生したり、個人的な対応の場面で簡単に置き去りになったりという場面が続発します。結果、流れも完全に後手に回り、前半を0-3、後半を1-3で終え、1-6の大敗を喫しました。
選手たちとの対話も含め、確認できたのは「守備時の基準(枝D的には規準)が曖昧となっている」ということと「全体的にタスクオーバー気味で、試合中に考えることが多い気がする」ということでした。結果として、「思い切ってプレーする」という基本的な部分が全く達成されていないことが分かりました。

<TM vs海南高校>

2日後、同じく県リーグ1部所属の海南高校に練習試合をお願いしました。中日は選手たちの疲労や負荷を考えオフとし、スプライザにて和歌山工業高校との試合動画を即日共有しつつ、ポイントを伝えてこの日に臨みました。伝えたポイントは特に守備組織の配置と構造についてで、1つずつ整理をし直そうという意図を含んでいました。

◇おそらく4バックのシステムなので、こちらのプレス構造がハマりやすいという予測
◇中盤での駆け引きは今まで通り中央突破を軸に考えつつオープンスペースを意識する
◇守備の配置は特に、それぞれの役割を見失わずに情報共有を行い、改善を図る

辺りを伝え、ピッチへと送り出しました。

始まってみると相手は[4-1-4-1]と[4-2-3-1]を移行しているような並びで、こちらの中盤ラインが窒息させられがちでショートカウンターを受ける場面が続出しました。結果、重心を上げきれずにプレスも届かず、全体的に受け身になりながら0-3で前半を終えました。
ハーフタイムに相手の構造的弱点(アンカー脇)への侵入の方法の整理と、相手のサイド攻撃時に数的優位を生み出されることへの対応を共有しつつ、重心を下げずに圧力を前進させていくことを確認しました。
後半、立ち上がりしばらくはまだ対応が後手になりがちでしたが、徐々に整い始め、2失点を許したものの一気に重心を上げ、数分で3得点を奪いました。そこからはこちらのペースで試合を終えましたが、「出来たこと」と同時に「まだ課題として残されたこと」が浮き彫りとなりました。ここで重くのしかかったのが、「1週間ほどの間で行った3試合で合計21失点している」という事実でした。

<ゲームモデルのリファインと守備の整理>

ゲームモデルの在り方については、近日中にまた本格的な発信を行う予定ですので一旦置いておきまして、今回の成果と課題を整理する中で採用したのが、「ゲームモデルをシンプルに洗練すること」と「具体的な戦術やプレー原則は別資料を作成する」ということです。
これはあくまでも「チームとして共有しておきたいこと」を言語化していくことを前提としていますが、それらを段階的に分類し、特に選手たちに迷い無く取り組んでいってもらえる環境を整備することを目指したものです。その上で、選手個人の技術や意識付けにもフォーカスし、まさに「基礎基本」から見直す勢いで取り組みを行いました。
チーム専属アナリストの森君と議論を重ね、守備時の原則を視覚化した資料を作成するよう依頼しました。依頼した資料は2種類。1つは『前線からのプレス設計図』もう1つは『自陣での4-4ゾーン守備設計図』です。

ちょうど2月の後半が学年末考査の期間となり、長期のオフであったのでオフ明けまでに資料を完成させ、日々の練習でもまずは守備の見直しを軸としたメニューを再構築しました。練習メニューのポイントとしては

◇プレッシャーを受ける中で技術を発揮するには?
◇守備の個人戦術の確認と基本動作の徹底
◇枝D理論の確認と徹底

をまずは設定し、ここまでの試合で崩れやすかった部分を補強することとしました。特に個別の技術としては、『懐理論』の導入、ロングキックにプレッシャーを追加したもの、ポゼッションメニュー時のプレス強度の調整、1vs1~3vs3、ステップワークの見直し等を行いました。
枝D理論の確認については、20m×30m程度の長方形グリッドにて「方向性のある4vs3」を行い、局面をいかにして作り出すのか、どのような配置を取るのか等について共有を行いました。
そして試験明けの3月2日、ミーティングにて新たなゲームモデルを手渡し、戦術等の確認を行い、翌日の練習試合にて実践をしながら最終調整を行うこととしました。


練習試合では①前線からのプレス~ショートカウンターの徹底②ミドルプレスと中央突破③自陣への引き込みからのロングカウンター、をそれぞれ1本目・2本目・3本目にチャレンジしました。
結論から言えば、①と②は程よく整理され上手く機能しました。合計6-0というスコアにも成果は現れていると言えそうです。しかし、③についてはもう少し整理しないといけないなという印象でした。組織をそろえるタイミングの共有と、人数がそろうからこその機能不全(人がいるから大丈夫、と油断するイメージです)がまだ大きな課題でした。
とは言え、総じて前向きな印象でもあったので、約一週間後に控えたリーグ開幕戦に向けて、同様の準備を積み重ねることを確認しました。

<リーグ開幕戦vs近大和歌山>

そして迎えた3月10日、いよいよ和歌山県1部リーグの開幕です。本来の開幕戦は2月の半ばに予定されていましたが、新人戦との日程の都合で予備日に移動となり、この日が実質的な開幕戦となりました。相手は言わずと知れた強豪校です。前年度はプリンスリーグ関西に所属し、残念ながら8位となって県リーグへと降格してきたとは言え、その実力は本校よりも上です。この格上相手にいかにして戦うか、という辺りについては、「押し込まれがちになるだろうが勇気を持ってこちらも押し返したい」という部分を土台としました。無謀にアタックを、ではなく、かといって最初から引き切ってしまうのでもなく、思い切ってぶつかりながら打開策を見極めていこうというものでした。新人戦でも近大和歌山とは別会場での試合であったため、どのような戦い方をするのか確認できておらず、かといって受け身では押し流されかねないということで真っ向勝負を挑むこととしました。
[前半]
予想フォーメーションは4-4-2かつ、サイドに数的優位を作りながら前進を試みる(伝統的にこのスタイル多し)と想定し、こちらは4-2-3-1で配置し、サイドへ誘導してそこでボールを奪取することを軸としました。また、中央の圧力は高いと想定し、中盤の中央を「経由」させるが「突破」にはこだわらずオープンスペースを活用することも確認しました。
立ち上がりは想定通りと呼べる展開でもあり、選手たちもいい形で試合に入れていたようでした。しかし、「サイドへ誘導したい」こちらと「サイドから前進したい」相手とが噛み合いすぎて、どうしても力の差が顕在化し始めました。15分が経過する頃、こちらの右サイドに局面が生み出された時に、相手のCBへのバックパスにアプローチを行かず(不用意に追いすぎない、という判断による)にフリーでボールを保持されました。ここからCB正面のハーフスペースに縦パスを蹴られ、これを相手中盤の選手が縦へ一気に加速しながら受け取り、そのまま最終ラインを突破されてしまいました。これにより最初の失点を喫します。こちらのCBに、「次にこの形になりそうな時は最終ラインを少しスライドさせて、一人がハーフスペースを埋めるよう」に伝え、以降この形で崩されることはなくなりました。また、相手がビルドアップ時にバックパスを織り交ぜながら時間を使う場面も散見されたので、選手たちに「少し重心を上げて圧力が届くかチャレンジをして欲しい」とも伝えました。手応えアリでした。
[ハーフタイム]
選手たちの表情は悪くなかったです。やや押され気味とは言え近大和歌山を相手に対等に戦えているという実感がそこにはありました。そこで選手たちに提案を行いました。「何度か試してみたプレッシング、届いていた印象だけど後半押し上げてみないか?」「相手の狙いのサイド突破に対して、うちの中央圧縮はハマりやすいと思う」と。選手たちも同意し、後半は前線からのプレッシングを狙う形に変更しました。それにあわせ、想定されるエラーのこと、相手の意図の確認を行い、後半へと選手たちを送り出しました。
[後半]
立ち上がりから徐々にこちらの牙が届き始めます。特に相手のCBやSBは、前半の間は「内下側」からアプローチを受けていたものが、後半に入って「外下側」からのアプローチとなりました。この戸惑いがさらにこちらの圧力を後押しし、ミスを誘発していきます。まだ全体的に正しい配置を取れていないこともあったので、主導権を握り続けるほどにはなりませんでしたが、明らかにこちらの流れを作り出しました。
しかし後半15分頃、こちらのゴールキックからのセカンドボール回収が失敗し、相手の中央突破を許します。この対応に失敗し、手痛い追加点を奪われてしまいました。ここまで何度かのチャンスも作れていただけに、選手たちの気持ちが折れないことを願いましたがそれは杞憂でした。「こうなったらとにかく行くしかないだろう」とばかりにギアが上がります。しかし、前半からのサイド突破を受け続けたサイドの選手たちの足が止まり始めました。即座に選手交代を行いながら、相手の狙いを潰しつつ、こちらの重心を下げずに戦いきる意志を伝えました。
ここから我々の猛攻が始まりますが、再三のチャンスにも得点を奪えないまま時間が過ぎていきました。そして迎えた後半43分、中盤からの展開で理想的な形を作りながら相手ゴールに迫りましたがシュートは枠外へ。そして直後のゴールキックを相手が不用意に右CBへと供給したところへ、我々の「枝D&プレス」が炸裂します。相手ゴール正面20mという所でボールを残し、慌てたもう一人のCBを落ち着いてかわし、GKとの1対1も落ち着いて・・・シュートは枠外へ転がっていきました。シュートを打った本人も頭を抱えていましたが、一矢報いるビッグチャンスをこうして逃してしまいました。
試合は後半アディショナルに突入し、こちらのCBが一人足をつってしまいます。ピッチ外へと避難させた直後のラストプレー、こちらの集中が切れてしまっていたことを見抜かれたのか、一気に前進されそのままシュートを打たれます。これを弾いたまでは良かったのですが、セカンドに詰められとどめの一撃。結果、0-3にて試合終了となりました。

<開幕戦が終わって>

大きくとらえるなら、「よく戦った」とも言える開幕戦でした。しかし、ここでは「ゲームモデルに沿って」評価を行わなくてはいけません。
①我々のスタイルとして
・中央突破を軸とした前進

これについては、ある程度チャレンジできていたと思います。しかし、今後「軸とする」という部分で「こだわりすぎる」ことになると大きなエラーが発生すると予想されるので、前進の仕方については整理する必要があるとは思いました。
・中央誘導&圧縮によるボール奪取
これは前半は行わず、サイドへの誘導と圧縮に変更しました。後半から中央誘導&圧縮に変更し、一定の成果を得ました。攻撃と守備との関連性にも関わるので、トランジションの在り方も含めた整理が必要だと思いました。
・総じて「後出しじゃんけん」の意識付けや、どのような相手にどのように対して行くべきかという部分は具体的に落とし込めている印象ではありました。しかし、その内容や精度についてはまだまだ整理が必要だと思いました。
②攻撃面
・ボール保持時の「失わない」については、個人の判断に委ねてしまい過ぎてエラーとなる場面がまだまだ多い印象なので、組織としてこれを実行していけるような整理が必要だと思いました。
・相手のアプローチ等の状況によって判断をしていく部分は概ね出来ていたと思います。しかし初芝橋本戦のように、強い圧力がかかり続ける場合も想定するなら、もっとこだわっていかないといけない部分だとも思いました。
③攻撃⇒守備面
・前進の阻害については、事前の個人戦術のところで調整した分の成果はありました。球際でもしっかりと戦えていたと思います。
・ディレイによって発生した時間の間に組織を整えることについては課題が残されました。「人数をそろえる」ことは概ね達成されていましたが、「機能を発揮する」部分でズレが目立った印象です。組織の機能性については今後も丁寧に整理していきたいと思いました。
④守備面
・前半は枝D理論では無く、それ以前に採用していた「サイドプレス」を行いました。これ自体は悪くなかった印象でしたが、どうしても局面に敵味方入り乱れる形になるので、その後の展開がスムーズにいきにくい(奪ったのにすぐ奪い返される等)と思いました。後半に枝D理論ベースの守備に切り替えてからは、ボールを「残せる」ようになってカウンターにもキレが生まれたと思います。
・4-4ゾーン化は今回採用せずですが、押し込まれれば人数構成や配置は違えどゾーン守備の形となるのである程度の状況は想定できました。その意味では、「人」「スペース」といった規準が曖昧になる場面がまだ多かったと思います。
⑤守備⇒攻撃面
・ボールを意図的に「残す」ことの重要性を再認識する試合でもありました。攻撃や守備が「ターン制」ではない以上、ボールを「残す」ことで攻守がシームレスに接続されるその威力は枝D理論採用以降、強く感じています。その辺りを試合の中でも注視するように「選手たち」もなってきていると思いました。
⑥セットプレー
スローインの整理が甘いという印象でした。ここも含めたゲームモデルですので、もう少し具体的な整理と積み上げをしなくてはいけないと思いました。コーナーキックも同様に、「意図的に有利な状況を作り出す」ことをしていかないといけないですね。フリーキックも同様です。

以上のように、ゲームモデルに照らし合わせて評価を行いました。これを受け、次の試合に向かって調整を行っていくこととなります。全ての試合について書き切ると非常に長くなってしまいますので、今回は「その①」という形でこの辺りにしたいと思います。

次回の「その②」では、

■第2節に潜んでいた落とし穴
■第3節、和歌山工業高校にリベンジ成る
■第4節、中1日で前回王者はツラいよ

の3本でお届けします。あ、じゃんけんはしませんので笑

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