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なぜ東京にサッカースタジアムが建たないのか Part 2 ~代々木狂想曲!?~

要約すると…

・代々木のサッカースタジアム計画は定量的には検討不足?

・法的条件やコスト負担はどうなってるの?

・新しいエンターテイメントの殿堂への期待と不安…

著者プロフィール
またろ (Twitterアカウント@mataroviola)広島生まれ、広島育ちのスポーツ好きな建築アカウント。カープの初優勝時に小学一年生ながらデパートの振る舞い升酒に口を付けてしまったところを中国放送に抜かれ、親ともども学校に呼び出された経験から、スポーツと社会を見つめつつ、都市・建築の知識からスポーツを語る熱いアラフィフ。

代々木のサッカースタジアム計画は定量的には検討不足?

以前VICTORYにこちらの拙稿を掲載いただきました。

首都東京の球技専用スタジアム、いわゆる「サッカースタジアム」の計画、および「断念」の歴史を振り返りつつ、今後の新たなサッカースタジアム計画への期待と不安、課題についてまとめた記事でした。

特に、代々木のNHKの北側の敷地のサッカースタジアムの計画には、密かに期待を持ちつつも、半分冷めた視線をもって見ておりましたが、時はたち2018年9月にいたるまで、この敷地についてはいくつもの「観測気球」が上がり続けることになってきています。

こちらについては、ドメサカまとめブログの記事や、ここ10年来の付き合いになりますサンフレッチェサポーターのちょっつ氏@chottu_LBのnote記事に詳しく経緯、およびそれぞれの記事の細かい変遷についてまで考察していただいております。


特にこの9月には社団法人の「渋谷未来デザイン」が正式に「渋谷スクランブルスタジアム構想」を発表するなど、賑やかになってきていますが、私は私らしく、フットボリスタラボ的にこの敷地のポテンシャル、サッカースタジアムとしての可能性、そして難しさについて考察してみようと思います。

こちらが敷地になります。

渋谷駅から公園通りを上がりNHKの横を通り抜けた先、代々木公園の手前に
敷地があります。土日祝日には大概何らかの野外イベントが開催され、非常に賑わっているエリアであり、アクセスとしては非常に良いと言うことができるでしょう。

Jリーグのスタジアムガイドラインはスタジアム配置は西日の影響を考慮し、東西長手より南北長手のほうが望ましいとされていますが、この敷地ではちょっと南北長手では厳しいと言わざるを得ず、計画されるスタジアムは東西長手として配置されることになるでしょう。例えばここに既存のキャパシティ20,000のスタジアムとして仮に仙台のベガルタのホームスタジアム、ユアテックスタジアム仙台を同縮尺で貼り付けたイメージがこちらになります。

南北の人を捌くバッファー帯が若干狭く、コンコースの設計などに工夫が必要そうですし、報道では30,000人との数字も聞こえてきます。

ちなみに30,000人の神戸ノエビアスタジアムを入れるとこのようになります。

この道路にはみ出す部分を四隅に分配しても相当30,000というキャバシティーを確保するのは厳しいことを考えると、まだまだ定量的な分析がなされている計画ではないということが伺われます。

法的条件やコスト負担はどうなってるの?

次にこの立地、いわゆる敷地の条件ですが、国有地で都が管理者となっている「都市公園」です。もともとは米軍が接収して住宅として使っていた敷地が返還され代々木の体育館等ができたという経緯からしても、おそらく財務省が管轄し、営利利用を除いて無償で都に貸している「国有地無償貸し付け制度」を利用していると考えられます。もちろん営利施設が建てられた場合は賃貸料が発生する広島の旧広島市民球場と同じ状況、と考えられます。

勘のいいひとは「都市公園?だったら建ぺい率に制限があるし、もっぱらプロが使うスタジアムは建てられないはず…」と気が付かれると思います。都市公園法というものがあり、その中の建設行為及び営利施設の建設は制限を受けます。

これまで、都市公園の敷地面積に対する建築物である公園施設の建築面積の許容される割合(「建ぺい率基準」という。)について2%、運動施設などオープンな施設でも10%という厳しい基準がありました。一般の街区では60%ですので、これはかなり厳しい基準でしたが、平成16年の都市公園法改正からこれらの数字は各地方自治体で一定の範囲で割り増しができるようになりました。

さらに施設の利用用途や運営の仕方、第三者による管理のやり方など、民間活力の導入を見据え、都市公園法を各地方自治体で柔軟に運用できるような法令改正が行われたため、以前の都市公園法の規制とはかなり違った運用が始まっていると考えてもよいのです。

特に東京都はこの都市公園法改正以降、様々な試みをしており、上野公園のスターバックスなど、公園の魅力をさらに向上させる新たな営利施設や、代々木公園内の子育て支援施設など、いままでなかった公共性の高い施設の都市公園内への設置に意欲的です。

他方サッカースタジアムが公共性の高い施設かとなると、これはいままでの用途との比較ということになり、特にこの敷地でこれまで高い稼働率でイベント用途での利用がされてきたことを考えると、サッカースタジアムの公共性を説明する上でのかなり高いハードルであることは確かです。このエリアでのイベント利用については10年近く前になりますが拙ブログをご参照ください。

新しいエンターテイメントの殿堂への期待と不安…

では、やっぱり実現に向けてはまだまだ時間のかかる夢物語なのか、と諦めるにはまだ早いかもしれません、それはこの敷地が「渋谷区」ということを考えると、ほかの地域とは違う部分が見えてくるからです。

渋谷というと、推しも推されぬITシティです。数々のIT大手企業が軒を連ね、最近でも「SHIBUYA BIT VALLEY」プロジェクトと銘打ち、GMOインターネット、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィというそうそうたる企業が渋谷区のバックアップのもと、渋谷を「IT分野における世界的技術拠点」目指して様々なプロジェクトを仕掛けていくという構想を掲げています。

、そして渋谷区自身も「YOU MAKE SHIBUYA  ちがい、を、ちから、に変える街」とのキャッチコピーのもと、その独自性をさらに打ち出していこうとしています。

そしてこれら渋谷のIT企業が最近もう一つ注目される動きをしているのが、「スポーツ分野への投資」なのです。DeNAのプロ野球への参入からはもうかなり時間がたちましたが、昨今横浜スタジアムのリニューアルなどさらに積極的な投資が目立ちます。

サイバーエージェントも子会社のサイゲームスのサガン鳥栖への支援、そしてサイバーエージェント自体の町田ゼルビアの買収が発表されました。

mixiもスポーツエンターテインメント部門でXFLAGというブランドを立ち上げ、FC東京やB1リーグの強豪千葉船橋ジェッツへ投資を行うなど、各社足並みを揃えるようにスポーツへの指向を明らかにしています。

これらの渋谷区、各IT企業、そしてスポーツ投資というトレンドを考えると、そこに「場所」さえあれば、いつ「新しい投資スキーム」でのスタジアム計画が起こっても不思議はないし、そう考えると、この何度も打ち上げられる観測気球の意味も透けて見えてくると思います。

サッカーはやはり欧州や南米のスポーツという感が未だにありますが、アメリカではMLBやNBA、NFLというエンターテインメントと親和性の強いプロリーグをならい、MLS、メジャーリーグサッカーリーグもVR等のIT技術を利用したエンターテインメントをスタジアムで提供していると聴きます。

IT企業のスポーツ投資は、新しいエンターテイメントの世界を切り開く有望なフィールドなのではないでしょうか。

渋谷のサッカースタジアムを考えるのにもう一つ考えなければいけないのは、五輪後に球技専用化が噂される新国立競技場とのかねあいです。そもそもJFAが先頭に立って進めてきた新国立競技場の五輪レガシー利用方法のなかに、Jリーグのフランチャイズ化が盛り込まれていることは周知の事実でありますが、あの巨大な7~8万キャバシティーの新国立競技場を引き受けられるクラブがあるのか? 非常に疑問ですし、継続性を含めた深い議論がなされているのか、こちらも興味深いところです。

おそらくこの「代々木狂想曲」は観測気球の思惑含みで、しばらく続きそうですが、「特定の出来事に対して人々が大騒ぎする様子を比喩する表現」としての「狂想曲」ではなく、官と民間企業とサポーターが一体となって盛り上げていける「協奏曲」のようなスタジアムが実現することを切に望んで止みません。

                               <了>





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