ある日の緊急事態(ウンコ漏らした)

 朝の通勤ラッシュを闘い抜くサラリーマンの姿が見られるのは今も昔もかわらない。首都圏近郊から都心へ通うサラリーマンと、都内の高い家賃に堪え忍んででも都区部に住む人たちで大にぎわいの様相を呈している。そんな中で私の腹を襲った非常事態の日を忘れないため、また自分自身の備忘録とするために記す。
 二〇二二年八月十九日、予想最高気温三十二度、うだるような暑さのこの日はなぜか寝付きが悪く午前四時には目を覚ました。身支度素早く常磐線に乗り込み、片道一時間以上かけて東京の上野についてからは、首都の大動脈である山手線に乗って東京方面を目指していた。ちょうど会社の最寄り駅を降りてから、少し時間も余っているので駅近くのすき家に立ち寄った。サラリーマンの少ない月給と胃袋を支えてくれたのは三種のチーズ牛丼に半熟卵と豚汁の三点セット(特盛、計一千二百円弱)で、七時台の都心の喧騒を横目に平らげたところまでは良かった。
 さて、人間どういう訳か腹に物を入れると途端に腸の動きが活発になる。胃袋に物が落ちてしばらくすると腹の調子が悪くなるという経験は日本人なら誰しも一度はしたはずだ。そんな中会社に向かっていた際に悪い誘惑が脳裏を掠めた。「こんな街中なら少しくらいガスを放っても誰も嗅ぎはしない」と。その考えを実践した私がバカだった。心地よく放ったはずのガスが、なぜか下腹部になにか不快な、ぬめっとした感触をもたらした私は少しパニックになると同時に「まじか…」と呟く。さてやってしまったものは仕方がない。覆水盆に返らず、漏らしたものは仕方がないのだ。冷静を取り戻し、まずは近くの公園のトイレで事後対応を行う。幸いスーツには付着していなかったことだけが不幸中の幸いであったが、事態は何も良くなってはいない。下着を着けないまま仕事をすることはリスクが高すぎる。そんな私を救ってくれたのがセブン&アイ・ホールディングスが経営するコンビニエンスストア「セブンイレブン」だった。コンビニで下着を見かけたのを思い出し、これ幸いにと五五十円あまりを出してパンツを買った。再び近くのトイレで下着を履き替えたことで、今日一日の勤務が可能となったのであった。
 これがもし、スーツに付着していたら、もし下肢にまで垂れていたら―想像するだけで血の気が引く。
 教訓として、①むやみやたらにガスを放ってはいけない。我々はスカンクではない②スーツにまで付いたら諦める。臭いでバレる③脱糞一回五百五十円あまり―という臭い教訓を刻み込んだこの日のことを、私は生涯忘れないだろう。

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